三 姉妹 探偵 団 3 Chapter 11 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 3 Chapter 11

11　 めぐり合い めぐりあい

「 キャーッ ！

助けて ！ たすけて 誰 か 来て ！ だれ||きて 突然 、 けたたましい 悲鳴 が 、 響き わたった 。 とつぜん||ひめい||ひびき|

小峰 邸 の 門 の 辺り に 配備 さ れて いた ガードマン たち が 、 一瞬 、 顔 を 見合わせる 。 こみね|てい||もん||あたり||はいび||||がーどまん|||いっしゅん|かお||みあわせる

「 今 の は 何 だ ？ いま|||なん|

「 悲鳴 だった みたいだ ぜ 」 ひめい|||

と 、 やって いる 内 に 、 また 、 |||うち||

「 キャーッ ！

誰 か 来て え ！ だれ||きて| と いう 叫び声 。 ||さけびごえ

「 おい 、 あっ ち だ ！

一斉に 、 声 の した 方 へ と 駆け 出して 行く 。 いっせいに|こえ|||かた|||かけ|だして|いく

声 は 、 木立 ち の 中 から 聞こえて 来た 。 こえ||こだち|||なか||きこえて|きた

何しろ 大きな 屋敷 だ 。 なにしろ|おおきな|やしき|

門 から 裏手 の 広い 庭 へ と 抜ける 道 は 、 ちょっと した 林 の 中 を 通って いる のである 。 もん||うらて||ひろい|にわ|||ぬける|どう||||りん||なか||かよって|| The way through the gate to the large garden behind it is through a small forest.

「 おい 、 どこ だ ！

── どこ に いる ！ ガードマン たち が 、 ライト で 木立 ち の 間 を 照らして 怒鳴った 。 がーどまん|||らいと||こだち|||あいだ||てらして|どなった

「 おい ！

返事 を しろ ！ へんじ|| と 、 一 人 が ライト を 横 へ 振る と ──。 |ひと|じん||らいと||よこ||ふる|

「 キャッ ！

女の子 が 一 人 、 光 を 浴びて 飛び上った 。 おんなのこ||ひと|じん|ひかり||あびて|とびあがった

「 おい 、 今 悲鳴 を 上げた の は 、 君 か ？ |いま|ひめい||あげた|||きみ|

と 、 ガードマン が 訊 いた 。 |がーどまん||じん|

「 悲鳴 ？ ひめい

私 が ？ わたくし| 女の子 は キョトンと して 、「 私 ── 何 か 言った ？ おんなのこ||きょとんと||わたくし|なん||いった

と 、 今 まで 抱き合って いた 男 ── 何だか 変な 格好の 男 で 、 ワイシャツ を ズボン の 外 へ だらしなく 出して いる ── の 方 へ 言った 。 |いま||だきあって||おとこ|なんだか|へんな|かっこうの|おとこ||わいしゃつ||ずぼん||がい|||だして|||かた||いった And a man who was hugging until now - a strange looking guy, he said to the one who is putting out the shirt out of the pants sloppily.

「 うん 。

かなり 派手な 声 を 出した よ 」 |はでな|こえ||だした|

と 、 男 が 肯 いて 、「 すみません 。 |おとこ||こう||

気 に し ないで 下さい 。 き||||ください 凄く 感じ やすい 子 なんで ……」 すごく|かんじ||こ|

「 あら 、 感受性 が 豊か だって 言って よ 。 |かんじゅせい||ゆたか||いって|

あなた の 恋人 に なる に は 、 これ ぐらい 繊細な 神経 の 持主 で ない と だめな の よ 」 ||こいびと|||||||せんさいな|しんけい||もちぬし||||||

「 そりゃ 確かだ ね 」 |たしかだ|

「 ねえ 、 可愛い 人 ……」 |かわいい|じん

と 、 女の子 は 、 男 を 抱きしめて キス した 。 |おんなのこ||おとこ||だきしめて|きす|

「── あんまり 人騒がせな 声 を 出さ ないで 下さい 」 |ひとさわがせな|こえ||ださ||ください

と 、 ガードマン は 渋い 顔 で 言って 、「 おい 、 戻る ぞ 」 |がーどまん||しぶい|かお||いって||もどる|

と 、 他の 連中 を 促した 。 |たの|れんちゅう||うながした

「 金 持って の は 、 変人 が 多い な 」 きむ|もって|||へんじん||おおい|

「 今 の 娘 なんか 、 いく つ だ ？ いま||むすめ||||

せいぜい 十五 、 六 だ ぜ 、 全く ！ |じゅうご|むっ|||まったく ── ブツブツ と 言葉 を 交わし ながら 、 ガードマン たち が 門 の 方 へ 戻って 行く 。 ぶつぶつ||ことば||かわし||がーどまん|||もん||かた||もどって|いく

「 やれやれ ……」

国 友 は 息 を ついた 。 くに|とも||いき||

「 うまく 行った ようだ な 」 |おこなった||

「 当然 よ 」 とうぜん|

と 、 ルミ が 得意 そうに 、「 私 の 熱演 の 成果 。 |るみ||とくい|そう に|わたくし||ねつえん||せいか

認めて くれる でしょ ？ みとめて|| 「 大した もん だ 」 たいした||

と 、 国 友 は 肯 いた 。 |くに|とも||こう|

「 演劇 部 に でも いる の かい ？ えんげき|ぶ||||| 「 オーバーな お 芝居 なら 、 素人 だって 簡単な の よ 」 おーばーな||しばい||しろうと||かんたんな||

と ルミ は 言って 、 また 国 友 に 抱きついて 行った 。 |るみ||いって||くに|とも||だきついて|おこなった

「 お 、 おい ──」

国 友 が あわてて 、「 もう 演技 は 終り だ よ 」 くに|とも||||えんぎ||おわり||

「 あら 、 急に やめたら 、 却って 怪しま れる わ よ 」 |きゅうに||かえって|あやしま||| "Oh, if you stop suddenly, you will be disturbed,"

「 しかし ──」

「 彼女 の ため を 思う んだったら 、 続 演 し なきゃ 」 かのじょ||||おもう||つづ|えん||

「 続 演 ね ……」 つづ|えん|

国 友 に は 、 夕 里子 が 納得 する と は 、 とても 思え なかった 。 くに|とも|||ゆう|さとご||なっとく|||||おもえ| I did not think that it was convinced of Yuriko evening friends.

