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【朗読】声を便りに、声を頼りに, 芥川良之助、鼻

芥川良之助、鼻

鼻 芥川 龍 之介

禅智内供 の 鼻 と 云えば 、 池 の 尾 で 知らない 者 は ない 。

長 さ は 五六 寸 あって 上 唇 の 上 から 顋 の 下 まで 下って いる 。 形 は 元 も 先 も 同じ ように 太い 。 云 わ ば 細長い 腸 詰め の ような 物 が 、 ぶら り と 顔 の まん 中 から ぶら 下って いる のである 。

五十 歳 を 越えた 内 供 は 、 沙 弥 の 昔 から 、 内 道場 供 奉 の 職 に 陞 った 今日 まで 、 内心 で は 始終 この 鼻 を 苦 に 病んで 来た 。

勿論 表面 で は 、 今 でも さほど 気 に なら ない ような 顔 を して すまして いる 。 これ は 専念 に 当 来 の 浄土 を 渇 仰 す べき 僧侶 の 身 で 、 鼻 の 心配 を する の が 悪い と 思った から ばかり で は ない 。 それ より むしろ 、 自分 で 鼻 を 気 に して いる と 云 う 事 を 、 人 に 知ら れる の が 嫌だった から である 。 内 供 は 日常 の 談話 の 中 に 、 鼻 と 云 う 語 が 出て 来る の を 何より も 惧 れて いた 。

内 供 が 鼻 を 持てあました 理由 は 二 つ ある 。

―― 一 つ は 実際 的に 、 鼻 の 長い の が 不便だった から である 。 第 一 飯 を 食う 時 に も 独り で は 食え ない 。 独り で 食えば 、 鼻 の 先 が 鋺 の 中 の 飯 へ とどいて しまう 。 そこ で 内 供 は 弟子 の 一 人 を 膳 の 向 う へ 坐ら せて 、 飯 を 食う 間 中 、 広 さ 一 寸 長 さ 二 尺 ばかりの 板 で 、 鼻 を 持 上げて いて 貰う 事 に した 。 しかし こうして 飯 を 食う と 云 う 事 は 、 持 上げて いる 弟子 に とって も 、 持 上げ られて いる 内 供 に とって も 、 決して 容易な 事 で は ない 。 一 度 この 弟子 の 代り を した 中 童 子 が 、 嚏 を した 拍子 に 手 が ふるえて 、 鼻 を 粥 の 中 へ 落した 話 は 、 当時 京都 まで 喧伝 さ れた 。 ―― けれども これ は 内 供 に とって 、 決して 鼻 を 苦 に 病んだ 重な 理由 で は ない 。 内 供 は 実に この 鼻 に よって 傷つけ られる 自尊心 の ため に 苦しんだ のである 。

池 の 尾 の 町 の 者 は 、 こう 云 う 鼻 を して いる 禅 智 内 供 の ため に 、 内 供 の 俗で ない 事 を 仕 合せ だ と 云 った 。

あの 鼻 で は 誰 も 妻 に なる 女 が ある まい と 思った から である 。 中 に は また 、 あの 鼻 だ から 出家 した のだろう と 批評 する 者 さえ あった 。 しかし 内 供 は 、 自分 が 僧 である ため に 、 幾分 でも この 鼻 に 煩 さ れる 事 が 少く なった と 思って い ない 。 内 供 の 自尊心 は 、 妻 帯 と 云 う ような 結果 的な 事実 に 左右さ れる ため に は 、 余りに デリケイト に 出来て いた のである 。 そこ で 内 供 は 、 積極 的に も 消極 的に も 、 この 自尊心 の 毀損 を 恢復 しよう と 試みた 。

第 一 に 内 供 の 考えた の は 、 この 長い 鼻 を 実際 以上 に 短く 見せる 方法 である 。

これ は 人 の い ない 時 に 、 鏡 へ 向 って 、 いろいろな 角度 から 顔 を 映し ながら 、 熱心に 工夫 を 凝らして 見た 。 どうか する と 、 顔 の 位置 を 換える だけ で は 、 安心 が 出来 なく なって 、 頬杖 を ついたり 頤 の 先 へ 指 を あてがったり して 、 根気 よく 鏡 を 覗いて 見る 事 も あった 。 しかし 自分 でも 満足 する ほど 、 鼻 が 短く 見えた 事 は 、 これ まで に ただ の 一 度 も ない 。 時に よる と 、 苦心 すれば する ほど 、 かえって 長く 見える ような 気 さえ した 。 内 供 は 、 こう 云 う 時 に は 、 鏡 を 箱 へ しまい ながら 、 今更 の ように ため息 を ついて 、 不 承 不 承 に また 元 の 経 机 へ 、 観音 経 を よみ に 帰る のである 。

それ から また 内 供 は 、 絶えず 人 の 鼻 を 気 に して いた 。

池 の 尾 の 寺 は 、 僧 供 講 説 など の しばしば 行わ れる 寺 である 。 寺 の 内 に は 、 僧 坊 が 隙 なく 建て 続いて 、 湯 屋 で は 寺 の 僧 が 日 毎 に 湯 を 沸かして いる 。 従って ここ へ 出入 する 僧 俗 の 類 も 甚だ 多い 。 内 供 は こう 云 う 人々 の 顔 を 根気 よく 物色 した 。 一 人 でも 自分 の ような 鼻 の ある 人間 を 見つけて 、 安心 が し たかった から である 。 だから 内 供 の 眼 に は 、 紺 の 水 干 も 白 の 帷子 も はいら ない 。 まして 柑子 色 の 帽子 や 、 椎 鈍 の 法衣 なぞ は 、 見 慣れて いる だけ に 、 有れ ども 無き が 如く である 。 内 供 は 人 を 見 ず に 、 ただ 、 鼻 を 見た 。 ―― しかし 鍵 鼻 は あって も 、 内 供 の ような 鼻 は 一 つ も 見当ら ない 。 その 見当ら ない 事 が 度重なる に 従って 、 内 供 の 心 は 次第に また 不快に なった 。 内 供 が 人 と 話し ながら 、 思わず ぶら り と 下って いる 鼻 の 先 を つまんで 見て 、 年 甲斐 も なく 顔 を 赤らめた の は 、 全く この 不快に 動かさ れて の 所 為 である 。

最後に 、 内 供 は 、 内 典 外 典 の 中 に 、 自分 と 同じ ような 鼻 の ある 人物 を 見出して 、 せめても 幾分 の 心 やり に しよう と さえ 思った 事 が ある 。

けれども 、 目 連 や 、 舎 利 弗 の 鼻 が 長かった と は 、 どの 経文 に も 書いて ない 。 勿論 竜 樹 や 馬 鳴 も 、 人並の 鼻 を 備えた 菩薩 である 。 内 供 は 、 震 旦 の 話 の 序 に 蜀漢 の 劉 玄 徳 の 耳 が 長かった と 云 う 事 を 聞いた 時 に 、 それ が 鼻 だったら 、 どの くらい 自分 は 心細く なく なる だろう と 思った 。 内 供 が こう 云 う 消極 的な 苦心 を し ながら も 、 一方 で は また 、 積極 的に 鼻 の 短く なる 方法 を 試みた 事 は 、 わざわざ ここ に 云 うま で も ない 。 内 供 は この 方面 でも ほとんど 出来る だけ の 事 を した 。 烏 瓜 を 煎じて 飲んで 見た 事 も ある 。 鼠 の 尿 を 鼻 へ な すって 見た 事 も ある 。 しかし 何 を どうしても 、 鼻 は 依然と して 、 五六 寸 の 長 さ を ぶら り と 唇 の 上 に ぶら下げて いる で は ない か 。

所 が ある 年 の 秋 、 内 供 の 用 を 兼ねて 、 京 へ 上った 弟子 の 僧 が 、 知己 の 医者 から 長い 鼻 を 短く する 法 を 教わって 来た 。

その 医者 と 云 う の は 、 もと 震 旦 から 渡って 来た 男 で 、 当時 は 長 楽 寺 の 供 僧 に なって いた のである 。 内 供 は 、 いつも の ように 、 鼻 など は 気 に かけ ない と 云 う 風 を して 、 わざと その 法 も すぐ に やって 見よう と は 云 わ ず に いた 。 そうして 一方 で は 、 気軽な 口調 で 、 食事 の 度 毎 に 、 弟子 の 手数 を かける の が 、 心苦しい と 云 う ような 事 を 云 った 。 内心 で は 勿論 弟子 の 僧 が 、 自分 を 説伏せて 、 この 法 を 試み させる の を 待って いた のである 。 弟子 の 僧 に も 、 内 供 の この 策略 が わから ない 筈 は ない 。 しかし それ に 対する 反感 より は 、 内 供 の そう 云 う 策略 を とる 心もち の 方 が 、 より 強く この 弟子 の 僧 の 同情 を 動かした のであろう 。 弟子 の 僧 は 、 内 供 の 予期 通り 、 口 を 極めて 、 この 法 を 試みる 事 を 勧め 出した 。 そうして 、 内 供 自身 も また 、 その 予期 通り 、 結局 この 熱心な 勧告 に 聴 従 する 事 に なった 。 その 法 と 云 う の は 、 ただ 、 湯 で 鼻 を 茹でて 、 その 鼻 を 人 に 踏ま せる と 云 う 、 極めて 簡単な もの であった 。

