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切れ ない 紙
切れ ない 紙
むかし むかし 、 彦 一 ( ひこ いち ) と 言う 、 とても かしこい 子ども が い ました 。
ある 日 、 彦 一 と 庄屋 ( しょうや ) さん が 、 茶店 の 前 に さしかかる と 、 「 ワハハハハッ 。
ええ か 、 よく 聞けよ 。
向こう は 十五 人 で 、 こっち は わし 一 人 。
向こう も 強かった が 、 わし は もっと 強かった 。
右 に 左 に バッタバッタ と きり すて 、 あっという間 に みんな やっつけて しまった わ 。
ワハハハハハハッ 。
うん ?
酒 が ねえ な 。
おい 、 ば ばあ !
酒 だ 、 酒 持ってこい 」 と 、 ぶしょう ひげ を 生やした 身なり の 悪い 浪人 ( ろうにん ) が 、 酒 を あおり ながら 得意に なって しゃべり まくって い ます 。
する と 、 茶店 に いた 旅人 が 教えて くれ ました 。
「 ああ やって 、 みんな を おどかして は ただ の 酒 を 飲み 歩いて いる 、 たち の 悪い 浪人 です ぜ 。
強そうな ので 誰 も 知らん顔 して いる が 、 誰 か とっちめて くれ ねえ か ね 」 確かに みんな 怖 がって 、 浪人 と 目 を 合わそう と も し ませ ん 。
「 やい 、 ば ばあ !
酒 は どうした !
・・・ な に い 、 お 金 だ と 。
ぶ 、 ぶれい 者 め !
この おれ さま から 、 金 を とろう と ぬかす の か 。
おも しれ え 、 とれる もの なら とって みろ !
」 浪人 は 茶店 の おばあ さん を つきとばす と 、 勝手に 店 の 酒 を 飲み はじめ ました 。
たまり かねた 庄屋 さん が 何 か 言おう と した 時 、 それ より 早く 彦 一 が 浪人 の 前 へ 出 ました 。
「 もしもし 、 お さむらい さん 」 「 なん じゃ 、 お前 は 。
小僧 の くせ に ひっこんで ろ !
」 「 あんた は 、 本当に さむらい です か ?
」 「 な 、 なに ?
ぶ 、 ぶ 、 ぶし に むかって !
ぶ 、 ぶ 、 ぶ 、 ぶれいな やつ !
」 「 そう 、『 ぶ 、 ぶ 、』 言わ ないで ください よ 。
つば が 飛んで くる じゃ あり ませ ん か 」 「 こ 、 こ 、 こや つ 、 ますます もって 、 ぶ 、 ぶ 、 ぶ 、 ぶれいな !
」 「 ほら 、 また 飛んで きた 。
ところで 本当に 強い んです か ?
そんな 自慢 する ほど 」 「 なっ 、 つ 、 つ 、 強い に 、 決まって いる だろう !
」 「 そんなに 強い なら 、 これ が 切れ ます か ?
」 彦 一 は そう 言う と 、 ふところ から 一 枚 の 紙 を 取り出して 、 浪人 の 目の前 に 広げ ました 。
浪人 は 、 ひ たい に 青 すじ を 立てて 怒り ます 。
「 ば 、 ば 、 ばかに する な !
た 、 た 、 たかが 紙 きれ 、 一 刀 の もと だ 。
そう じゃ 、 ついでに お前 も 、 まっぷたつ に して やる ぞ 。
かくご は よい か !
」 浪人 は 酒 の 入った 茶わん を 放り投げる と 、 ギラリ と 刀 を 抜き ました 。
「 わあー っ 、 抜いた ぞ !
」 見て いた 旅人 たち が 、 さあ っと 、 あとずさり し ました 。
「 彦 一 、 ここ は わし に まかせて 、 逃げた 方 が いい ぞ 」 庄屋 さん が 言い ました が 、 しかし 彦 一 は 落ち着いた もの です 。
「 では 、 こう し ましょう 。
あなた が この 紙 を 切った なら 、 あなた が ここ で 飲み食い した お 金 を わたし たち が 払い ます 。
でも もし 切れ なかったら 、 自分 で 払って ください よ 」 「 おう 、 そりゃ おも しれ え 」 「 ちゃんと 、 約束 して くれ ます か 」 「 くどい !
ぶし に 二 言 は ない わ !
」 すると そこ へ 、 ちょうど 通り かかった 立派な 武士 が 二 人 に 声 を かけ ました 。
「 せっし ゃ が 、 立合 人 に なって しんぜ る 。
もし 約束 を たがえたら 、 せっし ゃ が 相手 に なって つかわそう 。
さあ 、 両人 と も 用意 を いたせ 」 「 さあ 小僧 !
