JIN - 仁 - #06 |しとし

（ 山田 ） 十八 番 　 薬効 あり ！ やまだ|じゅうはち|ばん|やっこう|

〈（ 仁 ） 歴史 上 　 まだ この世 に 存在 する はずの ない 　 ペニシリン 〉 しとし|れきし|うえ||このよ||そんざい||||

〈 でも 　 これ は 〉

〈 本当に 許さ れる 行為 だった のだろう か 〉 ほんとうに|ゆるさ||こうい|||

≪（ 医師 Ａ ） 医学 所 は 　 緒方 先生 と 松本 先生 の もの に なって しまう … いし||いがく|しょ||おがた|せんせい||まつもと|せんせい|||||

（ 医師 Ｂ ） 私 が 一 度 お はぐ ろ どぶ で → いし||わたくし||ひと|たび|||||

佐分利 を 見かけた と 言った であろう → さぶり||みかけた||いった|

何と 　 その とき 訪れて いた らしい 女 郎 が → なんと|||おとずれて|||おんな|ろう|

めった 裂き に さ れて 殺さ れた らしい → |さき||||ころさ||

下手人 は 捕まって おら ぬ → げしゅにん||つかまって||

もし 　 その 部屋 に 　 この メス が 落ちて おったら 　 どう なる ？ ||へや|||めす||おちて|||

（ 佐分利 ） す ん ませ ん ！ （ 洪 庵 ） 以後 　 気 を つけ なさい さぶり|||||ひろし|いおり|いご|き|||

（ 勝 ） て え した もん だ 　 先生 よ 　 何 か 困った こと が あったら 言って くれ か||||||せんせい||なん||こまった||||いって|

おい ら 　 力 に なる から よ はい ！ ||ちから|||||

（ 龍 馬 ） どう いたら 　 こんな が を つくり 出せる が じゃ 　 先生 は ？ りゅう|うま|||||||だせる|||せんせい|

運 が よかった だけ です よ うん|||||

（ 八木 ） 南方 先生 に 医学 館 から 客 が ！ やぎ|なんぽう|せんせい||いがく|かん||きゃく|

何 や て ！？ 医学 館 て 　 すぐ そこ の 建物 の ？ なん|||いがく|かん|||||たてもの|

（ 山田 ） はい 　 漢方 治療 の 総 本山 で ございます やまだ||かんぽう|ちりょう||そう|ほんざん||

≪（ 山田 ） さしずめ 　 本道 の → やまだ||ほんどう|

西洋 医学 所 と いう 所 で ございます せいよう|いがく|しょ|||しょ||

あの 　 医学 館 と ケンカ でも して る んです か ？ |いがく|かん||けんか||||ん です|

本道 と は 　 いにしえ より ほんどう||||

我が国 の 医療 の 中心 で あり 続けた まさに 本道 わがくに||いりょう||ちゅうしん|||つづけた||ほんどう

向こう から 　 こちら を 見れば むこう||||みれば

我ら こそ が 　 西洋 医術 を 勝手に 持ち込んだ 　 新参 者 → われら|||せいよう|いじゅつ||かってに|もちこんだ|しんざん|もの

ところが 今では 　 上 様 から 多く の 方々 まで 診る 奥 医師 に |いまでは|うえ|さま||おおく||ほうぼう||みる|おく|いし|

その 我ら 蘭 方 医 が 次々 任命 さ れて ます |われら|らん|かた|い||つぎつぎ|にんめい|||

我ら が 　 かわいかろう はず は ございませ ん われら||||||

やり手 の ベンチャー が 嫌わ れる ような もの か やりて||べんちゃー||きらわ||||

うん ？

あ ッ 　 いや …

（ 福田 ） 南方 殿 の 評判 を 耳 に し → ふくた|なんぽう|しんがり||ひょうばん||みみ||

我ら が 医学 館 の 　 多紀 元 えん が ぜひ 対面 を と 申して おり われら||いがく|かん||たき|もと||||たいめん|||もうして|

つき まして は 　 明日 医学 館 に お 越し 願 いたく → |||あした|いがく|かん|||こし|ねがい|

参上 した 次第 で ございます お伺い すれば … さんじょう||しだい|||おうかがい|

南方 殿 と 話し たい の なら 　 多紀 様 が こちら を 訪れる の が 筋 でしょう ！ なんぽう|しんがり||はなし||||たき|さま||||おとずれる|||すじ|

松本 殿 　 多紀 様 は 奥 医師 であり まつもと|しんがり|たき|さま||おく|いし|

お上 より 　 法 印 に まで 叙 せ られた 医師 で あり ます おかみ||ほう|いん|||じょ|||いし|||

一方 　 南方 殿 は 　 無 位 無 官 の 蘭 方 医 それ を 訪れろ と は … いっぽう|なんぽう|しんがり||む|くらい|む|かん||らん|かた|い|||おとずれろ||