湯 は 寺 の 湯 屋 で 、 毎日 沸かして いる 。

そこ で 弟子 の 僧 は 、 指 も 入れ られ ない ような 熱い 湯 を 、 すぐ に 提 に 入れて 、 湯 屋 から 汲 ん で 来た 。 しかし じかに この 提 へ 鼻 を 入れる と なる と 、 湯気 に 吹か れて 顔 を 火傷 する 惧 が ある 。 そこ で 折 敷 へ 穴 を あけて 、 それ を 提 の 蓋 に して 、 その 穴 から 鼻 を 湯 の 中 へ 入れる 事 に した 。 鼻 だけ は この 熱い 湯 の 中 へ 浸して も 、 少しも 熱く ない のである 。 しばらく する と 弟子 の 僧 が 云 った 。 ―― もう 茹った 時分 で ござ ろう 。 内 供 は 苦笑 した 。 これ だけ 聞いた ので は 、 誰 も 鼻 の 話 と は 気 が つか ない だろう と 思った から である 。 鼻 は 熱湯 に 蒸さ れて 、 蚤 の 食った ように む ず 痒 い 。 弟子 の 僧 は 、 内 供 が 折 敷 の 穴 から 鼻 を ぬく と 、 その まだ 湯気 の 立って いる 鼻 を 、 両足 に 力 を 入れ ながら 、 踏み はじめた 。 内 供 は 横 に なって 、 鼻 を 床板 の 上 へ のばし ながら 、 弟子 の 僧 の 足 が 上下 に 動く の を 眼 の 前 に 見て いる のである 。 弟子 の 僧 は 、 時々 気の毒 そうな 顔 を して 、 内 供 の 禿げ 頭 を 見下し ながら 、 こんな 事 を 云 った 。 ―― 痛う は ご ざら ぬ か な 。 医師 は 責めて 踏め と 申した で 。 じゃ が 、 痛う は ご ざら ぬ か な 。 内 供 は 首 を 振って 、 痛く ない と 云 う 意味 を 示そう と した 。 所 が 鼻 を 踏ま れて いる ので 思う ように 首 が 動か ない 。 そこ で 、 上 眼 を 使って 、 弟子 の 僧 の 足 に 皹 の きれて いる の を 眺め ながら 、 腹 を 立てた ような 声 で 、 ―― 痛う は ないて 。 と 答えた 。 実際 鼻 はむ ず 痒 い 所 を 踏ま れる ので 、 痛い より も かえって 気 もち の いい くらい だった のである 。 しばらく 踏んで いる と 、 やがて 、 粟 粒 の ような もの が 、 鼻 へ 出来 はじめた 。 云 わ ば 毛 を むしった 小鳥 を そっくり 丸 炙 に した ような 形 である 。 弟子 の 僧 は これ を 見る と 、 足 を 止めて 独り言 の ように こう 云 った 。 ―― これ を 鑷子 で ぬけ と 申す 事 で ご ざった 。 内 供 は 、 不足 らしく 頬 を ふくら せて 、 黙って 弟子 の 僧 の する なり に 任せて 置いた 。 勿論 弟子 の 僧 の 親切 が わから ない 訳 で は ない 。 それ は 分 って も 、 自分 の 鼻 を まるで 物品 の ように 取扱う の が 、 不愉快に 思わ れた から である 。 内 供 は 、 信用 し ない 医者 の 手術 を うける 患者 の ような 顔 を して 、 不 承 不 承 に 弟子 の 僧 が 、 鼻 の 毛 穴 から 鑷子 で 脂 を とる の を 眺めて いた 。 脂 は 、 鳥 の 羽 の 茎 の ような 形 を して 、 四 分 ばかり の 長 さ に ぬける のである 。 やがて これ が 一 通り すむ と 、 弟子 の 僧 は 、 ほっと 一 息 ついた ような 顔 を して 、 ―― もう 一 度 、 これ を 茹でれば ようご ざる 。 と 云 った 。

内 供 は やはり 、 八 の 字 を よせた まま 不服 らしい 顔 を して 、 弟子 の 僧 の 云 うなり に なって いた 。 さて 二 度 目 に 茹でた 鼻 を 出して 見る と 、 成 程 、 いつ に なく 短く なって いる 。 これ で は あたりまえの 鍵 鼻 と 大した 変り は ない 。 内 供 は その 短く なった 鼻 を 撫で ながら 、 弟子 の 僧 の 出して くれる 鏡 を 、 極 り が 悪 る そうに おずおず 覗いて 見た 。 鼻 は ―― あの 顋 の 下 まで 下って いた 鼻 は 、 ほとんど 嘘 の ように 萎縮 して 、 今 は 僅に 上 唇 の 上 で 意気地 なく 残 喘 を 保って いる 。 所々 まだらに 赤く なって いる の は 、 恐らく 踏ま れた 時 の 痕 であろう 。 こう なれば 、 もう 誰 も 哂 う もの は ない に ちがいない 。

―― 鏡 の 中 に ある 内 供 の 顔 は 、 鏡 の 外 に ある 内 供 の 顔 を 見て 、 満足 そうに 眼 を しば たたいた 。

しかし 、 その 日 は まだ 一 日 、 鼻 が また 長く なり は し ない か と 云 う 不安 が あった 。

そこ で 内 供 は 誦経 する 時 に も 、 食事 を する 時 に も 、 暇 さえ あれば 手 を 出して 、 そっと 鼻 の 先 に さわって 見た 。 が 、 鼻 は 行儀 よく 唇 の 上 に 納まって いる だけ で 、 格別 それ より 下 へ ぶら 下 って 来る 景色 も ない 。 それ から 一晩 寝て あくる 日 早く 眼 が さめる と 内 供 は まず 、 第 一 に 、 自分 の 鼻 を 撫でて 見た 。 鼻 は 依然と して 短い 。 内 供 は そこ で 、 幾 年 に も なく 、 法華 経 書写 の 功 を 積んだ 時 の ような 、 のびのび した 気分 に なった 。

所 が 二三 日 た つ 中 に 、 内 供 は 意外な 事実 を 発見 した 。

それ は 折から 、 用事 が あって 、 池 の 尾 の 寺 を 訪れた 侍 が 、 前 より も 一層 可 笑 し そうな 顔 を して 、 話 も 碌々 せ ず に 、 じろじろ 内 供 の 鼻 ばかり 眺めて いた 事 である 。 それ のみ なら ず 、 かつて 、 内 供 の 鼻 を 粥 の 中 へ 落した 事 の ある 中 童 子 なぞ は 、 講堂 の 外 で 内 供 と 行きちがった 時 に 、 始め は 、 下 を 向いて 可 笑 し さ を こらえて いた が 、 とうとう こらえ 兼ねた と 見えて 、 一度に ふっと 吹き出して しまった 。 用 を 云 い つかった 下 法師 たち が 、 面 と 向 って いる 間 だけ は 、 慎んで 聞いて いて も 、 内 供 が 後 さえ 向けば 、 すぐ に くすくす 笑い 出した の は 、 一 度 や 二 度 の 事 で は ない 。

内 供 は はじめ 、 これ を 自分 の 顔 が わり が した せい だ と 解釈 した 。

しかし どうも この 解釈 だけ で は 十分に 説明 が つか ない ようである 。 ―― 勿論 、 中 童 子 や 下 法師 が 哂 う 原因 は 、 そこ に ある の に ちがいない 。 けれども 同じ 哂 うに して も 、 鼻 の 長かった 昔 と は 、 哂 う の に どことなく 容子 が ちがう 。 見 慣れた 長い 鼻 より 、 見 慣れ ない 短い 鼻 の 方 が 滑稽に 見える と 云 えば 、 それ まで である 。 が 、 そこ に は まだ 何 か ある らしい 。 ―― 前 に は あのように つけ つけ と は 哂 わ なんだ て 。

内 供 は 、 誦 しかけた 経文 を やめて 、 禿げ 頭 を 傾け ながら 、 時々 こう 呟く 事 が あった 。

愛す べき 内 供 は 、 そう 云 う 時 に なる と 、 必ず ぼんやり 、 傍 に かけた 普賢 の 画像 を 眺め ながら 、 鼻 の 長かった 四五 日 前 の 事 を 憶 い 出して 、「 今 は むげに いやしく なり さ が れる 人 の 、 さかえ たる 昔 を しのぶ が ごとく 」 ふさぎ こんで しまう のである 。 ―― 内 供 に は 、 遺憾 ながら この 問 に 答 を 与える 明 が 欠けて いた 。 ―― 人間 の 心 に は 互 に 矛盾 した 二 つ の 感情 が ある 。 勿論 、 誰 でも 他人 の 不幸に 同情 し ない 者 は ない 。 所 が その 人 が その 不幸 を 、 どうにか して 切りぬける 事 が 出来る と 、 今度 は こっち で 何となく 物足りない ような 心もち が する 。 少し 誇張 して 云 えば 、 もう 一 度 その 人 を 、 同じ 不幸に 陥れて 見 たい ような 気 に さえ なる 。 そうして いつの間にか 、 消極 的で は ある が 、 ある 敵意 を その 人 に 対して 抱く ような 事 に なる 。 ―― 内 供 が 、 理由 を 知ら ない ながら も 、 何となく 不快に 思った の は 、 池 の 尾 の 僧 俗 の 態度 に 、 この 傍観 者 の 利己 主義 を それ と なく 感づいた から に ほかなら ない 。

そこ で 内 供 は 日 毎 に 機嫌 が 悪く なった 。

二 言 目 に は 、 誰 でも 意地 悪く 叱り つける 。 しまい に は 鼻 の 療治 を した あの 弟子 の 僧 で さえ 、「 内 供 は 法 慳貪 の 罪 を 受け られる ぞ 」 と 陰口 を きく ほど に なった 。 殊に 内 供 を 怒ら せた の は 、 例 の 悪戯な 中 童 子 である 。 ある 日 、 けたたましく 犬 の 吠える 声 が する ので 、 内 供 が 何気なく 外 へ 出て 見る と 、 中 童 子 は 、 二 尺 ばかりの 木 の 片 を ふり まわして 、 毛 の 長い 、 痩せた 尨 犬 を 逐 いま わして いる 。 それ も ただ 、 逐 いま わして いる ので は ない 。 「 鼻 を 打た れ まい 。 それ 、 鼻 を 打た れ まい 」 と 囃 し ながら 、 逐 いま わして いる のである 。 内 供 は 、 中 童 子 の 手 から その 木 の 片 を ひったくって 、 したたか その 顔 を 打った 。 木 の 片 は 以前 の 鼻 持 上げ の 木 だった のである 。