紙 を どこ へ でも 置け !
」 浪人 は ニタニタ 笑い ながら 、 刀 を 高く ふり 上げ ました 。
する と 彦 一 は 、 近く の 大きな 石 の 上 に 紙 を 広げて 言い ました 。
「 さあ 、 まっぷたつ に 、 どうぞ 」 「 う 、・・・」 浪人 は 刀 を ふり 上げた まま 、 目 を 白黒 さ せ ました 。
「 さあ さあ 、 早く じまん の 腕前 を 見せて ください 」 「 う うむ ・・・」 いくら 剣 術 の 名人 でも 、 石 の 上 に 広げた 紙 を 切る の は 至難の 業 ( しなんの わざ → とても 難しい こと ) です 。
「 さあ 、 遠慮 せ ず に どうぞ 」 「 う うむ ・・・」 動か ない 浪人 に 、 立合 人 の 侍 が 自分 の 刀 に 手 を かけて 言い ました 。
「 どうした 、 そこ の 浪人 。
約束 通り 、 紙 を 切って み よ 。
なに を グズグズ して おる か 」 「 む 、 む む む 」 「 切れ ぬ か 。
し から ば 飲み食い した 金 を 払い 、 ここ を 立ちされ 。
でないと 、 立会人 の せっし ゃ が 相手 いたす 。
覚悟 は よい か !
」 「 お 、 お 待ち くださ れ 。
払う 、 払い ます から 、 ですから どうぞ 、 ご 、 ご かんべん を 」 さっき まで の からいばり は どこ へ やら 、 浪人 は 大 あわて で 金 を 払って 逃げて しまい ました 。
侍 は 彦 一 の 方 に 向き直る と 、 彦 一 に 言い ました 。
「 お 主 、 なかなか 大した 勇気 の 持ち主 だ な 」 「 いえ 、 それほど でも 」 「 だが 、 もし あの 浪人 が 紙 を 切って いたら どう する ?
」 「 大丈夫です 。
いくら がんばって も 、 あの 浪人 の 酒 に 酔った 腕 で は 紙 は 切れ ませ ん よ 。
もっとも あなた なら 酒 に 酔って いて も 、 見事に 紙 を まっぷたつ に する でしょう が 」 「 なるほど 、 お 主 は 勇気 だけ で なく 、 大した 知恵 と 眼力 を 持って おる 」 侍 を はじめ 大勢 の 見物人 は 、 あらためて 彦 一 に 感心 し ました 。
おしまい
切れ ない 紙
きれ||かみ
unbeschädigtes Papier
Unbreakable paper
papel intacto
papier ininterrompu
ongebroken papier
papel intacto
неразрезанная бумага
kırılmamış kağıt
连绵纸
切れ ない 紙
きれ||かみ
Unbreakable paper
むかし むかし 、 彦 一 ( ひこ いち ) と 言う 、 とても かしこい 子ども が い ました 。
||ひこ|ひと|ひ こ|||いう|||こども|||
Once upon a time, there was a very clever child named Hiko-ichi.
ある 日 、 彦 一 と 庄屋 ( しょうや ) さん が 、 茶店 の 前 に さしかかる と 、 「 ワハハハハッ 。
|ひ|ひこ|ひと||しょうや||||ちゃみせ||ぜん||||
One day, when Hikokazu and the village headman were walking by the tea store, he said, "Wahahahaha.
ええ か 、 よく 聞けよ 。
|||きけよ
Okay, listen to me.
向こう は 十五 人 で 、 こっち は わし 一 人 。
むこう||じゅうご|じん|||||ひと|じん
There are fifteen of us on the other side and I am alone.
向こう も 強かった が 、 わし は もっと 強かった 。
むこう||つよかった|||||つよかった
They were strong, but I was stronger.
右 に 左 に バッタバッタ と きり すて 、 あっという間 に みんな やっつけて しまった わ 。
みぎ||ひだり||||||あっというま|||||
ワハハハハハハッ 。
うん ?
