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銀河英雄伝説 01黎明篇, 第六章 それぞれの星 (6)

第 六 章 それぞれ の 星 (6)

壁面 に 沿って 不規則に 高速 移動 する バスケット に ボール を 放りこむ だけ の 単純な 競技 だ が 、 空中 で ボール を 奪いあったり 、 ゆるやかに 回転 し つつ ボール を 操る 姿 に は 、 舞踊 でも 見る ような 趣 が あり 、 選手 の 個性 に よって 優美に も ダイナミックに も 表現 できる スポーツ と して 人気 が ある のだった 。

「 そう な の か 、 ユリアン 」

無責任な 保護 者 は 驚いて 少年 を 見 やり 、 少年 は かすかに 頰 を 上気 さ せて うなずいた 。

「 ご 存じ なかった の は 提督 ぐらい の もの でしょう ね 。 ユリアン 坊や は この 都市 で は ちょっと した 有名 人 です のに 」

フレデリカ が かるい 口調 で 皮肉り 、 ヤン を 赤面 さ せた 。

料理 の 注文 。 三 杯 の 七六〇 年産 赤 ワイン と 一杯の ジンジャーエール で の 祝杯 ―― ユリアン ・ ミンツ の 得点 王 獲得 を 祝って ―― そして 料理 が はこばれて きた 。 いく つ め か の 皿 が テーブル 上 に のった とき 、 グリーンヒル 大将 が 、 思い も かけ ない 話題 を もちだして きた 。

「 ところで 、 ヤン 、 きみ は まだ 結婚 する 予定 は ない の か ね 」

ヤン と フレデリカ の ナイフ が 皿 の 上 で 同時に が しゃんと 音 を たて 、 伝統 的 陶器 愛好 家 の 老 ウェイター は 思わず 眉 を そ び や かした 。

「 そう です ね 、 平和に なったら 考えます 」 フレデリカ は なにも 言わ ず 、 下 を むいた きり ナイフ と フォーク を 使って いる 。 その 手つき が 、 いささか 乱暴だった 。 ユリアン は 興味深 げ に 保護 者 を 見て いる 。

「 婚約 者 を のこして 逝って しまった 友人 も おります し ね 。 それ を 考える と 、 とても 、 現在 は ……」

アスターテ で 戦死 した ラップ 少佐 の こと である 。 グリーンヒル 大将 は うなずいて から 、 また 話題 を 転換 した 。

「 ジェシカ ・ エドワーズ を 知って る な ? 彼女 は 先週 の 補欠 選挙 で 代議員 に なった よ 。 テルヌーゼン 惑星 区 選出 の な 」

多彩 多様な 奇襲 攻撃 が 、 シトレ 元帥 同様 、 どうやら グリーンヒル 大将 の 得意 と する ところ である らしかった 。

「 ほう 、 さぞ 反戦 派 の 支持 が あった でしょう ね 」

「 そう 。 主戦 派 から の 攻撃 も 当然 あった が ……」

「 たとえば 、 あの 憂国 騎士 団 と か ? 」 「 憂国 騎士 団 かね ? あれ は 、 きみ 、 たんなる ピエロ だ 。 そもそも 論評 に 値する もの で は ない 。 そう だろう …… ふむ 、 この ゼリー ・ サラダ は 逸品 だ な 」

「 同感 です 」

と ヤン が 言った の は 、 ゼリー ・ サラダ に かんして である 。

あの 不愉快な 憂国 騎士 団 が ピエロ である こと は 認める が 、 誇張 さ れ 戯画 化 さ れた その 行動 が 、 巧みに 計算 さ れた 演出 の 結果 で ない と は 断言 でき ない だろう 。 か の ルドルフ ・ フォン ・ ゴールデンバウム を 早く から 熱狂 的に 支持 した 若い 世代 は 、 銀河 連邦 の 有識 者 たち から 苦笑 と 憫笑 を もって 迎え られた ので は なかった か 。