しかし 、 否 も 応 も なく 、 ルミ は 国 友 を 抱きしめて 、 ギュウギュウ と 唇 を 押しつける のだった ……。 |いな||おう|||るみ||くに|とも||だきしめて|||くちびる||おしつける|

「── おい 、 早く 来い よ 」 |はやく|こい|

と 、 勇一 が 振り向く 。 |ゆういち||ふりむく

「 分 って る わ よ 」 ぶん||||

夕 里子 は 、 そう 言い 返し ながら 、 それ でも 何となく 足 は 前 へ 進み た がら ない ……。 ゆう|さとご|||いい|かえし||||なんとなく|あし||ぜん||すすみ||| Even though Rudiko says so, he still does not want to go forward somehow ... ....

「 早く 来 ない と 、 ガードマン に 見付かる ぜ 」 はやく|らい|||がーどまん||みつかる|

「 分 って る って ば ！ ぶん||||

夕 里子 は 、 足音 に 用心 し ながら 、 建物 の 反対 側 へ と 進んで 行った 。 ゆう|さとご||あしおと||ようじん|||たてもの||はんたい|がわ|||すすんで|おこなった

「── うまく 行った みたいだ ね 」 |おこなった||

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 そう ね 」

ルミ と 国 友 が 、 ガードマン の 注意 を ひ きつける 。 るみ||くに|とも||がーどまん||ちゅうい|||

その 間 に 、 勇一 と 夕 里子 が 、 門 から 反対 側 の 方 へ と 入り 込む と いう 寸法 だった のだ 。 |あいだ||ゆういち||ゆう|さとご||もん||はんたい|がわ||かた|||はいり|こむ|||すんぽう||

それ は まあ 成功 した らしい が ……。 |||せいこう|||

「 気 に なる んだ ろ 」 き||||

と 、 勇一 が からかう ように 言った 。 |ゆういち||||いった

「 大事な 恋人 と あの 娘 が 何 して る かって 」 だいじな|こいびと|||むすめ||なん||| "What does an important lover and that daughter do?"

「 うるさい わ ね ！

夕 里子 は 、 かみつき そうな 声 を 出した 。 ゆう|さとご|||そう な|こえ||だした

「 子供 は 黙って なさい よ 」 こども||だまって||

「 分 った よ 」 ぶん||

勇一 が 笑い ながら 言った 。 ゆういち||わらい||いった

── その 内 、 夕 里子 も 一緒に 笑い 出した 。 |うち|ゆう|さとご||いっしょに|わらい|だした

「 あんた 、 ませて る わ ね 」

「 今 なら 普通だ よ 」 いま||ふつうだ|

と 、 勇一 は 言った 。 |ゆういち||いった

「 そう 。

そう かも しれ ない 」

夕 里子 は 、 ふと 、 勇一 を 見て 、「── ねえ 、 正直に 答えて 」 ゆう|さとご|||ゆういち||みて||しょうじきに|こたえて

「 何 を ？ なん|

殺し なら 、 俺 じゃ ない ぜ 」 ころし||おれ|||

「 そう じゃ ない わ よ 。

珠美 の こと 」 たまみ||

「 あの 子 の こと ？ |こ||

「 あの 子 、 あんた の こと 、 好きな の よ 」 |こ||||すきな||

勇一 は 、 ちょっと 間 を 置いて 、 ゆういち|||あいだ||おいて

「 悪い 冗談 言わ ないで くれ よ 」 わるい|じょうだん|いわ|||

と 言った 。 |いった

「 本当 よ 。 ほんとう|

── 珠美 に とっちゃ 初 恋 だ わ 。 たまみ|||はつ|こい|| 少なくとも 、 私 の 知って る 限り で は ね 」 すくなくとも|わたくし||しって||かぎり||| At least, to the best of my knowledge. "

「 こんな 不良に ？ |ふりょうに

「 ねえ 。

── 本当の こ と 言って 。 ほんとうの|||いって 珠美 と は どんな 仲 ？ たまみ||||なか 「 どんな 、 って ……」

「 珠美 も あんた も 若い し 、 お互いに 、 傷つけ 合わ ない ように して ほしい の よ 」 たまみ||||わかい||おたがいに|きずつけ|あわ|||||| "Both Palmi and you are young, and I hope that they will not hurt each other."

「 それ ── どういう 意味 だ よ 」 ||いみ||

勇一 が 、 呟く ような 口調 に なって 、 言った 。 ゆういち||つぶやく||くちょう|||いった

ガードマン の 声 が 近づいて 来る 。 がーどまん||こえ||ちかづいて|くる

「 行こう 」 いこう

と 、 夕 里子 が 低い 声 で 促した 。 |ゆう|さとご||ひくい|こえ||うながした

ガレージ は 、 確かに あった 。 がれーじ||たしかに|

正面 の 扉 は 降りて いる ので 、 二 人 は 、 わき の ドア を 開けて 中 へ 入った 。 しょうめん||とびら||おりて|||ふた|じん||||どあ||あけて|なか||はいった

中 は 、 ほの暗い が 、 一応 明り が 点いて いた 。 なか||ほのぐらい||いちおう|あかり||ついて|

「── あれ だ 」

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

ガレージ と いって も 、 車 四 台 が 楽に 入る 広 さ で 、 ロールス ・ ロイス が 一 台 、 ベンツ が 一 台 、 そして ── 青い ビュイック が 一 台 ……。 がれーじ||||くるま|よっ|だい||らくに|はいる|ひろ||||||ひと|だい|||ひと|だい||あおい|||ひと|だい

まだ 一 台 分 の スペース が 空いて いた 。 |ひと|だい|ぶん||すぺーす||あいて|

「 やっぱり あった わ ね 」

夕 里子 は 、 息 を ついた 。 ゆう|さとご||いき||

「 珠美 は ここ へ 連れて 来 られた んだ わ 」 たまみ||||つれて|らい|||

「 でも 、 どうして だろう ？

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 何 か 目的 が あった んだ ろ ？ なん||もくてき|||| 「 お 金 目当て じゃ ない の は 確か ね 」 |きむ|めあて|||||たしか|

夕 里子 は 首 を 振った 。 ゆう|さとご||くび||ふった

「 ちょっと 見当 が つか ない 。 |けんとう||| たぶん 、 あんた の お 母さん が 殺さ れた 事件 と 関係 して る と 思う んだ けど 」 ||||かあさん||ころさ||じけん||かんけい||||おもう||

「 俺 の せい か 」 おれ|||

勇一 の 顔 が 曇った 。 ゆういち||かお||くもった

「 危 い 目 に 遭って なきゃ いい けど ……」 き||め||あって||| "You should not be in danger ... but ..."

