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LibriVOX 04 - Japanese, (5) Nakunatta Ningyo - なくなった人形 (Mimei Ogawa - 小川未明)
(5) Nakunatta Ningyo - なく なった人形 ( Mimei Ogawa - 小川 未明 )
冬 で ありました けれど 、 その 日 は 、 風 も なく 穏やかで 、 日 の 光 が 暖かに 、 門口 に 当たって いました ので 、 お みよ は 学校 から 帰ります と 、 ござ を 敷いて 、 その 上 で 、 人形 や 、 おもちゃ など を 出して きて 遊んで いました 。
すこし 前 まで 、 近所 の お 友だち が きて 、 いっしょに 遊んで いた のです が 、 お 友だち は ちょっと 用 が できて 家 へ いった ので 、 後 に は 、 まったく お みよ 一 人 と なった のでした 。
けれども 、 彼女 は すこしも さびしい と は 思いません 。
かわいい 人形 が そば に あります から 、 それ を 抱いたり 、 下 に すわら せたり 、 また それ に もの を いったり 、 おもちゃ の お 膳 や 、 茶わん や 、 さら など に 、 こしらえた ごちそう を 入れて 、 供えて やったり して います と 、 けっして さびしく も なんとも なかった のであります 。
その 人形 は 、 今年 の 春 、 田舎 から 叔父さん が 出て こられた とき に 、 叔父さん と いっしょに 、 町 へ いって 買って もらった 、 好きな 、たいせつに して いる 人形 で ありました 。
日 は 、 だんだん 西 の 方 へ まわりました けれど 、 まだ そこ に は 、 暖かな 日 が 当たって いました 。
「 さあ 、 こんど は なに を おまえ に こしらえて あげよう か ね 。」
と 、 お みよ は 人形 に 向かって 、 独り言 を もらした のです 。
その とき 、 あちら の さびしい 路 の ほう から 、 こちら に やってきた 、 哀れな ふう を した 、 七 つ か 八 つ に なった くらい の 乞食 の 女の子 が ありました 。
どこ へ ゆく のでしょう か 、 ふと 、 この 家 の 前 を 通りかかりました が 、 乞食 の 子 は 、 お みよ が 、 いま 人形 に ごちそう を こしらえて やろう と して 、 菊 の 花 や 、 山茶花 の 花弁 を 、 小さな 刃物 で 、 小さな まないた の 上 に 載せて 刻んで いる の を 見て 、 思わず 歩み を 止めて 、 しばらく 我 を 忘れて じっと ながめて いました 。
乞食 の 子 は 、 まだ 産まれて から 一 度 も 、 そんな 美しい 人形 や 、 おもちゃ 道具 を 手 に 持って 、 遊んだ こと が なかった のです 。
乞食 の 子 は 、 お みよ の 幸福な 身の上 を うらやみました 。
なんで 自分 も 、 あの 方 の ように 生まれて こ なかった のだろう 。
自分 は いつ に なったら 、 あんな かわいらしい 人形 や 、 おもちゃ を 持つ こと が できる だろう と 、 真に お みよ の 身の上 を うらやましく 思って ながめて いた のです 。
乞食 の 子 は 、 いつしか 自分 と いう もの を 忘れて しまって 、 その かわいい 人形 の 顔 や 、 姿 に 見とれて しまった のです 。
なんという かわいい かわいい 人形 だろう 。
まあ 、 あの 人形 は 私 の 顔 を 見て 、 笑って いる のじゃ ない か しら ん 。
あれ 、 ほんとうに 私 の 顔 を 見て 笑って いる 。
私 は ちょっと の まで いい から 、 お嬢さん に お 願い して 、 あの 人形 を 抱か して もらおう か しら ん 。
ほんの ちょっと の まで いい から 、 あの かわいい 人形 を 手 に 取って 、 よく 顔 を 見たい もの だ 、 ただ 一 度 で いい から 顔 を 見たい もの だ 。
それ で 、 もう 私 は たくさんだ から …… そう いって お嬢さん に お 願い して みよう か しら ん と 、 乞食 の 子 は 一 人 胸 の うち で 想い 煩って いました が 、 いやいや 、 なんで こんな 汚い ふう を して 、 ほか の 人々 から 平常 乞食 の 子 !
