第 三 章 彼女 は 誰 に 出会った か?【2】
だい|みっ|しょう|かのじょ||だれ||であった|
|||||||met|
Kapitel 3: Wen hat sie getroffen? [2
Chapter 3 Who did she meet? [2
Capítulo 3: ¿A quién conoció? [2
제3장 그녀는 누구를 만났을까? (2)【제3장】그녀는 누구를 만났을까?
Kapitel 3: Vem träffade hon [2]?
第 3 章:她遇见了谁?[2
ベッド の 軋み 方 を 確かめる ように 、 祐一 は 何度 も 寝返り を 打った 。
べっど||きしみ|かた||たしかめる||ゆういち||なんど||ねがえり||うった
||creaking|||check||||||||rolled
Keiichi knocked over again and again to see how to bed.
午後 八 時 五十 分 。
ごご|やっ|じ|ごじゅう|ぶん
まだ 眠る に は 早 すぎる 時間 だった が 、 ここ 数 日 、 できれば 一刻 も 早く 眠り に 落ち たくて 、 風呂 に 入って 夕食 を 済ませる と 、 まだ 目 を ギラギラ さ せた まま ベッド に 入る 。
|ねむる|||はや||じかん||||すう|ひ||いっこく||はやく|ねむり||おち||ふろ||はいって|ゆうしょく||すませる|||め||ぎらぎら||||べっど||はいる
|||||||||||||moment||||||||||||finish|||||glittering||||||
||||||||||||||||||||||||||||||ギラギラ||||||
入った ところ で 眠れる わけ も ない 。
はいった|||ねむれる|||
|||can sleep|||
こう やって 何度 も 寝返り を 繰り返して いる うち に 、 枕 の 臭い が 気 に なり 出し 、 首筋 に 触れる 毛布 の 毛 羽 立ち に イライラ して くる 。
||なんど||ねがえり||くりかえして||||まくら||くさい||き|||だし|くびすじ||ふれる|もうふ||け|はね|たち||いらいら||
||||rolling over||||||pillow||||||||base of the neck|||||hair||||||
たいてい 気 が つく と 、 性器 を 弄って いる 。
|き||||せいき||いじって|
|||||genitals||playing|
布団 の 中 で 硬く なった 性器 は 、 横顔 に 当たる 赤外線 ストーブ の 熱 と 同じ くらい に 熱い 。
ふとん||なか||かたく||せいき||よこがお||あたる|せきがいせん|すとーぶ||ねつ||おなじ|||あつい
futon||||||||profile|||infrared|||heat|||||
||||||||profile|||||||||||
事件 から すでに 九 日 が 経って いた 。
じけん|||ここの|ひ||たって|
incident||||||passed|
重要 参考人 である 福岡 の 大学生 の 行方 が 未 だに 分から ない と いう ところ まで 伝えて いた テレビ の ワイドショー も 、 ここ 数 日 は まったく 三瀬 の 事件 を 扱って い ない 。
じゅうよう|さんこうにん||ふくおか||だいがくせい||ゆくえ||み||わから||||||つたえて||てれび|||||すう|ひ|||みせ||じけん||あつかって||
|reference person||||||||||||||||||||wide show|||||||Mise||||covering||
駐在 所 の 巡査 が こっそり と 房枝 に 告げた ように 、 実際 に 警察 は 、 未 だ 行方 の 分から ない その 大学生 を 追って いる と しか 考え られ ない 。
ちゅうざい|しょ||じゅんさ||||ふさえ||つげた||じっさい||けいさつ||み||ゆくえ||わから|||だいがくせい||おって||||かんがえ||
|station||police officer||secretly||small branch|||||||||||||||||||||||
あれ 以来 、 祐一 の 元 に 警察 から の 連絡 や 聞き込み は ない 。
|いらい|ゆういち||もと||けいさつ|||れんらく||ききこみ||
||||||police|||||police questioning||
捜査 線上 から 完全に 消えた か の よう に 何も 起こら ない 。
そうさ|せんじょう||かんぜんに|きえた|||||なにも|おこら|
investigation|on the line|||disappeared|||||||
目 を 閉じる と 、 あの 夜 、 三瀬 峠 を 走り抜けた とき の 感触 が 未 だに 手 に 蘇る 。
め||とじる|||よ|みつせ|とうげ||はしりぬけた|||かんしょく||み||て||よみがえる
|||||||mountain pass||raced through|||sensation||||||revived
||||||||||||||||||よみがえる
強く ハンドル を 握って いた せい で 、 何度 も カーブ で スピン し かけた 。
つよく|はんどる||にぎって||||なんど||かーぶ||||
|||||||||||spin||
|||||||||||スピン||
車 の ライト が 藪 を 照らし 、 真っ白な ガード レール が 迫る 。
くるま||らいと||やぶ||てらし|まっしろな|がーど|れーる||せまる
||||bush|||||||approaching
||||||||ガードレール|ガードレール||