人 と して の 礼 を 問うて おる のだ ！ じん||||れい||とうて||

さ れ …

されど 　 世に は 　 上下 … |よに||じょうげ

南方 先生 は 　 私 の 客人 であり なんぽう|せんせい||わたくし||きゃくじん|

今 は 　 私 が 師 と も 慕う お方 いま||わたくし||し|||したう|おかた

その お方 に 対して 　 福田 殿 は → |おかた||たいして|ふくた|しんがり|

訪れる に 値せ ん 奴 や と お 思い な んです か ！？→ おとずれる||あたいせ||やつ||||おもい||ん です|

どう な んです か そう な んです か ！？ ||ん です||||ん です|

は あ …

行き たい です いき||

先生 前 から 思って た んです せんせい|ぜん||おもって||ん です

医学 館 　 行って み たい なって いがく|かん|おこなって|||

ああ 　 ひと つ いい かい ？

こいつ ら を 　 供 に つけ させて もら いて えん だ が よ |||とも|||さ せて||||||

供 って 　 護衛 の こと です か ？ とも||ごえい||||

あの 　 本当に いい です から ね 護衛 なんて |ほんとうに|||||ごえい|

（ 橘 ） 勝 先生 の 命令 です から （ 龍 馬 ） 任し ちょき ！ たちばな|か|せんせい||めいれい|||りゅう|うま|まかし|

≪（ 良 順 ） 南方 先生 の 身元 に 難癖 を つけ → よ|じゅん|なんぽう|せんせい||みもと||なんくせ||

お上 に 働きかける つもり かも しれ ませ ぬ おかみ||はたらきかける|||||

ここ 数 年 　 本道 側 は 蘭 方 医 の 活躍 に より → |すう|とし|ほんどう|がわ||らん|かた|い||かつやく||

勢い を 削ら れて き ました から いきおい||けずら||||

その 功労 者 である 伊東 先生 の 失脚 を いい こと に |こうろう|もの||いとう|せんせい||しっきゃく||||

勢力 を 盛り返そう と して る の かも しれ ませ ぬ せいりょく||もりかえそう||||||||

その 失脚 |しっきゃく

松本 先生 が 企てた と いう 噂 が ございます が まつもと|せんせい||くわだてた|||うわさ|||

私 は 　 長年 わたくし||ながねん

伊東 先生 より 　 さまざまな 妨害 を 受けて おり ました いとう|せんせい|||ぼうがい||うけて||

それ は … ≪（ 良 順 ） このたび も → ||よ|じゅん||

私 の 失脚 を 画策 さ れて いた ので わたくし||しっきゃく||かくさく||||

以前 より の 次第 を さる お方 に 内々 に 申し上げ いぜん|||しだい|||おかた||ないない||もうしあげ

かよう な ご 処分 と なった 次第 です |||しょぶん|||しだい|

それ を 企てた と は いささか 心外で ございます ||くわだてた||||しんがいで|

ああ …

≪（ 医師 Ａ ） 盗っ人 たけだけしい → いし||ぬすっと|

医学 所 は 　 もと は 伊東 先生 が 起こした もの で は ない か → いがく|しょ||||いとう|せんせい||おこした|||||

おい 　 例の 件 は 進んで おる の か ？ |れいの|けん||すすんで|||

（ 医師 Ｂ ） 昨日 　 切 見世 の 女 郎部 屋 に 同 心 が 来て → いし||きのう|せつ|みせ||おんな|ろうぶ|や||どう|こころ||きて

事情 を 調べて おった → じじょう||しらべて|

門弟 から 人殺し が 出た と あって は → もんてい||ひとごろし||でた|||

緒方 は 　 ここ に は おら れ ぬ であろう し → おがた|||||||||

そう なれば 　 南方 も 道連れ ||なんぽう||みちづれ

くみする 松本 の 顔 を つぶせ よう |まつもと||かお|||

≪（ 瓦版 売り ） 寄 っと い で 寄 っと い で ！→ かわらばん|うり|よ||||よ|||

さあ さあ 　 皆様 　 お 立ち会い → ||みなさま||たちあい

痩毒 に 効く 　 ペニシリン を つくった 　 お 医者 様 → そうどく||きく|||||いしゃ|さま

南方 仁 　 南方 先生 だ よ ！ なんぽう|しとし|なんぽう|せんせい||

（ 絵 売り ） 今 　 評判 の 痩毒 の 護符 → え|うり|いま|ひょうばん||そうどく||ごふ

南方 大 明神 　 南方 大 明神 の 護符 だ よ なんぽう|だい|みょうじん|なんぽう|だい|みょうじん||ごふ||

先生 は 　 今 光り輝 いちゅう せんせい||いま|ひかりかがや|

で 　 その 光 っ ちゅう が は 必ず 影 を つくり ゆう もん じゃ ||ひかり|||||かならず|かげ|||||

先生 の 落と いた 影 の 中 で う めいちゅう 連中 は せんせい||おと||かげ||なか||||れんちゅう|

何 ぼ で も おる ちゅうこ と は 心して おいた 方 が いい ぜ よ なん||||||||こころして||かた||||

そんな 　 大げさな |おおげさな

暗闇 で くらやみ|

バッサリ ！ ばっさり

いか れる かも

し れ ん きのう

バッハッハッハッ …