酒 が ねえ な 。
さけ|||
おい 、 ば ばあ !
||ば あ
酒 だ 、 酒 持ってこい 」 と 、 ぶしょう ひげ を 生やした 身なり の 悪い 浪人 ( ろうにん ) が 、 酒 を あおり ながら 得意に なって しゃべり まくって い ます 。
さけ||さけ|もってこい|||||はやした|みなり||わるい|ろうにん|||さけ||||とくいに|||||
する と 、 茶店 に いた 旅人 が 教えて くれ ました 。
||ちゃみせ|||たびびと||おしえて||
「 ああ やって 、 みんな を おどかして は ただ の 酒 を 飲み 歩いて いる 、 たち の 悪い 浪人 です ぜ 。
||||おど か して||||さけ||のみ|あるいて||||わるい|ろうにん||
強そうな ので 誰 も 知らん顔 して いる が 、 誰 か とっちめて くれ ねえ か ね 」 確かに みんな 怖 がって 、 浪人 と 目 を 合わそう と も し ませ ん 。
きょうそうな||だれ||しらんかお||||だれ|||||||たしかに||こわ||ろうにん||め||あわそう|||||
「 やい 、 ば ばあ !
||ば あ
酒 は どうした !
さけ||
・・・ な に い 、 お 金 だ と 。
||||きむ||
ぶ 、 ぶれい 者 め !
||もの|
この おれ さま から 、 金 を とろう と ぬかす の か 。
||||きむ||||||
おも しれ え 、 とれる もの なら とって みろ !
」 浪人 は 茶店 の おばあ さん を つきとばす と 、 勝手に 店 の 酒 を 飲み はじめ ました 。
ろうにん||ちゃみせ|||||||かってに|てん||さけ||のみ||
たまり かねた 庄屋 さん が 何 か 言おう と した 時 、 それ より 早く 彦 一 が 浪人 の 前 へ 出 ました 。
||しょうや|||なん||いおう|||じ|||はやく|ひこ|ひと||ろうにん||ぜん||だ|
「 もしもし 、 お さむらい さん 」 「 なん じゃ 、 お前 は 。
||||||おまえ|
小僧 の くせ に ひっこんで ろ !
こぞう|||||
」 「 あんた は 、 本当に さむらい です か ?
||ほんとうに|||
」 「 な 、 なに ?
ぶ 、 ぶ 、 ぶし に むかって !
ぶ 、 ぶ 、 ぶ 、 ぶれいな やつ !
」 「 そう 、『 ぶ 、 ぶ 、』 言わ ないで ください よ 。
|||いわ|||
つば が 飛んで くる じゃ あり ませ ん か 」 「 こ 、 こ 、 こや つ 、 ますます もって 、 ぶ 、 ぶ 、 ぶ 、 ぶれいな !
||とんで||||||||||||||||
」 「 ほら 、 また 飛んで きた 。
||とんで|
ところで 本当に 強い んです か ?
|ほんとうに|つよい||
そんな 自慢 する ほど 」 「 なっ 、 つ 、 つ 、 強い に 、 決まって いる だろう !
|じまん|||な っ|||つよい||きまって||
」 「 そんなに 強い なら 、 これ が 切れ ます か ?
|つよい||||きれ||
」 彦 一 は そう 言う と 、 ふところ から 一 枚 の 紙 を 取り出して 、 浪人 の 目の前 に 広げ ました 。
ひこ|ひと|||いう||||ひと|まい||かみ||とりだして|ろうにん||めのまえ||ひろげ|
浪人 は 、 ひ たい に 青 すじ を 立てて 怒り ます 。
ろうにん|||||あお|||たてて|いかり|
「 ば 、 ば 、 ばかに する な !
た 、 た 、 たかが 紙 きれ 、 一 刀 の もと だ 。
|||かみ||ひと|かたな|||
そう じゃ 、 ついでに お前 も 、 まっぷたつ に して やる ぞ 。
|||おまえ||||||
かくご は よい か !
」 浪人 は 酒 の 入った 茶わん を 放り投げる と 、 ギラリ と 刀 を 抜き ました 。
ろうにん||さけ||はいった|ちゃわん||ほうりなげる||||かたな||ぬき|
「 わあー っ 、 抜いた ぞ !
わ あー||ぬいた|
」 見て いた 旅人 たち が 、 さあ っと 、 あとずさり し ました 。
みて||たびびと|||||||
「 彦 一 、 ここ は わし に まかせて 、 逃げた 方 が いい ぞ 」 庄屋 さん が 言い ました が 、 しかし 彦 一 は 落ち着いた もの です 。
ひこ|ひと||||||にげた|かた||||しょうや|||いい||||ひこ|ひと||おちついた||
「 では 、 こう し ましょう 。
あなた が この 紙 を 切った なら 、 あなた が ここ で 飲み食い した お 金 を わたし たち が 払い ます 。
|||かみ||きった||||||のみくい|||きむ|||||はらい|
でも もし 切れ なかったら 、 自分 で 払って ください よ 」 「 おう 、 そりゃ おも しれ え 」 「 ちゃんと 、 約束 して くれ ます か 」 「 くどい !