また 寝返り を 打った 祐一 は 、「 早く 眠って しまえ 」 と 自分 に 言い聞かせる ように 臭い 枕 に 顔 を 埋めた 。
|ねがえり||うった|ゆういち||はやく|ねむって|||じぶん||いいきかせる||くさい|まくら||かお||うずめた
||||||||||||self-talk|||||||buried
汗 と 体 臭 と シャンプー が 混じり合った イライラ する 臭い だった 。
あせ||からだ|くさ||しゃんぷー||まじりあった|いらいら||くさい|
||body|||||mixed together||||
床 に 脱ぎ捨てた ズボン から メール の 着信 音 が 聞こえた の は その とき だった 。
ゆか||ぬぎすてた|ずぼん||めーる||ちゃくしん|おと||きこえた|||||
floor||discarded|||||incoming call||||||||
祐一 は 眠る こと へ の 強迫 から 解放 して もらえた ような 気 が して 、 すぐに 腕 を 伸ばして 携帯 を 取り出した 。
ゆういち||ねむる||||きょうはく||かいほう||||き||||うで||のばして|けいたい||とりだした
||||||compulsion||freed||||||||arm|||||
どうせ 一二三 から だろう と 思った が 、 送信 者 欄 に 見知らぬ アドレス が あった 。
|ひふみ||||おもった||そうしん|もの|らん||みしらぬ|あどれす||
anyway|one two three||||||sending||field||unfamiliar|address||
ベッド から 抜け出して 床 に あぐら を かいた 。
べっど||ぬけだして|とこ||||
|||||cross-legged||crossed
真冬 でも パンツ だけ で 寝る 習慣 が ある ので 、 赤外線 ストーブ に 向け られた 背中 が 熱い 。
まふゆ||ぱんつ|||ねる|しゅうかん||||せきがいせん|すとーぶ||むけ||せなか||あつい
midwinter||||||habit||||infrared||||was directed|back||
〈 こんにちは 。
覚えて ます か ?
おぼえて||
三 カ月 くらい 前 に ちょっと だけ メール を やりとり した 者 です 。
みっ|かげつ||ぜん||||めーる||||もの|
|||||||||exchanging|||
私 は 佐賀 に 住んで いる 双子 姉妹 の 姉 で 、 その とき あなた と 灯台 の 話 で 盛り上がった んだ けど 、 もう 忘れ ちゃ い ました か ?
わたくし||さが||すんで||ふたご|しまい||あね||||||とうだい||はなし||もりあがった||||わすれ||||
|||||||||older sister||||||lighthouse||||got excited|||||||did|
急な メール ごめんなさい 〉
きゅうな|めーる|
sudden||
メール を 読み 終える と 、 祐一 は 赤外線 ストーブ が 当たる 背中 を 掻いた 。
めーる||よみ|おえる||ゆういち||せきがいせん|すとーぶ||あたる|せなか||かいた
|||||||||||||scratched
|||||||||||||scratch
数 十 秒 の こと だった が 、 肌 が 焼けた ように 熱く なって いた 。
すう|じゅう|びょう|||||はだ||やけた||あつく||
|||||||||burned||||
あぐら を かいた まま 、 畳 の 上 を 移動 した 。
||||たたみ||うえ||いどう|
cross-legged||||tatami||||moved|
横 に あった ズボン や トレーナー が 、 その 膝 に 絡まって 一緒に ついてくる 。
よこ|||ずぼん||とれーなー|||ひざ||からまって|いっしょに|
||||||||knee||tangled||follow
メール を 送って きた 相手 の 女 を 祐一 は 覚えて いた 。
めーる||おくって||あいて||おんな||ゆういち||おぼえて|
三 カ月 ほど 前 、 出会い 系 サイト に 自分 の アドレス を 登録 した とき 、 五 、 六 通 の メール が あった うち の 一 人 で 、 しばらく は メール の やりとり を して いた のだ が 、 祐一 が ドライブ に 誘った とたん 、 いきなり 返信 が こ なく なった 。
みっ|かげつ||ぜん|であい|けい|さいと||じぶん||あどれす||とうろく|||いつ|むっ|つう||めーる|||||ひと|じん||||めーる||||||||ゆういち||どらいぶ||さそった|||へんしん||||
||||||||||address||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
〈 久しぶり 。
ひさしぶり
long time no see
急に どうした と ?
きゅうに||
suddenly||
自然に 指 が 動いた 。
しぜんに|ゆび||うごいた
|||moved
普段 、 喋る とき に は 頭 に 浮かんだ 言葉 が 口 から 出る 前 に 、 必ず 何 か に 突っかかる のに 、 こう やって メール を 打つ とき だけ は 、 その 言葉 が すら すら と 指先 に 伝わって いく 。
ふだん|しゃべる||||あたま||うかんだ|ことば||くち||でる|ぜん||かならず|なん|||つっかかる||||めーる||うつ|||||ことば|||||ゆびさき||つたわって|
|||||||||||||||必ず||||to come to mind|||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||引っかかる|||||||||||||||||||
〈 覚えて て くれた ?