斬ら れたら 死ぬ の か な 　 俺 きら||しぬ||||おれ

《 野 風 さん に 似て る でしょう 》 の|かぜ|||にて||

《 私 が 医学 の 時計 の 針 を 進めれば 》 わたくし||いがく||とけい||はり||すすめれば

《 彼女 の 手術 も 成功 する かも しれ ない 》 かのじょ||しゅじゅつ||せいこう||||

〈 未来 〉 みらい

〈 今日 　 俺 は 光り輝いて いる と 言わ れた よ 〉 きょう|おれ||ひかりかがやいて|||いわ||

〈 あの 坂本 龍 馬 に 〉 |さかもと|りゅう|うま|

〈 でも 　 自分 で 言う の も 何 だ けど 〉 |じぶん||いう|||なん||

〈 確かに 　 ここ に いる 南方 仁 は 光り輝いて いる 〉 たしかに||||なんぽう|しとし||ひかりかがやいて|

〈 つき合う の は 　 歴史 上 の 大 人物 〉 つきあう|||れきし|うえ||だい|じんぶつ

〈 生き 神様 だ と お守り まで 作ら れる ような 奴 だ 〉 いき|かみさま|||おもり||つくら|||やつ|

〈 ここ に いる 俺 は 俺 じゃ ない みたいだ 〉 |||おれ||おれ|||

〈 ここ に 来て 　 もう 半年 以上 〉 ||きて||はんとし|いじょう

〈 この 手 で 手術 を し 〉 |て||しゅじゅつ||

〈 病気 に も かかり 〉 びょうき|||

〈 ペニシリン も 　 つくり出して きた 〉 ||つくりだして|

〈 だけど 　 ここ で 起こる こと は どんな 生々しい 出来事 でも 〉 |||おこる||||なまなましい|できごと|

〈 どこ か リアルに は 感じ られ ない 〉 ||りあるに||かんじ||

〈 もし かして 　 俺 は 〉 ||おれ|

〈 本当 は 　 もう 夢 の 中 に いる んじゃ ない だろう か 〉 ほんとう|||ゆめ||なか||||||

〈 永遠に 覚める こと の ない 〉 えいえんに|さめる|||

〈 もし 　 斬ら れれば 〉 |きら|

〈 この 血 は 流れる んだろう か 〉 |ち||ながれる||

（ 医師 Ｃ ） 順番 に 　 順番 に 梅 毒 の お 調べ を し ます ので → いし||じゅんばん||じゅんばん||うめ|どく|||しらべ||||

ここ で もう しばらく お 待ち ください |||||まち|

体 は 熱い こと 　 だるい こと ある や 　 否 や からだ||あつい||||||いな|

ないで あり ん す

（ 山田 ） 体 の いずこ か に 　 赤い 斑点 や ただれ が 　 ある や 　 否 や やまだ|からだ|||||あかい|はんてん||||||いな|

ないで あり ん す

≪（ 野 風 ） お 武家 の お ひ い 様 → の|かぜ||ぶけ|||||さま

よろしゅう お ざん す か ？

南方 先生 は 　 いらっしゃら ない ようであり ん す が なんぽう|せんせい|||||||

（ 咲 ） 急に 医学 館 に 伺わ ねば なら ぬ 用 が おでき に なった ようで さ|きゅうに|いがく|かん||うかがわ||||よう|||||

今日 は 　 私 ども で 下調べ を と いう こと に なり ました きょう||わたくし|||したしらべ|||||||

（ 野 風 ） せっかく 南方 先生 に 拝ま して やろう と 思い ん した のに の|かぜ||なんぽう|せんせい||おがま||||おもい|||

（ 野 風 ） 始め ておくれな ん し の|かぜ|はじめ|||

はい 　 で は まず いく つ か お伺い し ます が |||||||おうかがい|||

何 か ？ なん|

うらやましくて

お 武家 の お ひ い 様 が ？→ |ぶけ|||||さま|

あ ちき なぞ の 何 を ？ ||||なん|

顔 が … かお|

顔 ？ かお

それ は そう と 　 近頃 　 市中 に → ||||ちかごろ|しちゅう|

このような 物 が 出回って おる |ぶつ||でまわって|

ここ に は このような こと が 書いて ある → ||||||かいて|

「 南方 医師 の 出所 　 一切 が 謎 」 なんぽう|いし||しゅっしょ|いっさい||なぞ

「 どこ で 医術 を 身 に 付けた の かも 不明である 」 と ||いじゅつ||み||つけた|||ふめいである|

医学 所 は 　 ご 公 儀 の 施設 いがく|しょ|||おおやけ|ぎ||しせつ

公 の 場所 に 身元 不明 の 者 が いる と すれば 　 これ は ゆゆしき こと おおやけ||ばしょ||みもと|ふめい||もの||||||||

多紀 家 は 　 お上 に さまざま 上申 する の が 　 お 役目 たき|いえ||おかみ|||じょうしん|||||やくめ

ひと つ 　 素性 を 教えて いただき たい ||すじょう||おしえて||

ああ …

えっ と の う 　 玄 孝 ||||げん|こう

南方 殿 は 　 記憶 を 失って おら れる のです なんぽう|しんがり||きおく||うしなって|||の です

お 尋ね に なって も 詮 無い こと か と |たずね||||せん|ない|||

医学 所 で は 　 記憶 が あいまいな 者 に 医術 を 教え させて おる と いう の か いがく|しょ|||きおく|||もの||いじゅつ||おしえ|さ せて|||||

