34.1 或る 女
ある|おんな
34.1 Una mujer
ともかくも 一家 の 主 と なり 、 妹 たち を 呼び 迎えて 、 その 教育 に 興味 と 責任 と を 持ち 始めた 葉子 は 、 自然 自然に 妻 らしく また 母 らしい 本能 に 立ち 帰って 、 倉地 に 対する 情念 に も どこ か 肉 から 精神 に 移ろう と する 傾き が できて 来る の を 感じた 。
|いっか||おも|||いもうと|||よび|むかえて||きょういく||きょうみ||せきにん|||もち|はじめた|ようこ||しぜん|しぜんに|つま|||はは||ほんのう||たち|かえって|くらち||たいする|じょうねん|||||にく||せいしん||うつろう|||かたむき|||くる|||かんじた
|||||||||||||||||||||||||wife||||||||||||emotion||||||||||||||||||
それ は 楽しい 無事 と も 考えれば 考えられ ぬ 事 は なかった 。
||たのしい|ぶじ|||かんがえれば|かんがえ られ||こと||
しかし 葉子 は 明らかに 倉地 の 心 が そういう 状態 の 下 に は 少しずつ 硬 ばって 行き 冷えて 行く の を 感ぜ ず に は いられ なかった 。
|ようこ||あきらかに|くらち||こころ|||じょうたい||した|||すこしずつ|かた|ば って|いき|ひえて|いく|||かんぜ||||いら れ|
||||||||||||||little by little||hardening|||||||||||
However, Yoko clearly couldn't help feeling that Kurachi's heart was gradually hardening and cooling under such conditions.
それ が 葉子 に は 何より も 不満だった 。
||ようこ|||なにより||ふまんだった
|||||||dissatisfaction
倉地 を 選んだ 葉子 であって みれば 、 日 が たつ に 従って 葉子 に も 倉地 が 感じ 始めた と 同様な 物 足ら な さ が 感ぜられて 行った 。
くらち||えらんだ|ようこ|||ひ||||したがって|ようこ|||くらち||かんじ|はじめた||どうような|ぶつ|たら||||かんぜ られて|おこなった
|||||if||||||||||||||||||||felt|
落ち着く の か 冷える の か 、 とにかく 倉地 の 感情 が 白熱 して 働か ない の を 見せつけられる 瞬間 は 深い さびし み を 誘い 起こした 。
おちつく|||ひえる||||くらち||かんじょう||はくねつ||はたらか||||みせつけ られる|しゅんかん||ふかい||||さそい|おこした
to calm down|||||||||||white heat|||||||||||||invited|
こんな 事 で 自分 の 全 我 を 投げ入れた 恋 の 花 を 散って しまわ せて なる もの か 。
|こと||じぶん||ぜん|われ||なげいれた|こい||か||ちって|||||
|||||all|I||threw||||||||||
自分 の 恋 に は 絶頂 が あって は なら ない 。
じぶん||こい|||ぜっちょう|||||
自分 に は まだ どんな 難 路 でも 舞い 狂い ながら 登って 行く 熱 と 力 と が ある 。
じぶん|||||なん|じ||まい|くるい||のぼって|いく|ねつ||ちから|||
||||||||dancing||||||||||
その 熱 と 力 と が 続く 限り 、 ぼんやり 腰 を 据えて 周囲 の 平凡な 景色 など を ながめて 満足 して は いられ ない 。
|ねつ||ちから|||つづく|かぎり||こし||すえて|しゅうい||へいぼんな|けしき||||まんぞく|||いら れ|
自分 の 目 に は 絶 巓 の ない 絶 巓 ばかり が 見えて いたい 。
じぶん||め|||た|てん|||た|てん|||みえて|い たい
|||||absolutely|summit||||||||
I want my eyes to see nothing but annihilation.
そうした 衝動 は 小 休み なく 葉子 の 胸 に わだかまって いた 。
|しょうどう||しょう|やすみ||ようこ||むね|||
Such impulses were in Yoko's heart without a break.
絵 島 丸 の 船室 で 倉地 が 見せて くれた ような 、 何もかも 無視 した 、 神 の ように 狂暴な 熱心 ―― それ を 繰り返して 行き たかった 。
え|しま|まる||せんしつ||くらち||みせて|||なにもかも|むし||かみ|||きょうぼうな|ねっしん|||くりかえして|いき|
・・
竹 柴 館 の 一夜 は まさしく それ だった 。
たけ|しば|かん||いちや||||
One night at Takeshibakan was just that.