おぼえて||
よかった 。
別に 用 は ない の 。
べつに|よう|||
ただ 、 急に メール し たく なって 〉
|きゅうに|めーる|||
女 から すぐに 返信 が あった 。
おんな|||へんしん||
名前 を 思い出せ なかった が 、 思い出した ところ で 偽名 に 決まって いる 。
なまえ||おもいだせ|||おもいだした|||ぎめい||きまって|
||||||||false name|||
〈 あれ から 元気 やった ?
||げんき|
車 買う と か 言い よった けど 、 買った と ?
くるま|かう|||いい|||かった|
|||||said|||
〉 と 祐一 は 返信 した 。
|ゆういち||へんしん|
〈 買って ない よ 。
かって||
相変わらず 自転車 で 通勤 中 。
あいかわらず|じてんしゃ||つうきん|なか
|||commuting|
そっち は なんか いい こと あった ?
〈 いい こと ?
〈 彼女 できた と か ?
かのじょ|||
〈 でき とら ん よ 。
そっち は ?
〈 私 も 。
わたくし|
ねえ 、 あれ から どこ か 新しい 灯台 行った ?
|||||あたらしい|とうだい|おこなった
||||||lighthouse|
||||||lighthouse|
〈 最近 ぜんぜん 行 っと らん 。
さいきん||ぎょう||
週 末 も 家 で 寝て ばっかり 〉
しゅう|すえ||いえ||ねて|
〈 そう な んだ 。
ねえ 、 どこ だ っけ ?
前 に 勧めて くれた 奇麗な 灯台 って 〉
ぜん||すすめて||きれいな|とうだい|
||||beautiful|lighthouse|
〈 どこ の 灯台 ?
||とうだい
長崎 ?
ながさき
佐賀 ?
さが
〈 長崎 の 。
ながさき|
灯台 の 先 に 展望 台 が ある 小さな 島 が あって 、 そこ まで 歩いて 行ける って 。
とうだい||さき||てんぼう|だい|||ちいさな|しま|||||あるいて|いける|
そこ から 夕日 見たら 泣き たく なる くらい 奇麗 だって 〉
||ゆうひ|みたら|なき||||きれい|
||sunset||||||beautiful|
〈 ああ 、 それ やったら 樺島 の 灯台 やろ 。
|||かばしま||とうだい|
|||Kashima|||
うち から 近い よ 〉
||ちかい|
〈 どれ くらい ?
〈 車 で 十五 分 か 二十 分 くらい 〉
くるま||じゅうご|ぶん||にじゅう|ぶん|
〈 そ っか ぁ 。
いい 所 に 住 ん ど る と ね ー 〉
|しょ||じゅう||||||-
〈 別に いい 所 じゃ なか よ 〉
べつに||しょ|||
〈 でも 海 の 近く やろ ?
|うみ||ちかく|
〈 海 なら 、 すぐ そこ に ある 〉
うみ|||||
〈 海 なら 、 すぐ そこ に ある 〉 と 打った メール を 送った とたん 、 窓 の 外 から 波 止め で 砕ける 波 の 音 が 聞こえた 。
うみ|||||||うった|めーる||おくった||まど||がい||なみ|とどめ||くだける|なみ||おと||きこえた
|||||||||||||||||||crashing|||||
夜 に なる と 波 の 音 は 高く なる 。
よ||||なみ||おと||たかく|
波 の 音 は 夜通し 聞こえ 、 小さな ベッド で 眠る 祐一 の からだ を 浸して いく 。
なみ||おと||よどおし|きこえ|ちいさな|べっど||ねむる|ゆういち||||ひたして|
wave||||all night||||||||||soaking|
||||throughout the night|||||||||||
そんな とき 、 祐一 は 波打ち際 の 流木 の ような 気持ち に なる 。
||ゆういち||なみうちぎわ||りゅうぼく|||きもち||
||||water's edge||driftwood|||||
||||||driftwood|||||
波 に 攫 われ そうで 攫 われ ず 、 砂浜 に 打ち上げ られ そうで 打ち上げ られ ない 。
なみ||つか||そう で|つか|||すなはま||うちあげ||そう で|うちあげ||
||snatched||||||sandy beach||washed up|||washed up||
いつまでも いつまでも 、 流木 は 砂 の 上 を 転がさ れ 続ける 。
||りゅうぼく||すな||うえ||ころがさ||つづける
forever||||sand||||rolled||
||||||||転がり続ける||
〈 佐賀 に も ある ?