しかし 　 医術 の 記憶 は 確かで ございます 故 |いじゅつ||きおく||たしかで||こ

確かである と いう 証拠 は どこ に ある のじゃ ！？ たしかである|||しょうこ|||||

それ は … ≪（ 龍 馬 ） そりゃ あ 　 先生 ||りゅう|うま|||せんせい

ご 公 儀 の 秘密 っ ちゅうもん ぜ よ |おおやけ|ぎ||ひみつ||||

ご 公 儀 の 秘密 ！？ |おおやけ|ぎ||ひみつ

にらま れて も 困る ぜ よ |||こまる||

ご 公 儀 の 秘密な ん じゃき |おおやけ|ぎ||ひみつな||

にらむ が じゃ ったら 上 様 を に らん じょ き ||||うえ|さま|||||

あり え ん ！ 幕府 の 医術 の こと で |||ばくふ||いじゅつ|||

私 の 耳 に 入ら ぬ こと など そう であろう 　 玄 孝 ！ わたくし||みみ||はいら||||||げん|こう

あ ッ 　 う ～

バカ 者 　 腹痛 ぐらい で 大騒ぎ する な ばか|もの|ふくつう|||おおさわぎ||

腹 が 　 腹 が … ただ の 腹痛 で は ない かも しれ ない はら||はら||||ふくつう||||||

すいません 　 失礼 し ます |しつれい||

ダー ！ 硬い な 　 ディファンス も 強い |かたい||||つよい

横 に なって いただけ ます か ？ 硬い が か よこ||||||かたい||

腹 の 上部 が 　 しくしく 痛んだり はら||じょうぶ|||いたんだり

さしこんだり した こと あり ませ ん か ？

ただ の 腹痛 で は ない の か ？ ||ふくつう|||||

胃 潰瘍 穿 孔 で は ない か と 思わ れ ます い|かいよう|うが|あな||||||おもわ||

胃 に 穴 が あいて 　 内容 物 が もれて しまって る んです い||あな|||ないよう|ぶつ|||||ん です

胃 の 腑 に 穴 ！？ で は 　 助から ん で は ない か い||ふ||あな|||たすから|||||

はい 　 このまま 放置 すれば 腹膜炎 と いう 病気 に 進行 して ||ほうち||ふくまくえん|||びょうき||しんこう|

手遅れに なり ます 信じ られ ん ておくれに|||しんじ||

外 から 触った だけ で どうして 分かる のだ ！？ がい||さわった||||わかる|

分かる が じゃ わかる||

手術 して も いい です か ？ しゅじゅつ|||||

どこ を 手術 する と いう のだ ！？ ||しゅじゅつ||||

腹 を 切って 　 胃 の 穴 を ふさぎ ます はら||きって|い||あな|||

腹 を 切る ！？ はら||きる

腹 など 切ら れて は 　 死 … はら||きら|||し

動か ないで ください かまわ ん 　 先生 うごか|||||せんせい

やれ はい

（ 福田 が うめいて いる ） ふくた|||

殺さ れ そうで んな ええ 　 敵 だらけ です ころさ||そう で|||てき||

龍 馬 さん 　 この 机 　 寄せて 布 を かけて ください りゅう|うま|||つくえ|よせて|ぬの|||

≪（ 龍 馬 ） 先生 　 ここ で ええ かえ ？ はい りゅう|うま|せんせい|||||

点滴 の 用意 　 お 願い し ます てんてき||ようい||ねがい||

はい

（ 佐分利 ） ちょっと ！ さぶり|

お 願い です 手術 を 取りやめて ください |ねがい||しゅじゅつ||とりやめて|

腹 を 切って 　 生きて い られる わけ が ございませ ん はら||きって|いきて||||||

お 主 が 死んだら |おも||しんだら

私 も 　 ここ で 腹 を 切る わたくし||||はら||きる

そう なったら 　 手術 を 許した 私 の 責任 で も ある から な ||しゅじゅつ||ゆるした|わたくし||せきにん|||||

私 ごとき に … わたくし||

もったいなき お 言葉 ||ことば

どうにでも 　 料理 する が よい |りょうり|||

ただし 　 私 を 殺したら |わたくし||ころしたら

お 主 も 　 お上 から 裁き を 受ける |おも||おかみ||さばき||うける

麻酔 を 始め ます ますい||はじめ|

（ 医者 Ａ ） もしも の 場合 は 元 えん 先生 が 腹 を ！？ いしゃ||||ばあい||もと||せんせい||はら|

（ 医者 Ｂ ） そのような こと に なれば 奴 ら の 腹 を 　 か っ さばいて くれる わ いしゃ||||||やつ|||はら||||||

こっち まで 　 胃 の 腑 に 穴 が あき そう ぜ よ ||い||ふ||あな|||||

何 でしょう な 　 あれ は ？ なん||||

手術 用 の ゴム 手袋 です しゅじゅつ|よう||ごむ|てぶくろ|

外科 道具 屋 さん に 行って 作って もらった んです げか|どうぐ|や|||おこなって|つくって||ん です

体 内 に 　 微 生物 や 　 細菌 が 進入 する の を 防ぐ んです からだ|うち||び|せいぶつ||さいきん||しんにゅう||||ふせぐ|ん です

麻酔 の 導入 　 終わり ました ますい||どうにゅう|おわり|

では 　 開腹 し ます |かいふく||

腹 膜 を 切開 し ます はら|まく||せっかい||

咲 さ ん 　 コッヘル かん 子 で 　 私 と 交互に 　 腹 膜 を 持ち上げて ください さ|||||こ||わたくし||こうごに|はら|まく||もちあげて|

