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三姉妹探偵団 4 怪奇篇, 三姉妹探偵団 4 Chapter 16

三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 16

16 死 相

「 明け まして おめでとう 」

朝食 の 席 に 入って 行き ながら 、 珠美 が 馬鹿丁寧に 頭 を 下げた 。

「 何 やって ん の 」

と 、 夕 里子 が エプロン を して 、「 早く 座って 。

── お 雑煮 食べる でしょ ? 「 うん 。

それ と ハンバーグ 」

「 勝手に 作り なさい 」

「 あ 、 そう か 。

国 友 さん が 来る んだ 」

「 そう よ 。

だから 何 だって いう の ? 「 そんな スタイル で いいわけ ?

「 大きな お 世話 よ 」

夕 里子 は 、 食器 を 出して 、「 綾子 姉さん は まだ 寝て る ?

「 でしょ 、 当然 」

「 起こして 来て よ 。

お 正月 ぐらい は 、 一緒に 過 しま しょ 」

朝 と いって も 、 もう 十 時 だ 。

夕 里子 が 、 お モチ を 焼いて 、 お 雑煮 の 鍋 に 入れて いる と 、

「 手伝おう か ?

と 、 国 友 が ヒョイ と 台所 に 顔 を 出した 。

「 いやだ !

夕 里子 が 赤く なって 、「 いつ 来た の ?

「 今 、 下 に 来たら 、 ちょうど 珠美 君 が 郵便 を 取り に 来て て ね 。

一緒に 上って 来た の さ 」

「 一声 かけて くれれば いい のに 」

夕 里子 は エプロン を 外す と 、「 明け まして おめでとう ございます 」

「 ど 、 どうも ── こちら こそ 」

何だか かみ合わ ない 挨拶 である 。

「 何 よ 何 よ 、 他人 みたいな こと して 」

と 、 珠美 が 顔 を 出して 、「 キス ぐらい したら ?

「 あんた は 引っ込んで なさい 」

「 へい 」

珠美 が チョロッ と 舌 を 出して 姿 を 消す 。

「── 今年 も 楽し そうだ 」

と 、 国 友 は 笑った 。

「 だ と いい けど 」

と 、 夕 里子 が 首 を 振る 。

「 国 友 さん 、 お 雑煮 は ? 「 うん 。

もらう よ 。 ── 夕 里子 君 」

「 え ?

「 まあ 、 その ── 別に 新年 だ から って 、 どう って わけじゃ ない けど ──」

「 そう よ 。

一 月 一 日 も 、 二十四 時間 に 変り ない わ 」

「 そう だ ね 。

でも 、 気分 的に さ ……」

「 その 意味 は ある けど ね 」

「 だ から ここ は 一 つ ──」

理屈 は どう でも 、 要するに 二 人 は 唇 を 合わせて 、 新年 の 挨拶 と した のである 。

そこ へ 、

「 あら 、 おめでとう ございます 」

綾子 が 、 寝ぼけた 顔 で 立って いた 。

「 本年 も よろしく ……」

── 三十 分 後 に なって 、 やっと 、 三 姉妹 と 国 友 の 四 人 は 、 お 雑煮 を フーフー いい ながら 食べて いた 。

「 けが は どう ?

と 、 国 友 は 訊 いた 。

「 うん 、 大した こと ない 」

夕 里子 が 肯 いて 、「 国 友 さん 、 雪 の 下敷 に なった とき 、 足 を 痛めて た でしょ 」

「 そう だ っけ ?

君 と 必死で 火事 の 中 を 逃げて たら 、 治 っ ち まった 」

「 病 は 気 から 、 よ 」

綾子 が 、 今年 も 少し ピント の 外れた 発言 で 割り 込んだ 。

「 もう 、 事件 の 処理 は 済んだ の ?

と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 国 友 は 首 を 振った 。

「 いや 、 何しろ この 時期 だ ろ ?

それ に 、 あそこ は 雪 が 深い し 、 道 は まだ 雪 で ふさが れて る し ……。 まだ 当分 かかる んじゃ ない か な 、 詳しい 現場 検証 まで に は 」

「 あの 親子 三 人 、 死んじゃ った の か なあ 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 あんなに 地下 道 と か あった わけじゃ ない 。 どこ か から 逃げた の かも ね 」

「 どうか な 」

「 そんな 可能 性 も ?

と 、 綾子 が 訊 く 。

「 まあ 、 ない こと は ない 。

ただ 、 一応 焼け跡 から 、 それ らしい 遺体 は 見付かって いる んだ 」

「 三 人 と も ?

「 うん 。

男 と 女 、 それ に 男の子 。 ── ただ 、 とても 判別 は つか ない し 、 確認 は でき ない だろう 」

「 でも 、 他 に 人 は い なかった んでしょ ?

「 僕 と 水谷 先生 が 捜した とき に は ね 」

「 じゃ 、 きっと あの 親子 だ わ 」

と 、 綾子 は 言った 。

「 死んだ 人 の こと は 、 悪く 言わ ない ように しま しょ 。 もちろん 罪 は 罪 だ けど 」

「 ただ ね ──」

と 、 夕 里子 が 言った 。

「 色々 納得 でき ない こと は 残って る の よ 」

「 おい 、 やめよう よ 。

正月 早々 、 殺伐 と した 話 は 」

と 、 国 友 が 苦笑 した 。

「 ねえ 、 車 で 来た んだ 。 正月 の 、 空いた 町 を 車 で 走って み ない か 」

「 賛成 !

映画 見て 、 ご飯 食べよう 」

と 、 もちろん 珠美 が すかさず 言った 。

「 お 姉ちゃん 、 お年玉 」

「 パパ が 帰って から もらって よ 」

と 、 夕 里子 は すげなく 言って 、「 出かける の なら 、 仕度 し ない と 。

── じゃ 、 みんな 、 早く お 雑煮 を 食べちゃ って ちょうだい 」

国 友 が 、 変り ば え の し ない TV 番組 を 眺めて いる 間 に 、 三 人 姉妹 は 着替える こと に した 。

夕 里子 は 、 もちろん お 洒落 する の も 嫌いで ない 。

でも 、 それ ばかり に あんまり 手間 を かける 気 に は なれ ない のである 。

「 ね 、 夕 里子 、 この ワンピース 、 どう ?

と 、 綾子 が やって 来る 。

大体 、 綾子 の センス は 十 年 遅れて いる 、 と 定評 が ある (?

)。

── そう 。

夕 里子 に は 、 まだ スッキリ し ない こと が あった 。 もちろん 、 服 の こと で は ない 。

たとえば ── あの 二 階 の 部屋 の 中 で の 出来事 は ?

あの とき 、 暗がり の 中 を 這い 回って 、 夕 里子 の 足下 へ 寄って 来た の は 、 何 だった の か ? あるいは 誰 だった の か 。

そして 、 その後 、 国 友 と 水谷 は 、 あの 山荘 の 中 を 、 くまなく 捜して いる のだ 。

その とき 、 あの 中 に いた 「 誰 か 」 は 、 どこ へ 行って しまった の か 。

それ 一 つ を 取って みて も 、 よく 分 ら ない 。

石垣 の 話 は 、 大体 の ところ 、 事実 らしい ように 思えた 。

しかし 、 何といっても 石垣 一 人 の 話 しか 聞いて い ない のである 。

事実 が あの 通り だった と は 、 誰 に も 断定 でき ない 。

特に 、 三 人 と も 死んで しまった 今 と なって は 。

いや ── 本当に 死んだ のだろう か ?

あの 母親 と 息子 が 、 そう 簡単に 自ら 命 を 絶つ だろう か ? 夕 里子 に は 、 分 ら なかった ……。

「 お 姉ちゃん !

出 かける よ 」

と 、 珠美 が 顔 を 出して 、「 まだ そんな 格好 な の ?