「 そういう 意味 で 言った んじゃ ない わ 」 |いみ||いった|||

夕 里子 は 、 勇一 の 肩 を 軽く 叩いた 。 ゆう|さとご||ゆういち||かた||かるく|たたいた

「 心配 して くれて 嬉しい わ 」 しんぱい|||うれしい| "I am happy to be worried about you"

「 捜そう 」 さがそう

と 、 勇一 は キッ と した 表情 に なって 、「 この 屋敷 の どこ か に いる よ 、 珠美 は 」 |ゆういち|||||ひょうじょう||||やしき|||||||たまみ|

「 そう ね 。

こういう 日 だ から 、 中 へ 入った って 、 そう 怪しま れ ない かも しれ ない 」 |ひ|||なか||はいった|||あやしま||||| Because it is such a day, it may not be suspected so if you go inside. "

夕 里子 が 、 ちょっと 考えて 、「 どこ から どう やって 入れば いい かしら 」 ゆう|さとご|||かんがえて|||||はいれば||

と 、 呟いた とき だった 。 |つぶやいた||

ガレージ の 扉 が 、 ガタガタ と 音 を たてた 。 がれーじ||とびら||がたがた||おと||

「 隠れて ！ かくれて

夕 里子 は 、 勇一 と 共に 、 一 番 近く に 駐 め て ある ロールス ・ ロイス の 陰 に 、 身 を ひそめた 。 ゆう|さとご||ゆういち||ともに|ひと|ばん|ちかく||ちゅう|||||||かげ||み||

扉 が 電動 で 、 ゆっくり 上って 行く 。 とびら||でんどう|||のぼって|いく

「 誰 か 来た の ね 。 だれ||きた||

── こっち へ 入って 来た ところ を みる と 、 この 家 の 人 かしら 」 ||はいって|きた||||||いえ||じん|

「 パーティ の 客 じゃ ない ようだ な 」 ぱーてぃ||きゃく||||

と 、 勇一 が 答える 。 |ゆういち||こたえる

扉 が 上って しまう と 、 車 の ライト が 、 ガレージ の 中 を 照らし 出した 。 とびら||のぼって|||くるま||らいと||がれーじ||なか||てらし|だした

車 が 入って 来る 。 くるま||はいって|くる

並んだ 三 台 の 車 に 比べる と 、 入って 来た の は 、 割合 小型に 見えた 。 ならんだ|みっ|だい||くるま||くらべる||はいって|きた|||わりあい|こがたに|みえた

いや 、 日本 車 なら 、 中型に 当る のだろう が 。 |にっぽん|くるま||ちゅうがたに|あたる||

その 車 は 、 空いて いた スペース に 入る と 、 停止 した 。 |くるま||あいて||すぺーす||はいる||ていし|

エンジン の 音 が 止る 。 えんじん||おと||とまる

降りて 来た の は ── 頭 を 低く して いる 二 人 に は 、 よく 見え なかった が 、 女 だ と いう の は 確かだった 。 おりて|きた|||あたま||ひくく|||ふた|じん||||みえ|||おんな||||||たしかだった

カッ 、 カッ と いう 足音 が 、 ガレージ を 横切って 、 夕 里子 たち が 入って きた ドア の 方 へ と 向 う 。 ||||あしおと||がれーじ||よこぎって|ゆう|さとご|||はいって||どあ||かた|||むかい|

足 だけ が 、 車 の 下 を 通して 見えた 。 あし|||くるま||した||とおして|みえた

ハイヒール が 目 に 入る 。 はいひーる||め||はいる

── 女 。 おんな 誰 だろう ？ だれ|

女 が ドア を 開けて 出て 行く と 、 二 人 は ホッと 息 を ついた 。 おんな||どあ||あけて|でて|いく||ふた|じん||ほっと|いき||

「 顔 、 見えた ？ かお|みえた

夕 里子 が 訊 く 。 ゆう|さとご||じん|

「 いい や 、 見え なかった よ 」 ||みえ||

「 そう 。

私 も よ 」 わたくし||

「 今 の 女 の 後 を つけて 行こう ぜ 」 いま||おんな||あと|||いこう|

と 、 勇一 が 体 を 起こした 。 |ゆういち||からだ||おこした

「 どこ から 入りゃ いい か 分 る 」 ||はいりゃ|||ぶん|

「 賛成 」 さんせい

夕 里子 は 肯 いて 、 立ち上った 。 ゆう|さとご||こう||たちのぼった

そっと ドア を 開けて 表 を 覗く と 、 細い 露地 の ような 所 を 、 今 の 女 が 歩いて 行く 後 姿 が 見えた 。 |どあ||あけて|ひょう||のぞく||ほそい|ろじ|||しょ||いま||おんな||あるいて|いく|あと|すがた||みえた

しかし 、 ちょうど 光 が 逆に 射 して いて 、 女 の 姿 は シルエット に しか 見え ない 。 ||ひかり||ぎゃくに|い|||おんな||すがた||しるえっと|||みえ|

する と ── 女 が 、 ヒョイ 、 と わき へ 消えた 。 ||おんな||||||きえた

いや 、 建物 の 中 へ 入って 行った のだろう 。 |たてもの||なか||はいって|おこなった|

「 あそこ が 入口 らしい わ ね 」 ||いりぐち|||

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 少し 間 を 置いて 、 入ろう ぜ 」 すこし|あいだ||おいて|はいろう|