さが|||
奇麗な 灯台 〉
きれいな|とうだい
beautiful|lighthouse
すぐに 送ら れて きた メール に 、〈 ある ばい 。
|おくら|||めーる|||
佐賀 に も 〉 と 祐一 は 送り 返した 。
さが||||ゆういち||おくり|かえした
|||||||sent back
〈 でも 唐津 の ほう やろ ?
|からつ|||
|Karatsu|||
うち 市 内 の ほう やけん 〉
|し|うち|||
送ら れて くる 一 文字 一 文字 に 音 が あって 、 聞いた こと も ない 女 の 声 が はっきり と 耳 に 届いた 。
おくら|||ひと|もじ|ひと|もじ||おと|||きいた||||おんな||こえ||||みみ||とどいた
||||||character|||||||||||||||||
祐一 は 車 で 何 度 か 走った こと の ある 佐賀 の 風景 を 思い描いた 。
ゆういち||くるま||なん|たび||はしった||||さが||ふうけい||おもいえがいた
|||||||||||||||imagined
長崎 と 違い 、 気 が 抜けて しまう ほど 平坦な 土地 で 、 どこまでも 単調な 街道 が 伸びて いる 。
ながさき||ちがい|き||ぬけて|||へいたんな|とち|||たんちょうな|かいどう||のびて|
|||||lacking|||flat|land|||monotonous||||
前 に も 後ろ に も 山 は ない 。
ぜん|||うしろ|||やま||
急な 坂道 も なければ 、 石畳 の 路地 も ない 。
きゅうな|さかみち|||いしだたみ||ろじ||
|hill|||paved street||||
真 新しい アスファルト 道路 が ただ 真っすぐに 伸びて いる 。
まこと|あたらしい||どうろ|||まっすぐに|のびて|
real||||||||
道 の 両側 に は 本屋 や パチンコ 屋 や ファーストフード の 大型 店 が 並んで いる 。
どう||りょうがわ|||ほんや||ぱちんこ|や||||おおがた|てん||ならんで|
||||||||||||large||||
どの 店舗 に も 大きな 駐車 場 が あり 、 たくさん 車 は 停 まって いる のに 、 なぜ か その 風景 の 中 に 人 だけ が い ない 。
|てんぽ|||おおきな|ちゅうしゃ|じょう||||くるま||てい|||||||ふうけい||なか||じん||||
|store||||||||||||||||||||||||||
ふと 、 今 、 メール の やりとり を して いる 女 は 、 あの 町 を 歩いて いる んだ 、 と 祐一 は 思った 。
|いま|めーる||||||おんな|||まち||あるいて||||ゆういち||おもった
suddenly||||exchange|||||||||||||||
とても 当たり前の こと だ が 、 車 から の 景色 しか 知ら ない 祐一 に とって 、 あの 単調な 町 を 歩く とき 、 風景 が どのように 見える の か 分から なかった 。
|あたりまえの||||くるま|||けしき||しら||ゆういち||||たんちょうな|まち||あるく||ふうけい|||みえる|||わから|
|natural|||||||||||||||||||||||||||
歩いて も 歩いて も 景色 は 変わら ない 。
あるいて||あるいて||けしき||かわら|
||||scenery|||
まるで スローモーション の ような 景色 。
||||けしき
|slow motion|||
いつまでも いつまでも 打ち上げ られ ない 流木 が 見て いる ような 景色 。
||うちあげ|||りゅうぼく||みて|||けしき
|forever|||||||||
〈 最近 、 誰 と も 話し とら ん 〉
さいきん|だれ|||はなし||
手元 を 見る と 、 そう 書いて あった 。
てもと||みる|||かいて|
送ら れて きた もの で は なく 、 自分 が 自分 の 指 で 無意識に 打って いた 文章 だった 。
おくら|||||||じぶん||じぶん||ゆび||むいしきに|うって||ぶんしょう|
||||||||||||||||sentence|
祐一 は すぐに 消そう と した が 、 その あと に 〈 仕事 と 家 の 往復 だけ で 〉 と 付け加え 、 一瞬 迷い ながら 送信 した 。
ゆういち|||けそう|||||||しごと||いえ||おうふく||||つけくわえ|いっしゅん|まよい||そうしん|
||||||||||||||back and forth||||added||||sent|
これ まで 寂しい と 思った こと は なかった 。
||さびしい||おもった|||
||lonely|||||
寂しい と いう の が どういう もの な の か 分かって い なかった 。
さびしい||||||||||わかって||
ただ 、 あの 夜 を 境 に 、 今 、 寂しくて 仕方 が ない 。
||よ||さかい||いま|さびしくて|しかた||
||||turn|||lonely|||
寂し さ と いう の は 、 自分 の 話 を 誰 か に 聞いて もらい たい と 切望 する 気持ち な の かも しれ ない と 祐一 は 思う 。
さびし||||||じぶん||はなし||だれ|||きいて||||せつぼう||きもち|||||||ゆういち||おもう
lonely|||||||||||||||||earnestly desire|||||||||||
|||||||||||||||||強い願望|する||||||||||
これ まで は 誰 か に 伝え たい 自分 の 話 など なかった のだ 。
|||だれ|||つたえ||じぶん||はなし|||
でも 、 今 の 自分 に は それ が あった 。
|いま||じぶん|||||
伝える 誰 か に 出会い たかった 。
つたえる|だれ|||であい|
「 珠代 !
