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こころ - 夏目漱石 - Soseki Project, Section 027 - Kokoro - Soseki Project

Section 027 - Kokoro - Soseki Project

十四

年 の 若い 私 は やや ともすると 一 図 に なり やすかった 。 少なくとも 先生 の 眼 に は そう 映って いた らしい 。 私 に は 学校 の 講義 より も 先生 の 談話 の 方 が 有益な のであった 。 教授 の 意見 より も 先生 の 思想 の 方 が 有難い のであった 。 と どの 詰まり を いえば 、 教壇 に 立って 私 を 指導 して くれる 偉い 人々 より も ただ 独り を 守って 多く を 語ら ない 先生 の 方 が 偉く 見えた のであった 。

「 あんまり 逆上 ちゃ いけません 」 と 先生 が いった 。 「 覚めた 結果 と して そう 思う んです 」 と 答えた 時 の 私 に は 充分 の 自信 が あった 。 その 自信 を 先生 は 肯 がって くれ なかった 。

「 あなた は 熱 に 浮かされて いる のです 。 熱 が さめる と 厭 に なります 。 私 は 今 の あなた から それほど に 思わ れる の を 、 苦しく 感じて います 。 しかし これ から 先 の あなた に 起る べき 変化 を 予想 して 見る と 、 なお 苦しく なります 」 「 私 は それほど 軽薄に 思われて いる んです か 。 それほど 不信 用 な んです か 」

「 私 は お 気の毒に 思う のです 」

「 気の毒だ が 信用 さ れ ない と おっしゃる んです か 」

先生 は 迷惑 そうに 庭 の 方 を 向いた 。 その 庭 に 、 この 間 まで 重 そうな 赤い 強い 色 を ぽたぽた 点じて いた 椿 の 花 は もう 一 つ も 見え なかった 。 先生 は 座敷 から この 椿 の 花 を よく 眺める 癖 が あった 。

「 信用 し ないって 、 特に あなた を 信用 し ない んじゃ ない 。 人間 全体 を 信用 し ない んです 」

その 時 生垣 の 向 うで 金魚 売り らしい 声 が した 。 その 外 に は 何の 聞こえる もの も なかった 。 大通り から 二 丁 も 深く 折れ 込んだ 小 路 は 存外 静かであった 。 家 の 中 は いつも の 通り ひっそり して いた 。 私 は 次の 間 に 奥さん の いる 事 を 知っていた 。 黙って 針 仕事 か 何 か して いる 奥さん の 耳 に 私 の 話し声 が 聞こえる と いう 事 も 知っていた 。 しかし 私 は 全く それ を 忘れて しまった 。

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Section 027 - Kokoro - Soseki Project Abschnitt 027 - Projekt Kokoro - Soseki Section 027 - Kokoro - Soseki Project Sekcja 027 - Projekt Kokoro - Soseki 第027節-心-漱石計劃

十四 じゅうよん

年 の 若い 私 は やや ともすると 一 図 に なり やすかった 。 とし||わかい|わたくし||||ひと|ず||| As a young man, it was easy for me to become a figure. 少なくとも 先生 の 眼 に は そう 映って いた らしい 。 すくなくとも|せんせい||がん||||うつって|| 私 に は 学校 の 講義 より も 先生 の 談話 の 方 が 有益な のであった 。 わたくし|||がっこう||こうぎ|||せんせい||だんわ||かた||ゆうえきな| 教授 の 意見 より も 先生 の 思想 の 方 が 有難い のであった 。 きょうじゅ||いけん|||せんせい||しそう||かた||ありがたい| と どの 詰まり を いえば 、 教壇 に 立って 私 を 指導 して くれる 偉い 人々 より も ただ 独り を 守って 多く を 語ら ない 先生 の 方 が 偉く 見えた のであった 。 ||つまり|||きょうだん||たって|わたくし||しどう|||えらい|ひとびと||||ひとり||まもって|おおく||かたら||せんせい||かた||えらく|みえた|

「 あんまり 逆上 ちゃ いけません 」 と 先生 が いった 。 |ぎゃくじょう||||せんせい|| 「 覚めた 結果 と して そう 思う んです 」 と 答えた 時 の 私 に は 充分 の 自信 が あった 。 さめた|けっか||||おもう|ん です||こたえた|じ||わたくし|||じゅうぶん||じしん|| When I answered, "I think so as a result of waking up," I was confident enough. その 自信 を 先生 は 肯 がって くれ なかった 。 |じしん||せんせい||こう|||

「 あなた は 熱 に 浮かされて いる のです 。 ||ねつ||うかされて||の です 熱 が さめる と 厭 に なります 。 ねつ||||いと|| 私 は 今 の あなた から それほど に 思わ れる の を 、 苦しく 感じて います 。 わたくし||いま||||||おもわ||||くるしく|かんじて| しかし これ から 先 の あなた に 起る べき 変化 を 予想 して 見る と 、 なお 苦しく なります 」 |||さき||||おこる||へんか||よそう||みる|||くるしく| 「 私 は それほど 軽薄に 思われて いる んです か 。 わたくし|||けいはくに|おもわれて||ん です| それほど 不信 用 な んです か 」 |ふしん|よう||ん です|

「 私 は お 気の毒に 思う のです 」 わたくし|||きのどくに|おもう|の です

「 気の毒だ が 信用 さ れ ない と おっしゃる んです か 」 きのどくだ||しんよう||||||ん です|

先生 は 迷惑 そうに 庭 の 方 を 向いた 。 せんせい||めいわく|そう に|にわ||かた||むいた その 庭 に 、 この 間 まで 重 そうな 赤い 強い 色 を ぽたぽた 点じて いた 椿 の 花 は もう 一 つ も 見え なかった 。 |にわ|||あいだ||おも|そう な|あかい|つよい|いろ|||てんじて||つばき||か|||ひと|||みえ| 先生 は 座敷 から この 椿 の 花 を よく 眺める 癖 が あった 。 せんせい||ざしき|||つばき||か|||ながめる|くせ||

「 信用 し ないって 、 特に あなた を 信用 し ない んじゃ ない 。 しんよう|||とくに|||しんよう|||| 人間 全体 を 信用 し ない んです 」 にんげん|ぜんたい||しんよう|||ん です

その 時 生垣 の 向 うで 金魚 売り らしい 声 が した 。 |じ|いけがき||むかい||きんぎょ|うり||こえ|| その 外 に は 何の 聞こえる もの も なかった 。 |がい|||なんの|きこえる||| 大通り から 二 丁 も 深く 折れ 込んだ 小 路 は 存外 静かであった 。 おおどおり||ふた|ちょう||ふかく|おれ|こんだ|しょう|じ||ぞんがい|しずかであった 家 の 中 は いつも の 通り ひっそり して いた 。 いえ||なか||||とおり||| 私 は 次の 間 に 奥さん の いる 事 を 知っていた 。 わたくし||つぎの|あいだ||おくさん|||こと||しっていた I knew that my wife was there during the next time. 黙って 針 仕事 か 何 か して いる 奥さん の 耳 に 私 の 話し声 が 聞こえる と いう 事 も 知っていた 。 だまって|はり|しごと||なん||||おくさん||みみ||わたくし||はなしごえ||きこえる|||こと||しっていた しかし 私 は 全く それ を 忘れて しまった 。 |わたくし||まったく|||わすれて|