二 人 は 足音 を 殺して 進んで 行った 。 ふた|じん||あしおと||ころして|すすんで|おこなった

── 植込み の 陰 に なって 、 ほとんど 目立た ぬ ドア が ある 。 うえこみ||かげ||||めだた||どあ|| いわば この 屋敷 の 勝 手口 、 と いう ところ らしい 。 ||やしき||か|てぐち||||

「 入ろう 」 はいろう

勇一 が ドア を 開けた 。 ゆういち||どあ||あけた

何だか いやに ごろごろ した 、 狭苦しい 部屋 だ 。 なんだか||||せまくるしい|へや|

倉庫 に 近い 、 と 言える だろう 。 そうこ||ちかい||いえる|

「 物置 ね 。 ものおき|

── 缶詰 だの 、 非 常食 が 並べて ある わ 」 かんづめ||ひ|じょうしょく||ならべて||

「 非 常食 か 。 ひ|じょうしょく|

── いつ 食う んだろう ？ |くう| と 、 勇一 は 首 を 振った 。 |ゆういち||くび||ふった

「 いつも 〈 非常 〉 の 家 が いくら で も ある って のに 」 |ひじょう||いえ||||||| "Even though there are always <emergency> house"

「 理屈 ね 」 りくつ|

夕 里子 は 微笑んだ 。 ゆう|さとご||ほおえんだ

「 出入 口 は どこ かしら ？ しゅつにゅう|くち||| 「 きっと そっち の ──」

歩いて 行って 、 二 人 は 足 を 止めた 。 あるいて|おこなって|ふた|じん||あし||とどめた

「 こんな こと って ──」

夕 里子 は 目 を パチクリ さ せて いた 。 ゆう|さとご||め|||||

正面 は ただ の 壁 な のだ 。 しょうめん||||かべ||

大して 広い 部屋 で も ない から 、 ぐるっと 回って みた のだ が 、 出入 口 は 、 二 人 が 外 から 入って 来た ドア 一 つ しか ない のである 。 たいして|ひろい|へや||||||まわって||||しゅつにゅう|くち||ふた|じん||がい||はいって|きた|どあ|ひと||||

「 じゃ 、 あの 女 、 どこ へ 行っちゃ った の ？ ||おんな|||おこなっちゃ||

「 幽霊 に は 見え なかった けど な 」 ゆうれい|||みえ|||

「 でも 確かに この 中 へ ──」 |たしかに||なか|

と 言い かけて 、「 あの 音 は ？ |いい|||おと|

ブーン 、 と いう 低い 音 が 、 正面 の 壁 の 中 から 聞こえて 来た 。 |||ひくい|おと||しょうめん||かべ||なか||きこえて|きた

「 モーター か 何 か の 音 みたいだ 」 もーたー||なん|||おと|

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 上 から よ 」 うえ||

そう だった 。

壁 の 前 に 立って 、 じっと 耳 を 澄まして いる と 、 その 音 は 、 壁 の 中 から 、 それ も 、 上 の 方 から ゆっくり と 降りて 来る のだ 。 かべ||ぜん||たって||みみ||すまして||||おと||かべ||なか||||うえ||かた||||おりて|くる|

「 どうやら 、 この 壁 の 中 に 何 か 仕掛け が ある んだ 」 ||かべ||なか||なん||しかけ|||

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 その辺 を 捜して みよう ぜ 」 そのへん||さがして||

大小 、 いく つ も の 段ボール を 積み 上げた 棚 の 辺り を 、 二 人 は 、 かがみ 込んだり 伸び 上ったり し ながら 捜し 回った 。 だいしょう|||||だんぼーる||つみ|あげた|たな||あたり||ふた|じん|||こんだり|のび|のぼったり|||さがし|まわった They searched around the shelves where large and small pieces of corrugated cardboard were stacked while crouching or stretching up.

「── おい ！

これ らしい や 」

勇一 の 声 が した 。 ゆういち||こえ||

「 ボタン みたいな の が ある 。 ぼたん|||| 押して みる ぜ 」 おして||

── 少し の 間 は 、 何も なかった 。 すこし||あいだ||なにも|

「 あの 音 ──」 |おと

と 、 夕 里子 は 、 ブーン と いう 音 が 、 今度 は 下 から 上って 来る の に 気付いて 、 呟いた 。 |ゆう|さとご|||||おと||こんど||した||のぼって|くる|||きづいて|つぶやいた

と ── 正面 の 壁 が スルスル と 横 へ 滑る ように 開いた 。 |しょうめん||かべ||するする||よこ||すべる||あいた

「 へえ ！

エレベーター な んだ 」 えれべーたー||

勇一 が 愉快 そうに 言った 。 ゆういち||ゆかい|そう に|いった

「 金持 って 、 ずいぶん むだづかい が 好きな の ね 」 かねもち|||||すきな||

と 、 夕 里子 は 呆れて 首 を 振った 。 |ゆう|さとご||あきれて|くび||ふった

「 乗り ましょう よ 」 のり||

「 何 階 へ 参り ます か 」 なん|かい||まいり||

と 、 勇一 が ふざけて 言った 。 |ゆういち|||いった

「 知ら ない わ よ 。 しら|||

下 から 来た んだ から 、 下 の 方 へ の 矢印 を 押して みたら ？ した||きた|||した||かた|||やじるし||おして| 何も なきゃ 、 また 上れば いい んだ し 」 なにも|||のぼれば|||

「 ＯＫ 」 ｏｋ

下向き の 矢印 を 押す と 、 扉 が 閉って 、 スッ と 下って 行く 感覚 が あった 。 したむき||やじるし||おす||とびら||しまって|||くだって|いく|かんかく||