客席 から は 見え ない 厚い カーテン の 蔭 で 、 誰 か が 会心 の 微笑 を 浮かべて いる かも しれ ない のだ 。

Ⅸ 帰途 、 コンピューター に 管制 さ れた 無人 タクシー の 座席 で 、 ヤン は ジェシカ ・ エドワーズ の こと を 考えて いた 。 「 わたし は 権力 を もった 人 たち に 、 つねに 問いかけて ゆきたい のです 。 あなた たち は どこ に いる の か 、 兵士 たち を 死 地 に 送りこんで 、 あなた たち は どこ で なに を して いる の か 、 と ……」

それ が ジェシカ の 演説 の クライマックス だった と いう 。 アスターテ に おける 敗北 の あと に 開か れた 慰霊 祭 で の 光景 を 、 ヤン は 思いださ ず に い られ ない 。 能 弁 を 自任 する 国防 委員 長 トリューニヒト も 、 彼女 の 告発 に 対抗 する こと は でき なかった のだ 。 それだけに 、 彼女 の 一身 に は 主戦 派 の 憎悪 と 敵意 が 集中 する こと に なる だろう 。 彼女 が 選択 した 道 は 、 イゼルローン 回廊 以上 の 難 路 に なる に ちがいない ……。

無人 タクシー が 急 停止 した 。 本来 、 これ は あり う べ から ざる こと だった 。 慣性 が 人体 に 不要な 影響 を およぼす ような 運動 を 、 自動車 は し ない もの だ ―― 管制 システム が 作動 して いる かぎり は 、 である 。 なに か 異変 が 生じた のだ 。

手 で ドア を 開けて 、 ヤン は 路上 に おりたった 。 巨体 を 大 儀 そうに 揺すり ながら 、 青い 制服 の 警官 が 駆けて くる 。 彼 は ヤン の 顔 を 知って おり 、 国民 的 英雄 に 対面 できた 感激 を ひと くさり 述べて から 、 事態 を 説明 した 。

都市 交通 制御 センター の 管制 コンピューター に 異常 が 発生 した のだ 、 と いう 。

「 異常 と いう と ? 」 「 くわしい こと は 知りません が ね 、 情報 を 入力 する とき の 単純な 人為 的 ミス らしい です 。 ま 、 最近 は どの 職場 でも ベテラン が 不足 してます から ね 、 こんな こと は 珍しく ありません よ 」 警官 は 笑った が 、 ユリアン 少年 に 非 友好 的な 視線 で 直視 さ れ 、 無理やり しかつめらしい 表情 を つくった 。

「 ああ 、 え へん 、 笑って いる 場合 では ありません な 。 そんな わけ で 、 この 地区 で は 今後 四 時間 ほど あらゆる 交通 システム が 停止 します 。 走 路 も 磁気 反発 路 も 全面 的に うごきません 」 「 全面 的に ? 」 「 さよう 、 全面 的に です 」 なにやら 自慢げな 態度 で すら あった 。 ヤン は おかしく なった が 、 じつは 笑いごと で は ない 。 この 事故 と 警官 の 発言 と から 算出 さ れる 事実 に は 、 心 を 寒く する 示唆 が ある 。 社会 を 管理 運営 する システム が いちじるしく 衰弱 して いる のだ 。 戦争 の 悪 影響 が 、 悪魔 の 足音 より も 忍び や か に 、 だが 確実に 社会 を 侵 蝕 し つつ ある 。

傍 で ユリアン が 彼 を 見上げた 。

「 提督 、 どう なさいます か 」 「 しかたない 、 歩こう 」

あっさり ヤン は 断 を くだした 。

「 たまに は いい さ 、 一 時間 も 歩けば 着く だろう 。 いい 運動 に なる 」

「 そう です ね 」

この 結論 に 警官 は 目 を むいた 。

「 とんでもない ! イゼルローン の 英雄 を 二 本 の 脚 で 歩か せる なんて 。 こちら で 地上 車 なり 浮揚 車 なり 用意 します よ 。 お 使い ください 」