たまよ
Tamayo
私 、 今夜 ちょっと 遅く なる かも しれ ん けん 」
わたくし|こんや||おそく|||||
妹 の 珠代 が 襖 の 向こう で 出勤 の 支度 を する 音 を 布団 の 中 で 聞き ながら 、 光代 は 言おう か 言う まい か と 悩んで いた 言葉 を 、 いよいよ 珠代 が 玄関 で 靴 を 履き 始めた とき に 告げた 。
いもうと||たまよ||ふすま||むこう||しゅっきん||したく|||おと||ふとん||なか||きき||みつよ||いおう||いう||||なやんで||ことば|||たまよ||げんかん||くつ||はき|はじめた|||つげた
||Tamayo||sliding door||||going to work||preparations|||||futon||||||Mitsuyo||||||||worrying|||||Tamayo||||||||||
「 棚卸し ?
たなおろし
inventory
玄関 から 珠代 の 声 が 返って くる 。
げんかん||たまよ||こえ||かえって|
||Tamayo|||||
「 う 、…… うん 。
あ 、 いや 、 そう じゃ なくて 、 仕事 休み やけん ……。
|||||しごと|やすみ|
|no||||||
とにかく 、 ちょっと 用 が あって 遅く なる と 思う 」
||よう|||おそく|||おもう
光代 は 布団 から 這い 出し 、 襖 を 開けて 玄関 の ほう へ 顔 を 出した 。
てるよ||ふとん||はい|だし|ふすま||あけて|げんかん||||かお||だした
Mitsuyo||||crawled||sliding door|||||||||
すでに 靴 を 履き 終えた 珠代 は ドアノブ に 手 を かけて いる 。
|くつ||はき|おえた|たまよ||||て|||
|||wearing||Tamayo||door knob|||||
|||||||door knob|||||
「 用 ?
よう
何の ?
なんの
何時ごろ に なる と ?
いつごろ|||
ごはん も いら ん って こと ?
矢継ぎ早に 質問 して くる わりに は 興味 も ない らしく 、 珠代 は ドア を 開け 、 片足 は 外 に 出して いる 。
やつぎばやに|しつもん|||||きょうみ||||たまよ||どあ||あけ|かたあし||がい||だして|
rapidly||||||||||Tamayo||||||||||
次々に||||||||||||||||||||
「 起きる なら 、 鍵 か けん で いい ?
おきる||かぎ||||
get up||key||||
||||かける||
もう ッ 、 なんで 土曜日 に 出勤 な わけ ッ 」
|||どようび||しゅっきん|||
珠代 は 光代 の 答え も 待た ず に ドア を 閉めた 。
たまよ||てるよ||こたえ||また|||どあ||しめた
閉まった ドア に 向かって 、「 いって らっしゃい 」 と 光代 は 声 を かけた 。
しまった|どあ||むかって||||てるよ||こえ||
|||||||Mitsuyo||||
珠代 が 電気 カーペット を つけて いた おかげ で 、 這い 出した 手のひら や 膝 が ぽかぽか と 温かい 。
たまよ||でんき|||||||はい|だした|てのひら||ひざ||||あたたかい
|||||||||||palm||knee||warm||warm
光代 は カレンダー を 手 に 取り 、 青い 22 と いう 数字 に 指 で 触れた 。
みつよ||かれんだー||て||とり|あおい|||すうじ||ゆび||ふれた
Mitsuyo||||||taking||||||||touched
||カレンダー||||||||||||
考えて みれば 、 店 の 繁盛 日 である 土 日 に 、 連続 して 休暇 を 取る の は あの 日 以来 だ 。
かんがえて||てん||はんじょう|ひ||つち|ひ||れんぞく||きゅうか||とる||||ひ|いらい|
||||prosperity|||Saturday|||consecutively||vacation||||||||
Come to think of it, it was the first time since that day that I had taken consecutive days off on Saturdays and Sundays, the store's busiest days.