乞食 の 子 !
と 、 呼ばれて いる いる もの を 、 なんで 、 この 家 の お嬢さん が 私 に 人形 を 抱か して くださる もの か 、 かえって 、 そんな こと を いって いやな 顔 を さ れる より 、 黙って 、 こうして ここ で 見て いた ほう が いい と 、 小さな 胸 で 想い 返しました 。
そして 、 乞食 の 子 は 、 いつまでも 垣根 の きわ に 立って 、 こちら を 見て いた のです 。
お みよ は 、 人形 に なに か 別の ごちそう を こしらえて やろう と 思って 、 外 へ 青い 葉 か 、 色 の 変わった 菊 の 花 を 探して こよう と 思って 、 ござ から 立ち上がります と 、 そこ の 垣根 の そば に 、 哀れな 乞食 の 子 が たたずんで こちら を 見て いました 。
まだ 年 も ゆか ない のに 、 そして 、 こんな 寒空 な のに 、 身 に は 汚れた 薄い 着物 を 着て 、 どんなに 寒かろう と 思いました 。
お みよ は 乞食 の 子 より 二 つ 三 つ 年 上 であった のです 。
乞食 の 子 は 、 いま 、 お嬢さん が どこ へ か いかれて 、 見え なく なった この ま に 、 ちょっと その かわいい 人形 を 抱いて みよう と 思って 、 おそるおそる 近づいて 、 なん の 深い 考え も なし に 、 人形 を 手 に 取りあげて つくづく ながめます と 、 それ は かわいい 人形 で ありました から 、 「 私 は いつも いつも お 友だち も なくて 、 ただ 一 人 で さびしくて なら ない の 。
私 と いっしょに 遊んで くれ ない の 。
そして 、 私 の 仲 の よい お 友だち に なって くれ ない の 。」
と いって 、 乞食 の 子 は 人形 の 顔 を のぞきました 。
すると 、 人形 は 優しく 微笑んで 、 「 私 は お 友だち に なって あげます 。」
と いった ように 、 乞食 の 子 に は 思わ れました 。
乞食 の 子 は 喜んで 、 かわいい 人形 の ほお に 接吻 いたしました 。
やがて そこ へ 、 お みよ は 白い 菊 の 花 を 摘んで 帰って きます と 、 もう 垣根 の そば に は 、 乞食 の 子 の 影 が 見えません でした 。
そして ござ の ところ へ きて 、 これ から ごちそう を こしらえて 人形 に やろう と 思います と 、 大切 の 大切 の 人形 の 姿 が 、 どこ へ いって しまった か 見え なかった のです 。
お みよ は 大騒ぎ を しました 。
そして 、 どこ へ いったろう と あっちこっち 探して います と 、 そこ へ 近所 の おばあ さん が 通りかかって 、 なに を そんなに 、 探して いる の か と 聞きました から 、 人形 が 見え なく なった のだ と いいました 。
「 あ 、 そん なら 、 いま あちら へ 、 乞食 の 子 が 人形 を 抱いて 、 頭 を なでたり 、 もの を いったり して 、 夢中に なって いった から 、 それ じゃ ない か 。」
と 、 おばあ さん は 教えました 。
お みよ は 、 自分 も それ に 相違 ない と 思いました から 、 急いで その後 を 追いました けれど 、 もはや その 姿 は 見え なかった のであります 。
お みよ は 、 どうしても その 人形 の こと を 忘れる こと が できません でした 。
そして 、 あの 哀れな 乞食 の 子 を うらめしく 思いました 。
すると 、 お みよ は その 晩 、 不思議な 夢 を 見た のであります 。
なんでも 、 そこ は 河辺 の ような 木 の しげった 間 に 、 板 や 、 竹 を 結びつけて 、 その 上 を 草 や 、 わら で ふいた 哀れな 小屋 の 中 に 、 七 つ か 八 つ に なった 女の子 が 、 すみ の 方 に ぼろ に くるまって 、 あの 人形 をたいせつに 、 しっかり と 抱いて 眠って います と 、 寒い 寒い 星 の 光 が 、 小屋 の すきま を もれて さしこんで いる ので ありました 。