「 私 だけ そんな こと を して もらって は こまる 」

「 どうぞ ご 遠慮 なく 」

「 いや 、 遠慮 して おこう 」

表情 と 声 に 不快 さ を あらわさ ない よう 、 多少 の 努力 が 必要だった 。

「 行く ぞ 、 ユリアン 」

「 アイアイサー 」

元 気 よく 応じた 少年 が 、 軽快に スキップ を 踏み かけて 急 に 立ち 停 まった 。 ヤン が 不審 そうに ふりむく 。

「 なんだ 、 ユリアン 、 歩く の が いやな の か 」

尾 を 曳 いて いる 不 快感 の ため 、 かすかに 声 が とがった かも しれ ない 。

「 いいえ 、 そんな こと 」

「 じゃ 、 なぜ ついてこ ない ? 」 「 そっち 、 反対 方向 です よ 」 「…………」

ヤン は きび す を 返した 。 宇宙 艦隊 の 指揮 官 は 艦隊 の 進行 方向 さえ 誤ら ねば よい のだ 、 など と いう 負けおしみ は 言わ ない こと に した 。 実際 、 ときどき 自信 が なくなる のである 。 副 司令 官 フィッシャー の 正確 きわまる 艦隊 運用 を 、 ヤン が 高く 評価 する ゆえん だ 。

うごか なく なった 磁力 反 発車 の 延々たる 列 が 路上 に 長い 壁 を きずき 、 なす すべ を 失った 人々 が うろうろ 歩きまわって いる 。 その 間隙 を 、 ふた り は 悠然と 通過 して いった 。

「 提督 、 星 が とても 綺麗です よ 」

星空 に 視線 を 送り ながら ユリアン が 言う 。 無数の 星 が 光 を 錯綜 さ せ 、 この 惑星 に 空気 の 存在 する 証明 と して 、 間断 なく またたき つづけて いた 。

ヤン は 完全に 虚心で は い られ なかった 。

人 は 誰 でも 夜空 に 手 を 伸ばし 、 自分 に あたえ られた 星 を つかもう と する 。 だが 、 自分 の 星 が どこ に 位置 する か を 正確に 知る 者 は まれだ 。 自分 は ―― ヤン ・ ウェンリー ―― 自身 は どう な のだろう 、 明確に 自分 の 星 を 見さだめて いる か 。 状況 に 流さ れ 、 見失って しまって いる ので は ない の か 。 あるいは 誤認 して は いない か 。 「 ねえ 、 提督 」

ユリアン が はずんだ 声 を だした 。

「 なんだい 」

「 いま 、 提督 と 、 ぼく と 、 おなじ 星 を 見て ました よ 。 ほら 、 あの 大きくて 青い 星 ……」

「 うん 、 あの 星 は ……」

「 なんて いう 星 です ? 」 「 なんとか 言った な 、 たしか 」 記憶 の 糸 を たぐり だせば 解答 は 発見 できる はずだった が 、 あえて そう する 気 に は ヤン は なれ なかった 。 彼 の 傍 に いる この 少年 が 、 彼 と おなじ 星 を 見上げる 必要 は いささか も ない 、 と ヤン は 思う 。

人 は 自分 だけ の 星 を つかむ べきな のだ 。 たとえ どのような 兇星 であって も ……。

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第 六 章 それぞれ の 星 (6) だい|むっ|しょう|||ほし Chapter 6 Each Star (6)

壁面 に 沿って 不規則に 高速 移動 する バスケット に ボール を 放りこむ だけ の 単純な 競技 だ が 、 空中 で ボール を 奪いあったり 、 ゆるやかに 回転 し つつ ボール を 操る 姿 に は 、 舞踊 でも 見る ような 趣 が あり 、 選手 の 個性 に よって 優美に も ダイナミックに も 表現 できる スポーツ と して 人気 が ある のだった 。 へきめん||そって|ふきそくに|こうそく|いどう||ばすけっと||ぼーる||ほうりこむ|||たんじゅんな|きょうぎ|||くうちゅう||ぼーる||うばいあったり||かいてん|||ぼーる||あやつる|すがた|||ぶよう||みる||おもむき|||せんしゅ||こせい|||ゆうびに||だいなみっくに||ひょうげん||すぽーつ|||にんき|||

「 そう な の か 、 ユリアン 」

無責任な 保護 者 は 驚いて 少年 を 見 やり 、 少年 は かすかに 頰 を 上気 さ せて うなずいた 。 むせきにんな|ほご|もの||おどろいて|しょうねん||み||しょうねん|||||じょうき|||

「 ご 存じ なかった の は 提督 ぐらい の もの でしょう ね 。 |ぞんじ||||ていとく||||| ユリアン 坊や は この 都市 で は ちょっと した 有名 人 です のに 」 |ぼうや|||とし|||||ゆうめい|じん||