今 から 一 年 半 ほど 前 の ゴールデンウィーク 、 博多 で 暮らす 高校 時代 の 友人 の 家 に 泊まり に 行く 予定 で 、 溜まって いた 有給 休暇 を 取った のだ 。
いま||ひと|とし|はん||ぜん|||はかた||くらす|こうこう|じだい||ゆうじん||いえ||とまり||いく|よてい||たまって||ゆうきゅう|きゅうか||とった|
||||||||Golden Week||||||||||||||||had built up||paid||||
||||||||ゴールデンウィーク||||||||||||||||||||||
友人 の 旦那 が その 週 末 法事 で 里帰り して おり 、 久しぶりに 二 人 で 夜通し お 喋り する 計画 だった 。
ゆうじん||だんな|||しゅう|すえ|ほうじ||さとがえり|||ひさしぶりに|ふた|じん||よどおし||しゃべり||けいかく|
|||||||Buddhist memorial service||returning to one's hometown|||||||all night||||plan|
|||||||法事||||||||||||||
彼女 の 二 歳 に なる 息子 も 一 度 抱いて み たい と 思って いた 。
かのじょ||ふた|さい|||むすこ||ひと|たび|いだいて||||おもって|
||||to|||||||||||
天神 行き の バス は 佐賀 駅前 に 乗り場 が ある 。
てんじん|いき||ばす||さが|えきまえ||のりば||
Tenjin||||||||bus stop||
その 日 、 自転車 で 駅 に 着いた の は 十二 時 半 を 回った ころ で 、 あと 十 数 分 で 博多 行き の 高速 バス が 出発 する ところ だった 。
|ひ|じてんしゃ||えき||ついた|||じゅうに|じ|はん||まわった||||じゅう|すう|ぶん||はかた|いき||こうそく|ばす||しゅっぱつ|||
友人 から 「 ごめん 。
ゆうじん||
子供 が 熱 の ある みたいな ん よ 」 と いう 電話 が 入った の は 切符 を 買おう と 列 に 並んで いる とき だ 。
こども||ねつ||||||||でんわ||はいった|||きっぷ||かおう||れつ||ならんで|||
|||||||||||||||ticket||to buy||line|||||
今更 と 言えば 今更 だ が 、 子供 が 病気 と なれば 無理 は 言え ない 。
いまさら||いえば|いまさら|||こども||びょうき|||むり||いえ|
now||||||||||||||
光代 は 潔く 諦めて 列 を 離れ 、 半分 不貞腐れて アパート へ 戻った 。
てるよ||いさぎよく|あきらめて|れつ||はなれ|はんぶん|ふてくされて|あぱーと||もどった
||resolutely|giving up|||||dejected|||
||||||||不貞腐れて|||
乗る はずだった その 高速 バス が 、 若い 男 に 乗っ取ら れた こと を 知った の は 、 戻った アパート で 無駄に 取って しまった 有給 休暇 を どう 使おう か と 悩んで いる とき だった 。
のる|||こうそく|ばす||わかい|おとこ||のっとら||||しった|||もどった|あぱーと||むだに|とって||ゆうきゅう|きゅうか|||つかおう|||なやんで|||
|||highway||||||taken over|||||||returned|||in vain|||||||||||||
|||||||||られた|||||||||||||||||||||||
つけた まま 、 見て も い なかった テレビ 画面 に 、 何 か の ニュース 速報 が 流れ出した とき 、 光代 は また どこ か で 何 年 も 監禁 さ れて いた 少女 が 見つかった の か と ぞっと した 。
||みて||||てれび|がめん||なん|||にゅーす|そくほう||ながれだした||てるよ||||||なん|とし||かんきん||||しょうじょ||みつかった|||||
|||||||||||||breaking news||started flowing|||||||||||confinement||||||||||sent a shiver|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||ぞっとした|
それ くらい あの 事件 は 恐ろしかった 。
|||じけん||おそろしかった
|||||frightening
しかし 流れて きた の は バスジャック を 知らせる ニュース だった 。
|ながれて||||||しらせる|にゅーす|
|||||bus hijacking||||
|||||バスジャック||||
光代 は 一瞬 、 ほっと 胸 を 撫で下ろし 、 次の 瞬間 、「 え ?
みつよ||いっしゅん||むね||なでおろし|つぎの|しゅんかん|
Mitsuyo||||||breathed a sigh|||
||||||胸を撫で下ろし|||
」 と 声 を 上げた 。
|こえ||あげた
画面 に は 、 つい さっき 自分 が 乗ろう と して いた 高速 バス の 名前 が 出て いた 。
がめん|||||じぶん||のろう||||こうそく|ばす||なまえ||でて|
「 え ?
ええ ?
誰 も い ない 部屋 で 光代 は また 声 を 上げた 。
だれ||||へや||てるよ|||こえ||あげた
慌てて チャンネル を 変える と 、 ちょうど バスジャック さ れた バス を 実況 中継 する 特別 番組 を 始めた 局 が あった 。
あわてて|ちゃんねる||かえる||||||ばす||じっきょう|ちゅうけい||とくべつ|ばんぐみ||はじめた|きょく||
|||||||||||live commentary|live coverage||||||||
「 うそ 、 うそ ……」
声 など 出す つもりじゃ ない のに 、 自然 と そんな 声 が 漏れた 。
こえ||だす||||しぜん|||こえ||もれた
|||||||||||leaked
九州 自動車 道 を 疾走 する バス の 映像 を ヘリコプター の カメラ が 捉えて いた 。
きゅうしゅう|じどうしゃ|どう||しっそう||ばす||えいぞう||へりこぷたー||かめら||とらえて|
||||sprinting||||image||||||captured|
映像 に は ローター の 轟音 に 、 興奮 した レポーター の 「 ああ 、 危ない !