腹腔 内 臓器 と 　 腹 膜 を 離し ながら 切って いく んです ふっこう|うち|ぞうき||はら|まく||はなし||きって||ん です

はい

すいません

大丈夫です か ？ だいじょうぶ です|

大丈夫です だいじょうぶ です

あった

かなり 大きい な |おおきい|

咲 さ ん さ||

佐分利 先生 　 生理 的 食塩 水 を さぶり|せんせい|せいり|てき|しょくえん|すい|

はい

私 が 咲 さん は 　 下がって いて ください わたくし||さ|||さがって||

初めて 内臓 を 見て 　 平気で いろ と いう 方 が 　 むちゃな 話 です はじめて|ないぞう||みて|へいきで||||かた|||はなし|

無神経でした もう 平気です から むしんけいでした||へいき です|

すいません 　 患者 の ため に |かんじゃ|||

手術 時間 は できる だけ 短く し たい んです しゅじゅつ|じかん||||みじかく|||ん です

次の ため に よく 見て おいて ください つぎの||||みて||

はい

この 穴 を 　 どう やって ふさぐ んで っか ？ |あな||||||

胃 の 下 に ある 　 この 大 網 と いう 脂肪 の 網 を 使って 　 ふさぎ ます い||した||||だい|あみ|||しぼう||あみ||つかって||

そんな こと して 平気な んで っか ？ |||へいきな||

たくさん ある んで 大丈夫な んです よ |||だいじょうぶな|ん です|

信じ られ ぬ このような こと を して 死な ぬ と は しんじ|||||||しな|||

（ 医師 Ａ ） 何の ご用 でしょう か ？ いし||なんの|ごよう||

（ 同 心 ） 実は 　 お 聞き し たい こと が あり まして どう|こころ|じつは||きき||||||

それ は 一大事 ||いちだいじ

（ 医師 Ｂ ） 伊東 先生 に も お 伝え せ ねば いし||いとう|せんせい||||つたえ||

（ 龍 馬 ） あけて くれ 　 すま ん のう りゅう|うま|||||

（ 医者 Ａ ） 元 えん 先生 　 福田 先生 は ！？ いしゃ||もと||せんせい|ふくた|せんせい|

手術 と やら は 　 成功 した しゅじゅつ||||せいこう|

正確に は まだ 成功 した と は 言え ませ ん せいかくに|||せいこう||||いえ||

経過 を 見て 　 ドレーン を 抜き 　 抜 糸 を する と いう 処置 が 残って ます けいか||みて|||ぬき|ぬき|いと|||||しょち||のこって|

う めいちゅう のう

「 南方 大 明神 」 なんぽう|だい|みょうじん

≪（ 禿 ） 花魁 　 入り や ん す はげ|おいらん|はいり|||

あい

≪（ 佐分利 ） しか し 　 先生 は 肝 が 据わって まん な さぶり|||せんせい||かん||すわって||

あんな 中 で 　 よう 淡々と 手術 を |なか|||たんたんと|しゅじゅつ|

佐分利 先生 こそ 　 初めて 内臓 を 見た 人間 に は 思え ませ ん でした よ さぶり|せんせい||はじめて|ないぞう||みた|にんげん|||おもえ||||