その 夜 葉子 は 、 次の 朝 に なって 自分 が 死んで 見いださ れよう と も 満足だ と 思った 。
|よ|ようこ||つぎの|あさ|||じぶん||しんで|みいださ||||まんぞくだ||おもった
That night, Yoko thought she would be happy to be found dead the next morning.
しかし 次の 朝 生きた まま で 目 を 開く と 、 その場で 死ぬ 心持ち に は もう なれ なかった 。
|つぎの|あさ|いきた|||め||あく||そのばで|しぬ|こころもち|||||
||||||||||at that moment|||||||
もっと 嵩 じた 歓楽 を 追い 試みよう と いう 欲 念 、 そして それ が でき そうな 期待 が 葉子 を 未練 に した 。
|かさみ||かんらく||おい|こころみよう|||よく|ねん|||||そう な|きたい||ようこ||みれん||
||||||to try||||||||||||||||
それ から と いう もの 葉子 は 忘我 渾沌 の 歓喜 に 浸る ため に は 、 すべて を 犠牲 と して も 惜しま ない 心 に なって いた 。
|||||ようこ||ぼうわれ|こんとん||かんき||ひたる||||||ぎせい||||おしま||こころ|||
|||||||self-forgetfulness|||joy||immersed|||||object marker|||||not regretted|||||
From then on, Yoko became willing to sacrifice everything in order to be immersed in the bliss of ecstasy.
そして 倉地 と 葉子 と は 互い 互い を 楽しま せ そして ひき寄せる ため に あらん限り の 手段 を 試みた 。
|くらち||ようこ|||たがい|たがい||たのしま|||ひきよせる|||あらんかぎり||しゅだん||こころみた
||||||||||||to attract|||||||
葉子 は 自分 の 不可 犯 性 ( 女 が 男 に 対して 持つ いちばん 強大な 蠱惑 物 ) の すべて まで 惜しみなく 投げ出して 、 自分 を 倉地 の 目 に 娼婦 以下 の もの に 見せる と も 悔いよう と は し なく なった 。
ようこ||じぶん||ふか|はん|せい|おんな||おとこ||たいして|もつ||きょうだいな|こわく|ぶつ||||おしみなく|なげだして|じぶん||くらち||め||しょうふ|いか||||みせる|||くいよう|||||
||||unacceptable|crime|||||||||powerful||||||without reservation||||||||prostitute||||||||regret|||||
Yoko generously threw away all of her invincibility (the most powerful allurement that a woman has in relation to a man), and made herself look less than a prostitute in Kurachi's eyes. rice field .
二 人 は 、 はた目 に は 酸 鼻 だ と さえ 思わ せる ような 肉 欲 の 腐敗 の 末 遠く 、 互いに 淫楽 の 実 を 互い 互い から 奪い合い ながら ずるずる と 壊れ こんで 行く のだった 。
ふた|じん||はため|||さん|はな||||おもわ|||にく|よく||ふはい||すえ|とおく|たがいに|いんらく||み||たがい|たがい||うばいあい||||こぼれ||いく|
|||bystander|||sourness||||||||meat|desire|||||||sensual pleasure|||||||snatching||sluggishly||broken|||
The two of them scrambled for the fruits of their lecherous pleasures from each other, and slowly fell into disrepair at the end of a carnal corruption that at first glance seemed like they had a sour nose.
・・
しかし 倉地 は 知ら ず 、 葉子 に 取って は この いまわしい 腐敗 の 中 に も 一 縷 の 期待 が 潜んで いた 。
|くらち||しら||ようこ||とって||||ふはい||なか|||ひと|る||きたい||ひそんで|
|||||||||||||||||a thread|||||
But Kurachi didn't know about it, and for Yoko, there was a glimmer of hope hidden in this hideous corruption.