えいぞう|||||ごうおん||こうふん||れぽーたー|||あぶない
video|||rotor||roar||excitement|||||dangerous
また 一 台 トラック を 抜き ました ッ 」 と いう 絶叫 が 重なって いる 。
|ひと|だい|とらっく||ぬき|||||ぜっきょう||かさなって|
|||||passed|||||scream||overlapping|
テーブル に 投げ出して いた 携帯 が 鳴った の は その とき で 、 相手 は 博多 の 友人 だった 。
てーぶる||なげだして||けいたい||なった||||||あいて||はかた||ゆうじん|
「 あんた 、 今 どこ ?
|いま|
いきなり 詰問 さ れ 、「 だ 、 大丈夫 。
|きつもん||||だいじょうぶ
|question||||
家 に おる 。
いえ||
家 に 」 と 光代 は 答えた 。
いえ|||てるよ||こたえた
|||Mitsuyo||
友人 も 事件 を テレビ で 知った らしかった 。
ゆうじん||じけん||てれび||しった|
光代 が 諦めて 家 に 戻った と は 思って いた が 、 万が一 、 この バス に 乗って いたら どう しよう か と 慌てて 電話 を かけて きた らしい 。
てるよ||あきらめて|いえ||もどった|||おもって|||まんがいち||ばす||のって||||||あわてて|でんわ||||
||given up|||||||||||||||||||in a panic|||||
携帯 を 握りしめた まま 、 光代 は テレビ 画面 に 見入った 。
けいたい||にぎりしめた||てるよ||てれび|がめん||みいった
|||||||||gazed
|||||||||見つめた
スピード を 上げた バス が 、 何も 知ら ず に 走って いる 何 台 も の 車 を ギリギリ の ところ で 避けて 抜きさって いく 。
すぴーど||あげた|ばす||なにも|しら|||はしって||なん|だい|||くるま||ぎりぎり||||さけて|ぬきさって|
|||||||||||||||||||||avoid|overtaking|
||||||||||||||||||||||抜き去って|
「 ああ 、 私 、 これ に 乗っとった と よ 。
|わたくし|||のっとった||
||||got on||
本当 なら 、 この バス に 乗っとった と よ ……」
ほんとう|||ばす||のっとった||
光代 は テレビ を 見つめ ながら 呟いた 。
てるよ||てれび||みつめ||つぶやいた
一応 安心 した らしい 友人 から の 電話 を 切って も テレビ から 目 が 離せ なかった 。
いちおう|あんしん|||ゆうじん|||でんわ||きって||てれび||め||はなせ|
|||||||||||||||away|
アナウンサー が 高速 バス の 正確な 出発 時刻 と 経路 を 説明 して いた 。
あなうんさー||こうそく|ばす||せいかくな|しゅっぱつ|じこく||けいろ||せつめい||
|||||accurate||time||route||||
紛れ も なく 自分 が 乗る はずの バス だった 。
まぎれ|||じぶん||のる||ばす|
distracted||||||||
切符 売り場 の 列 に 並んだ とき 、 外 に 停 まって いた バス だった 。
きっぷ|うりば||れつ||ならんだ||がい||てい|||ばす|
ticket|||||||||||||
目の前 の 賑やかな 女子 高 生 たち や その 前 に 並んで いた おばさん が 、 乗り込んで いった バス だった 。
めのまえ||にぎやかな|じょし|たか|せい||||ぜん||ならんで||||のりこんで||ばす|
||lively||||||||||||||||
バスジャック を 中継 する 映像 を 、 それ こそ 齧りつく ように 光代 は 見 続けた 。
||ちゅうけい||えいぞう||||かじりつく||てるよ||み|つづけた
||relay||||||devour|||||
||||||||食い入るように|||||
車 内 の 様子 が まったく 分から ない と 、 しきりに 嘆く アナウンサー に 、「 だけ ん 、 私 の 前 に 並 ん ど った あの おばさん と か 、 女の子 たち が 乗っとる と って !