フレデリカ が かるい 口調 で 皮肉り 、 ヤン を 赤面 さ せた 。 |||くちょう||ひにくり|||せきめん||

料理 の 注文 。 りょうり||ちゅうもん 三 杯 の 七六〇 年産 赤 ワイン と 一杯の ジンジャーエール で の 祝杯 ―― ユリアン ・ ミンツ の 得点 王 獲得 を 祝って ―― そして 料理 が はこばれて きた 。 みっ|さかずき||しちろく|ねんさん|あか|わいん||いっぱいの||||しゅくはい||||とくてん|おう|かくとく||いわって||りょうり||| いく つ め か の 皿 が テーブル 上 に のった とき 、 グリーンヒル 大将 が 、 思い も かけ ない 話題 を もちだして きた 。 |||||さら||てーぶる|うえ|||||たいしょう||おもい||||わだい|||

「 ところで 、 ヤン 、 きみ は まだ 結婚 する 予定 は ない の か ね 」 |||||けっこん||よてい|||||

ヤン と フレデリカ の ナイフ が 皿 の 上 で 同時に が しゃんと 音 を たて 、 伝統 的 陶器 愛好 家 の 老 ウェイター は 思わず 眉 を そ び や かした 。 ||||ないふ||さら||うえ||どうじに|||おと|||でんとう|てき|とうき|あいこう|いえ||ろう|||おもわず|まゆ|||||

「 そう です ね 、 平和に なったら 考えます 」 |||へいわに||かんがえます フレデリカ は なにも 言わ ず 、 下 を むいた きり ナイフ と フォーク を 使って いる 。 |||いわ||した||||ないふ||ふぉーく||つかって| その 手つき が 、 いささか 乱暴だった 。 |てつき|||らんぼうだった ユリアン は 興味深 げ に 保護 者 を 見て いる 。 ||きょうみぶか|||ほご|もの||みて|

「 婚約 者 を のこして 逝って しまった 友人 も おります し ね 。 こんやく|もの|||いって||ゆうじん|||| それ を 考える と 、 とても 、 現在 は ……」 ||かんがえる|||げんざい|

アスターテ で 戦死 した ラップ 少佐 の こと である 。 ||せんし||らっぷ|しょうさ||| グリーンヒル 大将 は うなずいて から 、 また 話題 を 転換 した 。 |たいしょう|||||わだい||てんかん|

「 ジェシカ ・ エドワーズ を 知って る な ? |||しって|| 彼女 は 先週 の 補欠 選挙 で 代議員 に なった よ 。 かのじょ||せんしゅう||ほけつ|せんきょ||だいぎいん||| テルヌーゼン 惑星 区 選出 の な 」 |わくせい|く|せんしゅつ||

多彩 多様な 奇襲 攻撃 が 、 シトレ 元帥 同様 、 どうやら グリーンヒル 大将 の 得意 と する ところ である らしかった 。 たさい|たような|きしゅう|こうげき|||げんすい|どうよう|||たいしょう||とくい|||||

「 ほう 、 さぞ 反戦 派 の 支持 が あった でしょう ね 」 ||はんせん|は||しじ||||

「 そう 。 主戦 派 から の 攻撃 も 当然 あった が ……」 しゅせん|は|||こうげき||とうぜん||

「 たとえば 、 あの 憂国 騎士 団 と か ? ||ゆうこく|きし|だん|| 」 「 憂国 騎士 団 かね ? ゆうこく|きし|だん| あれ は 、 きみ 、 たんなる ピエロ だ 。 ||||ぴえろ| そもそも 論評 に 値する もの で は ない 。 |ろんぴょう||あたいする|||| そう だろう …… ふむ 、 この ゼリー ・ サラダ は 逸品 だ な 」 ||||ぜりー|さらだ||いっぴん||