一 度 ぎゅっと つかみ 得たら もう 動か ない ある 物 が その 中 に 横たわって いる に 違いない 、 そういう 期待 を 心 の すみ から ぬぐい去る 事 が でき なかった のだった 。
ひと|たび|||えたら||うごか|||ぶつ|||なか||よこたわって|||ちがいない||きたい||こころ||||ぬぐいさる|こと||||
|||||||||||||||||||||||||wiped away|||||
それ は 倉地 が 葉子 の 蠱惑 に 全く 迷わされて しまって 再び 自分 を 回復 し 得 ない 時期 が ある だろう と いう それ だった 。
||くらち||ようこ||こわく||まったく|まよわさ れて||ふたたび|じぶん||かいふく||とく||じき|||||||
|||||||||misled|||||||||time|||||||
It was that there would be a time when Kurachi would be completely led astray by Yoko's allure and would not be able to recover himself again.
恋 を しかけた もの の ひけめ と して 葉子 は 今 まで 、 自分 が 倉地 を 愛する ほど 倉地 が 自分 を 愛して は いない と ばかり 思った 。
こい||||||||ようこ||いま||じぶん||くらち||あいする||くらち||じぶん||あいして|||||おもった
||started|||deficiency||||||||||||||||||||||
Up until now, Yoko thought that Kurachi didn't love her as much as she loved him.
それ が いつでも 葉子 の 心 を 不安に し 、 自分 と いう もの の 居すわり 所 まで ぐらつか せた 。
|||ようこ||こころ||ふあんに||じぶん|||||いすわり|しょ|||
||||||||||||||presence|||wobbled|
This always made Yoko's heart uneasy, causing her to waver even to where she sat.
どうかして 倉地 を 痴呆 の ように して しまいたい 。
|くらち||ちほう||||しま い たい
|||dementia||||
Somehow I want to make Kurachi look like he's demented.
葉子 は それ が ため に は ある 限り の 手段 を 取って 悔い なかった のだ 。
ようこ||||||||かぎり||しゅだん||とって|くい||
Yoko did whatever it took to make it happen, and she didn't regret it.
妻子 を 離縁 さ せて も 、 社会 的に 死な して しまって も 、 まだまだ 物 足ら なかった 。
さいし||りえん||||しゃかい|てきに|しな|||||ぶつ|たら|
||||||||||||still|||
Even if he divorced his wife and children, and even if he died socially, it still wasn't enough.
竹 柴 館 の 夜 に 葉子 は 倉地 を 極 印 付き の 凶 状 持ち に まで した 事 を 知った 。
たけ|しば|かん||よ||ようこ||くらち||ごく|いん|つき||きょう|じょう|もち||||こと||しった
|||||||||||seal||||letter|||||||
外界 から 切り離さ れる だけ それ だけ 倉地 が 自分 の 手 に 落ちる ように 思って いた 葉子 は それ を 知って 有頂天に なった 。
がいかい||きりはなさ|||||くらち||じぶん||て||おちる||おもって||ようこ||||しって|うちょうてんに|
outside world|||||||||||||||||||||||
Yoko, who thought that being cut off from the outside world would make Kurachi fall into her hands, was ecstatic when she learned about it.
そして 倉地 が 忍ば ねば なら ぬ 屈辱 を 埋め合わせる ため に 葉子 は 倉地 が 欲する と 思わしい 激しい 情 欲 を 提供 しよう と した のだ 。
|くらち||しのば||||くつじょく||うめあわせる|||ようこ||くらち||ほっする||おもわしい|はげしい|じょう|よく||ていきょう||||
|||sneak||||||make up for|||||||desired|||||||||||
And in order to make up for the humiliation that Kurachi had to endure, Yoko tried to provide him with the intense lust that Kurachi seemed to desire.
そして そう する 事 に よって 、 葉子 自身 が 結局 自己 を 銷尽 して 倉地 の 興味 から 離れ つつ ある 事 に は 気づか なかった のだ 。
|||こと|||ようこ|じしん||けっきょく|じこ||しょうじん||くらち||きょうみ||はなれ|||こと|||きづか||
||||||||||||exhausted||||||||||||||
And by doing so, Yoko didn't realize that she was eventually exhausting herself and drifting away from Kurachi's interest.