え ッ …

初めて じゃ ない んです か ？ はじめて|||ん です|

は あ 　 まあ

佐分利 殿 の メス が 　 殺さ れた 女 郎 の 部屋 より 見つかった と さぶり|しんがり||めす||ころさ||おんな|ろう||へや||みつかった|

≪（ 玄 朴 ） 入り ます ぞ げん|ぼく|はいり||

伊東 先生 いとう|せんせい

医学 所 の 一大事 と 聞きつけ 老婆 心 ながら いがく|しょ||いちだいじ||ききつけ|ろうば|こころ|

私 は 　 隠居 の 身 故 　 こちら で わたくし||いんきょ||み|こ||

もう 一 度 聞く |ひと|たび|きく

この メス は 　 お 主 の 物 である な ？ |めす|||おも||ぶつ||

腑分 け を して おり ました ！ ふぶん|||||

これ を 　 お 読み ください |||よみ|

その 女 郎 の 病 を 時々 診て おり ました |おんな|ろう||びょう||ときどき|みて||

薬 礼 も でき ぬ 身の上 故 死後 　 腑分 け を し → くすり|れい||||みのうえ|こ|しご|ふぶん|||

それ で 払った こと に して くれ と ||はらった|||||

誓って 殺 め たり は して おり ませ ん ！ ちかって|ころ|||||||

近所 の 女 郎 から も 　 つう が 生前 きんじょ||おんな|ろう|||||せいぜん

通い の 医者 に 　 何 か の 形 で 礼 を し たい と 　 もらして いた と の かよい||いしゃ||なん|||かた||れい||||||||

証言 も 得て おる が こういう 次第 であった か しょうげん||えて||||しだい||

はい

遺体 の そば に 　 焼香 した 跡 が あった と いう 　 あれ も 　 お 主 か ？ いたい||||しょうこう||あと||||||||おも|

はい 　 葬式 を 出す わけに は いきま せ ぬ ので 　 せめて と |そうしき||だす||||||||

しかし 　 人殺し で は なかった と いう もの の |ひとごろし|||||||

本来 　 腑分 け は お上 に 申し出た うえ で 行う もの ほんらい|ふぶん|||おかみ||もうしでた|||おこなう|

さりとて 　 取り立てて お 沙汰 に なる ような こと でも |とりたてて||さた|||||

ご 公 儀 の 医学 所 の 者 が |おおやけ|ぎ||いがく|しょ||もの|

無断 で 　 腑分 け を 行った と あって は 　 示し が つか ん むだん||ふぶん|||おこなった||||しめし|||

誰 か が 　 責任 を 取ら ねば なら ぬ と いう こと じゃ だれ|||せきにん||とら|||||||

そんな 　 熱心な 医者 なら |ねっしんな|いしゃ|

腑分 け なんて 隠れて 　 いくら でも やって る や お ま へんか ふぶん|||かくれて||||||||

まして 墓 荒し した わけで も ない のに → |はか|あらし|||||

とがめ 立て さ れる なんて 聞いた こと お ま へんで |たて||||きいた||||

大体 　 こう で も せ ん と 腑分 け なんか でき ん でしょう だいたい|||||||ふぶん|||||

お上 の 許す 腑分 け は 一 年 に 　 二 つ 三 つ で っせ おかみ||ゆるす|ふぶん|||ひと|とし||ふた||みっ|||

そんな もん で 　 どう やって 医術 学べ いう んで っか |||||いじゅつ|まなべ|||

そんな ん じゃ

いつまで たって も 南方 先生 の 神 が かった 医術 に |||なんぽう|せんせい||かみ|||いじゅつ|

追いつく こと なんか で きや しま へんで おいつく||||||

それ で 　 ええ んで っか ！

（ 玄 朴 ） さて 　 どう し ます か な ？ げん|ぼく||||||

弟子 の 不明 は 　 私 の 不明 でし||ふめい||わたくし||ふめい

佐分利 ともども 　 身 を 引か … さぶり||み||ひか

緒方 先生 ！　 私 は 医術 の ため に やった ので ございます おがた|せんせい|わたくし||いじゅつ||||||

国 の ため 　 道 の ため ！ くに|||どう||

お前 の 言う 道 と は 自分 の ため だけ の 道 や ！ おまえ||いう|どう|||じぶん|||||どう|

道 を 開く と 言う ならば どう||あく||いう|

お前 は 　 堂々と 「 腑分 け は す べし 」 と おまえ||どうどうと|ふぶん|||||

そう 叫ぶ べき やった ん や ない か |さけぶ||||||

そんな こと やった って …

玄 朴 先生 も 　 私 も げん|ぼく|せんせい||わたくし|

「 人殺し 」「 出て いけ 」 と 石 を 投げつけ られ ながら → ひとごろし|でて|||いし||なげつけ||

種痘 と いう 道 を 開いて き ました しゅとう|||どう||あいて||

いや 　 この 医学 所 も 　 玄 朴 先生 ら が ||いがく|しょ||げん|ぼく|せんせい||

私財 を 投げうって つくった もん や しざい||なげうって|||

道 を 開く と いう こと は な どう||あく|||||

自分 だけ の 逃げ道 を つくる こと や ない ！ じぶん|||にげみち|||||

松本 先生 まつもと|せんせい

玄 朴 先生 げん|ぼく|せんせい

残り まし たる 弟子 と のこり|||でし|

南方 先生 を なんぽう|せんせい|

よろしく お 願い いたし ます ||ねがい||

分かって おる わかって|

お前 の 望み と あれば いか な 無理 も かなえよう ぞ おまえ||のぞみ|||||むり|||

ならば

あ ちき を 　 お 斬り ください なん し ||||きり|||

さすれば 　 大 門 を 出て ゆける であり ん しょう |だい|もん||でて||||

戯れ であり ん す たわむれ|||

〈 もし 　 俺 が 医学 所 で ペニシリン を 　 つくったり し なければ 〉 |おれ||いがく|しょ||||||

〈 佐分利 先生 や 　 緒方 先生 は 〉 さぶり|せんせい||おがた|せんせい|

〈 こんな こと に なった んだろう か 〉

南方 先生 なんぽう|せんせい

はい

あの 　 私 で よければ お 話し して ください ませ ん か ？ |わたくし||||はなし|||||

大した こと は でき ぬ と 思い ます が たいした||||||おもい||

先生 の ご 事情 も 心得て おり ます せんせい|||じじょう||こころえて||

物 言わ ぬ 写真 と やら に 問いかける より は ぶつ|いわ||しゃしん||||といかける||

すいません 　 出 過ぎた こと を |だ|すぎた||

違う んです ちがう|ん です

咲 さん の おっしゃる こと は もっともだ なって さ|||||||

向こう に いる とき も むこう||||

もう 　 ずっと 話さ ない 相手 に 話しかけて いた もん です から ||はなさ||あいて||はなしかけて||||

癖 な んです ね くせ||ん です|

