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一本のわら 楠山正雄, 三

< p > する と また 向こう から 一 つ 、 女 車 が 来 ました 。 こんど は 前 の より も いっそう 身分 の 高い 人 が 、 おしのび で おまいり に 来た もの と みえて 、 大ぜい の 侍 や 、 召使 の 女 など が お供 に ついて い ました 。 すると その お供 の 女 の 一 人 が 、 すっかり 歩き くたびれて 、 p >< p >「 もう 一足 も 歩け ませ ん 。 ああ 、 のど が かわく 。 水 が 飲み たい 。 」 p >< p > と いい ながら 、 真っ青な 顔 を して 往来 に 倒れかかり ました 。 侍 たち は びっくり して 、 どこ か に 水 は ない か と あわてて 探し回り ました が 、 そこら に は 井戸 も なし 、 流れ も あり ませ ん でした 。 そこ へ 若者 が のそのそ 通りかかり ます と 、 みんな は 、 「 もし 、 もし 、 お前 さん 、 この 近所 に 水 の 出る 所 を 知り ませ ん か 。 」 p >< p > と たずね ました 。 若者 は 、 p >< p >「 そう です ね 。 まあ この 辺 、 五 町 の うち に は 清水 の わいて いる 所 は ない でしょう が 、 いったい どう なさった の です 。 」 p >< p > と 聞き ました 。 「 ほら 、 あの とおり 歩き くたびれて 、 暑 さ に 当たって 、 水 を ほしがって 死に そうに なって いる 人 が ある の です 。 」 p >< p >「 お やおや 、 それ は お 気の毒 です ね 。 では さしあたり これ でも 召し上がって は いかがでしょう 。 」 p >< p > 若者 は そう いって 、 みかん を 三 つ と も 出して やり ました 。 みんな は 大そう よろこんで 、 さっそく みかん を むいて 、 病人 の 女 に その 汁 を 吸わ せ ました 。 すると 女 は やっと 元気 が ついて 、 p >< p >「 まあ 、 わたし は どうした と いう のでしょう 。 」 p >< p > と いい ながら 、 そこら を 見回し ました 。 みんな は 水 が なく って 困って いた ところ へ 、 往来 の 男 が みかん を くれた ので 助かった こと を 話し ます と 、 女 は よろこんで 、 「 もし この 人 が い なかったら 、 わたし は この 野原 の 上 で 死んで しまう ところ でした ね 。 」 p >< p > と いって 、 真っ白な 上等な 布 を 三 反 出して 、 p >< p >「 どんな お礼 でも して 上げ たい ところ だ けれど 、 途中 で どう する こと も でき ない から 、 ほんの お しるし に さし上げ ます 。 」 p >< p > と いって 、 渡し ました 。 若者 は それ を もらって 、 p >< p >「 お やおや 、 みかん 三 つ が 布 三 反 に なった 。 」 p >< p > と 、 ほくほく し ながら 布 を 小 わき に かかえて 、 また 歩いて 行き ました 。 p >

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< p > する と また 向こう から 一 つ 、 女 車 が 来 ました 。 ||||むこう||ひと||おんな|くるま||らい| こんど は 前 の より も いっそう 身分 の 高い 人 が 、 おしのび で おまいり に 来た もの と みえて 、 大ぜい の 侍 や 、 召使 の 女 など が お供 に ついて い ました 。 ||ぜん|||||みぶん||たかい|じん||||||きた||||おおぜい||さむらい||めしつかい||おんな|||おとも|||| すると その お供 の 女 の 一 人 が 、 すっかり 歩き くたびれて 、 p >< p >「 もう 一足 も 歩け ませ ん 。 ||おとも||おんな||ひと|じん|||あるき|||||ひとあし||あるけ|| ああ 、 のど が かわく 。 水 が 飲み たい 。 すい||のみ| 」 p >< p > と いい ながら 、 真っ青な 顔 を して 往来 に 倒れかかり ました 。 |||||まっさおな|かお|||おうらい||たおれかかり| 侍 たち は びっくり して 、 どこ か に 水 は ない か と あわてて 探し回り ました が 、 そこら に は 井戸 も なし 、 流れ も あり ませ ん でした 。 さむらい||||||||すい||||||さがしまわり||||||いど|||ながれ||||| そこ へ 若者 が のそのそ 通りかかり ます と 、 みんな は 、 「 もし 、 もし 、 お前 さん 、 この 近所 に 水 の 出る 所 を 知り ませ ん か 。 ||わかもの|||とおりかかり|||||||おまえ|||きんじょ||すい||でる|しょ||しり||| 」 p >< p > と たずね ました 。 若者 は 、 p >< p >「 そう です ね 。 わかもの|||||| まあ この 辺 、 五 町 の うち に は 清水 の わいて いる 所 は ない でしょう が 、 いったい どう なさった の です 。 ||ほとり|いつ|まち|||||きよみず||||しょ||||||||| 」 p >< p > と 聞き ました 。 |||きき| 「 ほら 、 あの とおり 歩き くたびれて 、 暑 さ に 当たって 、 水 を ほしがって 死に そうに なって いる 人 が ある の です 。 |||あるき||あつ|||あたって|すい|||しに|そう に|||じん|||| 」 p >< p >「 お やおや 、 それ は お 気の毒 です ね 。 |||||||きのどく|| では さしあたり これ でも 召し上がって は いかがでしょう 。 ||||めしあがって|| 」 p >< p > 若者 は そう いって 、 みかん を 三 つ と も 出して やり ました 。 ||わかもの||||||みっ||||だして|| みんな は 大そう よろこんで 、 さっそく みかん を むいて 、 病人 の 女 に その 汁 を 吸わ せ ました 。 ||たいそう||||||びょうにん||おんな|||しる||すわ|| すると 女 は やっと 元気 が ついて 、 p >< p >「 まあ 、 わたし は どうした と いう のでしょう 。 |おんな|||げんき||||||||||| 」 p >< p > と いい ながら 、 そこら を 見回し ました 。 |||||||みまわし| みんな は 水 が なく って 困って いた ところ へ 、 往来 の 男 が みかん を くれた ので 助かった こと を 話し ます と 、 女 は よろこんで 、 「 もし この 人 が い なかったら 、 わたし は この 野原 の 上 で 死んで しまう ところ でした ね 。 ||すい||||こまって||||おうらい||おとこ||||||たすかった|||はなし|||おんな|||||じん|||||||のはら||うえ||しんで|||| 」 p >< p > と いって 、 真っ白な 上等な 布 を 三 反 出して 、 p >< p >「 どんな お礼 でも して 上げ たい ところ だ けれど 、 途中 で どう する こと も でき ない から 、 ほんの お しるし に さし上げ ます 。 ||||まっしろな|じょうとうな|ぬの||みっ|はん|だして||||お れい|||あげ|||||とちゅう|||||||||||||さしあげ| 」 p >< p > と いって 、 渡し ました 。 ||||わたし| 若者 は それ を もらって 、 p >< p >「 お やおや 、 みかん 三 つ が 布 三 反 に なった 。 わかもの||||||||||みっ|||ぬの|みっ|はん|| 」 p >< p > と 、 ほくほく し ながら 布 を 小 わき に かかえて 、 また 歩いて 行き ました 。 ||||||ぬの||しょう|||||あるいて|いき| p >