内 供 は なまじ い に 、 鼻 の 短く なった の が 、 かえって 恨めしく なった 。

する と ある 夜 の 事 である 。 日 が 暮れて から 急に 風 が 出た と 見えて 、 塔 の 風 鐸 の 鳴る 音 が 、 うるさい ほど 枕 に 通って 来た 。 その 上 、 寒 さ も めっきり 加わった ので 、 老年 の 内 供 は 寝 つこう と して も 寝 つか れ ない 。 そこ で 床 の 中 で まじまじ して いる と 、 ふと 鼻 が いつ に なく 、 む ず 痒 い のに 気 が ついた 。 手 を あてて 見る と 少し 水気 が 来た ように むくんで いる 。 どうやら そこ だけ 、 熱 さえ も ある らしい 。 ―― 無理に 短う した で 、 病 が 起った の かも 知れ ぬ 。

内 供 は 、 仏 前 に 香 花 を 供える ような 恭しい 手つき で 、 鼻 を 抑え ながら 、 こう 呟いた 。

翌朝 、 内 供 が いつも の ように 早く 眼 を さまして 見る と 、 寺 内 の 銀杏 や 橡 が 一晩 の 中 に 葉 を 落した ので 、 庭 は 黄金 を 敷いた ように 明るい 。

塔 の 屋根 に は 霜 が 下りて いる せい であろう 。 まだ うすい 朝日 に 、 九 輪 が まばゆく 光って いる 。 禅 智 内 供 は 、 蔀 を 上げた 縁 に 立って 、 深く 息 を す いこん だ 。

ほとんど 、 忘れよう と して いた ある 感覚 が 、 再び 内 供 に 帰って 来た の は この 時 である 。

内 供 は 慌てて 鼻 へ 手 を やった 。

手 に さわる もの は 、 昨夜 の 短い 鼻 で は ない 。 上 唇 の 上 から 顋 の 下 まで 、 五六 寸 あまり も ぶら 下って いる 、 昔 の 長い 鼻 である 。 内 供 は 鼻 が 一夜 の 中 に 、 また 元 の 通り 長く なった の を 知った 。 そうして それ と 同時に 、 鼻 が 短く なった 時 と 同じ ような 、 はればれ した 心もち が 、 どこ から と も なく 帰って 来る の を 感じた 。 ―― こう なれば 、 もう 誰 も 哂 う もの は ない に ちがいない 。

内 供 は 心 の 中 で こう 自分 に 囁いた 。

長い 鼻 を あけ 方 の 秋風 に ぶらつか せ ながら 。

( 大正 五 年 一 月 )

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芥川良之助、鼻 あくたがわ りょうのすけ|はな 芥川良之助| Ryūnosuke Ak|Die Nase Ryonosuke Akutagawa, Nase. Ryonosuke Akutagawa, Nose Ryonosuke Akutagawa, nariz. 아쿠타가와 료노스케, 코 Ryonosuke Akutagawa, Nariz 芥川龙之介 鼻子 芥川龍之介 鼻子

鼻 芥川 龍 之介 はな|あくたがわ|りゅう|ゆきすけ |芥川龍之介|龍之介|之介 |Akutagawa|Ryū|von Ryūnosuke Ryunosuke Akutagawa 코 아쿠타가와 류노스케 Nariz Ryunosuke Akutagawa

禅智内供 の 鼻 と 云えば 、 池 の 尾 で 知らない 者 は ない 。 ぜん さとしない とも||はな||うん えば|いけ||お||しら ない|もの|| 禪智內供||||提到|||||||| Zenji Naikō||||spricht man von|||||||| Zen wisdom|possessive particle|nose||saying|pond||||||| Speaking of the nose of Zen Satoshi, there is no one unknown at the tail of the pond. 선지 내공 의 코 라고 말하면 , 연못 의 꼬리 로 모르는 사람 은 없다 . Falando do nariz do Zen Chinai, não há ninguém em Ikenoo que não o conheça.

長 さ は 五六 寸 あって 上 唇 の 上 から 顋 の 下 まで 下って いる 。 ちょう|||ごろく|すん||うえ|くちびる||うえ||さい||した||くだって| |||||||||||下巴||||| |||||||||||jaw||||| It is 56 inches long and goes down from the top of the upper lip to the bottom of the lips. 길이는 56치수 있어 위 입술 위에서 턱 아래까지 내려 있다. Tem 56 cm de comprimento e desce da parte superior do lábio superior até a parte inferior do queixo. 形 は 元 も 先 も 同じ ように 太い 。 かた||もと||さき||おなじ||ふとい The shape is equally thick at the base and tip. 형태는 원래도 앞도 똑같이 굵다. 云 わ ば 細長い 腸 詰め の ような 物 が 、 ぶら り と 顔 の まん 中 から ぶら 下って いる のである 。 うん|||ほそながい|ちょう|つめ|||ぶつ|||||かお|||なか|||くだって|| ||||腸子||||||||||||||||| ||||||||||||||||||suspended||| For example, things like elongated intestinal stuff are hanging from the center of the face in the vicinity. 말하자면 길쭉한 장 포장 같은 물건이 흔들리고 얼굴 가운데에서 매달려 있는 것이다.

五十 歳 を 越えた 内 供 は 、 沙 弥 の 昔 から 、 内 道場 供 奉 の 職 に 陞 った 今日 まで 、 内心 で は 始終 この 鼻 を 苦 に 病んで 来た 。 ごじゅう|さい||こえた|うち|とも||いさご|わたる||むかし||うち|どうじょう|とも|たてまつ||しょく||しょう||きょう||ないしん|||しじゅう||はな||く||やんで|きた |||||||沙弥||||||道场||供奉||||晉升|||||||始終: 一直||||||困擾著| |||||||||||||||||||promoted|||||||||||||| From the old days of Shaya, the inside beyond the age of fifty has been suffering from this nose after all with inner meditation, until today as a doctor in charge of inner dojo.

勿論 表面 で は 、 今 でも さほど 気 に なら ない ような 顔 を して すまして いる 。 もちろん|ひょうめん|||いま|||き|||||かお|||| これ は 専念 に 当 来 の 浄土 を 渇 仰 す べき 僧侶 の 身 で 、 鼻 の 心配 を する の が 悪い と 思った から ばかり で は ない 。 ||せんねん||とう|らい||じょうど||かわ|あお|||そうりょ||み||はな||しんぱい|||||わるい||おもった||||| |||||||||渴望||||僧侶|||||||||||||||||| |||||||||||||Buddhist priest|||||||||||||||||| This is not only because I thought it was wrong to worry about my nose, as a monk who should be earnestly seeking the Pure Land of the Pure Land of Origin. それ より むしろ 、 自分 で 鼻 を 気 に して いる と 云 う 事 を 、 人 に 知ら れる の が 嫌だった から である 。 |||じぶん||はな||き|||||うん||こと||じん||しら||||いやだった|| ||rather|||||||||||||||||||||| Rather, it was because he did not want people to know that he was concerned about his nose. 内 供 は 日常 の 談話 の 中 に 、 鼻 と 云 う 語 が 出て 来る の を 何より も 惧 れて いた 。 うち|とも||にちじょう||だんわ||なか||はな||うん||ご||でて|くる|||なにより||く|| |||||對話||||||||||||||||畏惧|| |||||||||||||||||||||feared||

内 供 が 鼻 を 持てあました 理由 は 二 つ ある 。 うち|とも||はな||もてあました|りゆう||ふた|| |||||無法控制|||||

―― 一 つ は 実際 的に 、 鼻 の 長い の が 不便だった から である 。 ひと|||じっさい|てきに|はな||ながい|||ふべんだった|| ||||||||||不方便|| 第 一 飯 を 食う 時 に も 独り で は 食え ない 。 だい|ひと|めし||くう|じ|||ひとり|||くえ| 独り で 食えば 、 鼻 の 先 が 鋺 の 中 の 飯 へ とどいて しまう 。 ひとり||くえば|はな||さき||かなまり||なか||めし||| ||吃的话|||||碗裡飯||||||碰到| |||||||bowl||||||reaches| そこ で 内 供 は 弟子 の 一 人 を 膳 の 向 う へ 坐ら せて 、 飯 を 食う 間 中 、 広 さ 一 寸 長 さ 二 尺 ばかりの 板 で 、 鼻 を 持 上げて いて 貰う 事 に した 。 ||うち|とも||でし||ひと|じん||ぜん||むかい|||すわら||めし||くう|あいだ|なか|ひろ||ひと|すん|ちょう||ふた|しゃく||いた||はな||じ|あげて||もらう|こと|| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||幫忙抬起||| So, Naigu had one of his disciples sit across the table, and while he was eating, he was asked to hold up his nose with a board about one inch wide and two feet long. しかし こうして 飯 を 食う と 云 う 事 は 、 持 上げて いる 弟子 に とって も 、 持 上げ られて いる 内 供 に とって も 、 決して 容易な 事 で は ない 。 ||めし||くう||うん||こと||じ|あげて||でし||||じ|あげ|||うち|とも||||けっして|よういな|こと||| |||||||||||||||||||||||||||容易的|||| However, eating like this is by no means an easy task for either the disciple who is raising the child or the servant who is being raised. 一 度 この 弟子 の 代り を した 中 童 子 が 、 嚏 を した 拍子 に 手 が ふるえて 、 鼻 を 粥 の 中 へ 落した 話 は 、 当時 京都 まで 喧伝 さ れた 。 ひと|たび||でし||かわり|||なか|わらべ|こ||てい|||ひょうし||て|||はな||かゆ||なか||おとした|はなし||とうじ|みやこ||けんでん|| ||||||||||||打噴嚏|||时机|||||||粥||||掉進||||||廣為流傳|| ||||||||||||sneeze|||timing||||||||||||||||||| ―― けれども これ は 内 供 に とって 、 決して 鼻 を 苦 に 病んだ 重な 理由 で は ない 。 |||うち|とも|||けっして|はな||く||やんだ|かさな|りゆう||| ||||||||||||生病|重疊|||| |||||||||||||heavy|||| 内 供 は 実に この 鼻 に よって 傷つけ られる 自尊心 の ため に 苦しんだ のである 。 うち|とも||じつに||はな|||きずつけ||じそんしん||||くるしんだ| ||||||||傷害||||||痛苦|