目 が 覚める と 、 お みよ は その 乞食 の 子 が かわいそうで なりません でした 。
けれど 、 まだ 彼女 は 、 人形 の こと を 思いきる こと が できません でした 。
明くる 日 、 お みよ は 学校 へ いって 先生 に 問うた のであります 。
「 先生 、 どんな 場合 に でも 、 もの を 盗む と いう こと は 悪い こと です か 。」
「 もの を 盗む と いう こと は 、 いちばん 悪い こと です 。」
と 、 先生 は 目 を 丸く して い いました 。
「 先生 、 もしたいせつな もの を 盗ま れた とき は どう します 。」
と 、 お みよ は 聞きました 。
「 それ は 学校 で です か 、 家 で です か 。」
と 、 先生 は 問い返しました 。
「 家 で です 。」
「 巡査 さん に 届けて 、 その 悪い こと を した 奴 を 縛って もらう んです 。
あなた は 、 なに か 盗ま れた んです か 。」
「たいせつな 人形 を 盗ま れました 。」
「 人形 を ?
だれ が 盗んだ んです 。」
と 、 先生 は お みよ の 顔 を 見守りました 。
「 七 つ か 八 つ に なる 乞食 の 女の子 です 。」
と 、 お みよ は 答えました 。
「 乞食 の 子 !
」 と 、 先生 は いって 、 しばらく 考えて いました が 、 「 あなた は 、 巡査 さん に いって 縛った ほう が いい か 、 また 堪忍 して やった ほう が いい か 、 どちら が いい と 思います か 。」
と 、 先生 は 、 今度 は 反対に お みよ に 問い返しました 。
「 私 は 堪忍 して やった ほう が いい と 思います 。」
と 、 お みよ は 勇んで い いました 。
「 あなた は 人情 の ある よい 子 だ 。
そう です 、 そうして おや ん なさい 。」
と 、 先生 は いって 、 お みよ の 頭 を なでました 。
不思議に も お みよ は 、 また その 晩 、 同じ ような 夢 を 見ました 。
哀れな 小屋 の 中 に 、 七 つ か 八 つ ばかり の 乞食 の 子 が ぼろ に くるまって 、 しっかり と 人形 を 抱いて 眠って いる ところ へ 、 寒い 大空 の 星 の 光 が さしこんで いる ので ありました 。
(5) Nakunatta Ningyo - なく なった人形 ( Mimei Ogawa - 小川 未明 )
|||なった にんぎょう|||おがわ|みめい
(5) Nakunatta Ningyo - A Boneca Perdida (Mimei Ogawa - Mimei Ogawa)
冬 で ありました けれど 、 その 日 は 、 風 も なく 穏やかで 、 日 の 光 が 暖かに 、 門口 に 当たって いました ので 、 お みよ は 学校 から 帰ります と 、 ござ を 敷いて 、 その 上 で 、 人形 や 、 おもちゃ など を 出して きて 遊んで いました 。
ふゆ|||||ひ||かぜ|||おだやかで|ひ||ひかり||あたたかに|かどぐち||あたって||||||がっこう||かえります||||しいて||うえ||にんぎょう|||||だして||あそんで|
すこし 前 まで 、 近所 の お 友だち が きて 、 いっしょに 遊んで いた のです が 、 お 友だち は ちょっと 用 が できて 家 へ いった ので 、 後 に は 、 まったく お みよ 一 人 と なった のでした 。
|ぜん||きんじょ|||ともだち||||あそんで||の です|||ともだち|||よう|||いえ||||あと||||||ひと|じん|||
