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I Am a Cat by Soseki Natsume, Chapter I - 06

Chapter I - 06

その 翌日 吾輩 は 例 の ごとく 椽側 に 出て 心持 善く 昼寝 を して いたら 、 主人 が 例 に なく 書斎 から 出て 来て 吾輩 の 後ろ で 何 か しきりに やって いる 。 ふと 眼 が 覚めて 何 を して いる か と 一分 ばかり 細目 に 眼 を あけて 見る と 、 彼 は 余念 も なく アンドレア ・ デル ・ サルト を 極め込んで いる 。 吾輩 は この 有様 を 見て 覚えず 失笑 する の を 禁じ 得なかった 。 彼 は 彼 の 友 に 揶揄 せられ たる 結果 と して まず 手初め に 吾輩 を 写生 しつつある のである 。 吾輩 は すでに 十分 寝た 。 欠伸 が したくて たまらない 。 しかし せっかく 主人 が 熱心に 筆 を 執って いる の を 動いて は 気の毒 だ と 思って 、 じっと 辛棒 して おった 。 彼 は 今 吾輩 の 輪廓 を かき上げて 顔 の あたり を 色彩 って いる 。 吾輩 は 自白 する 。 吾輩 は 猫 と して 決して 上乗 の 出来 で は ない 。 背 と いい 毛並 と いい 顔 の 造作 と いい あえて 他の 猫 に 勝る と は 決して 思って おら ん 。 しかし いくら 不器量 の 吾輩 でも 、 今 吾輩 の 主人 に 描き出され つつ ある ような 妙な 姿 と は 、 どうしても 思われない 。 第一 色 が 違う 。 吾輩 は 波斯産 の 猫 の ごとく 黄 を 含める 淡 灰色 に 漆 の ごとき 斑入り の 皮膚 を 有して いる 。 これ だけ は 誰 が 見て も 疑う べからざる 事実 と 思う 。 しかる に 今 主人 の 彩色 を 見る と 、 黄 でも なければ 黒 で も ない 、 灰色 でも なければ 褐色 で も ない 、 されば とて これら を 交ぜた 色 で も ない 。 ただ 一種 の 色 である と いう より ほか に 評し 方 の ない 色 である 。 その上 不思議な 事 は 眼 が ない 。 もっとも これ は 寝て いる ところ を 写生 した のだ から 無理 も ない が 眼 らしい 所 さえ 見えない から 盲 猫 だ か 寝て いる 猫 だ か 判然 しない のである 。 吾輩 は 心中 ひそかに いくら アンドレア ・ デル ・ サルト でも これ で は しようがない と 思った 。 しかし その 熱心に は 感服 せざるを得ない 。 なるべく なら 動かず に おって やりたい と 思った が 、 さっき から 小便 が 催うして いる 。 身内 の 筋肉 は むずむず する 。 最早 一分 も 猶予 が 出来ぬ 仕儀 と なった から 、 やむをえず 失敬 して 両足 を 前 へ 存分 の して 、 首 を 低く 押し出して あー あと 大 なる 欠伸 を した 。 さて こう なって 見る と 、 もう おとなしく して いて も 仕方 が ない 。 どうせ 主人 の 予定 は 打ち壊した のだ から 、 ついでに 裏 へ 行って 用 を 足 そう と 思って のそのそ 這い出した 。 すると 主人 は 失望 と 怒り を 掻き交ぜた ような 声 を して 、 座敷 の 中 から 「 この 馬鹿 野郎 」 と 怒鳴った 。 この 主人 は 人 を 罵る とき は 必ず 馬鹿 野郎 と いう の が 癖 である 。

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Chapter I - 06 chapter|i Kapitel I - 06 Chapter I - 06 Capítulo I - 06 Capitolo I - 06 第 I-06 章

その 翌日 吾輩 は 例 の ごとく 椽側 に 出て 心持 善く 昼寝 を して いたら 、 主人 が 例 に なく 書斎 から 出て 来て 吾輩 の 後ろ で 何 か しきりに やって いる 。 |よくじつ|わがはい||れい|||たるきがわ||でて|こころ じ|よく|ひるね||||あるじ||れい|||しょさい||でて|きて|わがはい||うしろ||なん|||| |||||||||||||||||||||||||||||||continuamente|| The next day, if the student went out to the side as usual and was taking a nap with a good heart, the master came out of the study without any examples and was doing something behind the student. Le lendemain, je suis sortie sur le côté comme l'exemple et j'ai fait une sieste avec un bon cœur, mon mari est sorti de l'étude de façon inattendue et faisait quelque chose juste derrière le gars. ふと 眼 が 覚めて 何 を して いる か と 一分 ばかり 細目 に 眼 を あけて 見る と 、 彼 は 余念 も なく アンドレア ・ デル ・ サルト を 極め込んで いる 。 |がん||さめて|なん||||||ひと ふん||ほそめ||がん|||みる||かれ||よねん|||||||きわめ こんで| ||||||||||un minuto||a fessura||||aperto|||||余念(1)|||||||impegnato| When I woke up and looked into his eyes for a minute to see what he was doing, I saw that he had painstakingly worked on Andrea del Sarto. Soudain, lorsque je me réveille et que je vois ce que je fais avec une minute de détails, il a sans aucun doute mis Andrea del Sarto dans mon cœur. Improvvisamente, mi svegliai e, chiedendomi cosa stesse succedendo, aprii leggermente gli occhi per un minuto, e vidi che lui stava, senza alcuna distrazione, cercando di cogliere a fondo Andrea del Sarto. 吾輩 は この 有様 を 見て 覚えず 失笑 する の を 禁じ 得なかった 。 わがはい|||ありさま||みて|おぼえ ず|しっしょう||||きんじ|え なかった ||||||senza rendersi conto|sorridere involontariamente||||vietare| I could not help laughing at this situation without realizing it. Je ne pouvais pas interdire le sourire en souriant quand j'ai vu cette situation. Io non potevo fare a meno di ridere, vedendo questa scena. 彼 は 彼 の 友 に 揶揄 せられ たる 結果 と して まず 手初め に 吾輩 を 写生 しつつある のである 。 かれ||かれ||とも||やゆ|せら れ||けっか||||て はじめ||わがはい||しゃせい|し つつ ある| |||||||||||||inizio|||||sta facendo| As a result of being ridiculed by his friend, he is initially copying me. En se faisant ridiculiser par ses amis, il commence par se faire une copie de lui-même. Come conseguenza di essere deriso dai suoi amici, egli stava iniziando a ritrarre me per primo. 吾輩 は すでに 十分 寝た 。 わがはい|||じゅうぶん|ねた |||abbastanza| ||||寝た I have already slept enough. Io ho già dormito abbastanza. 欠伸 が したくて たまらない 。 あくび||し たくて| sbadiglio||fare|non ce la faccio più I'm dying for a lack. Non riesco a trattenere uno sbadiglio. しかし せっかく 主人 が 熱心に 筆 を 執って いる の を 動いて は 気の毒 だ と 思って 、 じっと 辛棒 して おった 。 ||あるじ||ねっしんに|ふで||とって||||うごいて||きのどく|||おもって||しん ぼう|| However, I felt sorry for my husband, who was working so hard on his writing, so I stayed still and patiently waited for him to finish. Ma pensavo che fosse dispiacevole muoversi dato che il padrone sta scrivendo con tanto impegno, così ho lottato per rimanere fermo. 彼 は 今 吾輩 の 輪廓 を かき上げて 顔 の あたり を 色彩 って いる 。 かれ||いま|わがはい||りん かく||かきあげて|かお||||しきさい|| |||||contorno||disegnando|||||色彩(1) - colorare|| Lui sta ora tracciando il mio contorno e colorando la parte del viso. 吾輩 は 自白 する 。 わがはい||じはく| ||confessione| Io confesso. 吾輩 は 猫 と して 決して 上乗 の 出来 で は ない 。 わがはい||ねこ|||けっして|うえ じょう||でき||| ||||||sopraffare||||| As a cat, I'm never good enough. Io non sono affatto un gatto che riesce a montare. 背 と いい 毛並 と いい 顔 の 造作 と いい あえて 他の 猫 に 勝る と は 決して 思って おら ん 。 せ|||けなみ|||かお||ぞうさく||||たの|ねこ||まさる|||けっして|おもって|| |||毛並み|||||||||||||||||| |||pelo|||||aspetto|||osare||||superare|||||| I never think that I'm better than other cats because I have a good profile with a tall hair and a good face. La schiena, il pelo e la forma del viso, non ho mai pensato di superare altri gatti. しかし いくら 不器量 の 吾輩 でも 、 今 吾輩 の 主人 に 描き出され つつ ある ような 妙な 姿 と は 、 どうしても 思われない 。 ||ふ きりょう||わがはい||いま|わがはい||あるじ||えがきださ れ||||みょうな|すがた||||おもわ れ ない ||brutto|||||||||disegnato||||strana|||||sembra However, even though I'm awkward, I can't think of a strange figure that is being drawn by my master. Tuttavia, per quanto possa essere brutto, non riesco a pensare a una forma bizzarra come quella che il mio padrone sta disegnando ora. 第一 色 が 違う 。 だい ひと|いろ||ちがう The first color is different. Innanzitutto, i colori sono diversi. 吾輩 は 波斯産 の 猫 の ごとく 黄 を 含める 淡 灰色 に 漆 の ごとき 斑入り の 皮膚 を 有して いる 。 わがはい||なみ しさん||ねこ|||き||ふくめる|あわ|はいいろ||うるし|||ふいり||ひふ||ゆうして| ||persiano|||||||includere|chiaro|grigio||lacca|||a macchie||||| Io ho una pelle maculata di un grigio chiaro che include giallo, simile a quello di un gatto di razza persiana. これ だけ は 誰 が 見て も 疑う べからざる 事実 と 思う 。 |||だれ||みて||うたがう|べ から ざる|じじつ||おもう ||||||||innegabile||| I think this is an unquestionable fact. Credo che questo sia un fatto indiscutibile per chiunque lo osservi. しかる に 今 主人 の 彩色 を 見る と 、 黄 でも なければ 黒 で も ない 、 灰色 でも なければ 褐色 で も ない 、 されば とて これら を 交ぜた 色 で も ない 。 ||いま|あるじ||あや いろ||みる||き|||くろ||||はいいろ|||かっしょく||||||||まぜた|いろ||| |||||colore||||||||||||||marrone||||それなら|allora|questi||mescolato|||| However, looking at the coloring of the master now, it is neither yellow nor black, neither gray nor brown, and by no means the color that mixes them. Tuttavia, ora che osservo i colori del mio padrone, non è giallo, né nero, né grigio, né marrone, e nemmeno un colore misto di questi. ただ 一種 の 色 である と いう より ほか に 評し 方 の ない 色 である 。 |いっしゅ||いろ|||||||ひょうし|かた|||いろ| |いっしゅ|||||||||評し(1)||||| ||||||||||評し(1)||||| It is a kind of color that has no other evaluation than it is a kind of color. その上 不思議な 事 は 眼 が ない 。 その うえ|ふしぎな|こと||がん|| inoltre|||||| Besides, the strange thing is that I have no eyes. もっとも これ は 寝て いる ところ を 写生 した のだ から 無理 も ない が 眼 らしい 所 さえ 見えない から 盲 猫 だ か 寝て いる 猫 だ か 判然 しない のである 。 |||ねて||||しゃせい||||むり||||がん||しょ||みえ ない||めくら|ねこ|||ねて||ねこ|||はんぜん|し ない| |||||||||||||||||||||cieco|||||||||判然しない|| However, it is natural that this is a picture of a sleeping person, but it is impossible to see whether it is a blind cat or a sleeping cat because it does not even show an eye. Tuttavia, poiché questo è stato disegnato mentre dormiva, non c'è da sorprendersi, ma poiché non si vede neanche il luogo da cui proviene l'occhio, non si può distinguere se si tratta di un gatto cieco o di un gatto che dorme. 