池 の 尾 の 町 の 者 は 、 こう 云 う 鼻 を して いる 禅 智 内 供 の ため に 、 内 供 の 俗で ない 事 を 仕 合せ だ と 云 った 。 いけ||お||まち||もの|||うん||はな||||ぜん|さとし|うち|とも||||うち|とも||ぞくで||こと||し|あわせ|||うん| |||||||||||||||||||||||||世俗的||||做|安排||||

あの 鼻 で は 誰 も 妻 に なる 女 が ある まい と 思った から である 。 |はな|||だれ||つま|||おんな|||||おもった|| 中 に は また 、 あの 鼻 だ から 出家 した のだろう と 批評 する 者 さえ あった 。 なか|||||はな|||しゅっけ||||ひひょう||もの|| しかし 内 供 は 、 自分 が 僧 である ため に 、 幾分 でも この 鼻 に 煩 さ れる 事 が 少く なった と 思って い ない 。 |うち|とも||じぶん||そう||||いくぶん|||はな||わずら|||こと||すくなく|||おもって|| ||||||||||幾分|||||煩躁|||||少少||||| しかし 内 供 は 、 自分 が 僧 である ため に 、 幾分 でも この 鼻 に 煩 さ れる 事 が 少く なった と 思って い ない 。 内 供 の 自尊心 は 、 妻 帯 と 云 う ような 結果 的な 事実 に 左右さ れる ため に は 、 余りに デリケイト に 出来て いた のである 。 うち|とも||じそんしん||つま|おび||うん|||けっか|てきな|じじつ||さゆうさ|||||あまりに|||できて|| ||||||||||||||||||||太|脆弱|||| |||||||||||||||||||||too delicate|||| そこ で 内 供 は 、 積極 的に も 消極 的に も 、 この 自尊心 の 毀損 を 恢復 しよう と 試みた 。 ||うち|とも||せっきょく|てきに||しょうきょく|てきに|||じそんしん||きそん||かいふく|||こころみた ||||||||消極||||||損害||恢復|||試圖 ||||||||||||||damage||restore|||

第 一 に 内 供 の 考えた の は 、 この 長い 鼻 を 実際 以上 に 短く 見せる 方法 である 。 だい|ひと||うち|とも||かんがえた||||ながい|はな||じっさい|いじょう||みじかく|みせる|ほうほう|

これ は 人 の い ない 時 に 、 鏡 へ 向 って 、 いろいろな 角度 から 顔 を 映し ながら 、 熱心に 工夫 を 凝らして 見た 。 ||じん||||じ||きよう||むかい|||かくど||かお||うつし||ねっしんに|くふう||こらして|みた |||||||||||||||||映照|||||用心思考| When there was no one around, I eagerly looked in the mirror, trying various angles to observe my face. どうか する と 、 顔 の 位置 を 換える だけ で は 、 安心 が 出来 なく なって 、 頬杖 を ついたり 頤 の 先 へ 指 を あてがったり して 、 根気 よく 鏡 を 覗いて 見る 事 も あった 。 |||かお||いち||かえる||||あんしん||でき|||ほおづえ|||い||さき||ゆび||||こんき||きよう||のぞいて|みる|こと|| |||||||||||||||||||下巴||||||指著||耐心|||||||| |||||||||||||||||||chin|||||||||||||||| No matter what I did, simply changing the position of my face didn't bring me comfort. I would sometimes rest my chin on my hand or touch my jaw with my finger, patiently staring into the mirror. しかし 自分 でも 満足 する ほど 、 鼻 が 短く 見えた 事 は 、 これ まで に ただ の 一 度 も ない 。 |じぶん||まんぞく|||はな||みじかく|みえた|こと|||||||ひと|たび|| However, I have never once been satisfied enough to see my nose looking short. 時に よる と 、 苦心 すれば する ほど 、 かえって 長く 見える ような 気 さえ した 。 ときに|||くしん|||||ながく|みえる||き|| |||苦心|||||||||| Depending on the time, the harder I struggled, the more it seemed to stretch out. 内 供 は 、 こう 云 う 時 に は 、 鏡 を 箱 へ しまい ながら 、 今更 の ように ため息 を ついて 、 不 承 不 承 に また 元 の 経 机 へ 、 観音 経 を よみ に 帰る のである 。 うち|とも|||うん||じ|||きよう||はこ||||いまさら|||ためいき|||ふ|うけたまわ|ふ|うけたまわ|||もと||へ|つくえ||かんのん|へ||||かえる| ||||||||||||||||||||||不承|||||||||||||||| At such times, the attendant would sigh as if it were all too late while putting the mirror back in the box, reluctantly returning to the original altar to read the Kannon Sutra.

それ から また 内 供 は 、 絶えず 人 の 鼻 を 気 に して いた 。 |||うち|とも||たえず|じん||はな||き||| After that, the attendant was constantly concerned about other people's noses.

池 の 尾 の 寺 は 、 僧 供 講 説 など の しばしば 行わ れる 寺 である 。 いけ||お||てら||そう|とも|こう|せつ||||おこなわ||てら| 寺 の 内 に は 、 僧 坊 が 隙 なく 建て 続いて 、 湯 屋 で は 寺 の 僧 が 日 毎 に 湯 を 沸かして いる 。 てら||うち|||そう|ぼう||すき||たて|つづいて|ゆ|や|||てら||そう||ひ|まい||ゆ||わかして| |||||||||||||||||||||||||煮水| Inside the temple, the monks have built it without any gaps, and in the bathhouse, the temple's monks boil water every day. 従って ここ へ 出入 する 僧 俗 の 類 も 甚だ 多い 。 したがって|||しゅつにゅう||そう|ぞく||るい||はなはだ|おおい ||||||||||非常| ||||||||||very| Therefore, there are indeed many monks and laypeople coming in and out of here. 内 供 は こう 云 う 人々 の 顔 を 根気 よく 物色 した 。 うち|とも|||うん||ひとびと||かお||こんき||ぶっしょく| ||||||||||||仔細尋找| The inner attendants patiently scrutinized the faces of such people. 一 人 でも 自分 の ような 鼻 の ある 人間 を 見つけて 、 安心 が し たかった から である 。 ひと|じん||じぶん|||はな|||にんげん||みつけて|あんしん||||| It was because I wanted to find someone with a nose like mine, even just one person, to feel at ease. だから 内 供 の 眼 に は 、 紺 の 水 干 も 白 の 帷子 も はいら ない 。 |うち|とも||がん|||こん||すい|ひ||しろ||かたびら||| ||||||||||||||白色的帷子||| ||||||||||||||cotton garment||| Therefore, in the eyes of the inner palace, neither the navy blue robe nor the white robe is necessary. まして 柑子 色 の 帽子 や 、 椎 鈍 の 法衣 なぞ は 、 見 慣れて いる だけ に 、 有れ ども 無き が 如く である 。 |こうじ|いろ||ぼうし||しい|どん||ほうい|||み|なれて||||あれ||なき||ごとく| |橘子||||||||法衣||||||||有||無的||| Moreover, regarding the orange hat and the priest's robe of the Chiden family, since I am so accustomed to them, they are as if they are there yet not there at all. 内 供 は 人 を 見 ず に 、 ただ 、 鼻 を 見た 。 うち|とも||じん||み||||はな||みた The servant looked not at the person, but only at the nose. ―― しかし 鍵 鼻 は あって も 、 内 供 の ような 鼻 は 一 つ も 見当ら ない 。 |かぎ|はな||||うち|とも|||はな||ひと|||みあたら| — However, even though there was a key nose, there was not a single nose like that of the servant's. —— 但是雖然有鍵鼻,卻看不到內供那樣的鼻子。 その 見当ら ない 事 が 度重なる に 従って 、 内 供 の 心 は 次第に また 不快に なった 。 |みあたら||こと||たびかさなる||したがって|うち|とも||こころ||しだいに||ふかいに| |||||屢次||||||||||不快| As the absence of such a nose continued to recur, the servant's heart gradually became unpleasant again. 隨著找不到的事情不斷重複,內供的心情漸漸變得不快。 内 供 が 人 と 話し ながら 、 思わず ぶら り と 下って いる 鼻 の 先 を つまんで 見て 、 年 甲斐 も なく 顔 を 赤らめた の は 、 全く この 不快に 動かさ れて の 所 為 である 。 うち|とも||じん||はなし||おもわず||||くだって||はな||さき|||みて|とし|かい|||かお||あからめた|||まったく||ふかいに|うごかさ|||しょ|ため| |||||||||||||||||||||||||脸红||||||||||| |||||||||||||||||||||||||turned red||||||||||| 內供在和人交談時,不自禁地抓住垂下的鼻尖,看著他不成年的樣子,臉上泛起紅暈,完全是因為這份不快而驅使的。

最後に 、 内 供 は 、 内 典 外 典 の 中 に 、 自分 と 同じ ような 鼻 の ある 人物 を 見出して 、 せめても 幾分 の 心 やり に しよう と さえ 思った 事 が ある 。 さいごに|うち|とも||うち|てん|がい|てん||なか||じぶん||おなじ||はな|||じんぶつ||みいだして||いくぶん||こころ||||||おもった|こと|| |||||典|||||||||||||||找到|至少|||||||||||| 最後,內供在內典外典中發現了與自己有相似鼻子的角色,甚至曾經想過至少讓自己心裡好過一點。