いい 大人 が 　 恥ずかしい です |おとな||はずかしい|

すいません

〈 確かに 君 に 答え を 求める こと は でき ない 〉 たしかに|きみ||こたえ||もとめる||||

〈 それ に 　 写真 に 写る 君 が よく なって い そうだ から と いって 〉 ||しゃしん||うつる|きみ|||||そう だ|||

〈 今 　 ここ に いる 人 達 の 明日 を 〉 いま||||じん|さとる||あした|

〈 踏みにじって いい と いう 理屈 は 成り立た ない 〉 ふみにじって||||りくつ||なりたた|

〈 これ は 　 恐らく 俺 の 招いた 歴史 の 混乱 だ 〉 ||おそらく|おれ||まねいた|れきし||こんらん|

≪（ 玄 朴 ） で は 　 お 主 が 辞める と 申す の か ！？ げん|ぼく||||おも||やめる||もうす||

はい 　 以前 　 佐分利 先生 に |いぜん|さぶり|せんせい|

言って しまった こと を 思い出した んです いって||||おもいだした|ん です

医術 を 志す なら いじゅつ||こころざす|

まずは 　 体 を 知れ と |からだ||しれ|

私 が 　 たきつけた ような もの です わたくし|||||

ですから 　 佐分利 先生 の こと は お 許し いただけ ない でしょう か ？ |さぶり|せんせい|||||ゆるし||||

南方 先生 … 奉行 所 の 方 に は なんぽう|せんせい|ぶぎょう|しょ||かた||

今回 の 件 は 　 私 が 元凶 であった と 申し出 ます こんかい||けん||わたくし||げんきょう|||もうしで|

えたいの知れない 私 が 扇動 した と なれば えたいのしれない|わたくし||せんどう|||

医学 所 は 責 め を 負う こと は ない でしょう し いがく|しょ||せき|||おう|||||

確かに たしかに

それ なら 傷 は つか ぬ が ||きず||||

では 　 そういう 形 で ||かた|

≪（ 洪 庵 ） いや 　 それ は なり ませ ぬ ひろし|いおり||||||

先生 は 　 ここ に 残る べきです せんせい||||のこる|べき です

それ が 　 国 の ため 道 の ため で ございます ||くに|||どう||||

緒方 先生 が ここ に いらっしゃる こと こそ が おがた|せんせい|||||||

国 の ため 　 道 の ため です くに|||どう|||

予想 です が 　 ほうっておいて も よそう||||

医療 技術 や 薬 は 進化 する と 思い ます いりょう|ぎじゅつ||くすり||しんか|||おもい|

分かり やすく 利益 に なる もの に は わかり||りえき|||||

人 は 皆 　 飛びつき ます じん||みな|とびつき|

それ は 　 とても 簡単な こと です |||かんたんな||

ですが 　 石 を 投げ られ |いし||なげ|

私財 を 投げうって でも しざい||なげうって|

人 を 助け たい と 願う 医 の 心 を 伝えて いく こと は じん||たすけ|||ねがう|い||こころ||つたえて|||

とても 難しい こと だ と 思い ます |むずかしい||||おもい|

ペニシリン は どう なる ので ございます か ？

製造 は 　 緒方 先生 が 続けて くださる そうです せいぞう||おがた|せんせい||つづけて||そう です

先生 せんせい

何で あんな こと を ？ なんで|||

あんな こと 聞いた こと お ま へんで ||きいた||||

いい んです よ 　 私 は |ん です||わたくし|

私 は わたくし|

何 が 　 どう ええ が じゃ なん|||||

ここ に おれば その 医術 を 広める こと も ||||いじゅつ||ひろめる||

いくら でも できる が じゃ ろう

それ を 　 嘘 を つき ||うそ||

あり も せ ん 責 め を 負い ||||せき|||おい

どこ を 　 どう 押したら そんな 理屈 に なる ぜ よ |||おしたら||りくつ||||

どうした ん です か ？ 先生 に は ||||せんせい||

欲 っ ちゅう もの が まったく 見 えんぜよ よく||||||み|

欲 ？ お うよ よく||

人間 は 　 欲 深い 生き もん じゃ にんげん||よく|ふかい|いき||

国 の ため なら 　 死 ぬる こと が できる っ ちゅう 志士 も くに||||し|||||||しし|

人 の ため に 生きる とほ ざ く 医者 も じん||||いきる||||いしゃ|

ひと 皮 むけば 成り 上がり たい 　 金 が ほしい |かわ||なり|あがり||きむ||

名 を 残した いっち ゅう 欲 で 　 がんじがらめ じゃ な||のこした|||よく|||

わし じゃ ち 　 そう じゃ

頼ま れ も せ ん のに この 日 の 本 の 国 を たのま|||||||ひ||ほん||くに|

もっと ええ 国 に し たい と 思う ち ょる が は ||くに|||||おもう||||

生まれて きた からに は うまれて|||

何 か やって やり たい っ ちゅう 欲 から じゃ なん|||||||よく||

けん ど 　 その 欲 が あるき |||よく||

わしゃ 　 進んで いける |すすんで|

欲 は 　 生きる 源 じゃ よく||いきる|げん|

じゃ が 　 先生 の やっ ちょ る こと は ||せんせい||||||

まるで 　 仏 じゃ |ふつ|

もし 人 である ならば |じん||

死人 じゃ しにん|

死人 … しにん

わしゃ 心配な ん ぜ よ |しんぱいな|||

何の 欲 も の うて 殺さ れる っ ちゅう て も なんの|よく||||ころさ|||||

ポカーン と しちゅう 先生 が |||せんせい|

いつか 命 さえ 「 はい 　 そう です か 」 ちゅう て |いのち|||||||

ポーン と 　 ほうり出し そうで ||ほうりだし|そう で

〈 この とき 　 初めて 分かった んだ 〉 ||はじめて|わかった|

〈 俺 に は この 世界 に 対する 執着 が ない 〉 おれ||||せかい||たいする|しゅうちゃく||

《 緒方 先生 が ここ に いらっしゃる こと こそ が 》 おがた|せんせい|||||||

《 国 の ため 　 道 の ため です 》 くに|||どう|||

〈 だ から 　 私心 など ない ような 〉 ||ししん|||

〈 仏 の ような こと が できる けど 〉 ふつ||||||

〈 だからこそ 　 きっと 〉

〈 何ひとつ 　 リアルに 感じ られ ない んだ 〉 なにひとつ|りあるに|かんじ|||

〈 俺 は 　 もう 本当に 〉 おれ|||ほんとうに

〈 死んで いる の かも しれ ない な 〉 しんで||||||

ああ 　 格別じゃ のう |かくべつじゃ|

医術 を 学んで も 他の 皆様 に は かなわ ず いじゅつ||まなんで||たの|みなさま||||

そば に いた とて その お 心 ひと つ 分から ず ||||||こころ|||わから|

私 は わたくし|