早く し な よ 」

「 うん 。

すぐ 行く 」

「 やる こと が のろい の よ 」

と 、 綾子 が 、 珍しく 、 いつも 言わ れて いる 言葉 で 反撃 した 。

何 よ !

夕 里子 は ムッと して 、

「 恩知らず ばっかり !

と 、 呟いた 。

「 結構 、 人 が 出て る じゃ ない 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 本当 ね 」

綾子 も 、 おっとり と 青空 を 見上げた 。

「 お 正月 の 空 は きれいだ わ 。 あの 山 の 上 み たい 」

「 思い出さ せ ないで よ 」

と 、 夕 里子 が 苦笑 した 。

まるで 歩行 者 天国 みたいだった 。

車 が ほとんど 通って い ない のだ 。

都心 の 繁華街 。

── と いって も 、 ほとんど の 店 は 閉って いる 。

開いて いる の は 、 いく つ か の 喫茶 店 ぐらい の もの である 。

道 を 行く 若者 たち も 、 和服 から ジーパン まで 、 さまざま 。

正月 の 風景 も 、 すっかり 変って しまった 。 ── 夕 里子 は 、 いささか 年齢 に ふさわしから ぬ こと を 考えたり して いる 。

「 夕 里子 !

と 、 急に 声 を かけ られて 、 びっくり する 。

振り向く と ── 何と 敦子 が 手 を 振り ながら やって 来た 。

「 敦子 !

みどり さん じゃ ない 」

そう 。

川西 みどり と 片 瀬 敦子 である 。

「 家 に いて も 退屈だ し 、 出て 来ちゃ った 。

こう お 天気 が よくて あったかい と ね 。 ── そっち も 同様 ? 「 うん 。

国 友 さん が 映画 と 食事 を おごって くれる の 」

と 、 珠美 が 言った 。

「 一緒に どう ? 「 そう だ よ 」

と 、 国 友 は 言い ながら 、 財布 に いくら 入って た かしら 、 と 考えて いた ……。

ともかく 、 差し当り 何 か 飲もう 、 と いう わけで 、 開いて いる 数 少ない 喫茶 店 の 一 つ に 入る こと に した 。

混 んで いた が 、 ちょうど 一 グループ が 出て 、 うまく 六 人 分 の 席 が 空いた のだった 。

「 私 、 チョコパフェ 」

と 、 敦子 が 注文 して 、「 みどり は ?

「 え ?

何だか ちょっと ぼんやり して た 川西 みどり は 、 ふっと 我 に 返って 、「 あ 、 ごめん 。

── 私 、 オレンジジュース で 」

「── どうかした の ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。

「 う うん ……。

ただ 、 ちょっと めまい が した の 」

と 、 みどり は 首 を 振った 。

「 ゆうべ 飲み 過ぎた んじゃ ない ?

と 珠美 が 言った ので 、 みんな が 笑った 。

オーダー を 取り に 来た ウェイトレス の 女の子 が 、 額 の 汗 を 拭った 。

「 ご 注文 は ?

国 友 が まとめて 注文 を して 、

「── 忙し そうだ ね 」

と 声 を かけた 。

「 ええ !

お 正月 は 働く 人 が 少ない し 。 ── もう 目 が 回り そう 」

と 、 その ウェイトレス が グチ を こぼした 。

「 ありがとう ございました 」

出よう と する 客 を 見て 、 ウェイトレス は そう 言う と 、 急いで レジ の 方 へ 駆けて 行く 。

「 レジ も やる んじゃ 、 大変だ な 」

と 、 国 友 が 言った 。

「 手伝って あげよう かしら 」

と 、 綾子 が 言った 。

「 お 姉ちゃん が やったら 、 大 赤字 に なる よ 」

と 、 珠美 が からかった 。

その 間 に 、 みどり が 、 ゆっくり と 席 を 立って いた 。

夕 里子 は 、 トイレ に 行く の か な 、 と 思って 見て いた のだ が ……。

みどり は 、 レジ の 方 へ 歩いて 行く 。

今 、 お 金 を 払おう と して いる コート 姿 の 紳士 の 方 へ と 歩み寄り 、

「 あの ──」

と 、 声 を かける 。

夕 里子 は 立ち上った 。

紳士 が みどり の 方 を 振り向く の が 見えた 。

紳士 が 、 素早く みどり を 押した ように 見えた 。

みどり が よろけて 、 体 を 折り ながら 、 倒れた 。

「 国 友 さん !

と 、 夕 里子 が 叫んだ 。

「 あの 男 ! 紳士 が 、 店 から 飛び出した 。

「 どうした !

国 友 が 飛び上る ように 立ち上った 。

「 石垣 だ わ !

国 友 は 、

「 後 を 頼む ぞ !

と 怒鳴る と 、 石垣 を 追って 、 飛び出して 行った 。

「 みどり さん !

夕 里子 は 、 駆け寄って 、 みどり を 抱き 起こした 。

「 しっかり ──」

夕 里子 は 、 みどり の 胸 から 血 が 広がって いる の を 見て 、 息 を 呑 んだ 。

「 救急 車 を !

急いで ! ウェイトレス の 子 が 、 電話 へ 飛びつく 。

「── ここ へ ── 入った とき 、 何 か 感じて た の 」

と 、 みどり が 切れ切れの 声 で 言った 。

「 しゃべら ないで !

すぐ 救急 車 が 来る わ 」

「 夕 里子 さん ……」

みどり は 、 弱々しい 声 で 言った 。

「 あなた の 顔 に 見えた 死 相 は ── 私 のだった んだ わ 。 あなた に 反射 して 映って いた の を ── 気付か なかった ……」

「 馬鹿 言わ ないで !

死 相 なんて もの 、 ない わ よ ! 夕 里子 は 叱り つける ように 言った 。

「 珠美 ! 出血 を 止める もの を 何 か ! 「 あい よ 。

でも ── 何も ない よ 」

「 血 を 吸う もの ── シャツ 脱いで !

「 ここ で ?

「 早く し なさい !

夕 里子 は 自分 で セーター を 脱ぎ 出した 。

「 わ 、 分 った よ !

と 、 珠美 が あわてて コート を 脱ぐ 。

「 風邪 ひく かも 」

「 はい 、 これ 」

綾子 が もう 自分 の シャツ を 脱いで 、 さし出した 。

こういう とき 、 変に 人 の 目 を 気 に し ない のである 。

「 何とか 助ける の よ !

夕 里子 は 意地 に なって いた 。

── そんな 、「 死 相 」 なんて もの に 負けて たまる か !

敦子 は 、 表 に 飛び出す と 、

「 お 医者 さん は いま せ ん か !

と 、 大声 で 叫んだ 。

「 けが人 です ! お 医者 さん が いたら 、 ここ へ 来て 下さい ! 太った 男 が ドタドタ と 駆けて 来た 。

「 私 は 医者 だ けど ──」

「 良かった !

この 中 に 」

「 そう か 。

しかし ──」

「 いい から !

早く ! 敦子 が その 男 を 突き飛ばす ように して 、 店 の 中 へ と 押し 込んだ 。

病院 の 廊下 に 足音 が して 、 夕 里子 が 振り向く と 、 三崎 刑事 と 国 友 が 、 連れ立って やって 来る ところ だった 。

「 国 友 さん !

石垣 は ? 「 うん 。

捕まえた 。 みどり 君 は ? 「 まだ 、 分 ら ない の 」

と 、 首 を 振った 。

「 お 正月 で 、 外科 の 先生 が すぐ に は 見付から なくて ……」

「 そう か 。

しかし 、 よく やった よ 」

と 、 三崎 が 夕 里子 の 肩 を 、 軽く つかんだ 。

「 僕 が い ながら ……」

国 友 が しょげて いる 。

「 仕方ない さ 。

あんな 所 に 石垣 が いる と は 、 誰 も 思わ ん 」

三 人 は 、 長 椅子 に 腰 を おろした 。

「 お 姉さん たち は 、 マンション へ 戻った わ 。

ひどい 格好 だ から 」

と 、 夕 里子 は 、 は おった コート の 前 を 、 ギュッと 合わせて 、「 私 の 服 も 持って 来て くれる こと に なって る の 」

「 とんだ 正月 に なった ね 」

と 、 三崎 が 言った 。

優しい 口調 だった 。

夕 里子 は 、 何となく ホッと した 。

「── 石垣 は 、 何者 だった んです か ?