けれども 、 目 連 や 、 舎 利 弗 の 鼻 が 長かった と は 、 どの 経文 に も 書いて ない 。 |め|れん||しゃ|り|ふつ||はな||ながかった||||きょうもん|||かいて| ||||||||||||||經文|||| ||||||||||||||scripture|||| 不過,經文中並沒有寫到目連或舍利弗的鼻子長。 勿論 竜 樹 や 馬 鳴 も 、 人並の 鼻 を 備えた 菩薩 である 。 もちろん|りゅう|き||うま|な||ひとなみの|はな||そなえた|ぼさつ| |||||||人類的||||| |||||||||||bodhisattva| 當然,龍樹和馬鳴也是有著普通鼻子的菩薩。 内 供 は 、 震 旦 の 話 の 序 に 蜀漢 の 劉 玄 徳 の 耳 が 長かった と 云 う 事 を 聞いた 時 に 、 それ が 鼻 だったら 、 どの くらい 自分 は 心細く なく なる だろう と 思った 。 うち|とも||ふる|たん||はなし||じょ||しょくかん||りゅう|げん|とく||みみ||ながかった||うん||こと||きいた|じ||||はな||||じぶん||こころぼそく|||||おもった ||||旦夕||||||蜀汉||劉備|玄德||||||||||||||||||||||心慌慌||||| When I heard the story about the Shūhan's Liu Xuande having long ears, I thought to myself how much less anxious I would feel if it were a nose instead. 内 供 が こう 云 う 消極 的な 苦心 を し ながら も 、 一方 で は また 、 積極 的に 鼻 の 短く なる 方法 を 試みた 事 は 、 わざわざ ここ に 云 うま で も ない 。 うち|とも|||うん||しょうきょく|てきな|くしん|||||いっぽう||||せっきょく|てきに|はな||みじかく||ほうほう||こころみた|こと|||||うん|||| While the inner attendant struggled with such passive distress, on the other hand, he also actively tried methods to shorten the nose, which doesn't need to be explicitly mentioned here. 內供在做這種消極的苦心時,另一方面也嘗試了積極縮短鼻子的辦法,這裡根本不需要特別提及。 内 供 は この 方面 でも ほとんど 出来る だけ の 事 を した 。 うち|とも|||ほうめん|||できる|||こと|| ||||領域|||||||| The inner attendant did almost everything he could in this regard. 內供在這方面幾乎已經盡可能地做了所有事情。 烏 瓜 を 煎じて 飲んで 見た 事 も ある 。 からす|うり||せんじて|のんで|みた|こと|| |||煮泡||||| |||brewed||||| 我也曾經嘗試過煎烏瓜飲用。 鼠 の 尿 を 鼻 へ な すって 見た 事 も ある 。 ねずみ||にょう||はな||||みた|こと|| ||尿液||||||||| I have seen someone sniff mouse urine. 我曾經試過把老鼠的尿吸到鼻子里。 しかし 何 を どうしても 、 鼻 は 依然と して 、 五六 寸 の 長 さ を ぶら り と 唇 の 上 に ぶら下げて いる で は ない か 。 |なん|||はな||いぜん と||ごろく|すん||ちょう||||||くちびる||うえ||ぶらさげて||||| ||||||仍然|||||||||||||||||||| |||||||||||||||||||||hanging down||||| However, no matter what, the nose still hangs down like a six or seven-inch length from above the lips. 但是不管怎麼樣,鼻子還是依然懸垂著五六寸的長度,懸掛在嘴唇上。

所 が ある 年 の 秋 、 内 供 の 用 を 兼ねて 、 京 へ 上った 弟子 の 僧 が 、 知己 の 医者 から 長い 鼻 を 短く する 法 を 教わって 来た 。 しょ|||とし||あき|うち|とも||よう||かねて|けい||のぼった|でし||そう||ちき||いしゃ||ながい|はな||みじかく||ほう||おそわって|きた ||||||||||||||||||||||||||||||學到| |||||||||use|||||||||||||||||||||| One autumn, a disciple monk who went to Kyoto for domestic errands learned from a familiar doctor the method to shorten his long nose. 有一年秋天,兼任內供的弟子和尚,從認識的醫生那裡學到了縮短長鼻的方法。

その 医者 と 云 う の は 、 もと 震 旦 から 渡って 来た 男 で 、 当時 は 長 楽 寺 の 供 僧 に なって いた のである 。 |いしゃ||うん|||||ふる|たん||わたって|きた|おとこ||とうじ||ちょう|がく|てら||とも|そう|||| The doctor in question was a man who had come from the eastern part of the country, and at that time, he had become a monk at Chōraku-ji. 内 供 は 、 いつも の ように 、 鼻 など は 気 に かけ ない と 云 う 風 を して 、 わざと その 法 も すぐ に やって 見よう と は 云 わ ず に いた 。 うち|とも|||||はな|||き|||||うん||かぜ|||||ほう|||||みよう|||うん|||| As usual, the inner attendant acted as if he didn't care about things like his nose and was deliberately not saying that he would try to perform the ritual immediately. そうして 一方 で は 、 気軽な 口調 で 、 食事 の 度 毎 に 、 弟子 の 手数 を かける の が 、 心苦しい と 云 う ような 事 を 云 った 。 |いっぽう|||きがるな|くちょう||しょくじ||たび|まい||でし||てすう|||||こころぐるしい||うん|||こと||うん| ||||casual|||||||||||||||painful|||||||| At the same time, he spoke in a casual tone, saying something like it was painful for him to burden his disciple with effort every time they had a meal. 内心 で は 勿論 弟子 の 僧 が 、 自分 を 説伏せて 、 この 法 を 試み させる の を 待って いた のである 。 ないしん|||もちろん|でし||そう||じぶん||ときふせて||ほう||こころみ|さ せる|||まって|| ||||||||||persuading|||||||||| In his heart, of course, the disciple monk was waiting for himself to be persuaded and to be tested with this law. 弟子 の 僧 に も 、 内 供 の この 策略 が わから ない 筈 は ない 。 でし||そう|||うち|とも|||さくりゃく||||はず|| |||||||||strategy|||||| The disciple monk, of course, must have understood this strategy of the inner servant. しかし それ に 対する 反感 より は 、 内 供 の そう 云 う 策略 を とる 心もち の 方 が 、 より 強く この 弟子 の 僧 の 同情 を 動かした のであろう 。 |||たいする|はんかん|||うち|とも|||うん||さくりゃく|||こころもち||かた|||つよく||でし||そう||どうじょう||うごかした| ||||dislike||||||||||||||||||||||||||probably However, rather than resentment towards that, the inner servant's intention to adopt such a strategy likely moved this disciple monk's sympathy even more strongly. 弟子 の 僧 は 、 内 供 の 予期 通り 、 口 を 極めて 、 この 法 を 試みる 事 を 勧め 出した 。 でし||そう||うち|とも||よき|とおり|くち||きわめて||ほう||こころみる|こと||すすめ|だした |||||||||||very||||to try|||| The disciple monk, as anticipated by the attendant, urged to try this method by speaking in extreme detail. そうして 、 内 供 自身 も また 、 その 予期 通り 、 結局 この 熱心な 勧告 に 聴 従 する 事 に なった 。 |うち|とも|じしん||||よき|とおり|けっきょく||ねっしんな|かんこく||き|じゅう||こと|| ||||||||||||advice|||to obey|||| And so, the attendant himself also, as expected, ended up following this enthusiastic recommendation. その 法 と 云 う の は 、 ただ 、 湯 で 鼻 を 茹でて 、 その 鼻 を 人 に 踏ま せる と 云 う 、 極めて 簡単な もの であった 。 |ほう||うん|||||ゆ||はな||ゆでて||はな||じん||ふま|||うん||きわめて|かんたんな|| ||||||||||||boiled|||||||||||||| This method was simply a very easy one, which involved boiling the nose in hot water and having someone step on that nose.

湯 は 寺 の 湯 屋 で 、 毎日 沸かして いる 。 ゆ||てら||ゆ|や||まいにち|わかして| The hot water is boiled every day in the temple's bathhouse.