けれども 、 彼女 は すこしも さびしい と は 思いません 。
|かのじょ||||||おもいません
かわいい 人形 が そば に あります から 、 それ を 抱いたり 、 下 に すわら せたり 、 また それ に もの を いったり 、 おもちゃ の お 膳 や 、 茶わん や 、 さら など に 、 こしらえた ごちそう を 入れて 、 供えて やったり して います と 、 けっして さびしく も なんとも なかった のであります 。
|にんぎょう||||||||いだいたり|した|||||||||||||ぜん||ちゃわん||||||||いれて|そなえて||||||||||
その 人形 は 、 今年 の 春 、 田舎 から 叔父さん が 出て こられた とき に 、 叔父さん と いっしょに 、 町 へ いって 買って もらった 、 好きな 、たいせつに して いる 人形 で ありました 。
|にんぎょう||ことし||はる|いなか||おじさん||でて||||おじさん|||まち|||かって||すきな||||にんぎょう||
日 は 、 だんだん 西 の 方 へ まわりました けれど 、 まだ そこ に は 、 暖かな 日 が 当たって いました 。
ひ|||にし||かた||||||||あたたかな|ひ||あたって|
「 さあ 、 こんど は なに を おまえ に こしらえて あげよう か ね 。」
と 、 お みよ は 人形 に 向かって 、 独り言 を もらした のです 。
||||にんぎょう||むかって|ひとりごと|||の です
その とき 、 あちら の さびしい 路 の ほう から 、 こちら に やってきた 、 哀れな ふう を した 、 七 つ か 八 つ に なった くらい の 乞食 の 女の子 が ありました 。
|||||じ|||||||あわれな||||なな|||やっ||||||こじき||おんなのこ||
どこ へ ゆく のでしょう か 、 ふと 、 この 家 の 前 を 通りかかりました が 、 乞食 の 子 は 、 お みよ が 、 いま 人形 に ごちそう を こしらえて やろう と して 、 菊 の 花 や 、 山茶花 の 花弁 を 、 小さな 刃物 で 、 小さな まないた の 上 に 載せて 刻んで いる の を 見て 、 思わず 歩み を 止めて 、 しばらく 我 を 忘れて じっと ながめて いました 。
|||||||いえ||ぜん||とおりかかりました||こじき||こ||||||にんぎょう||||||||きく||か||さざんか||かべん||ちいさな|はもの||ちいさな|||うえ||のせて|きざんで||||みて|おもわず|あゆみ||とどめて||われ||わすれて|||
乞食 の 子 は 、 まだ 産まれて から 一 度 も 、 そんな 美しい 人形 や 、 おもちゃ 道具 を 手 に 持って 、 遊んだ こと が なかった のです 。
こじき||こ|||うまれて||ひと|たび|||うつくしい|にんぎょう|||どうぐ||て||もって|あそんだ||||の です
乞食 の 子 は 、 お みよ の 幸福な 身の上 を うらやみました 。
こじき||こ|||||こうふくな|みのうえ||
なんで 自分 も 、 あの 方 の ように 生まれて こ なかった のだろう 。
|じぶん|||かた||よう に|うまれて|||
自分 は いつ に なったら 、 あんな かわいらしい 人形 や 、 おもちゃ を 持つ こと が できる だろう と 、 真に お みよ の 身の上 を うらやましく 思って ながめて いた のです 。
じぶん|||||||にんぎょう||||もつ||||||しんに||||みのうえ|||おもって|||の です
乞食 の 子 は 、 いつしか 自分 と いう もの を 忘れて しまって 、 その かわいい 人形 の 顔 や 、 姿 に 見とれて しまった のです 。
こじき||こ|||じぶん|||||わすれて||||にんぎょう||かお||すがた||みとれて||の です
なんという かわいい かわいい 人形 だろう 。
|||にんぎょう|