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。

「 まだ 自白 して は い ない が ね 」

と 、 三崎 が 言った 。

「 石垣 は 、 麻薬 や 覚醒 剤 の 密売 に 係って いた んだ と 思う 。 それ も かなり の 大物 だった んじゃ ない か な 」

「 麻薬 の ?

「 石垣 と 無理 心中 した こと に なって いる 笹 田 直子 の 父親 と 話した とき に ね 、 石垣 が 、 いやに 落ちつき が なくて 、 妙な 気 が した 、 と 言って いた 。

おそらく 、 石垣 自身 も 薬 を 使って いた んだ 。 それ に 、 石垣 が 笹 田 と 会った 店 と いう の が 、 麻薬 の 密売 の 拠点 に なって 、 その 少し 後 で 手入れ を 受けた 所 な んだ 。 それ で 、 まず 間違い ない と にらんだ んだ よ 」

「 じゃあ ……」

夕 里子 は 思わず 言った 。

「 あの 、 石垣 の 奥さん も ──」

「 園子 も 当然 、 中毒 して いた はずだ 。

石垣 が 君 に 話した こと も 、 まる きり 噓 じゃ ない だろう が 、 園子 が 、 そんな 血 を 飲む なんて 妄想 を 抱いた の は 、 薬 の せい に 違いない と 思う ね 」

「 それ で 、 あんな ひどい こと を ……」

「 殺さ れた 娘 たち の こと は 、 石垣 も 知って いた んじゃ ない か な 。

薬 の ききめ を 確かめる の に 利用 して いた んじゃ ない か と 思う よ 。 園子 が 、 それ を 知って いた か どう か は 分 ら ない けど ね 」

「 実は ね ──」

と 、 国 友 が 言った 。

「 逃げ 出した 女の子 が 一 人 、 見付かって いる んだ 」

「 どこ から ?

と 、 夕 里子 は 目 を 丸く した 。

「 どこ から だ と 思う ?

僕 ら が 乗って 、 あの 山荘 へ 向 った 車 の トランク から さ 」

「 あの ドライブ ・ イン で ──」

「 そう 。

縛ら れて いた 縄 が 、 うまく とけて 、 トランク から 脱け出した 。 しかし 、 一緒に いる 僕 ら だって 、 もしかしたら 仲間 かも しれ ない ── いや 、 仲間 だ と 思わ れて 当然だろう から ね 。 その 女の子 は 、 あの 寒 さ の 中 、 じっと 隠れて いて 意識 を 失い 、 あの 店 の 主人 に 見付け られた んだ よ 。 ── その 子 が 、 昨日 、 やっと 意識 を 取り戻した 」

「 そう だった の 」

夕 里子 が 肯 いた 。

「 向 う へ 着いて 、 逃げ られた こと を 知った 園子 は ショック だったろう な 。

遠からず 警察 の 手 が のびて 来る と 分 って いたんだ 」

「 それ で 、 あんな こと を ……」

「 電話 線 を 自分 で 切って 、 それ から 雪 で 、 道 を ふさいだ 」

「 水谷 先生 の 車 を 落とした の も ?

「 いや 、 あれ は 違う だろう 。

来さ せ たく なければ 、 電話 で 断れば 良かった んだ から 」

「 あ 、 そう か 」

「 むしろ 、 園子 と して は 、 身 を 隠す 前 に 、 もっと 大勢 の 女の子 が ほしかった んだろう から ね 。

大 歓迎 だった はずだ 」

「 じゃ 、 車 が 転落 した の は ──」

「 石垣 が 、 何 か を 道 に 置いた んじゃ ない か な 。

石垣 の 方 は 、 妻 が 平川 浩 子 を 殺して しまった の を 知って 、 沼 淵 教授 の 方 から 自分 に 手 が のびて 来る と 悟って いた 。 だから 、 これ まで の こと を 清算 して しまう つもりだった んだ よ 」

「 つまり 、 奥さん を 殺して ?

「 そう 。

その ため に は 、 あんまり 大勢 に やって 来 られる と 、 却って やり にくく なる 。 だから 、 ああして 、 邪魔 した んだ と 思う ね 」

「 みどり さん や 私 を 助けて ──」

「 自分 は 、 妻 も 知ら ない 洞窟 の 中 へ ひそんで 、 君 ら に 、 何もかも 妻 の やった こと で 、 自分 は その 犠牲 者 だ と 話して 聞か せた 。

── 確かに 、 笹 田 直子 と の 恋愛 など は 事実 だった んだろう 。 園子 は 、 平川 浩子 が 自分 の こと を 探り に 来た と 思い 込んで 、 彼女 を 拷問 して 殺した ……。 気の毒な こと を した よ 」

「 綾子 姉ちゃん も 、 そう なって た かも しれ ない わ 」

「 全く だ 」

と 、 国 友 は 肯 いた 。

「 じゃ 、 園子 と 秀 哉 は 、 石垣 に 殺さ れた の ?

「 おそらく 。

── それ は 石垣 の 話 を 聞く しか ない が ね 」

「 そして 自分 は 、 あの とき 、 サロン で 、 気 を 失って る ふり を して た の ね 。

私 たち が 二 階 へ 行く の を 待って 、 ガソリン を まき 、 火 を つけた ……」

「 一 人 、 身 替り を 用意 して おいた んだ 。

自分 と 似た 年 格好 の 男 の 中毒 患者 を ね 」

それ が 、 あの 二 階 の 部屋 で 、 這い 寄って 来た もの の 正体 か 、 と 夕 里子 は 思った 。

あの 暗がり の 中 で は 、 まるで 怪物 でも いる みたいだった けど ……。

「── お 姉ちゃん !

と 、 声 が して 、 珠美 が やって 来た 。

「 あ 、 服 、 持って 来て くれた ?

「 はい 、 これ 」

と 、 紙袋 を 渡す 。

「 みどり さん は ? 「 分 ん ない の 、 まだ 。

── じゃ 、 ちょっと トイレ で 着替えて 来 ます 」

と 、 夕 里子 は 急ぎ足 で 行って しまった 。

「── 国 友 さん 、 夕 里子 姉ちゃん と 早く 結婚 すれば ?

と 、 珠美 が 言った 。

「 何 だい 、 出しぬけに ?

「 だって 、 この 調子 じゃ 、 どうせ その 内 、 また 危 い 事件 に 巻き 込ま れる に 決 って いる もの 」

「 そりゃ そう だ な 」

「 死ぬ より も 結婚 の 方 が 、 まだ ましじゃ ない ?

珠美 は 、 かなり シビアな 意見 を 述べた 。

「── どうも 」

と 、 やって 来た の は 、 みどり に ついて 来た 太った 医者 である 。

「 そろそろ 私 は 失礼 し ない と 」

「 どうも お 忙しい ところ を 」

と 、 国 友 が 礼 を 言う と 、

「 いやいや 。

医者 の 務め です から ね 。 ── 今 聞いた ところ で は 、 何とか 持ち 直す だろう って こと でした よ 。 若 さ です な 。 体力 が ある って の は 強い 」

「 それ は 良かった 」

国 友 は 胸 を なでおろした 。

「 先生 の 処置 が 良かった おかげ で ──」

「 いや 、 あまり 慣れて ない もの で 、 人間 は 」

「 は あ ?

「 獣医 な ので ね 、 私 は 。

── じゃ 、 これ で 失礼 し ます 」

その 後ろ姿 を 見送って いた 国 友 たち は 、 顔 を 見合わせ 、 それ から 笑い 出して しまった 。

「── ねえ !