そこ で 弟子 の 僧 は 、 指 も 入れ られ ない ような 熱い 湯 を 、 すぐ に 提 に 入れて 、 湯 屋 から 汲 ん で 来た 。 ||でし||そう||ゆび||いれ||||あつい|ゆ||||てい||いれて|ゆ|や||きゅう|||きた There, the apprentice monk immediately poured the water, so hot that even a finger can't be put in it, brought in from the bathhouse. しかし じかに この 提 へ 鼻 を 入れる と なる と 、 湯気 に 吹か れて 顔 を 火傷 する 惧 が ある 。 |||てい||はな||いれる||||ゆげ||ふか||かお||やけど||く|| However, if one were to put their nose directly into this offering, there is a fear of burning their face from the steam. そこ で 折 敷 へ 穴 を あけて 、 それ を 提 の 蓋 に して 、 その 穴 から 鼻 を 湯 の 中 へ 入れる 事 に した 。 ||お|し||あな|||||てい||ふた||||あな||はな||ゆ||なか||いれる|こと|| |||to spread|||||||tray||||||||||||||||| Then, I decided to make a hole in the mat and use it as a lid for the pot, placing my nose into the water through that hole. 鼻 だけ は この 熱い 湯 の 中 へ 浸して も 、 少しも 熱く ない のである 。 はな||||あつい|ゆ||なか||ひたして||すこしも|あつく|| |||||||||soaked||||| Even though only my nose is submerged in the hot water, it doesn't feel hot at all. しばらく する と 弟子 の 僧 が 云 った 。 |||でし||そう||うん| After a while, the disciple monk said. ―― もう 茹った 時分 で ござ ろう 。 |ゆだった|じぶん||| |boiled|||| ―― It must be about the time it's boiled already. 内 供 は 苦笑 した 。 うち|とも||くしょう| The attendant smiled wryly. これ だけ 聞いた ので は 、 誰 も 鼻 の 話 と は 気 が つか ない だろう と 思った から である 。 ||きいた|||だれ||はな||はなし|||き||||||おもった|| Since I only heard this much, I thought no one would realize it was about the nose. 鼻 は 熱湯 に 蒸さ れて 、 蚤 の 食った ように む ず 痒 い 。 はな||ねっとう||むさ||のみ||くった||||よう| ||boiling water||steamed||||||||| The nose is steamed in hot water, itching as if it has been bitten by fleas. 弟子 の 僧 は 、 内 供 が 折 敷 の 穴 から 鼻 を ぬく と 、 その まだ 湯気 の 立って いる 鼻 を 、 両足 に 力 を 入れ ながら 、 踏み はじめた 。 でし||そう||うち|とも||お|し||あな||はな||||||ゆげ||たって||はな||りょうあし||ちから||いれ||ふみ| The disciple monk, as the attendant pulled his nose out from the hole in the tatami mat, began to stomp on that still steaming nose while putting strength into both legs. 内 供 は 横 に なって 、 鼻 を 床板 の 上 へ のばし ながら 、 弟子 の 僧 の 足 が 上下 に 動く の を 眼 の 前 に 見て いる のである 。 うち|とも||よこ|||はな||ゆかいた||うえ||||でし||そう||あし||じょうげ||うごく|||がん||ぜん||みて|| The attendant lies down, extending his nose onto the floorboards, watching the disciple monk's feet move up and down right in front of him. 弟子 の 僧 は 、 時々 気の毒 そうな 顔 を して 、 内 供 の 禿げ 頭 を 見下し ながら 、 こんな 事 を 云 った 。 でし||そう||ときどき|きのどく|そう な|かお|||うち|とも||はげ|あたま||みくだし|||こと||うん| |||||||||||||bald head||||||||| The disciple monk occasionally had a pitiful look on his face as he looked down at the bald head of the attendant and said something like this. ―― 痛う は ご ざら ぬ か な 。 いたう|||||| painful|||||| — Does it not hurt? 医師 は 責めて 踏め と 申した で 。 いし||せめて|ふめ||もうした| |||step on||| The doctor said to step on it in reproach. じゃ が 、 痛う は ご ざら ぬ か な 。 ||いたう|||||| But it doesn't hurt, does it? 内 供 は 首 を 振って 、 痛く ない と 云 う 意味 を 示そう と した 。 うち|とも||くび||ふって|いたく|||うん||いみ||しめそう|| 所 が 鼻 を 踏ま れて いる ので 思う ように 首 が 動か ない 。 しょ||はな||ふま||||おもう||くび||うごか| My nose is being stepped on, so I can't move my neck as I want. そこ で 、 上 眼 を 使って 、 弟子 の 僧 の 足 に 皹 の きれて いる の を 眺め ながら 、 腹 を 立てた ような 声 で 、 ―― 痛う は ないて 。 ||うえ|がん||つかって|でし||そう||あし||くん||||||ながめ||はら||たてた||こえ||いたう|| ||||||||||||||cracked|||||||||||||| Then, using my upper eyes, I looked at the disciple monk's feet which were cracked, and in a voice that seemed to be angry, -- it hurts, don't cry. と 答えた 。 |こたえた I replied. 実際 鼻 はむ ず 痒 い 所 を 踏ま れる ので 、 痛い より も かえって 気 もち の いい くらい だった のである 。 じっさい|はな|||よう||しょ||ふま|||いたい||||き|||||| ||to pinch||||||||||||||||||| In fact, my nose was so itchy that being stepped on felt better than painful. しばらく 踏んで いる と 、 やがて 、 粟 粒 の ような もの が 、 鼻 へ 出来 はじめた 。 |ふんで||||あわ|つぶ|||||はな||でき| |||||sorghum||||||||| After being stepped on for a while, eventually, something like a grain appeared on my nose. 云 わ ば 毛 を むしった 小鳥 を そっくり 丸 炙 に した ような 形 である 。 うん|||け|||ことり|||まる|しゃ||||かた| |||||pulled out|||||||||| If I may say, it looks like a small bird that has been completely roasted after having its feathers plucked. 弟子 の 僧 は これ を 見る と 、 足 を 止めて 独り言 の ように こう 云 った 。 でし||そう||||みる||あし||とどめて|ひとりごと||||うん| The disciple monk, upon seeing this, stopped and muttered to himself, ―― これ を 鑷子 で ぬけ と 申す 事 で ご ざった 。 ||けぬきこ||||もうす|こと||| ||||||||||it was —This was said to be extracted with tweezers. 内 供 は 、 不足 らしく 頬 を ふくら せて 、 黙って 弟子 の 僧 の する なり に 任せて 置いた 。 うち|とも||ふそく||ほお||||だまって|でし||そう|||||まかせて|おいた |||||||puffed up||||||||||| The attendant, seemingly unsatisfied, puffed up his cheeks and silently left it to the disciple monk's actions. 勿論 弟子 の 僧 の 親切 が わから ない 訳 で は ない 。 もちろん|でし||そう||しんせつ||||やく||| Of course, it's not that I don't understand the kindness of my disciple the monk. それ は 分 って も 、 自分 の 鼻 を まるで 物品 の ように 取扱う の が 、 不愉快に 思わ れた から である 。 ||ぶん|||じぶん||はな|||ぶっぴん|||とりあつかう|||ふゆかいに|おもわ||| ||||||||||object|||handle like||||||| Even so, I felt unpleasant about handling my own nose as if it were an object. 内 供 は 、 信用 し ない 医者 の 手術 を うける 患者 の ような 顔 を して 、 不 承 不 承 に 弟子 の 僧 が 、 鼻 の 毛 穴 から 鑷子 で 脂 を とる の を 眺めて いた 。 うち|とも||しんよう|||いしゃ||しゅじゅつ|||かんじゃ|||かお|||ふ|うけたまわ|ふ|うけたまわ||でし||そう||はな||け|あな||けぬきこ||あぶら|||||ながめて| The attendant wore a face like a patient undergoing surgery by a doctor they don't trust, reluctantly watching the disciple monk use tweezers to remove grease from my nostrils. 脂 は 、 鳥 の 羽 の 茎 の ような 形 を して 、 四 分 ばかり の 長 さ に ぬける のである 。 あぶら||ちょう||はね||くき|||かた|||よっ|ぶん|||ちょう|||| The fat has a shape like the stem of a bird's feather and extends to about four minutes in length. やがて これ が 一 通り すむ と 、 弟子 の 僧 は 、 ほっと 一 息 ついた ような 顔 を して 、  ―― もう 一 度 、 これ を 茹でれば ようご ざる 。 |||ひと|とおり|||でし||そう|||ひと|いき|||かお||||ひと|たび|||ゆでれば|| ||||||||||||one||||||||||||boils it|sieve| Eventually, after this is done, the disciple monk looks relieved and says, -- If we boil this once more, it will be good. と 云 った 。 |うん| He said.

内 供 は やはり 、 八 の 字 を よせた まま 不服 らしい 顔 を して 、 弟子 の 僧 の 云 うなり に なって いた 。 うち|とも|||やっ||あざ||||ふふく||かお|||でし||そう||うん|||| ||||||||brought together||discontent||||||||||groan||| The inner supply seems to have a dissatisfied expression, still with the character of the figure eight, and was reacting to what the disciple monk was saying. さて 二 度 目 に 茹でた 鼻 を 出して 見る と 、 成 程 、 いつ に なく 短く なって いる 。 |ふた|たび|め||ゆでた|はな||だして|みる||しげ|ほど||||みじかく|| |||||||||||becoming||||||| Now, when I peek out with my nose boiled a second time, it is unusually short compared to before. これ で は あたりまえの 鍵 鼻 と 大した 変り は ない 。 ||||かぎ|はな||たいした|かわり|| |||ordinary||||||| With this, there is hardly any difference from an ordinary key nose. 内 供 は その 短く なった 鼻 を 撫で ながら 、 弟子 の 僧 の 出して くれる 鏡 を 、 極 り が 悪 る そうに おずおず 覗いて 見た 。 うち|とも|||みじかく||はな||なで||でし||そう||だして||きよう||ごく|||あく||そう に||のぞいて|みた ||||||||||||||||||||||||timidly|| As he stroked his shortened nose, the inner monk hesitantly peeked into the mirror that his disciple had brought him, looking quite uncomfortable. 鼻 は ―― あの 顋 の 下 まで 下って いた 鼻 は 、 ほとんど 嘘 の ように 萎縮 して 、 今 は 僅に 上 唇 の 上 で 意気地 なく 残 喘 を 保って いる 。 はな|||さい||した||くだって||はな|||うそ|||いしゅく||いま||わずかに|うえ|くちびる||うえ||いくじ||ざん|あえ||たもって| |||||||||||||||shriveled up||||barely|||||||||breath||| His nose - that nose which had once hung down to below his chin - had shrunk to the point of seeming almost like a lie, and now merely lingered weakly above his upper lip. 所々 まだらに 赤く なって いる の は 、 恐らく 踏ま れた 時 の 痕 であろう 。 ところどころ||あかく|||||おそらく|ふま||じ||あと| |splotchily|||||||||||trace| The mottled red patches here and there are likely marks from when it was stepped on. こう なれば 、 もう 誰 も 哂 う もの は ない に ちがいない 。 |||だれ||しん|||||| |||||laugh|||||locative particle| At this point, surely no one would laugh anymore.

―― 鏡 の 中 に ある 内 供 の 顔 は 、 鏡 の 外 に ある 内 供 の 顔 を 見て 、 満足 そうに 眼 を しば たたいた 。 きよう||なか|||うち|とも||かお||きよう||がい|||うち|とも||かお||みて|まんぞく|そう に|がん||| |||||||||||||||||||||||||lightly|blinked The face of the attendant in the mirror blinked contentedly after seeing the face of the attendant outside the mirror.

