盾の勇者の成り上がり2 番外編 (1)
番外 編 あの 人 へ の 贈り物 「 ナオフミ 様 。 湯 煙 が 見えて きました よ 」 その 日 、 私 は フィーロ の 馬車 を 操り ながら ナオフミ 様 に そう 言いました 。 ナオフミ 様 の 話 で は 、 次に 行く 町 が 温泉 街 だ と いう 事 で 、 どんな ところ か 今 から 楽しみです 。
「 お ? そう か 」
「 なんか くさ ー い 」
フィーロ が 馬車 を 引き ながら 臭 そうに 顔 を 渋く さ せて います 。 「 そうい や 硫黄 臭 が する な 。 温泉 が 近く で 湧いて いる んだ ろ 」
「 おんせんって 美味しい の ? 」 「 温泉 自体 は 美味 くない な ー 、 温泉 卵 と か は 美味 い けど 」 「 おんせん が 卵 産む の ? 」 「 違う 違う 。 温泉 で 茹でた 卵 だ よ 。 他 に 温泉 饅頭 が …… この 世界 に は 無い か 」
と 、 ナオフミ 様 は フィーロ の 質問 に 答えて くださって います 。 「 ここ でも 薬 を 売る んです よ ね 」
「 ああ 、 宿 の 手配 は 俺 が する から ラフタリア は 薬 を 売りさばいて くれ 」
「 わかりました 」 「 せっかく だ 。 ここ で 少し ゆっくり する の も 悪く ない 。 二 、 三 日 滞在 して 休む か 」
私 と フィーロ は 自然 と 笑み を 浮かべました 。 だって 最近 は 行商 で 忙しく 、 遊んで いる 暇 は あんまり なかった から です 。
特に ナオフミ 様 は 毎日 薬 の 調合 や 行商 の 金 勘定 、 それ に 加えて 魔法 の 勉強 と 休む 暇 が ありません 。 この 辺り で 少し 休息 を 取る の は 、 健康 の 面 でも 良い と 思います 。 「 それ は 名案 です ね 、 ナオフミ 様 」
「 じゃあ 明日 は ご しゅじん さま も 遊んで くれる の ー ? 」 「 調合 が ある から そこ まで 遊べ ない が 、 ゆっくり 温泉 に 浸 かる くらい は できる と 良い な 。 ほら 、 フィーロ 、 そろそろ 止まれ 」
「 は ー い 」
温泉 地 に 療養 へ 来て いる 方 や 治療 師 の 方 が 薬 を 買い求め 、 思いのほか 早く ナオフミ 様 が 作った 薬 を 売りさばく 事 が できました 。 だ から 早 めに 宿 に 入り 、 温泉 に ゆっくり と 浸 かる 事 に 。
「 ご しゅじん さま の 所 へ 行って くる ね 」
「 ダメです よ 。 ナオフミ 様 に 御 迷惑 が 掛ります 」 「 えー …… 大丈夫だ よ 。 ご しゅじん さま なら 」
「 何 が 大丈夫です か ! それ に あっち は 男湯 です よ 。 フィーロ は 女の子 でしょう ? 」 と 、 止める 私 を 振り切って 、 フィーロ は 温泉 の 垣根 を 乗り越えて 行って しまいました 。 「 ご しゅじん さま ー 一緒に は いろ ー 」
「 なんだ フィーロ か 。 ああ 、 は いはい 。 肩 まで しっかり 浸 かれよ 」
「 うん 」
垣根 の 方 から ナオフミ 様 と フィーロ の 声 が 聞こえて きました 。 う う …… な んでしょう 。 少し 負けた ような 気持ち です 。
温泉 に 浸 かって いる と 、 温泉 の 由来 が 書かれて いる 看板 に 目 が 行きます 。 銀色 の …… イノシシ です か ? その イノシシ を 倒した 事 で 温泉 が 湧いた みたいな 伝説 が 子供 でも 読める ように 物語 仕立て で 書かれて いました 。 他 に 恋愛 成就 の 温泉 で も ある と か …… 物語 の 中 で 書かれて います 。 この 温泉 に 一緒に 入った 男女 は 永遠に 結ばれる 。
それって …… 今 まさに フィーロ と ナオフミ 様 の 状態 では ありません か !? 「 う ……」
看板 を 見 ながら 温泉 に 入って いたら のぼせて きました ので 、 早 めに 上がります 。 宿 の 部屋 に 戻る と ナオフミ 様 は 既に 入浴 を 済ませて 、 部屋 で アクセサリー の 細工 の 勉強 を して いました 。 色々 と 教わった のです けど 、 最近 は 器材 の 関係 で 良い 物 が 作れ ない と 悩んで 知恵 を 絞って います 。 「 ああ 、 ラフタリア か 。 ちょっと こっち に 来い 」
私 が 部屋 に 入って きた 事 に 気付いた ナオフミ 様 は 、 薬 を 持った まま ベッド に 腰掛ける ように 指示 しました 。 「 はい 」