何の ため に いる のでしょう なんの||||

《 ご 公 儀 の 秘密 っ ちゅうもん ぜ よ 》 |おおやけ|ぎ||ひみつ||||

役立た ず は 　 私 も 同じだ やくだた|||わたくし||おなじだ

あの 男 が いる かぎり |おとこ|||

我々 は 　 滅びる われわれ||ほろびる

南方 先生 の 噂 を ？ なんぽう|せんせい||うわさ|

（ 新 造 ） あい 　 夏 屋 で お 医者 様 と 思わ れる しん|つく||なつ|や|||いしゃ|さま||おもわ|

坊主 頭 の お 客 さん 達 が 南方 先生 の こと を 話して … ぼうず|あたま|||きゃく||さとる||なんぽう|せんせい||||はなして

誰 が 　 どんな こと を 言 いん した と ！？ だれ|||||げん|||

「 南方 は 　 化け物 だ 」 なんぽう||ばけもの|

「 医学 界 の ため に も 斬る しか ない 」 って いがく|かい|||||きる|||

花魁 　 どこ へ ？ おいらん||

私 に で ございます か ？ わたくし||||

へえ

母上 　 南方 先生 は ？ ははうえ|なんぽう|せんせい|

（ 栄 ） お出かけ に なら れ ました が さかい|おでかけ|||||

兄 上 は 　 ご 一緒でした か ？ あに|うえ|||いっしょでした|

先生 から 　 さすが に もう よい と 断ら れて おり ました せんせい|||||||ことわら|||

（ 野 風 ）「 咲 様 　 どこ の 誰 と 」 の|かぜ|さ|さま|||だれ|

「 定かに は 分かり ませ ぬ が 」 さだかに||わかり|||

「 南方 先生 は 」 なんぽう|せんせい|

「 お 命 を 　 狙わ れて おり ん す 」 |いのち||ねらわ||||

「 けん ど 　 あ ちき は 」

「 吉原 から 一 歩 も 出る こと を 許さ れ ぬ 　 かご の 鳥 」 よしはら||ひと|ふ||でる|||ゆるさ|||||ちょう

「 あなた 様 に おす が りする しか 　 あ りんせん 」 |さま|||||||

こちら へ ！

「 咲 様 は 　 あ ちき を 　 うらやましい と おっしゃった けん ど 」 さ|さま|||||||||

「 あ ちき は 　 咲 様 が うらやましい 」 |||さ|さま||

「 野 の 花 の ような 風情 も 」 の||か|||ふぜい|

「 けがれ を 知ら ぬ まっすぐな お 心 も 」 ||しら||||こころ|

「 そして 　 何より 」 |なにより

「 その 身の上 が 」 |みのうえ|

「 例えば 　 咲 様 は 」 たとえば|さ|さま|

「 好いた お方 の お そば に 」 すいた|おかた||||

「 己 の 足 で 　 向かう こと が できる のであり ん しょう 」 おのれ||あし||むかう||||||

こちら へ ！

「 あ ちき に は かなわ ぬ 夢 で お ざん す 」 ||||||ゆめ||||

「 咲 様 」 さ|さま

「 どうか 」

「 先生 を 　 お守り くだ さいなん し 」 せんせい||おもり|||

覚悟 ！ かくご

キャー ！ うわ ～！

≪（ 男 ） 何 奴 　 くせ者 ！ おとこ|なん|やつ|くせもの

行った ようで ございます おこなった||

先生 ？ せんせい

私 は 　 ここ は 夢 の 中 で わたくし||||ゆめ||なか|

もしかしたら

死ぬ の も 平気 か って 思って た んです しぬ|||へいき|||おもって||ん です

でも

震えて ます ふるえて|

怖かった こわかった

あたりまえです ！ あたりまえ です

先生 は 生きて おら れる のです から せんせい||いきて|||の です|

死んで も 平気 なんて 　 二度と しんで||へいき||にどと

そう です よ ね

私 は わたくし|

ここ で 生きて る んです よ ね ||いきて||ん です||

ありがとう ございます 　 咲 さ ん ||さ||

ありがとう ！

いえ

お礼 なら お れい|

野 風 さん に の|かぜ||

野 風 さん ？ の|かぜ|

「 無事 　 一命 を 取り留め ました 」 ぶじ|いちめい||とりとめ|

「 心 より 　 お 礼 申し上げ ます 」 こころ|||れい|もうしあげ|

「 南方 仁 」 なんぽう|しとし

何やら 　 吹っ切れた 顔 を して いる で は ないで す か なにやら|ふっきれた|かお||||||||

らち の あか ぬ こと を 悩む の は やめた のです ||||||なやむ||||の です

（ 橘 ） 小さい 器 に は 少し の 酒 しか つげ ぬ たちばな|ちいさい|うつわ|||すこし||さけ|||

生まれ 持った 器 と いう の は いかん と も し がたい の かも な うまれ|もった|うつわ||||||||||||

（ 初音 ） 小さな 杯 も よき もの であり ん すよ はつね|ちいさな|さかずき||||||

大きな 杯 に は すぐ 酒 が なくなって しまい ん す おおきな|さかずき||||さけ|||||

お 主 　 よく 見え ぬ の か ？ |おも||みえ|||

お 待ち ください ！ |まち|

南方 先生 に 　 刺客 を 送った の は お まん ら じゃ ろう ！ なんぽう|せんせい||しかく||おくった|||||||

確かに 　 あの 男 は 恐ろしい たしかに||おとこ||おそろしい

あの 医術 が 広まれば |いじゅつ||ひろまれば

我ら は 　 腐った ぬか の ように 捨て られる であろう われら||くさった|||よう に|すて||

だが 　 この 元 えん ||もと|

多紀 一族 に 生まれ たき|いちぞく||うまれ

医師 と して の 誇り を 持って 生きて きた いし||||ほこり||もって|いきて|

己 の 身 を 守る ため に 人 の 命 を 奪おう と は 思わ ん ！ おのれ||み||まもる|||じん||いのち||うばおう|||おもわ|

じゃ が 　 ほ いたら

むしろ 　 同じ 蘭 方 医 の 方 が → |おなじ|らん|かた|い||かた|

よほど 恐ろしい ので は ない の か ？ |おそろしい|||||

これ は …

≪（ 佐分利 ） あの とき は 言え ま へんでした が → さぶり||||いえ|||

私 の メス も 誰 か が 盗み 　 わざと 置いた もの と しか 思え へん のです わたくし||めす||だれ|||ぬすみ||おいた||||おもえ||の です

南方 先生 を 襲った の も 　 これ も なんぽう|せんせい||おそった||||

もしかしたら 全て 医学 所 内 の や から の 仕業 で は |すべて|いがく|しょ|うち|||||しわざ||

（ 咳 ） せき

先生 せんせい

大丈夫 や だいじょうぶ|

この こと は 　 全て 私 に 任せ なさい |||すべて|わたくし||まかせ|

一 歩 　 後退 って ことか ひと|ふ|こうたい||

（ 咳 ） せき

（ 洪 庵 ） 私 に は ひろし|いおり|わたくし||

時間 が ない じかん||

「 平成 二十二 年 」 へいせい|にじゅうに|とし