まあ 、 あの 人形 は 私 の 顔 を 見て 、 笑って いる のじゃ ない か しら ん 。
||にんぎょう||わたくし||かお||みて|わらって||||||
あれ 、 ほんとうに 私 の 顔 を 見て 笑って いる 。
||わたくし||かお||みて|わらって|
私 は ちょっと の まで いい から 、 お嬢さん に お 願い して 、 あの 人形 を 抱か して もらおう か しら ん 。
わたくし|||||||おじょうさん|||ねがい|||にんぎょう||いだか|||||
ほんの ちょっと の まで いい から 、 あの かわいい 人形 を 手 に 取って 、 よく 顔 を 見たい もの だ 、 ただ 一 度 で いい から 顔 を 見たい もの だ 。
||||||||にんぎょう||て||とって||かお||みたい||||ひと|たび||||かお||みたい||
それ で 、 もう 私 は たくさんだ から …… そう いって お嬢さん に お 願い して みよう か しら ん と 、 乞食 の 子 は 一 人 胸 の うち で 想い 煩って いました が 、 いやいや 、 なんで こんな 汚い ふう を して 、 ほか の 人々 から 平常 乞食 の 子 !
|||わたくし||||||おじょうさん|||ねがい|||||||こじき||こ||ひと|じん|むね||||おもい|わずらって||||||きたない||||||ひとびと||へいじょう|こじき||こ
乞食 の 子 !
こじき||こ
と 、 呼ばれて いる いる もの を 、 なんで 、 この 家 の お嬢さん が 私 に 人形 を 抱か して くださる もの か 、 かえって 、 そんな こと を いって いやな 顔 を さ れる より 、 黙って 、 こうして ここ で 見て いた ほう が いい と 、 小さな 胸 で 想い 返しました 。
|よばれて|||||||いえ||おじょうさん||わたくし||にんぎょう||いだか|||||||||||かお|||||だまって||||みて||||||ちいさな|むね||おもい|かえしました
そして 、 乞食 の 子 は 、 いつまでも 垣根 の きわ に 立って 、 こちら を 見て いた のです 。
|こじき||こ|||かきね||||たって|||みて||の です
お みよ は 、 人形 に なに か 別の ごちそう を こしらえて やろう と 思って 、 外 へ 青い 葉 か 、 色 の 変わった 菊 の 花 を 探して こよう と 思って 、 ござ から 立ち上がります と 、 そこ の 垣根 の そば に 、 哀れな 乞食 の 子 が たたずんで こちら を 見て いました 。
|||にんぎょう||||べつの||||||おもって|がい||あおい|は||いろ||かわった|きく||か||さがして|||おもって|||たちあがります||||かきね||||あわれな|こじき||こ|||||みて|
まだ 年 も ゆか ない のに 、 そして 、 こんな 寒空 な のに 、 身 に は 汚れた 薄い 着物 を 着て 、 どんなに 寒かろう と 思いました 。
|とし|||||||さむぞら|||み|||けがれた|うすい|きもの||きて||さむかろう||おもいました
お みよ は 乞食 の 子 より 二 つ 三 つ 年 上 であった のです 。
|||こじき||こ||ふた||みっ||とし|うえ||の です
乞食 の 子 は 、 いま 、 お嬢さん が どこ へ か いかれて 、 見え なく なった この ま に 、 ちょっと その かわいい 人形 を 抱いて みよう と 思って 、 おそるおそる 近づいて 、 なん の 深い 考え も なし に 、 人形 を 手 に 取りあげて つくづく ながめます と 、 それ は かわいい 人形 で ありました から 、 「 私 は いつも いつも お 友だち も なくて 、 ただ 一 人 で さびしくて なら ない の 。
こじき||こ|||おじょうさん||||||みえ|||||||||にんぎょう||いだいて|||おもって||ちかづいて|||ふかい|かんがえ||||にんぎょう||て||とりあげて|||||||にんぎょう||||わたくし|||||ともだち||||ひと|じん|||||