夕 里子 が 着替え を して 、 やって 来る 。

「 笑って る ところ を みる と ──」

「 助かり そう だって !

と 、 珠美 が 言う と 、 夕 里子 は ニッコリ 笑った 。

「 やっぱり ね !

『 死 相 』 なんて もの 、 ない んだ わ 」

と 、 夕 里子 は 力強く 言った 。


三 姉妹 探偵 団 4 Chapter 16 みっ|しまい|たんてい|だん|chapter Three Sisters Detectives 4 Chapter 16

16  死   相 し|そう

「 明け まして おめでとう 」 あけ||

朝食 の 席 に 入って 行き ながら 、 珠美 が 馬鹿丁寧に 頭 を 下げた 。 ちょうしょく||せき||はいって|いき||たまみ||ばかていねいに|あたま||さげた

「 何 やって ん の 」 なん|||

と 、 夕 里子 が エプロン を して 、「 早く 座って 。 |ゆう|さとご||えぷろん|||はやく|すわって

── お 雑煮 食べる でしょ ? |ぞうに|たべる| 「 うん 。

それ と ハンバーグ 」

「 勝手に 作り なさい 」 かってに|つくり|

「 あ 、 そう か 。

国 友 さん が 来る んだ 」 くに|とも|||くる|

「 そう よ 。

だから 何 だって いう の ? |なん||| 「 そんな スタイル で いいわけ ? |すたいる||

「 大きな お 世話 よ 」 おおきな||せわ|

夕 里子 は 、 食器 を 出して 、「 綾子 姉さん は まだ 寝て る ? ゆう|さとご||しょっき||だして|あやこ|ねえさん|||ねて|

「 でしょ 、 当然 」 |とうぜん

「 起こして 来て よ 。 おこして|きて|

お 正月 ぐらい は 、 一緒に 過 しま しょ 」 |しょうがつ|||いっしょに|か||

朝 と いって も 、 もう 十 時 だ 。 あさ|||||じゅう|じ|

夕 里子 が 、 お モチ を 焼いて 、 お 雑煮 の 鍋 に 入れて いる と 、 ゆう|さとご|||もち||やいて||ぞうに||なべ||いれて||

「 手伝おう か ? てつだおう|

と 、 国 友 が ヒョイ と 台所 に 顔 を 出した 。 |くに|とも||||だいどころ||かお||だした

「 いやだ !

夕 里子 が 赤く なって 、「 いつ 来た の ? ゆう|さとご||あかく|||きた|

「 今 、 下 に 来たら 、 ちょうど 珠美 君 が 郵便 を 取り に 来て て ね 。 いま|した||きたら||たまみ|きみ||ゆうびん||とり||きて||

一緒に 上って 来た の さ 」 いっしょに|のぼって|きた||

「 一声 かけて くれれば いい のに 」 ひとこえ||||

夕 里子 は エプロン を 外す と 、「 明け まして おめでとう ございます 」 ゆう|さとご||えぷろん||はずす||あけ|||

「 ど 、 どうも ── こちら こそ 」

何だか かみ合わ ない 挨拶 である 。 なんだか|かみあわ||あいさつ|

「 何 よ 何 よ 、 他人 みたいな こと して 」 なん||なん||たにん|||

と 、 珠美 が 顔 を 出して 、「 キス ぐらい したら ? |たまみ||かお||だして|きす||

「 あんた は 引っ込んで なさい 」 ||ひっこんで|

「 へい 」

珠美 が チョロッ と 舌 を 出して 姿 を 消す 。 たまみ||||した||だして|すがた||けす

「── 今年 も 楽し そうだ 」 ことし||たのし|そう だ

と 、 国 友 は 笑った 。 |くに|とも||わらった

「 だ と いい けど 」

と 、 夕 里子 が 首 を 振る 。 |ゆう|さとご||くび||ふる

「 国 友 さん 、 お 雑煮 は ? くに|とも|||ぞうに| 「 うん 。

もらう よ 。 ── 夕 里子 君 」 ゆう|さとご|きみ

「 え ?

「 まあ 、 その ── 別に 新年 だ から って 、 どう って わけじゃ ない けど ──」 ||べつに|しんねん||||||||

「 そう よ 。

一 月 一 日 も 、 二十四 時間 に 変り ない わ 」 ひと|つき|ひと|ひ||にじゅうし|じかん||かわり||

「 そう だ ね 。

でも 、 気分 的に さ ……」 |きぶん|てきに|

「 その 意味 は ある けど ね 」 |いみ||||

「 だ から ここ は 一 つ ──」 ||||ひと|

理屈 は どう でも 、 要するに 二 人 は 唇 を 合わせて 、 新年 の 挨拶 と した のである 。 りくつ||||ようするに|ふた|じん||くちびる||あわせて|しんねん||あいさつ|||

そこ へ 、

「 あら 、 おめでとう ございます 」

綾子 が 、 寝ぼけた 顔 で 立って いた 。 あやこ||ねぼけた|かお||たって|

「 本年 も よろしく ……」 ほんねん||

── 三十 分 後 に なって 、 やっと 、 三 姉妹 と 国 友 の 四 人 は 、 お 雑煮 を フーフー いい ながら 食べて いた 。 さんじゅう|ぶん|あと||||みっ|しまい||くに|とも||よっ|じん|||ぞうに|||||たべて|

「 けが は どう ?

と 、 国 友 は 訊 いた 。 |くに|とも||じん|

「 うん 、 大した こと ない 」 |たいした||

夕 里子 が 肯 いて 、「 国 友 さん 、 雪 の 下敷 に なった とき 、 足 を 痛めて た でしょ 」 ゆう|さとご||こう||くに|とも||ゆき||したじき||||あし||いためて||

「 そう だ っけ ?

君 と 必死で 火事 の 中 を 逃げて たら 、 治 っ ち まった 」 きみ||ひっしで|かじ||なか||にげて||ち|||

「 病 は 気 から 、 よ 」 びょう||き||

綾子 が 、 今年 も 少し ピント の 外れた 発言 で 割り 込んだ 。 あやこ||ことし||すこし|ぴんと||はずれた|はつげん||わり|こんだ

「 もう 、 事件 の 処理 は 済んだ の ? |じけん||しょり||すんだ|

と 、 夕 里子 が 訊 く と 、 国 友 は 首 を 振った 。 |ゆう|さとご||じん|||くに|とも||くび||ふった

「 いや 、 何しろ この 時期 だ ろ ? |なにしろ||じき||

それ に 、 あそこ は 雪 が 深い し 、 道 は まだ 雪 で ふさが れて る し ……。 ||||ゆき||ふかい||どう|||ゆき||ふさ が||| まだ 当分 かかる んじゃ ない か な 、 詳しい 現場 検証 まで に は 」 |とうぶん||||||くわしい|げんば|けんしょう|||

「 あの 親子 三 人 、 死んじゃ った の か なあ 」 |おやこ|みっ|じん|しんじゃ||||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 あんなに 地下 道 と か あった わけじゃ ない 。 |ちか|どう||||| どこ か から 逃げた の かも ね 」 |||にげた|||

「 どうか な 」

「 そんな 可能 性 も ? |かのう|せい|

と 、 綾子 が 訊 く 。 |あやこ||じん|

「 まあ 、 ない こと は ない 。

ただ 、 一応 焼け跡 から 、 それ らしい 遺体 は 見付かって いる んだ 」 |いちおう|やけあと||||いたい||みつかって||

「 三 人 と も ? みっ|じん||

「 うん 。

男 と 女 、 それ に 男の子 。 おとこ||おんな|||おとこのこ ── ただ 、 とても 判別 は つか ない し 、 確認 は でき ない だろう 」 ||はんべつ|||||かくにん||||