「 地下 が ある んだ な 」 ちか||||

「 何 を やって る の かしら ね 」 なん||||||

静かに 停止 して 、 扉 が 開く 。 しずかに|ていし||とびら||あく

── 目の前 に 、 中年 の 男 が 立って いた 。 めのまえ||ちゅうねん||おとこ||たって|

夕 里子 たち は ギョッ と した が 、 向 う は 別に 平気な 顔 で 、 ゆう|さとご|||||||むかい|||べつに|へいきな|かお|

「 失礼 」 しつれい

と 、 エレベーター に 乗り 込んで 来た 。 |えれべーたー||のり|こんで|きた

「── 降り ない の か ね ？ ふり|||| 「 あ 、 いえ 、 降り ます ！ ||ふり|

夕 里子 と 勇一 は 、 あわてて 外 へ 出た 。 ゆう|さとご||ゆういち|||がい||でた

「── ああ 、 びっくり した 」

と 、 夕 里子 は 息 を ついて 、「 地下 は トイレ で も ある の かしら ？ |ゆう|さとご||いき|||ちか||といれ|||||

「 わざわざ エレベーター で 、 トイレ に 行く の か ？ |えれべーたー||といれ||いく||

「 と いった って さ ……」

廊下 だった 。 ろうか|

── きちんと カーペット も 敷き つめ られ 、 およそ 「 地下 」 と いう イメージ で は ない 。 |||しき||||ちか|||いめーじ|||

「 あっ ち で 声 が する 」 |||こえ||

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

ワーッ 、 と どよめく 声 。 |||こえ

拍手 。 はくしゅ ── 結構 大勢 の 人間 が 集まって いる 様子 だ 。 けっこう|おおぜい||にんげん||あつまって||ようす|

「 何かしら ？ なにかしら

「 宴会 場 で も ある んじゃ ない の か 」 えんかい|じょう|||||||

そう 。

── 確かに 、 そんな 雰囲気 で は あった 。 たしかに||ふんいき||| しかし 、 地上 で は 、 あれ だけ 大がかりな パーティ を やって いる と いう のに 、 どうして わざわざ 、 こんな 地下 で ……。 |ちじょう|||||おおがかりな|ぱーてぃ||||||||||ちか|

「 行って みよう 」 おこなって|

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 ええ 」

夕 里子 とて 、 こんな とき に ためらう こと は ない 。 ゆう|さとご||||||||

当って 砕けろ は 夕 里子 の 信条 である 。 あたって|くだけろ||ゆう|さとご||しんじょう| Hit and crush is the creed of Yuriko. 廊下 を 進んで 行く と 、 突き当り に ドア が あり 、 そこ が 半分 開いて いた 。 ろうか||すすんで|いく||つきあたり||どあ|||||はんぶん|あいて|

中 を 覗く と 、 それほど 広い 部屋 と いう わけで も ない 。 なか||のぞく|||ひろい|へや|||||

いや 、 実際 は 広い のだろう が 、 人 が 大勢 立って いる ので 、 狭く 見える のである 。 |じっさい||ひろい|||じん||おおぜい|たって|||せまく|みえる| No, in reality it is wide, but as people stand a lot, they look narrow.

ちょっと 見た 限り で は 、 集まって いる の は やはり パーティ に 招か れた らしい かなり 年輩 の 、 会社 の 社長 、 取締 役 、 と いった 印象 の 男性 たち だった 。 |みた|かぎり|||あつまって|||||ぱーてぃ||まねか||||ねんぱい||かいしゃ||しゃちょう|とりしまり|やく|||いんしょう||だんせい||

上 の パーティ で は 、 それ こそ 国 友 の 珍妙な スタイル が そう 目立た ない くらい 、 風変りな スタイル の 若者 も 多かった のだ が 、 ここ で は 、 いかにも 高級な 背広 に ネクタイ と いう スタイル ばかり が 目 に つく 。 うえ||ぱーてぃ|||||くに|とも||ちんみょうな|すたいる|||めだた|||ふうがわりな|すたいる||わかもの||おおかった|||||||こうきゅうな|せびろ||ねくたい|||すたいる|||め|| In the upper party, there were a lot of young people with eccentric style, too much that the strange style of the national friend was not conspicuous so much, but here only the style called a tie is noticed in exceptional high-class suites .

いや ── その 間 に 、 夫人 らしい 女性 の 姿 も 見える 。 ||あいだ||ふじん||じょせい||すがた||みえる

例外 なく 、 凄い 毛皮 を はおったり 、 肩 に かけたり して いた 。 れいがい||すごい|けがわ|||かた||||

「 きっと 何 千万 も する の よ 、 あの 毛皮 」 |なん|せんまん||||||けがわ

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 二 、 三 枚 かっぱ ら うか な 」 ふた|みっ|まい||||

「 よして よ 」

と 、 夕 里子 は 顔 を しかめた 。 |ゆう|さとご||かお||

「 そっと 中 へ 入る の よ ……」 |なか||はいる||

幸い 、 集まった 人間 たち の 注意 は 、 部屋 の 奥 に しつらえた 、 小さな ステージ の ような 場所 の 方 へ 向いて いて 、 夕 里子 たち は 、 ドア から 壁 に 沿って 、 部屋 の 中 へ と 入り 込む の に 成功 した 。 さいわい|あつまった|にんげん|||ちゅうい||へや||おく|||ちいさな|すてーじ|||ばしょ||かた||むいて||ゆう|さとご|||どあ||かべ||そって|へや||なか|||はいり|こむ|||せいこう|

「 では 、 次の 品物 です 」 |つぎの|しなもの|

と 、 声 が した 。 |こえ||

ステージ の 上 に 、 若い 男 が 立って いる 。 すてーじ||うえ||わかい|おとこ||たって|

司会 役 と いう ところ らしい 。 しかい|やく||||

「── 何 やって んだろう ？ なん||

勇一 が 、 低い 声 で 言った 。 ゆういち||ひくい|こえ||いった

「 分 ん ない けど …… 競売 か 、 懸賞 って とこ かしら ね 」 ぶん||||きょうばい||けんしょう||||

「 次 は 、 名門 、 堂 内 家 より ご 提供 いただいた 、 貴重な 品 です 」 つぎ||めいもん|どう|うち|いえ|||ていきょう||きちょうな|しな|