・・
とにもかくにも 二 人 の 関係 は 竹 柴 館 の 一夜 から 面目 を 改めた 。
|ふた|じん||かんけい||たけ|しば|かん||いちや||めんぼく||あらためた
anyway||||||||||||||
葉子 は 再び 妻 から 情熱 の 若々しい 情 人 に なって 見えた 。
ようこ||ふたたび|つま||じょうねつ||わかわかしい|じょう|じん|||みえた
そういう 心 の 変化 が 葉子 の 肉体 に 及ぼす 変化 は 驚く ばかりだった 。
|こころ||へんか||ようこ||にくたい||およぼす|へんか||おどろく|
|||||||||exerts||||
葉子 は 急に 三 つ も 四 つ も 若 や い だ 。
ようこ||きゅうに|みっ|||よっ|||わか|||
二十六 の 春 を 迎えた 葉子 は そのころ の 女 と して は そろそろ 老い の 徴候 を も 見せる はずな のに 、 葉子 は 一 つ だけ 年 を 若く 取った ようだった 。
にじゅうろく||はる||むかえた|ようこ||||おんな|||||おい||ちょうこう|||みせる|||ようこ||ひと|||とし||わかく|とった|
||||||||||||||aging|possessive particle||||||||||||||||
・・
ある 天気 の いい 午後 ―― それ は 梅 の つぼみ が もう 少しずつ ふくらみ かかった 午後 の 事 だった が ―― 葉子 が 縁側 に 倉地 の 肩 に 手 を かけて 立ち 並び ながら 、 うっとり と 上気 して 雀 の 交わる の を 見て いた 時 、 玄関 に 訪れた 人 の 気配 が した 。
|てんき|||ごご|||うめ|||||すこしずつ|||ごご||こと|||ようこ||えんがわ||くらち||かた||て|||たち|ならび||||じょうき||すずめ||まじわる|||みて||じ|げんかん||おとずれた|じん||けはい||
|||||||||||||swelling|||||||||||||||||||standing||||||sparrow||交わる|||||||||||||
・・
「 だれ でしょう 」・・
倉地 は 物 惰 さ そうに 、・・
くらち||ぶつ|だ||そう に
||thing|laziness||
「 岡 だろう 」・・
おか|
と いった 。
・・
「 い ゝ えきっと 正井 さん よ 」・・
||えき っと|まさい||
||station|||
「 なあ に 岡 だ 」・・
||おか|
「 じゃ 賭けよ 」・・
|かけよ
|let's bet
葉子 は まるで 少女 の ように 甘ったれた 口調 で いって 玄関 に 出て 見た 。
ようこ|||しょうじょ|||あまったれた|くちょう|||げんかん||でて|みた
||||||whiny|||||||
倉地 が いった ように 岡 だった 。
くらち||||おか|
葉子 は 挨拶 も ろくろく し ないで いきなり 岡 の 手 を しっかり と 取った 。
ようこ||あいさつ||||||おか||て||||とった
そして 小さな 声 で 、・・
|ちいさな|こえ|
「 よく い らしって ね 。
||らし って|
その 間 着 の よく お 似合い に なる 事 。
|あいだ|ちゃく||||にあい|||こと
|during|||||suits|||
春 らしい いい 色 地 です わ 。
はる|||いろ|ち||
|||color|ground||
今 倉地 と 賭け を して いた 所 。
いま|くらち||かけ||||しょ
|||bet||||
早く お 上がり 遊ば せ 」・・
はやく||あがり|あそば|
葉子 は 倉地 に して いた ように 岡 の や さ 肩 に 手 を 回して ならび ながら 座敷 に は いって 来た 。
ようこ||くらち|||||おか||||かた||て||まわして|||ざしき||||きた
||||||||||||||||side||||||
・・
「 やはり あなた の 勝ち よ 。
|||かち|
あなた は あて 事 が お 上手だ から 岡 さん を 譲って 上げたら うまく あたった わ 。
|||こと|||じょうずだ||おか|||ゆずって|あげたら|||
||||||good||||||if you give|||
今 御 褒美 を 上げる から そこ で 見て いらっしゃい よ 」・・
いま|ご|ほうび||あげる||||みて||
||reward||||||||
そう 倉地 に いう か と 思う と 、 いきなり 岡 を 抱きすくめて その 頬 に 強い 接吻 を 与えた 。
|くらち|||||おもう|||おか||だきすくめて||ほお||つよい|せっぷん||あたえた
岡 は 少女 の ように 恥じらって しいて 葉子 から 離れよう と もがいた 。
おか||しょうじょ|||はじらって||ようこ||はなれよう||
|||||shyly||||||struggled
倉地 は 例 の 渋い ように 口 もと を ねじって ほほえみ ながら 、・・
くらち||れい||しぶい||くち|||||
|||||||||twisted||
「 ばか !