「 でも 、 他 に 人 は い なかった んでしょ ? |た||じん||||

「 僕 と 水谷 先生 が 捜した とき に は ね 」 ぼく||みずたに|せんせい||さがした||||

「 じゃ 、 きっと あの 親子 だ わ 」 |||おやこ||

と 、 綾子 は 言った 。 |あやこ||いった

「 死んだ 人 の こと は 、 悪く 言わ ない ように しま しょ 。 しんだ|じん||||わるく|いわ|||| もちろん 罪 は 罪 だ けど 」 |ざい||ざい||

「 ただ ね ──」

と 、 夕 里子 が 言った 。 |ゆう|さとご||いった

「 色々 納得 でき ない こと は 残って る の よ 」 いろいろ|なっとく|||||のこって|||

「 おい 、 やめよう よ 。

正月 早々 、 殺伐 と した 話 は 」 しょうがつ|はやばや|さつばつ|||はなし|

と 、 国 友 が 苦笑 した 。 |くに|とも||くしょう|

「 ねえ 、 車 で 来た んだ 。 |くるま||きた| 正月 の 、 空いた 町 を 車 で 走って み ない か 」 しょうがつ||あいた|まち||くるま||はしって|||

「 賛成 ! さんせい

映画 見て 、 ご飯 食べよう 」 えいが|みて|ごはん|たべよう

と 、 もちろん 珠美 が すかさず 言った 。 ||たまみ|||いった

「 お 姉ちゃん 、 お年玉 」 |ねえちゃん|おとしだま

「 パパ が 帰って から もらって よ 」 ぱぱ||かえって|||

と 、 夕 里子 は すげなく 言って 、「 出かける の なら 、 仕度 し ない と 。 |ゆう|さとご|||いって|でかける|||したく|||

── じゃ 、 みんな 、 早く お 雑煮 を 食べちゃ って ちょうだい 」 ||はやく||ぞうに||たべちゃ||

国 友 が 、 変り ば え の し ない TV 番組 を 眺めて いる 間 に 、 三 人 姉妹 は 着替える こと に した 。 くに|とも||かわり||||||tv|ばんぐみ||ながめて||あいだ||みっ|じん|しまい||きがえる|||

夕 里子 は 、 もちろん お 洒落 する の も 嫌いで ない 。 ゆう|さとご||||しゃれ||||きらいで|

でも 、 それ ばかり に あんまり 手間 を かける 気 に は なれ ない のである 。 |||||てま|||き|||||

「 ね 、 夕 里子 、 この ワンピース 、 どう ? |ゆう|さとご||わんぴーす|

と 、 綾子 が やって 来る 。 |あやこ|||くる

大体 、 綾子 の センス は 十 年 遅れて いる 、 と 定評 が ある (? だいたい|あやこ||せんす||じゅう|とし|おくれて|||ていひょう||

)。

── そう 。

夕 里子 に は 、 まだ スッキリ し ない こと が あった 。 ゆう|さとご||||すっきり||||| もちろん 、 服 の こと で は ない 。 |ふく|||||

たとえば ── あの 二 階 の 部屋 の 中 で の 出来事 は ? ||ふた|かい||へや||なか|||できごと|

あの とき 、 暗がり の 中 を 這い 回って 、 夕 里子 の 足下 へ 寄って 来た の は 、 何 だった の か ? ||くらがり||なか||はい|まわって|ゆう|さとご||あしもと||よって|きた|||なん||| あるいは 誰 だった の か 。 |だれ|||

そして 、 その後 、 国 友 と 水谷 は 、 あの 山荘 の 中 を 、 くまなく 捜して いる のだ 。 |そのご|くに|とも||みずたに|||さんそう||なか|||さがして||

その とき 、 あの 中 に いた 「 誰 か 」 は 、 どこ へ 行って しまった の か 。 |||なか|||だれ|||||おこなって|||

それ 一 つ を 取って みて も 、 よく 分 ら ない 。 |ひと|||とって||||ぶん||

石垣 の 話 は 、 大体 の ところ 、 事実 らしい ように 思えた 。 いしがき||はなし||だいたい|||じじつ|||おもえた

しかし 、 何といっても 石垣 一 人 の 話 しか 聞いて い ない のである 。 |なんといっても|いしがき|ひと|じん||はなし||きいて|||

事実 が あの 通り だった と は 、 誰 に も 断定 でき ない 。 じじつ|||とおり||||だれ|||だんてい||

特に 、 三 人 と も 死んで しまった 今 と なって は 。 とくに|みっ|じん|||しんで||いま|||

いや ── 本当に 死んだ のだろう か ? |ほんとうに|しんだ||

あの 母親 と 息子 が 、 そう 簡単に 自ら 命 を 絶つ だろう か ? |ははおや||むすこ|||かんたんに|おのずから|いのち||たつ|| 夕 里子 に は 、 分 ら なかった ……。 ゆう|さとご|||ぶん||

「 お 姉ちゃん ! |ねえちゃん

出 かける よ 」 だ||

と 、 珠美 が 顔 を 出して 、「 まだ そんな 格好 な の ? |たまみ||かお||だして|||かっこう||

早く し な よ 」 はやく|||

「 うん 。

すぐ 行く 」 |いく

「 やる こと が のろい の よ 」

と 、 綾子 が 、 珍しく 、 いつも 言わ れて いる 言葉 で 反撃 した 。 |あやこ||めずらしく||いわ|||ことば||はんげき|

何 よ ! なん|

夕 里子 は ムッと して 、 ゆう|さとご||むっと|

「 恩知らず ばっかり ! おんしらず|

と 、 呟いた 。 |つぶやいた

「 結構 、 人 が 出て る じゃ ない 」 けっこう|じん||でて|||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 本当 ね 」 ほんとう|

綾子 も 、 おっとり と 青空 を 見上げた 。 あやこ||||あおぞら||みあげた

「 お 正月 の 空 は きれいだ わ 。 |しょうがつ||から||| あの 山 の 上 み たい 」 |やま||うえ||

「 思い出さ せ ないで よ 」 おもいださ|||

と 、 夕 里子 が 苦笑 した 。 |ゆう|さとご||くしょう|

まるで 歩行 者 天国 みたいだった 。 |ほこう|もの|てんごく|

車 が ほとんど 通って い ない のだ 。 くるま|||かよって|||

都心 の 繁華街 。 としん||はんかがい

── と いって も 、 ほとんど の 店 は 閉って いる 。 |||||てん||しまって|

開いて いる の は 、 いく つ か の 喫茶 店 ぐらい の もの である 。 あいて||||||||きっさ|てん||||

道 を 行く 若者 たち も 、 和服 から ジーパン まで 、 さまざま 。 どう||いく|わかもの|||わふく||じーぱん|| The young people who go to the road also vary from Japanese clothes to jeans.

正月 の 風景 も 、 すっかり 変って しまった 。 しょうがつ||ふうけい|||かわって| ── 夕 里子 は 、 いささか 年齢 に ふさわしから ぬ こと を 考えたり して いる 。 ゆう|さとご|||ねんれい||||||かんがえたり||

「 夕 里子 ! ゆう|さとご

と 、 急に 声 を かけ られて 、 びっくり する 。 |きゅうに|こえ|||||

振り向く と ── 何と 敦子 が 手 を 振り ながら やって 来た 。 ふりむく||なんと|あつこ||て||ふり|||きた

「 敦子 ! あつこ

みどり さん じゃ ない 」

そう 。

川西 みどり と 片 瀬 敦子 である 。 かわにし|||かた|せ|あつこ|

「 家 に いて も 退屈だ し 、 出て 来ちゃ った 。 いえ||||たいくつだ||でて|きちゃ|

こう お 天気 が よくて あったかい と ね 。 ||てんき||||| ── そっち も 同様 ? ||どうよう 「 うん 。

国 友 さん が 映画 と 食事 を おごって くれる の 」 くに|とも|||えいが||しょくじ||||

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 一緒に どう ? いっしょに| 「 そう だ よ 」

と 、 国 友 は 言い ながら 、 財布 に いくら 入って た かしら 、 と 考えて いた ……。 |くに|とも||いい||さいふ|||はいって||||かんがえて|

ともかく 、 差し当り 何 か 飲もう 、 と いう わけで 、 開いて いる 数 少ない 喫茶 店 の 一 つ に 入る こと に した 。 |さしあたり|なん||のもう||||あいて||すう|すくない|きっさ|てん||ひと|||はいる|||

混 んで いた が 、 ちょうど 一 グループ が 出て 、 うまく 六 人 分 の 席 が 空いた のだった 。 こん|||||ひと|ぐるーぷ||でて||むっ|じん|ぶん||せき||あいた| Although it was mixed, just one group came out and the seats for six people were successful.