||きれ||じぶん||はらって|||||||||やくそく|||||
ぶし に 二 言 は ない わ !
||ふた|げん|||
」 すると そこ へ 、 ちょうど 通り かかった 立派な 武士 が 二 人 に 声 を かけ ました 。
||||とおり||りっぱな|ぶし||ふた|じん||こえ|||
「 せっし ゃ が 、 立合 人 に なって しんぜ る 。
|||たちあ|じん||||
もし 約束 を たがえたら 、 せっし ゃ が 相手 に なって つかわそう 。
|やくそく||||||あいて|||
さあ 、 両人 と も 用意 を いたせ 」 「 さあ 小僧 !
|りょうにん|||ようい||||こぞう
紙 を どこ へ でも 置け !
かみ|||||おけ
」 浪人 は ニタニタ 笑い ながら 、 刀 を 高く ふり 上げ ました 。
ろうにん|||わらい||かたな||たかく||あげ|
する と 彦 一 は 、 近く の 大きな 石 の 上 に 紙 を 広げて 言い ました 。
||ひこ|ひと||ちかく||おおきな|いし||うえ||かみ||ひろげて|いい|
「 さあ 、 まっぷたつ に 、 どうぞ 」 「 う 、・・・」 浪人 は 刀 を ふり 上げた まま 、 目 を 白黒 さ せ ました 。
|||||ろうにん||かたな|||あげた||め||しろくろ|||
「 さあ さあ 、 早く じまん の 腕前 を 見せて ください 」 「 う うむ ・・・」 いくら 剣 術 の 名人 でも 、 石 の 上 に 広げた 紙 を 切る の は 至難の 業 ( しなんの わざ → とても 難しい こと ) です 。
||はやく|||うでまえ||みせて|||||けん|じゅつ||めいじん||いし||うえ||ひろげた|かみ||きる|||しなんの|ぎょう||||むずかしい||
「 さあ 、 遠慮 せ ず に どうぞ 」 「 う うむ ・・・」 動か ない 浪人 に 、 立合 人 の 侍 が 自分 の 刀 に 手 を かけて 言い ました 。
|えんりょ|||||||うごか||ろうにん||たちあ|じん||さむらい||じぶん||かたな||て|||いい|
「 どうした 、 そこ の 浪人 。
|||ろうにん
約束 通り 、 紙 を 切って み よ 。
やくそく|とおり|かみ||きって||
なに を グズグズ して おる か 」 「 む 、 む む む 」 「 切れ ぬ か 。
||ぐずぐず||||||||きれ||
し から ば 飲み食い した 金 を 払い 、 ここ を 立ちされ 。
|||のみくい||きむ||はらい|||たちされ
でないと 、 立会人 の せっし ゃ が 相手 いたす 。
|たちあいにん|||||あいて|
覚悟 は よい か !
かくご|||
」 「 お 、 お 待ち くださ れ 。
||まち||
払う 、 払い ます から 、 ですから どうぞ 、 ご 、 ご かんべん を 」 さっき まで の からいばり は どこ へ やら 、 浪人 は 大 あわて で 金 を 払って 逃げて しまい ました 。
はらう|はらい|||||||||||||||||ろうにん||だい|||きむ||はらって|にげて||
侍 は 彦 一 の 方 に 向き直る と 、 彦 一 に 言い ました 。
さむらい||ひこ|ひと||かた||むきなおる||ひこ|ひと||いい|
「 お 主 、 なかなか 大した 勇気 の 持ち主 だ な 」 「 いえ 、 それほど でも 」 「 だが 、 もし あの 浪人 が 紙 を 切って いたら どう する ?
|おも||たいした|ゆうき||もちぬし|||||||||ろうにん||かみ||きって|||
」 「 大丈夫です 。
だいじょうぶです
いくら がんばって も 、 あの 浪人 の 酒 に 酔った 腕 で は 紙 は 切れ ませ ん よ 。
||||ろうにん||さけ||よった|うで|||かみ||きれ|||
もっとも あなた なら 酒 に 酔って いて も 、 見事に 紙 を まっぷたつ に する でしょう が 」 「 なるほど 、 お 主 は 勇気 だけ で なく 、 大した 知恵 と 眼力 を 持って おる 」 侍 を はじめ 大勢 の 見物人 は 、 あらためて 彦 一 に 感心 し ました 。
|||さけ||よって|||みごとに|かみ|||||||||おも||ゆうき||||たいした|ちえ||がんりき||もって||さむらい|||おおぜい||けんぶつにん|||ひこ|ひと||かんしん||
おしまい