…… このごろ この 女 は 少し どうかし とります よ 。
||おんな||すこし||とり ます|
|||||a little strange||
岡 さん 、 あなた 一 つ 背中 でも ど や して やって ください 。
おか|||ひと||せなか||||||
…… まだ 勉強 か 」・・
|べんきょう|
と いい ながら 葉子 に 天井 を 指さして 見せた 。
|||ようこ||てんじょう||ゆびさして|みせた
葉子 は 岡 に 背中 を 向けて 「 さあ ど や して ちょうだい 」 と いい ながら 、 今度 は 天井 を 向いて 、・・
ようこ||おか||せなか||むけて|||||||||こんど||てんじょう||むいて
「 愛さ ん 、 貞 ちゃん 、 岡 さん が いら しって よ 。
あいさ||さだ||おか|||||
お 勉強 が 済んだら 早く おり ておい で 」・・
|べんきょう||すんだら|はやく|||
|||finished|||quickly|
と 澄んだ 美しい 声 で 蓮 葉 に 叫んだ 。
|すんだ|うつくしい|こえ||はす|は||さけんだ
・・
「 そう お 」・・
と いう 声 が して すぐ 貞 世 が 飛んで おりて 来た 。
||こえ||||さだ|よ||とんで||きた
・・
「 貞 ちゃん は 今 勉強 が 済んだ の か 」・・
さだ|||いま|べんきょう||すんだ||
と 倉地 が 聞く と 貞 世 は 平気な 顔 で 、・・
|くらち||きく||さだ|よ||へいきな|かお|
「 ええ 今 済んで よ 」・・
|いま|すんで|
と いった 。
そこ に は すぐ はなやかな 笑い が 破裂 した 。
|||||わらい||はれつ|
愛子 は なかなか 下 に 降りて 来よう と は し なかった 。
あいこ|||した||おりて|こよう||||
それ でも 三 人 は 親しく チャブ 台 を 囲んで 茶 を 飲んだ 。
||みっ|じん||したしく||だい||かこんで|ちゃ||のんだ
その 日岡 は 特別に 何 か いい出した そう に して いる 様子 だった が 。
|ひのおか||とくべつに|なん||いいだした|||||ようす||
|Hiyoka||||||||||||
やがて 、・・
「 きょう は わたし 少し お 願い が ある んです が 皆様 きいて くださる でしょう か 」・・
|||すこし||ねがい|||||みなさま||||
重苦しく いい出した 。
おもくるしく|いいだした
・・
「 え ゝ え ゝ あなた の おっしゃる 事 なら なんでも …… ねえ 貞 ちゃん ( と ここ まで は 冗談 らしく いった が 急に まじめに なって )…… なんでも おっしゃって ください ましな 、 そんな 他人行儀 を して くださる と 変です わ 」・・
|||||||こと||||さだ||||||じょうだん||||きゅうに||||||||たにんぎょうぎ|||||へんです|
||||||||||||||||||||||||||||||||||strange|
と 葉子 が いった 。
|ようこ||
・・
「 倉地 さん も いて くださる ので かえって いい よい と 思います が 古藤 さん を ここ に お 連れ しちゃ いけない でしょう か 。
くらち||||||||||おもい ます||ことう||||||つれ||||
…… 木村 さん から 古藤 さん の 事 は 前 から 伺って いた んです が 、 わたし は 初めて の お方 に お 会い する の が なんだか 億劫な 質 な もの で 二 つ 前 の 日曜日 まで とうとう お 手紙 も 上げ ないで いたら 、 その 日 突然 古藤 さん の ほう から 尋ねて 来て くださった んです 。
きむら|||ことう|||こと||ぜん||うかがって||||||はじめて||おかた|||あい|||||おっくうな|しち||||ふた||ぜん||にちようび||||てがみ||あげ||||ひ|とつぜん|ことう|||||たずねて|きて||
||||||||||||||||||||||||||reluctant|||||||||||||||||||||||||||||
古藤 さん も 一 度 お 尋ね しなければ いけない んだ が と いって いなさ いました 。
ことう|||ひと|たび||たずね|し なければ|||||||い ました
|||||||||||||absence|
で わたし 、 きょう は 水曜日 だ から 、 用 便 外出 の 日 だ から 、 これ から 迎え に 行って 来たい と 思う んです 。