しかし 、 その 日 は まだ 一 日 、 鼻 が また 長く なり は し ない か と 云 う 不安 が あった 。 ||ひ|||ひと|ひ|はな|||ながく|||||||うん||ふあん|| However, there was still a worry that, on that day, my nose might grow longer again.

そこ で 内 供 は 誦経 する 時 に も 、 食事 を する 時 に も 、 暇 さえ あれば 手 を 出して 、 そっと 鼻 の 先 に さわって 見た 。 ||うち|とも||しょうけい||じ|||しょくじ|||じ|||いとま|||て||だして||はな||さき|||みた |||||chanting sutras||||||||||||||||||||||| There, even when the attendant is reciting sutras, or having a meal, whenever there is leisure, they reach out and gently touch the tip of their nose. が 、 鼻 は 行儀 よく 唇 の 上 に 納まって いる だけ で 、 格別 それ より 下 へ ぶら 下 って 来る 景色 も ない 。 |はな||ぎょうぎ||くちびる||うえ||おさまって||||かくべつ|||した|||した||くる|けしき|| |||||||||settled||||||||||||||| However, the nose is neatly positioned above the lips and there is no scenery hanging down particularly below it. それ から 一晩 寝て あくる 日 早く 眼 が さめる と 内 供 は まず 、 第 一 に 、 自分 の 鼻 を 撫でて 見た 。 ||ひとばん|ねて||ひ|はやく|がん||||うち|とも|||だい|ひと||じぶん||はな||なでて|みた Then, after sleeping for a night and waking up early the next day, the attendant first stroked their own nose. 鼻 は 依然と して 短い 。 はな||いぜん と||みじかい 内 供 は そこ で 、 幾 年 に も なく 、 法華 経 書写 の 功 を 積んだ 時 の ような 、 のびのび した 気分 に なった 。 うち|とも||||いく|とし||||ほっけ|へ|しょしゃ||いさお||つんだ|じ|||||きぶん|| |||||||locative particle|||Lotus Sutra||copying scriptures|||||||||||| At that time, the inner attendant felt a carefree mood, just like when he had accumulated the merits of copying the Lotus Sutra for many years.

所 が 二三 日 た つ 中 に 、 内 供 は 意外な 事実 を 発見 した 。 しょ||ふみ|ひ|||なか||うち|とも||いがいな|じじつ||はっけん| ||||past tense||||||||||| However, within two or three days, the inner attendant discovered an unexpected fact.

それ は 折から 、 用事 が あって 、 池 の 尾 の 寺 を 訪れた 侍 が 、 前 より も 一層 可 笑 し そうな 顔 を して 、 話 も 碌々 せ ず に 、 じろじろ 内 供 の 鼻 ばかり 眺めて いた 事 である 。 ||おりから|ようじ|||いけ||お||てら||おとずれた|さむらい||ぜん|||いっそう|か|わら||そう な|かお|||はなし||ろくろく|||||うち|とも||はな||ながめて||こと| ||at that time||||||||||||||||||||||||||not much||||staring intently||||||||| It was that, coincidentally, a samurai who had business at the temple in Ike-no-O visited and was staring at the inner attendant's nose without much conversation, with an even more ridiculous expression than before. それ のみ なら ず 、 かつて 、 内 供 の 鼻 を 粥 の 中 へ 落した 事 の ある 中 童 子 なぞ は 、 講堂 の 外 で 内 供 と 行きちがった 時 に 、 始め は 、 下 を 向いて 可 笑 し さ を こらえて いた が 、 とうとう こらえ 兼ねた と 見えて 、 一度に ふっと 吹き出して しまった 。 |||||うち|とも||はな||かゆ||なか||おとした|こと|||なか|わらべ|こ|||こうどう||がい||うち|とも||いきちがった|じ||はじめ||した||むいて|か|わら|||||||||かねた||みえて|いちどに||ふきだして| |||||||||||||||||||||||auditorium|||||||passed by||||||(object marker)|||||||||||||||||| Not only that, but once, a young attendant who had dropped his nose into the porridge, when he happened to pass by the inner attendant outside the lecture hall, initially tried to hold back his laughter by looking down, but eventually, unable to contain himself, burst out laughing all at once. 用 を 云 い つかった 下 法師 たち が 、 面 と 向 って いる 間 だけ は 、 慎んで 聞いて いて も 、 内 供 が 後 さえ 向けば 、 すぐ に くすくす 笑い 出した の は 、 一 度 や 二 度 の 事 で は ない 。 よう||うん|||した|ほうし|||おもて||むかい|||あいだ|||つつしんで|きいて|||うち|とも||あと||むけば||||わらい|だした|||ひと|たび||ふた|たび||こと||| |||||||||||||||||cautiously|||||||||if向いて|||giggling|||||||||||||| The young priests, who had been speaking about various matters, while facing each other, could listen respectfully, but as soon as the inner attendant turned his back, they would immediately start giggling; it wasn't just once or twice.

内 供 は はじめ 、 これ を 自分 の 顔 が わり が した せい だ と 解釈 した 。 うち|とも|||||じぶん||かお||||||||かいしゃく| The inner attendant initially interpreted this as being due to his own face being the cause.

しかし どうも この 解釈 だけ で は 十分に 説明 が つか ない ようである 。 |||かいしゃく||||じゅうぶんに|せつめい|||| ||||||||||||seems to be ―― 勿論 、 中 童 子 や 下 法師 が 哂 う 原因 は 、 そこ に ある の に ちがいない 。 もちろん|なか|わらべ|こ||した|ほうし||しん||げんいん||||||| ||||||||to laugh||||||||| Of course, the reason that the child and the lower servant laugh must be there for sure. けれども 同じ 哂 うに して も 、 鼻 の 長かった 昔 と は 、 哂 う の に どことなく 容子 が ちがう 。 |おなじ|しん||||はな||ながかった|むかし|||しん|||||ようこ|| However, even though they are laughing in the same way, the manner of their laughter is somehow different from the long-nosed laughter of the past. 見 慣れた 長い 鼻 より 、 見 慣れ ない 短い 鼻 の 方 が 滑稽に 見える と 云 えば 、 それ まで である 。 み|なれた|ながい|はな||み|なれ||みじかい|はな||かた||こっけいに|みえる||うん|||| |||||||||||||ridiculously||||||| If one says that a familiar long nose looks more comical than an unfamiliar short nose, then that's about it. が 、 そこ に は まだ 何 か ある らしい 。 |||||なん||| However, it seems that there is still something there. ―― 前 に は あのように つけ つけ と は 哂 わ なんだ て 。 ぜん||||||||しん||| |||like that|||||||| Before, there was no laughter like that.

内 供 は 、 誦 しかけた 経文 を やめて 、 禿げ 頭 を 傾け ながら 、 時々 こう 呟く 事 が あった 。 うち|とも||しょう||きょうもん|||はげ|あたま||かたむけ||ときどき||つぶやく|こと|| |||recite||||||||leaned||||||| The caretaker would sometimes stop reciting the scripture and, tilting his bald head, mutter things like this.

愛す べき 内 供 は 、 そう 云 う 時 に なる と 、 必ず ぼんやり 、 傍 に かけた 普賢 の 画像 を 眺め ながら 、 鼻 の 長かった 四五 日 前 の 事 を 憶 い 出して 、「 今 は むげに いやしく なり さ が れる 人 の 、 さかえ たる 昔 を しのぶ が ごとく 」 ふさぎ こんで しまう のである 。 あいす||うち|とも|||うん||じ||||かならず||そば|||ふげん||がぞう||ながめ||はな||ながかった|しご|ひ|ぜん||こと||おく||だして|いま||||||||じん||||むかし|||||||| to love|||||||||||||||||Bodhisattva Samantabhadra||||||||||||||||||||without reason|base low|||||||prosperous||||to remember|||saddened||| The beloved servant, when it comes to such a time, inevitably stares blankly at the image of Fugen nearby, reminiscing about the long-nosed incident from four or five days ago, and becomes melancholy, as if reflecting on the glorious past of someone who has now become exceedingly degraded. ―― 内 供 に は 、 遺憾 ながら この 問 に 答 を 与える 明 が 欠けて いた 。 うち|とも|||いかん|||とい||こたえ||あたえる|あき||かけて| ||||regretfully||||||||||| Unfortunately, the inner servant lacked the clarity to provide an answer to this question. ―― 人間 の 心 に は 互 に 矛盾 した 二 つ の 感情 が ある 。 にんげん||こころ|||ご||むじゅん||ふた|||かんじょう|| There are two mutually contradictory emotions in the human heart. 勿論 、 誰 でも 他人 の 不幸に 同情 し ない 者 は ない 。 もちろん|だれ||たにん||ふこうに|どうじょう|||もの|| Of course, there is no one who does not sympathize with the misfortunes of others. 所 が その 人 が その 不幸 を 、 どうにか して 切りぬける 事 が 出来る と 、 今度 は こっち で 何となく 物足りない ような 心もち が する 。 しょ|||じん|||ふこう||||きりぬける|こと||できる||こんど||||なんとなく|ものたりない||こころもち|| ||||||||||get through|||||||||||||| However, when that person manages to get through their misfortune somehow, I start to feel somewhat unsatisfied on this side. 少し 誇張 して 云 えば 、 もう 一 度 その 人 を 、 同じ 不幸に 陥れて 見 たい ような 気 に さえ なる 。 すこし|こちょう||うん|||ひと|たび||じん||おなじ|ふこうに|おとしいれて|み|||き||| |exaggeration||||||||||||to trap||||||| If I exaggerate a little, I even start to feel like I want to put that person back into the same misfortune once more. そうして いつの間にか 、 消極 的で は ある が 、 ある 敵意 を その 人 に 対して 抱く ような 事 に なる 。 |いつのまにか|しょうきょく|てきで|||||てきい|||じん||たいして|いだく||こと|| ||||||||hostility|||||||||| In this way, before I knew it, I became somewhat passive, but ended up harboring a certain hostility towards that person. ―― 内 供 が 、 理由 を 知ら ない ながら も 、 何となく 不快に 思った の は 、 池 の 尾 の 僧 俗 の 態度 に 、 この 傍観 者 の 利己 主義 を それ と なく 感づいた から に ほかなら ない 。 うち|とも||りゆう||しら||||なんとなく|ふかいに|おもった|||いけ||お||そう|ぞく||たいど|||ぼうかん|もの||りこ|しゅぎ|||||かんづいた|||| ||||||||||||||||||||||||bystander||||||||||because||| The reason that the inner servant felt somewhat uncomfortable, despite not knowing the reason, was nothing other than having sensed the selfishness of this bystander in the attitude of the monks and laypeople at Ike no O.