吾輩 は 心中 ひそかに いくら アンドレア ・ デル ・ サルト でも これ で は しようがない と 思った 。 わがはい||しんちゅう||||||||||||おもった ||心中||||||||||仕方がない|| ||mente|segretamente|||||||||non c'è niente da fare|| I secretly thought that Andrea del Sarto couldn't do this. In cuor mio, pensai segretamente che non c'era nulla da fare anche se fosse stato Andrea del Sarto. しかし その 熱心に は 感服 せざるを得ない 。 ||ねっしんに||かんぷく|せ ざる を え ない However, I cannot help admiring it. Tuttavia, non posso fare a meno di ammirare il suo fervore. なるべく なら 動かず に おって やりたい と 思った が 、 さっき から 小便 が 催うして いる 。 ||うごか ず|||||おもった||||しょうべん||もよお う して| |||||||||||urina||| I wanted to keep it as it was, but I have been holding a piss since a while ago. Ho pensato che avrei voluto restare fermo il più possibile, ma da un po' di tempo ho bisogno di urinare. 身内 の 筋肉 は むずむず する 。 みうち||きんにく||| parente||muscolo||prurito| ||||むずむず| I muscoli del mio corpo sono irrequieti. 最早 一分 も 猶予 が 出来ぬ 仕儀 と なった から 、 やむをえず 失敬 して 両足 を 前 へ 存分 の して 、 首 を 低く 押し出して あー あと 大 なる 欠伸 を した 。 さい はやさ|ひと ふん||ゆうよ||でき ぬ|しぎ||||やむ を え ず|しっけい||りょうあし||ぜん||ぞんぶん|||くび||ひくく|おしだして|||だい||けつ しん|| |||||||||||||||||存分(1)||||||spingendo||||||| Since it was no longer possible to do so for one minute, I unavoidably compelled myself to keep my feet forward and push my neck down a little further, and I made a big break. Poiché non c'era più tempo di un minuto, non potendo fare diversamente mi sono scusato e ho allungato entrambe le gambe in avanti, abbassando la testa e facendo un grande sbadiglio. さて こう なって 見る と 、 もう おとなしく して いて も 仕方 が ない 。 |||みる|||||||しかた|| ||||||おとなしく|||||| Looking at this, it is unavoidable to be quiet. Beh, considerando come sono le cose, non ha comunque senso rimanere tranquillo. どうせ 主人 の 予定 は 打ち壊した のだ から 、 ついでに 裏 へ 行って 用 を 足 そう と 思って のそのそ 這い出した 。 |あるじ||よてい||うち こわした||||うら||おこなって|よう||あし|||おもって||はい だした |||||distrutto|||inoltre|||||||||||è uscito Dopotutto, ho già distrutto i piani del padrone, quindi ho pensato di andare dietro e fare i miei bisogni. すると 主人 は 失望 と 怒り を 掻き交ぜた ような 声 を して 、 座敷 の 中 から 「 この 馬鹿 野郎 」 と 怒鳴った 。 |あるじ||しつぼう||いかり||かき まぜた||こえ|||ざしき||なか|||ばか|やろう||どなった ||||||||||||||||||||urlò Then his master's voice was a mixture of disappointment and anger, and from inside the tatami room he said, "You idiot! I yelled at him. A quel punto, il padrone ha fatto una voce che sembrava mescolare delusione e rabbia, urlando "Questo stupido!" dalla stanza. この 主人 は 人 を 罵る とき は 必ず 馬鹿 野郎 と いう の が 癖 である 。 |あるじ||じん||ののしる|||かならず|ばか|やろう|||||くせ| Whenever this master curses a person, he always has a habit of being an idiot. Questo padrone ha l'abitudine di chiamare sempre qualcuno 'stronzo' quando lo insulta.