と 、 若い 男 が 言った 。 |わかい|おとこ||いった

わき から 、 女 が 一 人 、 小さな 箱 を 手 に して 出て 来た 。 ||おんな||ひと|じん|ちいさな|はこ||て|||でて|きた

「 ご覧 下さい 。 ごらん|ください

── 金 と ヒスイ で 出来た 、 美しい 仏像 です 」 きむ||||できた|うつくしい|ぶつぞう|

ホーッ 、 と 声 が 上る 。 ||こえ||のぼる

「── 高い んだろう な 」 たかい||

と 、 勇一 は そっと 言った 。 |ゆういち|||いった

「 でも 、 あんまり ありがた み は な さ そう よ 」

と 、 夕 里子 は 言って 、「── あの 女 、 誰 かしら ？ |ゆう|さとご||いって||おんな|だれ|

と 、 眉 を 寄せた 。 |まゆ||よせた

見た ような 顔 である 。 みた||かお|

確かに どこ か で ……。 たしかに|||

── どうやら 、 これ は 美術 品 ── それ も 、 あまり まともで ない 手段 で 手 に 入れた 品 を 、 愛好 家 に 秘 か に 売り つける 、 競売 の ようだ と 夕 里子 に も 分 って 来た 。 |||びじゅつ|しな||||||しゅだん||て||いれた|しな||あいこう|いえ||ひ|||うり||きょうばい||||ゆう|さとご|||ぶん||きた

だ から 、 こんな 地下 で 開いて いる 。 |||ちか||あいて|

大がかりな パーティ に かこつけて 、 愛好 家 を 集めて いる のだろう 。 おおがかりな|ぱーてぃ|||あいこう|いえ||あつめて||

「 どこ から 盗んだ 品 か ね 」 ||ぬすんだ|しな||

「 この前 、 美術 館 から 消えた と 聞いた が ……」 この まえ|びじゅつ|かん||きえた||きいた|

と いった 会話 が 耳 に 入って 来る 。 ||かいわ||みみ||はいって|くる

「 呆れた もん ね 」 あきれた||

と 、 夕 里子 は 首 を 振った 。 |ゆう|さとご||くび||ふった

「 いくら 好きな 物 でも 、 盗ま れた もの と 分 って て ……」 |すきな|ぶつ||ぬすま||||ぶん||

「 金 持って の は 、 そう なる んじゃ ない の か 。 きむ|もって||||||||

自分 は 法律 の 外 に いる 、 みたいな 、 さ 」 じぶん||ほうりつ||がい||||

「 かも しれ ない わ ね 」

と 夕 里子 が 肯 いて 、「── そう だ わ 、 あの 女 」 |ゆう|さとご||こう||||||おんな

と 、 目 を 見開いた 。 |め||みひらいた

「 さっき ガレージ から 出て 行った 女 ？ |がれーじ||でて|おこなった|おんな

「 いいえ 。

── あの 、 品物 を 運んで 来る 役 を して る 女 よ 。 |しなもの||はこんで|くる|やく||||おんな| あれ 、 丸山 が 殺さ れた とき に 見かけた 、 えんじ の コート を 着た 女 だ わ 」 |まるやま||ころさ||||みかけた|||こーと||きた|おんな||

「 へえ 」

「 あんた 、 あの 女 を 見かけ なかった ？ ||おんな||みかけ|

「 気 が 付か なかった なあ 」 き||つか||

と 、 勇一 は 首 を 振った 。 |ゆういち||くび||ふった

しかし 、 あの 女 、 ここ で あんな こと を して いる ところ を 見る と 、 この 小峰 家 で 働いて いる らしい 。 ||おんな||||||||||みる|||こみね|いえ||はたらいて||

なぜ 丸山 と 国 友 が 会う 喫茶 店 に 来て いた のだろう ？ |まるやま||くに|とも||あう|きっさ|てん||きて||

「 でも さ ──」

と 、 勇一 が 言った 。 |ゆういち||いった

「 珠美 はいそう も ない ぜ 」 たまみ||||

「 そう ね 。

── 戻って 、 あの エレベーター で 上 に 行って み ましょう か 」 もどって||えれべーたー||うえ||おこなって|||

「 そう だ な 」

壁 に 沿って 動き 出そう と した とき 、 かべ||そって|うごき|だそう|||

「 ねえ 、 パパ ！ |ぱぱ

もう 帰ろう よ ！ |かえろう| と 、 急に 女の子 の 声 が すぐ そば で 聞こえて 、 夕 里子 は びっくり した 。 |きゅうに|おんなのこ||こえ|||||きこえて|ゆう|さとご|||

大人 の 間 に 埋 れて 、 見え なかった のだ が 、 見た ところ 十二 、 三 の 女の子 が 、 父親 の 腕 を 引 張って いる のだ 。 おとな||あいだ||うずま||みえ||||みた||じゅうに|みっ||おんなのこ||ちちおや||うで||ひ|はって||

「 もう すぐ 終る から 、 待って なさい 」 ||おわる||まって|

と 、 父親 が 言って も 、 |ちちおや||いって|

「 もう くたびれちゃ った よ 。

帰ろう よ 。 かえろう| ねえ ！ 女の子 の 方 は 、 すっかり すねて しまって いる 。 おんなのこ||かた|||||

こんな 競売 など 、 子供 に とって は 退屈に 違いない 。 |きょうばい||こども||||たいくつに|ちがいない

もちろん 、 女の子 も パーティ 用 に 、 ビロード と レース の 立派な ドレス を 着て 来て いる 。 |おんなのこ||ぱーてぃ|よう||びろーど||れーす||りっぱな|どれす||きて|きて|

夏物 を 着て 肌寒い 夕 里子 と は 違って 、 暖か そうである 。 なつもの||きて|はださむい|ゆう|さとご|||ちがって|あたたか|そう である

「 ママ の 所 へ 行って りゃ いい じゃ ない か 」 まま||しょ||おこなって|||||

と 、 父親 が 言う と 、 |ちちおや||いう|

「 ママ は どうせ 誰 か 男 の 人 と 浮気 して る から 、 い ない よ 」 まま|||だれ||おとこ||じん||うわき||||||

と 言い 返す 。 |いい|かえす

話 が 耳 に 入る 周囲 の 男 たち が 笑って いる 。 はなし||みみ||はいる|しゅうい||おとこ|||わらって|

「── で は 、 最後 の お 楽しみです ！ ||さいご|||たのしみです

と 、 ステージ の 上 で 、 若い 男 が 言った 。 |すてーじ||うえ||わかい|おとこ||いった

「 ほら 、 もう 、 これ で 終り だ から な 」 ||||おわり|||

と 、 父親 の 方 も ホッと した 様子 だ 。 |ちちおや||かた||ほっと||ようす|

「 これ が 面白い んだ 」 ||おもしろい|

「 何 が 出て 来る の か な 」 なん||でて|くる|||

と いった 囁き が 、 そこ ここ で 交わさ れて いる 。 ||ささやき|||||かわさ|| There is a whisper like that, it is exchanged here.