「 私 、 チョコパフェ 」 わたくし|

と 、 敦子 が 注文 して 、「 みどり は ? |あつこ||ちゅうもん|||

「 え ?

何だか ちょっと ぼんやり して た 川西 みどり は 、 ふっと 我 に 返って 、「 あ 、 ごめん 。 なんだか|||||かわにし||||われ||かえって||

── 私 、 オレンジジュース で 」 わたくし||

「── どうかした の ?

と 、 夕 里子 が 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 う うん ……。

ただ 、 ちょっと めまい が した の 」

と 、 みどり は 首 を 振った 。 |||くび||ふった

「 ゆうべ 飲み 過ぎた んじゃ ない ? |のみ|すぎた||

と 珠美 が 言った ので 、 みんな が 笑った 。 |たまみ||いった||||わらった

オーダー を 取り に 来た ウェイトレス の 女の子 が 、 額 の 汗 を 拭った 。 おーだー||とり||きた|||おんなのこ||がく||あせ||ぬぐった

「 ご 注文 は ? |ちゅうもん|

国 友 が まとめて 注文 を して 、 くに|とも|||ちゅうもん||

「── 忙し そうだ ね 」 いそがし|そう だ|

と 声 を かけた 。 |こえ||

「 ええ !

お 正月 は 働く 人 が 少ない し 。 |しょうがつ||はたらく|じん||すくない| ── もう 目 が 回り そう 」 |め||まわり| ── Eyes are about to turn around again. "

と 、 その ウェイトレス が グチ を こぼした 。

「 ありがとう ございました 」

出よう と する 客 を 見て 、 ウェイトレス は そう 言う と 、 急いで レジ の 方 へ 駆けて 行く 。 でよう|||きゃく||みて||||いう||いそいで|れじ||かた||かけて|いく

「 レジ も やる んじゃ 、 大変だ な 」 れじ||||たいへんだ|

と 、 国 友 が 言った 。 |くに|とも||いった

「 手伝って あげよう かしら 」 てつだって||

と 、 綾子 が 言った 。 |あやこ||いった

「 お 姉ちゃん が やったら 、 大 赤字 に なる よ 」 |ねえちゃん|||だい|あかじ|||

と 、 珠美 が からかった 。 |たまみ||

その 間 に 、 みどり が 、 ゆっくり と 席 を 立って いた 。 |あいだ||||||せき||たって|

夕 里子 は 、 トイレ に 行く の か な 、 と 思って 見て いた のだ が ……。 ゆう|さとご||といれ||いく|||||おもって|みて|||

みどり は 、 レジ の 方 へ 歩いて 行く 。 ||れじ||かた||あるいて|いく

今 、 お 金 を 払おう と して いる コート 姿 の 紳士 の 方 へ と 歩み寄り 、 いま||きむ||はらおう||||こーと|すがた||しんし||かた|||あゆみより

「 あの ──」

と 、 声 を かける 。 |こえ||

夕 里子 は 立ち上った 。 ゆう|さとご||たちのぼった

紳士 が みどり の 方 を 振り向く の が 見えた 。 しんし||||かた||ふりむく|||みえた

紳士 が 、 素早く みどり を 押した ように 見えた 。 しんし||すばやく|||おした||みえた

みどり が よろけて 、 体 を 折り ながら 、 倒れた 。 |||からだ||おり||たおれた

「 国 友 さん ! くに|とも|

と 、 夕 里子 が 叫んだ 。 |ゆう|さとご||さけんだ

「 あの 男 ! |おとこ 紳士 が 、 店 から 飛び出した 。 しんし||てん||とびだした

「 どうした !

国 友 が 飛び上る ように 立ち上った 。 くに|とも||とびあがる||たちのぼった

「 石垣 だ わ ! いしがき||

国 友 は 、 くに|とも|

「 後 を 頼む ぞ ! あと||たのむ|

と 怒鳴る と 、 石垣 を 追って 、 飛び出して 行った 。 |どなる||いしがき||おって|とびだして|おこなった

「 みどり さん !

夕 里子 は 、 駆け寄って 、 みどり を 抱き 起こした 。 ゆう|さとご||かけよって|||いだき|おこした

「 しっかり ──」

夕 里子 は 、 みどり の 胸 から 血 が 広がって いる の を 見て 、 息 を 呑 んだ 。 ゆう|さとご||||むね||ち||ひろがって||||みて|いき||どん|

「 救急 車 を ! きゅうきゅう|くるま|

急いで ! いそいで ウェイトレス の 子 が 、 電話 へ 飛びつく 。 ||こ||でんわ||とびつく

「── ここ へ ── 入った とき 、 何 か 感じて た の 」 ||はいった||なん||かんじて||

と 、 みどり が 切れ切れの 声 で 言った 。 |||きれぎれの|こえ||いった

「 しゃべら ないで !

すぐ 救急 車 が 来る わ 」 |きゅうきゅう|くるま||くる|

「 夕 里子 さん ……」 ゆう|さとご|

みどり は 、 弱々しい 声 で 言った 。 ||よわよわしい|こえ||いった

「 あなた の 顔 に 見えた 死 相 は ── 私 のだった んだ わ 。 ||かお||みえた|し|そう||わたくし||| あなた に 反射 して 映って いた の を ── 気付か なかった ……」 ||はんしゃ||うつって||||きづか|

「 馬鹿 言わ ないで ! ばか|いわ|

死 相 なんて もの 、 ない わ よ ! し|そう||||| 夕 里子 は 叱り つける ように 言った 。 ゆう|さとご||しかり|||いった

「 珠美 ! たまみ 出血 を 止める もの を 何 か ! しゅっけつ||とどめる|||なん| 「 あい よ 。

でも ── 何も ない よ 」 |なにも||

「 血 を 吸う もの ── シャツ 脱いで ! ち||すう||しゃつ|ぬいで

「 ここ で ?

「 早く し なさい ! はやく||

夕 里子 は 自分 で セーター を 脱ぎ 出した 。 ゆう|さとご||じぶん||せーたー||ぬぎ|だした

「 わ 、 分 った よ ! |ぶん||

と 、 珠美 が あわてて コート を 脱ぐ 。 |たまみ|||こーと||ぬぐ

「 風邪 ひく かも 」 かぜ||

「 はい 、 これ 」

綾子 が もう 自分 の シャツ を 脱いで 、 さし出した 。 あやこ|||じぶん||しゃつ||ぬいで|さしだした

こういう とき 、 変に 人 の 目 を 気 に し ない のである 。 ||へんに|じん||め||き||||

「 何とか 助ける の よ ! なんとか|たすける||

夕 里子 は 意地 に なって いた 。 ゆう|さとご||いじ|||

── そんな 、「 死 相 」 なんて もの に 負けて たまる か ! |し|そう||||まけて||

敦子 は 、 表 に 飛び出す と 、 あつこ||ひょう||とびだす|

「 お 医者 さん は いま せ ん か ! |いしゃ||||||

と 、 大声 で 叫んだ 。 |おおごえ||さけんだ

「 けが人 です ! けがにん| お 医者 さん が いたら 、 ここ へ 来て 下さい ! |いしゃ||||||きて|ください 太った 男 が ドタドタ と 駆けて 来た 。 ふとった|おとこ||||かけて|きた

「 私 は 医者 だ けど ──」 わたくし||いしゃ||

「 良かった ! よかった

この 中 に 」 |なか|

「 そう か 。

しかし ──」

「 いい から !