「 同感 です 」 どうかん|

と ヤン が 言った の は 、 ゼリー ・ サラダ に かんして である 。 |||いった|||ぜりー|さらだ|||

あの 不愉快な 憂国 騎士 団 が ピエロ である こと は 認める が 、 誇張 さ れ 戯画 化 さ れた その 行動 が 、 巧みに 計算 さ れた 演出 の 結果 で ない と は 断言 でき ない だろう 。 |ふゆかいな|ゆうこく|きし|だん||ぴえろ||||みとめる||こちょう|||ぎが|か||||こうどう||たくみに|けいさん|||えんしゅつ||けっか|||||だんげん||| か の ルドルフ ・ フォン ・ ゴールデンバウム を 早く から 熱狂 的に 支持 した 若い 世代 は 、 銀河 連邦 の 有識 者 たち から 苦笑 と 憫笑 を もって 迎え られた ので は なかった か 。 ||||||はやく||ねっきょう|てきに|しじ||わかい|せだい||ぎんが|れんぽう||ゆうしき|もの|||くしょう||びんわらい|||むかえ|||||

客席 から は 見え ない 厚い カーテン の 蔭 で 、 誰 か が 会心 の 微笑 を 浮かべて いる かも しれ ない のだ 。 きゃくせき|||みえ||あつい|かーてん||おん||だれ|||かいしん||びしょう||うかべて|||||

Ⅸ 帰途 、 コンピューター に 管制 さ れた 無人 タクシー の 座席 で 、 ヤン は ジェシカ ・ エドワーズ の こと を 考えて いた 。 きと|こんぴゅーたー||かんせい|||むじん|たくしー||ざせき|||||||||かんがえて| 「 わたし は 権力 を もった 人 たち に 、 つねに 問いかけて ゆきたい のです 。 ||けんりょく|||じん||||といかけて||の です あなた たち は どこ に いる の か 、 兵士 たち を 死 地 に 送りこんで 、 あなた たち は どこ で なに を して いる の か 、 と ……」 ||||||||へいし|||し|ち||おくりこんで||||||||||||

それ が ジェシカ の 演説 の クライマックス だった と いう 。 ||||えんぜつ||||| アスターテ に おける 敗北 の あと に 開か れた 慰霊 祭 で の 光景 を 、 ヤン は 思いださ ず に い られ ない 。 |||はいぼく||||あか||いれい|さい|||こうけい||||おもいださ||||| 能 弁 を 自任 する 国防 委員 長 トリューニヒト も 、 彼女 の 告発 に 対抗 する こと は でき なかった のだ 。 のう|べん||じにん||こくぼう|いいん|ちょう|||かのじょ||こくはつ||たいこう|||||| それだけに 、 彼女 の 一身 に は 主戦 派 の 憎悪 と 敵意 が 集中 する こと に なる だろう 。 |かのじょ||いっしん|||しゅせん|は||ぞうお||てきい||しゅうちゅう||||| 彼女 が 選択 した 道 は 、 イゼルローン 回廊 以上 の 難 路 に なる に ちがいない ……。 かのじょ||せんたく||どう|||かいろう|いじょう||なん|じ||||

無人 タクシー が 急 停止 した 。 むじん|たくしー||きゅう|ていし| 本来 、 これ は あり う べ から ざる こと だった 。 ほんらい||||||||| 慣性 が 人体 に 不要な 影響 を およぼす ような 運動 を 、 自動車 は し ない もの だ ―― 管制 システム が 作動 して いる かぎり は 、 である 。 かんせい||じんたい||ふような|えいきょう||||うんどう||じどうしゃ||||||かんせい|しすてむ||さどう||||| なに か 異変 が 生じた のだ 。 ||いへん||しょうじた|

手 で ドア を 開けて 、 ヤン は 路上 に おりたった 。 て||どあ||あけて|||ろじょう|| 巨体 を 大 儀 そうに 揺すり ながら 、 青い 制服 の 警官 が 駆けて くる 。 きょたい||だい|ぎ|そう に|ゆすり||あおい|せいふく||けいかん||かけて| 彼 は ヤン の 顔 を 知って おり 、 国民 的 英雄 に 対面 できた 感激 を ひと くさり 述べて から 、 事態 を 説明 した 。 かれ||||かお||しって||こくみん|てき|えいゆう||たいめん||かんげき||||のべて||じたい||せつめい|

都市 交通 制御 センター の 管制 コンピューター に 異常 が 発生 した のだ 、 と いう 。 とし|こうつう|せいぎょ|せんたー||かんせい|こんぴゅーたー||いじょう||はっせい||||