「 実は ──」 じつは

と 、 若い 男 が 言った 。 |わかい|おとこ||いった

「 今回 は 、 皆さん に お 見せ できる ような 値 打 物 を 、 どうしても 手 に 入れる こと が でき ませ ん でした 」 こんかい||みなさん|||みせ|||あたい|だ|ぶつ|||て||いれる||||||

なんだ 、 と いった 失望 の 声 が 上る 。 |||しつぼう||こえ||のぼる

「 ですが ──」

と 、 若い 男 は 声 を 高く して 、「 その 代り に 、 大変 珍しい 人形 を 、 提供 し たい と 存じ ます 」 |わかい|おとこ||こえ||たかく|||かわり||たいへん|めずらしい|にんぎょう||ていきょう||||ぞんじ|

「 人形 ？ にんぎょう

── ねえ 、 人形 だって 」 |にんぎょう|

今 まで ふてくされて いた 女の子 が 、 急に 目 を 輝か せた 。 いま||||おんなのこ||きゅうに|め||かがやか|

「 ね 、 パパ 、 可愛い 人形 だったら 、 買って ！ |ぱぱ|かわいい|にんぎょう||かって 「 うむ ……。

見て から だ な 」 みて|||

父親 の 方 は 、 何だか 落ちつか ない 様子 である 。 ちちおや||かた||なんだか|おちつか||ようす|

「 これ は 、 等 身 大 、 実物 そっくり の 、 まるで 生きて いる ような 人形 です 」 ||とう|み|だい|じつぶつ||||いきて|||にんぎょう|

と 、 説明 が 続いて いる 。 |せつめい||つづいて|

「 どちら か と いう と 、 大人 の 方 の ため の 人形 、 と いえる かも しれ ませ ん 」 |||||おとな||かた||||にんぎょう|||||| "It may be said that it is rather a doll for adults"

「 おい 、 もう 出よう か 」 ||でよう|

と 、 父親 が 、 ちょっと あわてた ように 娘 を 促した が 、 今度 は 、 女の子 の 方 が 、 |ちちおや|||||むすめ||うながした||こんど||おんなのこ||かた|

「 いや ！

見て くんだ から ！ みて|| と 動か ない 。 |うごか|

「 では 、 ご覧 に 入れ ましょう 」 |ごらん||いれ|

と 、 若い 男 が 手 を 上げて 見せる と 、 あの 女 が 、 車 椅子 を 押して 現われた 。 |わかい|おとこ||て||あげて|みせる|||おんな||くるま|いす||おして|あらわれた

場 内 が 、 スッ と 静かに なる 。 じょう|うち||||しずかに|

── 車 椅子 に 座って 目 を 閉じて いる の は 、 可愛い ドレス に 身 を 包んだ 、 どう 見て も 本物 の 人間 の 少女 で ──。 くるま|いす||すわって|め||とじて||||かわいい|どれす||み||つつんだ||みて||ほんもの||にんげん||しょうじょ|

「 あれ ……」

勇一 が 愕然と した 。 ゆういち||がくぜんと|

「 珠美 だ わ 」 たまみ||

夕 里子 が 呟いた 。 ゆう|さとご||つぶやいた

大声 が 出 なかった の が 、 却って 幸いだった 。 おおごえ||だ||||かえって|さいわいだった

「 さあ 、 この 人形 を 、 皆さん に 買って いただく こと に し ましょう 」 ||にんぎょう||みなさん||かって|||||

と 若い 男 が 言った 。 |わかい|おとこ||いった

「── 百万 だ ！ ひゃくまん|

「 二百 ！ にひゃく

「 三百 ！ さんびゃく

「 五百万 出す ！ ごひゃくまん|だす

たちまち 声 が 上る 。 |こえ||のぼる

夕 里子 は 、 顔 を 真 赤 に して 、 拳 を 握り 固めた 。 ゆう|さとご||かお||まこと|あか|||けん||にぎり|かためた Yuriko turned his face red and held his fist.

── もちろん 、 買い たい と いう 男 たち は 、 あれ が 生身 の 人間 と 知って いる のだ 。 |かい||||おとこ|||||なまみ||にんげん||しって||

その ため に 珠美 を 誘拐 して 来て ──。 |||たまみ||ゆうかい||きて

何て 連中 だ ！ なんて|れんちゅう|

「 ねえ 、 パパ 、 買って ！ |ぱぱ|かって

例の 女の子 が 、 父親 の 腕 に しがみつく ように して 、 せがんで いる 。 れいの|おんなのこ||ちちおや||うで||||||

「 う 、 うん ……。

しかし ……」

と 、 父親 が 困り 果てた 様子 で 口ごもって いる と 、 突然 、 |ちちおや||こまり|はてた|ようす||くちごもって|||とつぜん

「 待って くれ 」 まって|

と 、 声 が あった 。 |こえ||

「 小峰 様 ──」 こみね|さま

若い 男 が 、 戸惑った ように 言った 。 わかい|おとこ||とまどった||いった

あれ が 小峰 ……。 ||こみね

夕 里子 は 、 ステージ に 現われた 初老 の 男 を 眺めた 。 ゆう|さとご||すてーじ||あらわれた|しょろう||おとこ||ながめた

そして 、 ハッと した 。 |はっと|

── あれ が 、 この 勇一 の 祖父 な のだ 。 |||ゆういち||そふ||

「 小 峰 か 」 しょう|みね|

勇一 も 思い出した らしい 。 ゆういち||おもいだした|

「 さっき 、 車 の 中 で 、 何 か 言って た な 。 |くるま||なか||なん||いって|| あいつ が どうした って ？ 「 しっ ！

後 で 話す わ 」 あと||はなす|

と 、 夕 里子 は 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 皆さん 。 みなさん

大変 申し訳ない が ──」 たいへん|もうしわけない|

と 、 小峰 は 、 ステージ に 立つ と 両手 を 広げて 、「 この 人形 は 売れ ませ ん 。 |こみね||すてーじ||たつ||りょうて||ひろげて||にんぎょう||うれ||