ナオフミ 様 は 私 の 背中 に ある 傷跡 を 酷 く 気 に して いて 、 薬 を 塗って 治そう と して くださります 。 その お陰 か 、 背中 の 肌 が 突っ張る 感じ は 既に ありません 。 私 は …… さっき 読んだ カップル は 永遠に 結ばれる と いう 記述 を 思い出し 、
「 ナオフミ 様 ……」
勇気 を 振り絞って 体 に 巻いて いた タオル を 取って ナオフミ 様 に 見せました 。 言って は 何 です が 、 ナオフミ 様 は 女性 関係 で トラウマ を 抱いて いる ので 、 こういう の は 嫌う かも しれません 。 です が 、 私 の 気持ち を 知って 欲しい ので 思いきって 行動 します 。 「 ど 、 どう です か ? 」 私 、 魅力 的でしょう か ? ナオフミ 様 ……。
と 、 ナオフミ 様 が 私 の 背中 を 見て 少し は うろたえて くれる 。 もしくは 、 私 の 決意 を 察して 理解 して 下さる 事 を 期待 した のです が 。
「 まあ 、 大分 良く なった んじゃ ない か ? 出会った 頃 と は 雲泥 の 差 だ な 」
えっと …… ナオフミ 様 は 私 の 裸 を 見て 顔色 一 つ 変え ず 、 キョトンと した 表情 で 見て います 。 むしろ 私 の 方 が 恥ずかしくて めまい が して きました 。 「 え ? あの …… それ だけ です か ? 」 「 何 か ある の か ? 」 「 い 、 いえ 」 「 あと 、 いつまでも 裸 に なって いる と 風邪 を ──」
「 あー ! お 姉ちゃん が 裸 に なって る ! 」 フィーロ が 部屋 に 入って 来て 大声 を 上げます 。 ワンピース を 脱いで 全裸 に なって こっち に 突撃 して きました 。 そういう 遊び じゃ ありません ! 「 フィーロ も 混ぜて ー ! 」 「 混ぜません ! なん です か 」
ああ …… ナオフミ 様 、 私 の 一世一代 の 告白 の 前 振り が ……。
夜 も 更けて きた ので 就寝 する 事 に なり 、 フィーロ は すやすや と 私 の 隣 で 寝息 を 立てて いました 。 「 あの 、 ナオフミ 様 」
「 なんだ ? 」 ナオフミ 様 は まだ 薬 を 調合 して いて 、 寝る の は まだ 先 です 。 ここ で 頑張ら ない と 。 ナオフミ 様 と 両 想い に なる んです !
「 その ……」
「 ん ? 」 ナオフミ 様 が 私 を 見て います 。 温泉 の 所 為 か 、 顔 が 熱く なって きて …… 沸騰 し そうです が 、 頑張ります 。 「 ナオフミ 様 、 私 は …… 貴方 が 好きです 」
「 そう か 」
通じた ! 私 の 心 は 空 を も 飛べる 程 高らかに ──。
「 俺 も 好きだ ぞ 。 娘 みたいに 」
一瞬 で 水 を 掛けられ 、 地 の 底 に 落ちて しまいました 。 ああ 、 どうも ナオフミ 様 は 私 を 子供 扱い する と 言います か 、 親 の ような 感覚 で 接して くる んです 。 私 は もう 子供 じゃ ありません ! と 、 何 度 か 言った のです けど 、
「 そうだ な ーラフタリア は もう 大人 だ よ な 」
と 、 取り合って くれ ない のです 。
もう …… 凄く 鈍感で …… そこ が 魅力 で も ある のです けど 。
ただ 、 もう 一 歩 前進 したい のです が 、 なかなか 機会 が なくて 上手く 行きません 。 理想 と して は 、 ナオフミ 様 から 告白 して 欲しい と いう 想い は あります が 、 ナオフミ 様 は 過去 に 色々 あって 女性 に 強い トラウマ を 持って います 。 だから 、 私 から 告白 して 恋人 に なる んです 。
だけど 、 ナオフミ 様 は どう すれば 気付いて くれる でしょう か ?
そこ で 小さな 頃 に 聞いた 話 を 思い出しました 。 お母さん は お 父さん に プレゼント を もらった の が きっかけ で 恋 に 目覚めた と 言って いました 。 はい 。 これ しか ない と 私 の 中 で 決まった 瞬間 でした 。
これ は もう プレゼント を して 、 振り向いて もらう しか ありません ! ナオフミ 様 は 、 強く なる ため に 色々な 物 を 盾 に 入れて います 。 と 言う 事 は 私 が 強く なる のに 必要な 物 を 調達 し 、 有能だ 、 大人 だ と 認め させて から 告白 すれば 気付いて くれる はず !