「 異常 と いう と ? いじょう||| 」 「 くわしい こと は 知りません が ね 、 情報 を 入力 する とき の 単純な 人為 的 ミス らしい です 。 |||しりません|||じょうほう||にゅうりょく||||たんじゅんな|じんい|てき|みす|| ま 、 最近 は どの 職場 でも ベテラン が 不足 してます から ね 、 こんな こと は 珍しく ありません よ 」 |さいきん|||しょくば||べてらん||ふそく|||||||めずらしく|| 警官 は 笑った が 、 ユリアン 少年 に 非 友好 的な 視線 で 直視 さ れ 、 無理やり しかつめらしい 表情 を つくった 。 けいかん||わらった|||しょうねん||ひ|ゆうこう|てきな|しせん||ちょくし|||むりやり||ひょうじょう||

「 ああ 、 え へん 、 笑って いる 場合 では ありません な 。 |||わらって||ばあい||| そんな わけ で 、 この 地区 で は 今後 四 時間 ほど あらゆる 交通 システム が 停止 します 。 ||||ちく|||こんご|よっ|じかん|||こうつう|しすてむ||ていし| 走 路 も 磁気 反発 路 も 全面 的に うごきません 」 はし|じ||じき|はんぱつ|じ||ぜんめん|てきに| 「 全面 的に ? ぜんめん|てきに 」 「 さよう 、 全面 的に です 」 |ぜんめん|てきに| なにやら 自慢げな 態度 で すら あった 。 |じまんげな|たいど||| ヤン は おかしく なった が 、 じつは 笑いごと で は ない 。 ||||||わらいごと||| この 事故 と 警官 の 発言 と から 算出 さ れる 事実 に は 、 心 を 寒く する 示唆 が ある 。 |じこ||けいかん||はつげん|||さんしゅつ|||じじつ|||こころ||さむく||しさ|| 社会 を 管理 運営 する システム が いちじるしく 衰弱 して いる のだ 。 しゃかい||かんり|うんえい||しすてむ|||すいじゃく||| 戦争 の 悪 影響 が 、 悪魔 の 足音 より も 忍び や か に 、 だが 確実に 社会 を 侵 蝕 し つつ ある 。 せんそう||あく|えいきょう||あくま||あしおと|||しのび|||||かくじつに|しゃかい||おか|むしば|||

傍 で ユリアン が 彼 を 見上げた 。 そば||||かれ||みあげた

「 提督 、 どう なさいます か 」 ていとく||| 「 しかたない 、 歩こう 」 |あるこう

あっさり ヤン は 断 を くだした 。 |||だん||

「 たまに は いい さ 、 一 時間 も 歩けば 着く だろう 。 ||||ひと|じかん||あるけば|つく| いい 運動 に なる 」 |うんどう||

「 そう です ね 」

この 結論 に 警官 は 目 を むいた 。 |けつろん||けいかん||め||

「 とんでもない ! イゼルローン の 英雄 を 二 本 の 脚 で 歩か せる なんて 。 ||えいゆう||ふた|ほん||あし||あるか|| こちら で 地上 車 なり 浮揚 車 なり 用意 します よ 。 ||ちじょう|くるま||ふよう|くるま||ようい|| お 使い ください 」 |つかい|

「 私 だけ そんな こと を して もらって は こまる 」 わたくし||||||||

「 どうぞ ご 遠慮 なく 」 ||えんりょ|

「 いや 、 遠慮 して おこう 」 |えんりょ||

表情 と 声 に 不快 さ を あらわさ ない よう 、 多少 の 努力 が 必要だった 。 ひょうじょう||こえ||ふかい|||あらわ さ|||たしょう||どりょく||ひつようだった

「 行く ぞ 、 ユリアン 」 いく||

「 アイアイサー 」

元 気 よく 応じた 少年 が 、 軽快に スキップ を 踏み かけて 急 に 立ち 停 まった 。 もと|き||おうじた|しょうねん||けいかいに|すきっぷ||ふみ||きゅう||たち|てい| ヤン が 不審 そうに ふりむく 。 ||ふしん|そう に|