早く ! はやく 敦子 が その 男 を 突き飛ばす ように して 、 店 の 中 へ と 押し 込んだ 。 あつこ|||おとこ||つきとばす|||てん||なか|||おし|こんだ

病院 の 廊下 に 足音 が して 、 夕 里子 が 振り向く と 、 三崎 刑事 と 国 友 が 、 連れ立って やって 来る ところ だった 。 びょういん||ろうか||あしおと|||ゆう|さとご||ふりむく||みさき|けいじ||くに|とも||つれだって||くる||

「 国 友 さん ! くに|とも|

石垣 は ? いしがき| 「 うん 。

捕まえた 。 つかまえた みどり 君 は ? |きみ| 「 まだ 、 分 ら ない の 」 |ぶん|||

と 、 首 を 振った 。 |くび||ふった

「 お 正月 で 、 外科 の 先生 が すぐ に は 見付から なくて ……」 |しょうがつ||げか||せんせい|||||みつから|

「 そう か 。

しかし 、 よく やった よ 」

と 、 三崎 が 夕 里子 の 肩 を 、 軽く つかんだ 。 |みさき||ゆう|さとご||かた||かるく|

「 僕 が い ながら ……」 ぼく|||

国 友 が しょげて いる 。 くに|とも|||

「 仕方ない さ 。 しかたない|

あんな 所 に 石垣 が いる と は 、 誰 も 思わ ん 」 |しょ||いしがき|||||だれ||おもわ| No one thinks that there is a stone wall in such a place. "

三 人 は 、 長 椅子 に 腰 を おろした 。 みっ|じん||ちょう|いす||こし||

「 お 姉さん たち は 、 マンション へ 戻った わ 。 |ねえさん|||まんしょん||もどった|

ひどい 格好 だ から 」 |かっこう||

と 、 夕 里子 は 、 は おった コート の 前 を 、 ギュッと 合わせて 、「 私 の 服 も 持って 来て くれる こと に なって る の 」 |ゆう|さとご||||こーと||ぜん||ぎゅっと|あわせて|わたくし||ふく||もって|きて|||||| , Riko Yuri, in front of the coat you did, along with the guts, "I am supposed to bring my clothes as well"

「 とんだ 正月 に なった ね 」 |しょうがつ|||

と 、 三崎 が 言った 。 |みさき||いった

優しい 口調 だった 。 やさしい|くちょう|

夕 里子 は 、 何となく ホッと した 。 ゆう|さとご||なんとなく|ほっと|

「── 石垣 は 、 何者 だった んです か ? いしがき||なにもの|||

と 、 夕 里子 は 訊 いた 。 |ゆう|さとご||じん|

「 まだ 自白 して は い ない が ね 」 |じはく||||||

と 、 三崎 が 言った 。 |みさき||いった

「 石垣 は 、 麻薬 や 覚醒 剤 の 密売 に 係って いた んだ と 思う 。 いしがき||まやく||かくせい|ざい||みつばい||かかって||||おもう それ も かなり の 大物 だった んじゃ ない か な 」 ||||おおもの|||||

「 麻薬 の ? まやく|

「 石垣 と 無理 心中 した こと に なって いる 笹 田 直子 の 父親 と 話した とき に ね 、 石垣 が 、 いやに 落ちつき が なくて 、 妙な 気 が した 、 と 言って いた 。 いしがき||むり|しんじゅう||||||ささ|た|なおこ||ちちおや||はなした||||いしがき|||おちつき|||みょうな|き||||いって|

おそらく 、 石垣 自身 も 薬 を 使って いた んだ 。 |いしがき|じしん||くすり||つかって|| それ に 、 石垣 が 笹 田 と 会った 店 と いう の が 、 麻薬 の 密売 の 拠点 に なって 、 その 少し 後 で 手入れ を 受けた 所 な んだ 。 ||いしがき||ささ|た||あった|てん|||||まやく||みつばい||きょてん||||すこし|あと||ていれ||うけた|しょ|| それ で 、 まず 間違い ない と にらんだ んだ よ 」 |||まちがい|||||

「 じゃあ ……」

夕 里子 は 思わず 言った 。 ゆう|さとご||おもわず|いった

「 あの 、 石垣 の 奥さん も ──」 |いしがき||おくさん|

「 園子 も 当然 、 中毒 して いた はずだ 。 そのこ||とうぜん|ちゅうどく|||

石垣 が 君 に 話した こと も 、 まる きり 噓 じゃ ない だろう が 、 園子 が 、 そんな 血 を 飲む なんて 妄想 を 抱いた の は 、 薬 の せい に 違いない と 思う ね 」 いしがき||きみ||はなした||||||||||そのこ|||ち||のむ||もうそう||いだいた|||くすり||||ちがいない||おもう|

「 それ で 、 あんな ひどい こと を ……」

「 殺さ れた 娘 たち の こと は 、 石垣 も 知って いた んじゃ ない か な 。 ころさ||むすめ|||||いしがき||しって|||||

薬 の ききめ を 確かめる の に 利用 して いた んじゃ ない か と 思う よ 。 くすり||||たしかめる|||りよう|||||||おもう| I think you used it to ascertain the taste of the medicine. 園子 が 、 それ を 知って いた か どう か は 分 ら ない けど ね 」 そのこ||||しって||||||ぶん||||

「 実は ね ──」 じつは|

と 、 国 友 が 言った 。 |くに|とも||いった

「 逃げ 出した 女の子 が 一 人 、 見付かって いる んだ 」 にげ|だした|おんなのこ||ひと|じん|みつかって||

「 どこ から ?

と 、 夕 里子 は 目 を 丸く した 。 |ゆう|さとご||め||まるく|

「 どこ から だ と 思う ? ||||おもう

僕 ら が 乗って 、 あの 山荘 へ 向 った 車 の トランク から さ 」 ぼく|||のって||さんそう||むかい||くるま||とらんく||

「 あの ドライブ ・ イン で ──」 |どらいぶ|いん|

「 そう 。

縛ら れて いた 縄 が 、 うまく とけて 、 トランク から 脱け出した 。 しばら|||なわ||||とらんく||ぬけだした しかし 、 一緒に いる 僕 ら だって 、 もしかしたら 仲間 かも しれ ない ── いや 、 仲間 だ と 思わ れて 当然だろう から ね 。 |いっしょに||ぼく||||なかま|||||なかま|||おもわ||とうぜんだろう|| But even we who are together may be friends ─ ─ No, it seems natural to think that it is a friend. その 女の子 は 、 あの 寒 さ の 中 、 じっと 隠れて いて 意識 を 失い 、 あの 店 の 主人 に 見付け られた んだ よ 。 |おんなのこ|||さむ|||なか||かくれて||いしき||うしない||てん||あるじ||みつけ||| ── その 子 が 、 昨日 、 やっと 意識 を 取り戻した 」 |こ||きのう||いしき||とりもどした

「 そう だった の 」

夕 里子 が 肯 いた 。 ゆう|さとご||こう|

「 向 う へ 着いて 、 逃げ られた こと を 知った 園子 は ショック だったろう な 。 むかい|||ついて|にげ||||しった|そのこ||しょっく||