私 と いっしょに 遊んで くれ ない の 。
わたくし|||あそんで|||
そして 、 私 の 仲 の よい お 友だち に なって くれ ない の 。」
|わたくし||なか||||ともだち|||||
と いって 、 乞食 の 子 は 人形 の 顔 を のぞきました 。
||こじき||こ||にんぎょう||かお||
すると 、 人形 は 優しく 微笑んで 、 「 私 は お 友だち に なって あげます 。」
|にんぎょう||やさしく|ほおえんで|わたくし|||ともだち|||
と いった ように 、 乞食 の 子 に は 思わ れました 。
||よう に|こじき||こ|||おもわ|
乞食 の 子 は 喜んで 、 かわいい 人形 の ほお に 接吻 いたしました 。
こじき||こ||よろこんで||にんぎょう||||せっぷん|
やがて そこ へ 、 お みよ は 白い 菊 の 花 を 摘んで 帰って きます と 、 もう 垣根 の そば に は 、 乞食 の 子 の 影 が 見えません でした 。
||||||しろい|きく||か||つまんで|かえって||||かきね|||||こじき||こ||かげ||みえません|
そして ござ の ところ へ きて 、 これ から ごちそう を こしらえて 人形 に やろう と 思います と 、 大切 の 大切 の 人形 の 姿 が 、 どこ へ いって しまった か 見え なかった のです 。
|||||||||||にんぎょう||||おもいます||たいせつ||たいせつ||にんぎょう||すがた|||||||みえ||の です
お みよ は 大騒ぎ を しました 。
|||おおさわぎ||
そして 、 どこ へ いったろう と あっちこっち 探して います と 、 そこ へ 近所 の おばあ さん が 通りかかって 、 なに を そんなに 、 探して いる の か と 聞きました から 、 人形 が 見え なく なった のだ と いいました 。
||||||さがして|||||きんじょ|||||とおりかかって||||さがして|||||ききました||にんぎょう||みえ|||||
「 あ 、 そん なら 、 いま あちら へ 、 乞食 の 子 が 人形 を 抱いて 、 頭 を なでたり 、 もの を いったり して 、 夢中に なって いった から 、 それ じゃ ない か 。」
||||||こじき||こ||にんぎょう||いだいて|あたま|||||||むちゅうに|||||||
と 、 おばあ さん は 教えました 。
||||おしえました
お みよ は 、 自分 も それ に 相違 ない と 思いました から 、 急いで その後 を 追いました けれど 、 もはや その 姿 は 見え なかった のであります 。
|||じぶん||||そうい|||おもいました||いそいで|そのご||おいました||||すがた||みえ||
お みよ は 、 どうしても その 人形 の こと を 忘れる こと が できません でした 。
|||||にんぎょう||||わすれる||||
そして 、 あの 哀れな 乞食 の 子 を うらめしく 思いました 。
||あわれな|こじき||こ|||おもいました
すると 、 お みよ は その 晩 、 不思議な 夢 を 見た のであります 。
|||||ばん|ふしぎな|ゆめ||みた|
なんでも 、 そこ は 河辺 の ような 木 の しげった 間 に 、 板 や 、 竹 を 結びつけて 、 その 上 を 草 や 、 わら で ふいた 哀れな 小屋 の 中 に 、 七 つ か 八 つ に なった 女の子 が 、 すみ の 方 に ぼろ に くるまって 、 あの 人形 をたいせつに 、 しっかり と 抱いて 眠って います と 、 寒い 寒い 星 の 光 が 、 小屋 の すきま を もれて さしこんで いる ので ありました 。