「 なんだ 、 ユリアン 、 歩く の が いやな の か 」 ||あるく|||||

尾 を 曳 いて いる 不 快感 の ため 、 かすかに 声 が とがった かも しれ ない 。 お||えい|||ふ|かいかん||||こえ|||||

「 いいえ 、 そんな こと 」

「 じゃ 、 なぜ ついてこ ない ? 」 「 そっち 、 反対 方向 です よ 」 |はんたい|ほうこう|| 「…………」

ヤン は きび す を 返した 。 |||||かえした 宇宙 艦隊 の 指揮 官 は 艦隊 の 進行 方向 さえ 誤ら ねば よい のだ 、 など と いう 負けおしみ は 言わ ない こと に した 。 うちゅう|かんたい||しき|かん||かんたい||しんこう|ほうこう||あやまら|||||||まけおしみ||いわ|||| 実際 、 ときどき 自信 が なくなる のである 。 じっさい||じしん||| 副 司令 官 フィッシャー の 正確 きわまる 艦隊 運用 を 、 ヤン が 高く 評価 する ゆえん だ 。 ふく|しれい|かん|||せいかく||かんたい|うんよう||||たかく|ひょうか|||

うごか なく なった 磁力 反 発車 の 延々たる 列 が 路上 に 長い 壁 を きずき 、 なす すべ を 失った 人々 が うろうろ 歩きまわって いる 。 |||じりょく|はん|はっしゃ||えんえんたる|れつ||ろじょう||ながい|かべ||||||うしなった|ひとびと|||あるきまわって| その 間隙 を 、 ふた り は 悠然と 通過 して いった 。 |かんげき|||||ゆうぜんと|つうか||

「 提督 、 星 が とても 綺麗です よ 」 ていとく|ほし|||きれい です|

星空 に 視線 を 送り ながら ユリアン が 言う 。 ほしぞら||しせん||おくり||||いう 無数の 星 が 光 を 錯綜 さ せ 、 この 惑星 に 空気 の 存在 する 証明 と して 、 間断 なく またたき つづけて いた 。 むすうの|ほし||ひかり||さくそう||||わくせい||くうき||そんざい||しょうめい|||かんだん||||

ヤン は 完全に 虚心で は い られ なかった 。 ||かんぜんに|きょしんで||||

人 は 誰 でも 夜空 に 手 を 伸ばし 、 自分 に あたえ られた 星 を つかもう と する 。 じん||だれ||よぞら||て||のばし|じぶん||||ほし|||| だが 、 自分 の 星 が どこ に 位置 する か を 正確に 知る 者 は まれだ 。 |じぶん||ほし||||いち||||せいかくに|しる|もの|| 自分 は ―― ヤン ・ ウェンリー ―― 自身 は どう な のだろう 、 明確に 自分 の 星 を 見さだめて いる か 。 じぶん||||じしん|||||めいかくに|じぶん||ほし||みさだめて|| 状況 に 流さ れ 、 見失って しまって いる ので は ない の か 。 じょうきょう||ながさ||みうしなって||||||| あるいは 誤認 して は いない か 。 |ごにん|||| 「 ねえ 、 提督 」 |ていとく

ユリアン が はずんだ 声 を だした 。 |||こえ||

「 なんだい 」

「 いま 、 提督 と 、 ぼく と 、 おなじ 星 を 見て ました よ 。 |ていとく|||||ほし||みて|| ほら 、 あの 大きくて 青い 星 ……」 ||おおきくて|あおい|ほし

「 うん 、 あの 星 は ……」 ||ほし|

「 なんて いう 星 です ? ||ほし| 」 「 なんとか 言った な 、 たしか 」 |いった|| 記憶 の 糸 を たぐり だせば 解答 は 発見 できる はずだった が 、 あえて そう する 気 に は ヤン は なれ なかった 。 きおく||いと||||かいとう||はっけん|||||||き|||||| 彼 の 傍 に いる この 少年 が 、 彼 と おなじ 星 を 見上げる 必要 は いささか も ない 、 と ヤン は 思う 。 かれ||そば||||しょうねん||かれ|||ほし||みあげる|ひつよう||||||||おもう

人 は 自分 だけ の 星 を つかむ べきな のだ 。 じん||じぶん|||ほし|||| たとえ どのような 兇星 であって も ……。 ||きょうほし||