||||すいようび|||よう|びん|がいしゅつ||ひ|||||むかえ||おこなって|こ たい||おもう|
||||Wednesday|||errand|errand||||||||pickup||||||
いけない でしょう か 」・・
葉子 は 倉地 だけ に 顔 が 見える ように 向き直って 「 自分 に 任せろ 」 と いう 目つき を し ながら 、・・
ようこ||くらち|||かお||みえる||むきなおって|じぶん||まかせろ|||めつき|||
||||||||||||leave it to me||||||
「 いい わ ね 」・・
と 念 を 押した 。
|ねん||おした
|||pressed
倉地 は 秘密 を 伝える 人 の ように 顔色 だけ で 「 よし 」 と 答えた 。
くらち||ひみつ||つたえる|じん|||かおいろ|||||こたえた
葉子 は くるり と 岡 の ほう に 向き直った 。
ようこ||||おか||||むきなおった
・・
「 よう ございます と も ( 葉子 は そのように アクセント を 付けた ) あなた に お 迎 い に 行って いただいて は ほんとに すみません けれども 、 そうして くださる と ほんとうに 結構 。
||||ようこ|||あくせんと||つけた||||むかい|||おこなって||||||||||けっこう
||||||that way||||||||||||||||||||
貞 ちゃん も いい でしょう 。
さだ||||
また もう 一 人 お 友だち が ふえて …… しかも 珍しい 兵隊 さん の お 友だち ……」・・
||ひと|じん||ともだち||||めずらしい|へいたい||||ともだち
「 愛 ねえさん が 岡 さん に 連れて いらっしゃいって この 間 そういった の よ 」・・
あい|||おか|||つれて|いらっしゃい って||あいだ|||
と 貞 世 は 遠慮 なく いった 。
|さだ|よ||えんりょ||
・・
「 そう そう 愛子 さん も そう おっしゃって でした ね 」・・
||あいこ||||||
と 岡 は どこまでも 上品な 丁寧な 言葉 で 事 の ついで の ように いった 。
|おか|||じょうひんな|ていねいな|ことば||こと|||||
|||||polite||||||||
・・
岡 が 家 を 出る と しばらく して 倉地 も 座 を 立った 。
おか||いえ||でる||||くらち||ざ||たった
・・
「 いい でしょう 。
うまく やって 見せる わ 。
||みせる|
かえって 出入り さ せる ほう が いい わ 」・・
|でいり||||||
玄関 に 送り出して そう 葉子 は いった 。
げんかん||おくりだして||ようこ||
||sending out||||
・・
「 どうか な あいつ 、 古藤 の やつ は 少し 骨 張り 過ぎて る …… が 悪かったら 元々 だ …… とにかく きょう おれ の いない ほう が よかろう 」・・
|||ことう||||すこし|こつ|はり|すぎて|||わるかったら|もともと|||||||||
|||||||||||||if it was bad||||||||||better
そう いって 倉地 は 出て 行った 。
||くらち||でて|おこなった
葉子 は 張り出し に なって いる 六 畳 の 部屋 を きれいに 片づけて 、 火鉢 の 中 に 香 を たき こめて 、 心 静かに 目論見 を めぐらし ながら 古藤 の 来る の を 待った 。
ようこ||はりだし||||むっ|たたみ||へや|||かたづけて|ひばち||なか||かおり||||こころ|しずかに|もくろみ||||ことう||くる|||まった
|||||||||||||||||||burned||||||planning|||||||
しばらく 会わ ない うち に 古藤 は だいぶ 手ごわく なって いる ように も 思えた 。
|あわ||||ことう|||てごわく|||||おもえた
||||||||formidable|||||
そこ を 自分 の 才 力 で 丸める の が 時 に 取って の 興味 の ように も 思えた 。
||じぶん||さい|ちから||まるめる|||じ||とって||きょうみ||||おもえた
|||||||to round|||||||||||
もし 古藤 を 軟化 すれば 、 木村 と の 関係 は 今 より も つなぎ が よく なる ……。
|ことう||なんか||きむら|||かんけい||いま||||||
|||soften||||||||||connection|||