遠からず 警察 の 手 が のびて 来る と 分 って いたんだ 」 とおからず|けいさつ||て|||くる||ぶん||

「 それ で 、 あんな こと を ……」

「 電話 線 を 自分 で 切って 、 それ から 雪 で 、 道 を ふさいだ 」 でんわ|せん||じぶん||きって|||ゆき||どう||

「 水谷 先生 の 車 を 落とした の も ? みずたに|せんせい||くるま||おとした||

「 いや 、 あれ は 違う だろう 。 |||ちがう|

来さ せ たく なければ 、 電話 で 断れば 良かった んだ から 」 きたさ||||でんわ||ことわれば|よかった||

「 あ 、 そう か 」

「 むしろ 、 園子 と して は 、 身 を 隠す 前 に 、 もっと 大勢 の 女の子 が ほしかった んだろう から ね 。 |そのこ||||み||かくす|ぜん|||おおぜい||おんなのこ|||||

大 歓迎 だった はずだ 」 だい|かんげい||

「 じゃ 、 車 が 転落 した の は ──」 |くるま||てんらく|||

「 石垣 が 、 何 か を 道 に 置いた んじゃ ない か な 。 いしがき||なん|||どう||おいた||||

石垣 の 方 は 、 妻 が 平川 浩 子 を 殺して しまった の を 知って 、 沼 淵 教授 の 方 から 自分 に 手 が のびて 来る と 悟って いた 。 いしがき||かた||つま||ひらかわ|ひろし|こ||ころして||||しって|ぬま|ふち|きょうじゅ||かた||じぶん||て|||くる||さとって| だから 、 これ まで の こと を 清算 して しまう つもりだった んだ よ 」 ||||||せいさん|||||

「 つまり 、 奥さん を 殺して ? |おくさん||ころして

「 そう 。

その ため に は 、 あんまり 大勢 に やって 来 られる と 、 却って やり にくく なる 。 |||||おおぜい|||らい|||かえって||| だから 、 ああして 、 邪魔 した んだ と 思う ね 」 ||じゃま||||おもう|

「 みどり さん や 私 を 助けて ──」 |||わたくし||たすけて

「 自分 は 、 妻 も 知ら ない 洞窟 の 中 へ ひそんで 、 君 ら に 、 何もかも 妻 の やった こと で 、 自分 は その 犠牲 者 だ と 話して 聞か せた 。 じぶん||つま||しら||どうくつ||なか|||きみ|||なにもかも|つま|||||じぶん|||ぎせい|もの|||はなして|きか| "I flew into a cave where neither my wife knew, and I told you that everything my wife did is telling me that I am the victim.

── 確かに 、 笹 田 直子 と の 恋愛 など は 事実 だった んだろう 。 たしかに|ささ|た|なおこ|||れんあい|||じじつ|| 園子 は 、 平川 浩子 が 自分 の こと を 探り に 来た と 思い 込んで 、 彼女 を 拷問 して 殺した ……。 そのこ||ひらかわ|ひろこ||じぶん||||さぐり||きた||おもい|こんで|かのじょ||ごうもん||ころした 気の毒な こと を した よ 」 きのどくな||||

「 綾子 姉ちゃん も 、 そう なって た かも しれ ない わ 」 あやこ|ねえちゃん||||||||

「 全く だ 」 まったく|

と 、 国 友 は 肯 いた 。 |くに|とも||こう|

「 じゃ 、 園子 と 秀 哉 は 、 石垣 に 殺さ れた の ? |そのこ||しゅう|や||いしがき||ころさ||

「 おそらく 。

── それ は 石垣 の 話 を 聞く しか ない が ね 」 ||いしがき||はなし||きく||||

「 そして 自分 は 、 あの とき 、 サロン で 、 気 を 失って る ふり を して た の ね 。 |じぶん||||さろん||き||うしなって|||||||

私 たち が 二 階 へ 行く の を 待って 、 ガソリン を まき 、 火 を つけた ……」 わたくし|||ふた|かい||いく|||まって|がそりん|||ひ||

「 一 人 、 身 替り を 用意 して おいた んだ 。 ひと|じん|み|かわり||ようい|||

自分 と 似た 年 格好 の 男 の 中毒 患者 を ね 」 じぶん||にた|とし|かっこう||おとこ||ちゅうどく|かんじゃ||

それ が 、 あの 二 階 の 部屋 で 、 這い 寄って 来た もの の 正体 か 、 と 夕 里子 は 思った 。 |||ふた|かい||へや||はい|よって|きた|||しょうたい|||ゆう|さとご||おもった

あの 暗がり の 中 で は 、 まるで 怪物 でも いる みたいだった けど ……。 |くらがり||なか||||かいぶつ||||

「── お 姉ちゃん ! |ねえちゃん

と 、 声 が して 、 珠美 が やって 来た 。 |こえ|||たまみ|||きた

「 あ 、 服 、 持って 来て くれた ? |ふく|もって|きて|

「 はい 、 これ 」

と 、 紙袋 を 渡す 。 |かみぶくろ||わたす

「 みどり さん は ? 「 分 ん ない の 、 まだ 。 ぶん||||

── じゃ 、 ちょっと トイレ で 着替えて 来 ます 」 ||といれ||きがえて|らい|

と 、 夕 里子 は 急ぎ足 で 行って しまった 。 |ゆう|さとご||いそぎあし||おこなって|

「── 国 友 さん 、 夕 里子 姉ちゃん と 早く 結婚 すれば ? くに|とも||ゆう|さとご|ねえちゃん||はやく|けっこん|

と 、 珠美 が 言った 。 |たまみ||いった

「 何 だい 、 出しぬけに ? なん||だしぬけに

「 だって 、 この 調子 じゃ 、 どうせ その 内 、 また 危 い 事件 に 巻き 込ま れる に 決 って いる もの 」 ||ちょうし||||うち||き||じけん||まき|こま|||けっ|||

「 そりゃ そう だ な 」

「 死ぬ より も 結婚 の 方 が 、 まだ ましじゃ ない ? しぬ|||けっこん||かた||||

珠美 は 、 かなり シビアな 意見 を 述べた 。 たまみ|||しびあな|いけん||のべた

「── どうも 」

と 、 やって 来た の は 、 みどり に ついて 来た 太った 医者 である 。 ||きた||||||きた|ふとった|いしゃ|

「 そろそろ 私 は 失礼 し ない と 」 |わたくし||しつれい|||

「 どうも お 忙しい ところ を 」 ||いそがしい||

と 、 国 友 が 礼 を 言う と 、 |くに|とも||れい||いう|

「 いやいや 。

医者 の 務め です から ね 。 いしゃ||つとめ||| ── 今 聞いた ところ で は 、 何とか 持ち 直す だろう って こと でした よ 。 いま|きいた||||なんとか|もち|なおす||||| 若 さ です な 。 わか||| 体力 が ある って の は 強い 」 たいりょく||||||つよい

「 それ は 良かった 」 ||よかった

国 友 は 胸 を なでおろした 。 くに|とも||むね||

「 先生 の 処置 が 良かった おかげ で ──」 せんせい||しょち||よかった||

「 いや 、 あまり 慣れて ない もの で 、 人間 は 」 ||なれて||||にんげん|

「 は あ ?

「 獣医 な ので ね 、 私 は 。 じゅうい||||わたくし|

── じゃ 、 これ で 失礼 し ます 」 |||しつれい||

その 後ろ姿 を 見送って いた 国 友 たち は 、 顔 を 見合わせ 、 それ から 笑い 出して しまった 。 |うしろすがた||みおくって||くに|とも|||かお||みあわせ|||わらい|だして| The national friends who were waiting behind their back showed up, then laughed out.

「── ねえ !

夕 里子 が 着替え を して 、 やって 来る 。 ゆう|さとご||きがえ||||くる

「 笑って る ところ を みる と ──」 わらって|||||

「 助かり そう だって ! たすかり||

と 、 珠美 が 言う と 、 夕 里子 は ニッコリ 笑った 。 |たまみ||いう||ゆう|さとご||にっこり|わらった

「 やっぱり ね !

『 死 相 』 なんて もの 、 ない んだ わ 」 し|そう|||||

と 、 夕 里子 は 力強く 言った 。 |ゆう|さとご||ちからづよく|いった