売り物 で は ない のです 」 うりもの||||

そこ ここ に 、 当惑 の 声 が 上った 。 |||とうわく||こえ||のぼった

「 手違い で 、 ここ へ 出して しまった 。 てちがい||||だして|

大変 申し訳ない 。 たいへん|もうしわけない 次の 機会 に は 、 必ず これ の 何 倍 も すばらしい もの を ──」 つぎの|きかい|||かならず|||なん|ばい||||

小峰 が 、 そこ まで 言い かけた とき だった 。 こみね||||いい|||

バン 、 と 激しく 叩きつける ような 音 が した と 思う と 、 小峰 が 胸 を 押えて 、 呻いた 。 ばん||はげしく|たたきつける||おと||||おもう||こみね||むね||おさえて|うめいた

「── 撃た れた ぞ ！ うた||

勇一 が 目 を 見張った 。 ゆういち||め||みはった

「 大変だ わ ！ たいへんだ|

夕 里子 が ステージ へ 駆け寄ろう と した とき 、 突然 明り が 消えて 、 部屋 は 闇 に 包ま れた 。 ゆう|さとご||すてーじ||かけよろう||||とつぜん|あかり||きえて|へや||やみ||つつま|

「 何 だ ！ なん|

「 逃げろ ！ にげろ

叫び声 が 飛び交う 。 さけびごえ||とびかう

ワッ と 出入 口 へ 向 って 人 が 殺到 した 。 ||しゅつにゅう|くち||むかい||じん||さっとう|

わざと 誰 か が 明り を 消した んだ 、 と 夕 里子 は 思った 。 |だれ|||あかり||けした|||ゆう|さとご||おもった

停電 で ない の は 、 廊下 の 方 が 明るい の を 見て も 分 る 。 ていでん|||||ろうか||かた||あかるい|||みて||ぶん|

しかし 、 群衆 と いう ほど の 人数 で ない に して も 、 一気に 駆け 出す と 、 巻き 込ま れ ない ように する の は 容易じゃ なかった 。 |ぐんしゅう|||||にんずう||||||いっきに|かけ|だす||まき|こま|||||||よういじゃ|

突き飛ばさ れ 、 押しのけ られ 、 よろけた ところ へ 、 誰 か が 夕 里子 の 足 を けった 。 つきとばさ||おしのけ|||||だれ|||ゆう|さとご||あし||

アッ と 思った とき は 、 床 に 転倒 。 ||おもった|||とこ||てんとう

お腹 を もろ に けら れて 、 痛 さ に 声 も 出 ない 。 おなか||||||つう|||こえ||だ|

誰 か が 、 夕 里子 に つまずいて 転んだ 。 だれ|||ゆう|さとご|||ころんだ

続いて 、 一 人 二 人 ── たちまち 、 夕 里子 は 、 その 下敷 に なって しまった 。 つづいて|ひと|じん|ふた|じん||ゆう|さとご|||したじき|||

「 ど いて ！

こら 、 あっ ち 行け ！ |||いけ 犬 でも 追い払って いる ような 声 を 出した が 、 相手 だって 、 そう 簡単に は どけ ない のだ 。 いぬ||おいはらって|||こえ||だした||あいて|||かんたんに||||

さらに 二 、 三 人 の 重 み が 加わって 、 夕 里子 は 息 が 出来 なく なった 。 |ふた|みっ|じん||おも|||くわわって|ゆう|さとご||いき||でき||

── このまま 窒息 して 死ぬ んじゃ ない か 。 |ちっそく||しぬ|||

そんな 思い が 頭 を かすめる 。 |おもい||あたま||

── と 、 体 が 急に 軽く なった 。 |からだ||きゅうに|かるく|

「 大丈夫 か よ ！ だいじょうぶ||

勇一 の 声 だ 。 ゆういち||こえ|

「 何とか ── 生きて る わ よ 」 なんとか|いきて|||

と 、 夕 里子 は 答えた 。 |ゆう|さとご||こたえた

足音 が 遠ざかって 、 部屋 の 中 は 静かに なった 。 あしおと||とおざかって|へや||なか||しずかに|

── 廊下 の 明り で 、 中 の 様子 も 何とか 見てとれる 。 ろうか||あかり||なか||ようす||なんとか|みてとれる

「 ひどい 目 に 遭った わ ……。 |め||あった|

殺さ れる か と 思った 」 ころさ||||おもった

夕 里子 は そう 言って から 、 ハッと して 、「 ねえ 、 珠美 を 連れ出さ なきゃ ！ ゆう|さとご|||いって||はっと|||たまみ||つれださ|

「 そうだ 。 そう だ

早く 下 へ おろして ──」 はやく|した||

二 人 して 、 ステージ の 方 へ 目 を やって ……。 ふた|じん||すてーじ||かた||め||

「 いやだ わ 、 どこ に ──」

夕 里子 は 、 思わず 口走った 。 ゆう|さとご||おもわず|くちばしった

ステージ の 上 に は 、 小峰 が 倒れて いた 。 すてーじ||うえ|||こみね||たおれて|

そして 、 車 椅子 が 残って いる 。 |くるま|いす||のこって| しかし 、 空 の まま だ 。 |から|||

珠美 の 姿 は 、 消えて いた のである ……。 たまみ||すがた||きえて||