そこ で 内 供 は 日 毎 に 機嫌 が 悪く なった 。 ||うち|とも||ひ|まい||きげん||わるく| As a result, the inner servant's mood worsened day by day.

二 言 目 に は 、 誰 でも 意地 悪く 叱り つける 。 ふた|げん|め|||だれ||いじ|わるく|しかり| Secondly, anyone scolds me nastyly. しまい に は 鼻 の 療治 を した あの 弟子 の 僧 で さえ 、「 内 供 は 法 慳貪 の 罪 を 受け られる ぞ 」 と 陰口 を きく ほど に なった 。 |||はな||りょうじ||||でし||そう|||うち|とも||ほう|けんどん||ざい||うけ||||かげぐち||||| ||||||||||||||||||greed||||||||||||| In the end, even that disciple monk who received treatment for his nose said, "The inner servants will be punished for their greed and avarice," spreading rumors. 殊に 内 供 を 怒ら せた の は 、 例 の 悪戯な 中 童 子 である 。 ことに|うち|とも||いから||||れい||いたずらな|なか|わらべ|こ| especially||||||||||mischievous|||| Especially angering the inner servants was that mischievous young boy. ある 日 、 けたたましく 犬 の 吠える 声 が する ので 、 内 供 が 何気なく 外 へ 出て 見る と 、 中 童 子 は 、 二 尺 ばかりの 木 の 片 を ふり まわして 、 毛 の 長い 、 痩せた 尨 犬 を 逐 いま わして いる 。 |ひ||いぬ||ほえる|こえ||||うち|とも||なにげなく|がい||でて|みる||なか|わらべ|こ||ふた|しゃく||き||かた||||け||ながい|やせた|ぼう|いぬ||ちく||| ||loudly|||||||||||||||||||||||||||||||||skinny|mongrel|||chasing away||chasing away| One day, there was a loud barking of a dog, and when the inner servant casually stepped outside to look, the young boy was swinging a piece of wood about two shaku long, chasing after a long-haired, thin dog. それ も ただ 、 逐 いま わして いる ので は ない 。 |||ちく|||||| |||chasing|||||| It's not just that it's happening all the time. 「 鼻 を 打た れ まい 。 はな||うた|| "Don't hit your nose. それ 、 鼻 を 打た れ まい 」 と 囃 し ながら 、 逐 いま わして いる のである 。 |はな||うた||||はやし|||ちく|||| |||||||to cheer||||||| It's not struck in the nose, "he whispers, but he's rushing. 内 供 は 、 中 童 子 の 手 から その 木 の 片 を ひったくって 、 したたか その 顔 を 打った 。 うち|とも||なか|わらべ|こ||て|||き||かた|||||かお||うった ||||||||||||||snatched|||||hit The servant snatched the piece of wood from the child's hand and struck his face hard. 木 の 片 は 以前 の 鼻 持 上げ の 木 だった のである 。 き||かた||いぜん||はな|じ|あげ||き|| The piece of wood was from the tree that used to hold up the nose.

内 供 は なまじ い に 、 鼻 の 短く なった の が 、 かえって 恨めしく なった 。 うち|とも|||||はな||みじかく|||||うらめしく| |||rather||||||||||| The servant felt all the more resentful because the shortening of his nose had become a source of bitterness.

する と ある 夜 の 事 である 。 |||よ||こと| 日 が 暮れて から 急に 風 が 出た と 見えて 、 塔 の 風 鐸 の 鳴る 音 が 、 うるさい ほど 枕 に 通って 来た 。 ひ||くれて||きゅうに|かぜ||でた||みえて|とう||かぜ|たく||なる|おと||||まくら||かよって|きた |||||||||||||wind bell|||||||||| It seemed that the wind had suddenly come out after dark, and the sound of the wind of the tower came through the pillow noisily. その 上 、 寒 さ も めっきり 加わった ので 、 老年 の 内 供 は 寝 つこう と して も 寝 つか れ ない 。 |うえ|さむ||||くわわった||ろうねん||うち|とも||ね|||||ね||| ||||||||old age||||||try to sleep||||||| On top of that, the cold weather has also added to it, so the elderly can't fall asleep even if they try to fall asleep. そこ で 床 の 中 で まじまじ して いる と 、 ふと 鼻 が いつ に なく 、 む ず 痒 い のに 気 が ついた 。 ||とこ||なか|||||||はな|||||||よう|||き|| ||||||staring intently||||||||||||||||| When I was squirming in the floor there, I suddenly noticed that my nose was irritating and itchy. 手 を あてて 見る と 少し 水気 が 来た ように むくんで いる 。 て|||みる||すこし|みずけ||きた||| ||||||moisture||||| When I put my hand on it, it was swollen as if it was a little damp. どうやら そこ だけ 、 熱 さえ も ある らしい 。 |||ねつ|||| Apparently, there seems to be even heat there. ―― 無理に 短う した で 、 病 が 起った の かも 知れ ぬ 。 むりに|みじかう|||びょう||おこった|||しれ| |shortened||||||||| It might be that the illness was caused by forcing too much to shorten it.

内 供 は 、 仏 前 に 香 花 を 供える ような 恭しい 手つき で 、 鼻 を 抑え ながら 、 こう 呟いた 。 うち|とも||ふつ|ぜん||かおり|か||そなえる||うやうやしい|てつき||はな||おさえ|||つぶやいた |||||||||offer||respectful|||||||| With a respectful gesture, like offering incense and flowers in front of Buddha, they murmured this while holding their nose.

翌朝 、 内 供 が いつも の ように 早く 眼 を さまして 見る と 、 寺 内 の 銀杏 や 橡 が 一晩 の 中 に 葉 を 落した ので 、 庭 は 黄金 を 敷いた ように 明るい 。 よくあさ|うち|とも|||||はやく|がん|||みる||てら|うち||いちょう||くぬぎ||ひとばん||なか||は||おとした||にわ||おうごん||しいた||あかるい ||||||||||||||||ginkgo||oak||||||||||||gold|||| The next morning, when the inner priest woke up early as usual, he saw that the ginkgo and oak trees in the temple had shed their leaves overnight, making the garden bright as if covered in gold.

塔 の 屋根 に は 霜 が 下りて いる せい であろう 。 とう||やね|||しも||おりて||| It must be because frost has settled on the roof of the tower. まだ うすい 朝日 に 、 九 輪 が まばゆく 光って いる 。 ||あさひ||ここの|りん|||ひかって| |||||||dazzlingly|| In the still faint morning light, the nine rings are shining brilliantly. 禅 智 内 供 は 、 蔀 を 上げた 縁 に 立って 、 深く 息 を す いこん だ 。 ぜん|さとし|うち|とも||しとみ||あげた|えん||たって|ふかく|いき|||| |||||shutters||||||||||breathed in| Zen Chi was standing on the edge with the shutters raised, taking a deep breath.

ほとんど 、 忘れよう と して いた ある 感覚 が 、 再び 内 供 に 帰って 来た の は この 時 である 。 |わすれよう|||||かんかく||ふたたび|うち|とも||かえって|きた||||じ| |try to forget||||||||||||||||| Almost forgotten, a certain sensation returned to the inner offering at this moment.

内 供 は 慌てて 鼻 へ 手 を やった 。 うち|とも||あわてて|はな||て|| The inner offering hurriedly put a hand to his nose.

手 に さわる もの は 、 昨夜 の 短い 鼻 で は ない 。 て|||||さくや||みじかい|はな||| What touches your hand is not the short nose of last night. 上 唇 の 上 から 顋 の 下 まで 、 五六 寸 あまり も ぶら 下って いる 、 昔 の 長い 鼻 である 。 うえ|くちびる||うえ||さい||した||ごろく|すん||||くだって||むかし||ながい|はな| 内 供 は 鼻 が 一夜 の 中 に 、 また 元 の 通り 長く なった の を 知った 。 うち|とも||はな||いちや||なか|||もと||とおり|ながく||||しった I realized that my nose had become long again overnight. そうして それ と 同時に 、 鼻 が 短く なった 時 と 同じ ような 、 はればれ した 心もち が 、 どこ から と も なく 帰って 来る の を 感じた 。 |||どうじに|はな||みじかく||じ||おなじ||||こころもち|||||||かえって|くる|||かんじた ||||||||||||brightly||||||||||||| And at the same time, I felt a cheerful feeling returning from nowhere, just like when my nose had become shorter. ―― こう なれば 、 もう 誰 も 哂 う もの は ない に ちがいない 。 |||だれ||しん|||||| If this is the case, there is surely no one left to mock me.

内 供 は 心 の 中 で こう 自分 に 囁いた 。 うち|とも||こころ||なか|||じぶん||ささやいた ||||||||||whispered to Inside, I whispered to myself like this.

長い 鼻 を あけ 方 の 秋風 に ぶらつか せ ながら 。 ながい|はな|||かた||あきかぜ|||| ||||||autumn wind||swaying|| Swinging my long nose in the autumn breeze.

( 大正 五 年 一 月 ) たいしょう|いつ|とし|ひと|つき (January, Taisho 5)