翌朝 、 私 は 温泉 街 を 歩いて 情報 を 集めよう と 思いました 。 「 あの 、 この 辺り で 珍しい 物って あります か ? 」 メジャー な 物 だ と ナオフミ 様 も 認めて 下さら ない と 思う ので 、 近く に 伝説 と か ない か を 尋ねます 。 前 に フィーロ の 服 を 作る ため に 遺跡 に 行きました 。 あんな 感じ で 入手 が 困難な 代物 を 持ってくれば …… きっと 。
「 珍しい 物 か ー 、 この 辺り で 有名だ と ガゴッコ の 温泉 卵 と か 珍味 で 有名だ な 」
宿 の 店主 が 私 の 質問 に 、 考え ながら 答えて くれました 。 「 いえ 、 そう 言う 物 で は なく 、 もっと 珍しい 物 を 探して いる のです けど …… 綺麗な 石 と か 」
「 と なる と 、 ラチウム と か かな ? 」 「 な んです か それ ? 」 「 ああ 、 この 辺り で 採れる 凄く 珍しい 鉱石 な んだ 。 魔法使い や 錬金術 師 が 高く 買い取って くれる 。 他 に も 恋愛 成就 の おまじない と して この 辺り じゃ 珍重 さ れる 物 だ 」
これ です ! こう 言う 珍しい 鉱石 を 私 一 人 で 採って くれば 、 ナオフミ 様 も 認めて 下さる はず !
しかも 恋愛 成就 と は 、 今 の 私 に ピッタリ の 鉱石 です 。
「 どこ で 採れる のです か ? 」 「 あの 山 の 奥地 で 採取 できる と 思う けど 、 大変だ よ 」 「 覚悟 の 上 です 」
「 じゃあ ラチウム の ある 場所 は ガゴッコ の 巣 の ──」
私 は 店主 に 食い入る ように 質問 し 、 ラチウム と いう 鉱石 が 採れる 場所 を 聞き出しました 。 そして 準備 を 整え 、 出発 いたします 。 「 この 辺り です か ー ……」
地図 を 片手 に 私 は 火山 を 登って 行きます 。 硫黄 臭くて 正直 暑い です 。
店主 の 話 で は 、 ラチウム と いう の は 高い 所 に 住む 魔物 が 目印 だ そうで 、 その 魔物 の 巣 の 下 に は 間違い なく ある そうです 。
その 魔物 自体 は そこ まで 珍しく ない のです けど 、 巣 を 作って いる の が 珍しく ラチウム の 生み出す 魔力 と いう か 、 何 か に 引き寄せられて 巣 を 作る と か 。 と 、 探索 して いる と その 魔物 の 巣 を 見つけました 。 「 あ ──」
さっそく その 場 へ 行こう と 目線 を 高く して いた 所 為 でしょう か 。
ボフン と 大きな 何 か に ぶつかって しまいました 。 「 い たた ……」
跳ね飛ばさ れ 、 尻もち を ついて 、 ぶつかった 相手 を 見ます 。 「 あ 、 お 姉ちゃん ! 」 なんと フィーロ が 私 と 同じ ように 紙 を 片手 に 持って 、 そこ に 立って いました 。 紙 は 、 おそらく 地図 でしょう 。
「 なんで フィーロ が こんな 所 に いる のです か ? 」 「 それ は こっち の セリフ だ よ ー 」 「「……」」
何 でしょう 。 なんとなく 女 の 勘 が 私 に 囁いて います 。 フィーロ は 敵 である と 。 ナオフミ 様 を 私 から 掠 め 取ろう と して いる と 。
確かに 前々 から フィーロ は ナオフミ 様 を 渡さ ない など と 言って います 。 ここ は 聞きだす の が 先決 です 。
「 フィーロ 、 もう 一 度 聞きます 。 なんで ここ に ? 」 「 えっと ね ー 珍しい 食べ物 が ー この お 山 に ある んだって ー 」 そう 言えば 店主 は ガゴッコ の 温泉 卵 と 言ってました 。 おそらく 、 その 事 でしょう 。
「 その 美味しい 珍しい 食べ物 を ご しゅじん さま に 持っていけば きっと ご しゅじん さま が フィーロ を 撫 な で 撫で して フィーロ の 番 い に なって くれる と 思う の ー 」
「 なりません ! 」 どういう 理屈 です か 、 この 子 は ! 「 そう 言う お 姉ちゃん は どう な の ー ? フィーロ に 内緒 で 何 か 探し に ここ へ きたん でしょ ー ? 」 …… これ見よがしに 小 首 を 傾か しげる フィーロ を 、 私 は なんか かわいらしい と 思って しまいました 。 この 可愛らし さ に ナオフミ 様 が 籠 絡 さ れたら 私 は 惨めです 。
なにがなんでも 負ける わけに は いきま せ ん !
「 じゃあ 、 どっち が 用意 した 物 が ナオフミ 様 を 喜ば せる か 勝負 です ! 」 「 うん ! お 姉ちゃん に は 負け ない よ ー 」
フィーロ と の 勝負 の 火蓋 が 切って 落とさ れました 。 「 た ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ああ ! 」 「 負けません ! 」 掛け声 と 共に 斜面 を 駆けあがる フィーロ に 負け じ と 、 私 も 走り抜けます 。 こんな 事 も あろう か と 暇 さえ あれば 体 を 鍛えて いた の が 役立つ 時 です !
フィーロ に は 死んで も 負けません ! 「 グッグガ !?」
ガゴッコ と 呼ば れる なんか 丸くて 真っ白な 鳥 が 突進 して くる 私 達 を 見て 声 を 上げます 。