|||かわべ|||き|||あいだ||いた||たけ||むすびつけて||うえ||くさ|||||あわれな|こや||なか||なな|||やっ||||おんなのこ||||かた||||||にんぎょう||||いだいて|ねむって|||さむい|さむい|ほし||ひかり||こや||||||||
目 が 覚める と 、 お みよ は その 乞食 の 子 が かわいそうで なりません でした 。
め||さめる||||||こじき||こ||||
けれど 、 まだ 彼女 は 、 人形 の こと を 思いきる こと が できません でした 。
||かのじょ||にんぎょう||||おもいきる||||
明くる 日 、 お みよ は 学校 へ いって 先生 に 問うた のであります 。
あくる|ひ||||がっこう|||せんせい||とうた|
「 先生 、 どんな 場合 に でも 、 もの を 盗む と いう こと は 悪い こと です か 。」
せんせい||ばあい|||||ぬすむ|||||わるい|||
「 もの を 盗む と いう こと は 、 いちばん 悪い こと です 。」
||ぬすむ||||||わるい||
と 、 先生 は 目 を 丸く して い いました 。
|せんせい||め||まるく|||
「 先生 、 もしたいせつな もの を 盗ま れた とき は どう します 。」
せんせい||||ぬすま|||||
と 、 お みよ は 聞きました 。
||||ききました
「 それ は 学校 で です か 、 家 で です か 。」
||がっこう||||いえ|||
と 、 先生 は 問い返しました 。
|せんせい||といかえしました
「 家 で です 。」
いえ||
「 巡査 さん に 届けて 、 その 悪い こと を した 奴 を 縛って もらう んです 。
じゅんさ|||とどけて||わるい||||やつ||しばって||ん です
あなた は 、 なに か 盗ま れた んです か 。」
||||ぬすま||ん です|
「たいせつな 人形 を 盗ま れました 。」
|にんぎょう||ぬすま|
「 人形 を ?
にんぎょう|
だれ が 盗んだ んです 。」
||ぬすんだ|ん です
と 、 先生 は お みよ の 顔 を 見守りました 。
|せんせい|||||かお||みまもりました
「 七 つ か 八 つ に なる 乞食 の 女の子 です 。」
なな|||やっ||||こじき||おんなのこ|
と 、 お みよ は 答えました 。
||||こたえました
「 乞食 の 子 !
こじき||こ
」 と 、 先生 は いって 、 しばらく 考えて いました が 、 「 あなた は 、 巡査 さん に いって 縛った ほう が いい か 、 また 堪忍 して やった ほう が いい か 、 どちら が いい と 思います か 。」
|せんせい||||かんがえて|||||じゅんさ||||しばった||||||かんにん|||||||||||おもいます|
と 、 先生 は 、 今度 は 反対に お みよ に 問い返しました 。
|せんせい||こんど||はんたいに||||といかえしました
「 私 は 堪忍 して やった ほう が いい と 思います 。」
わたくし||かんにん|||||||おもいます
と 、 お みよ は 勇んで い いました 。
||||いさんで||
「 あなた は 人情 の ある よい 子 だ 。
||にんじょう||||こ|
そう です 、 そうして おや ん なさい 。」
と 、 先生 は いって 、 お みよ の 頭 を なでました 。
|せんせい||||||あたま||
不思議に も お みよ は 、 また その 晩 、 同じ ような 夢 を 見ました 。
ふしぎに|||||||ばん|おなじ||ゆめ||みました
哀れな 小屋 の 中 に 、 七 つ か 八 つ ばかり の 乞食 の 子 が ぼろ に くるまって 、 しっかり と 人形 を 抱いて 眠って いる ところ へ 、 寒い 大空 の 星 の 光 が さしこんで いる ので ありました 。
あわれな|こや||なか||なな|||やっ||||こじき||こ|||||||にんぎょう||いだいて|ねむって||||さむい|おおぞら||ほし||ひかり|||||