くるま|うち||ようす|||わから||||なげく|あなうんさー||||わたくし||ぜん||なみ||||||||おんなのこ|||のっとる||
|||||||||repeatedly|lament|||||||||lined up|||||||||||||
」 と 、 アナウンサー に 言い返し たい 気持ち だった 。
|あなうんさー||いいかえし||きもち|
|||wanted to retort|||
|||retort|||
画面 に 映って いる の は 、 高速 を ひた走る バス の 屋根 だった 。
がめん||うつって||||こうそく||ひたはしる|ばす||やね|
||||||||speeding|||roof|
||||||||ひた走る||||
それなのに 光代 は まるで 自分 が その バス に 乗って いる ような 感覚 に 陥って いた 。
|てるよ|||じぶん|||ばす||のって|||かんかく||おちいって|
||||||||||||sensation||fall|
流れて いく 車窓 の 景色 が 見える のだ 。
ながれて||しゃそう||けしき||みえる|
||train window|||||
||train window|||||
通路 を 挟んだ 隣 の 座席 に は 、 営業 所 の 切符 売り場 で 前 に 並んで いた おばさん が 真っ青な 顔 で 座って いる 。
つうろ||はさんだ|となり||ざせき|||えいぎょう|しょ||きっぷ|うりば||ぜん||ならんで||||まっさおな|かお||すわって|
aisle|||next|||||||||||||||||pale||||
ちょっと 離れた 前 の 席 に は 、 自分 の 前 に 並んで いた 女の子 たち が 肩 を 寄せ合って 泣いて いる 。
|はなれた|ぜん||せき|||じぶん||ぜん||ならんで||おんなのこ|||かた||よせあって|ないて|
||||||||||||||||||huddling||
||||||||||||||||||寄り添って||
バス が スピード を 落とす 気配 は ない 。
ばす||すぴーど||おとす|けはい||
|||||sign||
次 から 次に バス は ゴールデンウィーク の ドライブ を 楽しむ 家族 連れ の 車 を 追い抜いて いく 。
つぎ||つぎに|ばす||||どらいぶ||たのしむ|かぞく|つれ||くるま||おいぬいて|
|||||||||||||||passing|
光代 は 通路 側 から 窓 側 に 移動 し たくて たまらない 。
てるよ||つうろ|がわ||まど|がわ||いどう|||
Mitsuyo||aisle|side|||||move|||unbearable
見る な と 言わ れて も 、 つい 前方 に 目 が 行って しまう 。
みる|||いわ||||ぜんぽう||め||おこなって|
|||||||front|||||
運転 席 の 横 に は 若い 男 が 立って いる 。
うんてん|せき||よこ|||わかい|おとこ||たって|
手 に は ナイフ を 持って いる 。
て|||ないふ||もって|
ときどき ナイフ で 座席 の スポンジ を 切り裂き ながら 、 訳 の 分から ない 叫び を 上げて いる 。
|ないふ||ざせき||||きりさき||やく||わから||さけび||あげて|
|||||||tearing||reason|||||||
|||||座席のスポンジ|||||||||||
「 バス が !
ばす|
バス が サービス エリア に 入る 模様 です !
ばす||さーびす|えりあ||はいる|もよう|
|||area|||appearance|
レポーター の 怒声 に 光代 は ハッと 我 に 返った 。
れぽーたー||どせい||てるよ||はっと|われ||かえった
||angry voice||Mitsuyo||startled|I||returned to me
||angry voice||||驚いて|||
バス は 目的 地 の 天神 を 遥かに 越え 、 九州 道 から 中国 道 へ 入って いる 。
ばす||もくてき|ち||てんじん||はるかに|こえ|きゅうしゅう|どう||ちゅうごく|どう||はいって|
|||||Tenjin||far|surpass||||||||
警察 の 車 に 誘導 さ れて バス が サービス エリア 内 の 駐車 場 に 停車 する 。
けいさつ||くるま||ゆうどう|||ばす||さーびす|えりあ|うち||ちゅうしゃ|じょう||ていしゃ|
||||guided|||||||||||||
その 映像 を テレビ で 見て いる はずな のに 、 光代 の 目 は なぜ か バス の 内 に あり 、 窓 の 外 に 取り囲む 警官 たち が 見える 。
|えいぞう||てれび||みて||||てるよ||め||||ばす||うち|||まど||がい||とりかこむ|けいかん|||みえる
|||||||||Mitsuyo||||||||inside|||||||surround||||
「 中 に 、 中 に 怪我人 が いる 模様 です !
なか||なか||けがにん|||もよう|
||||injured person|||condition|
ナイフ で 刺さ れ 重傷 を 負って いる 模様 です !
ないふ||ささ||じゅうしょう||おって||もよう|
||stabbed||serious injury||wounded|||
||||||負傷して|||
レポーター の 声 が だだっ広い 駐車 場 の 映像 に 重なる 。
れぽーたー||こえ||だだっぴろい|ちゅうしゃ|じょう||えいぞう||かさなる
||||booming||||||overlap
横 を 向けば 、 そこ に 胸 を 刺さ れた あの おばさん が いる ようだった 。
よこ||むけば|||むね||ささ||||||
||if|||||||||||
自分 が 自宅 アパート の 居間 で テレビ を 見て いる こと は 分かって いた が 、 それ でも 光代 は 怖くて 顔 を 横 に 動かせ なかった 。
じぶん||じたく|あぱーと||いま||てれび||みて||||わかって|||||てるよ||こわくて|かお||よこ||うごかせ|
|||||||||||||||||||||||||move|
子供 の ころ から 自分 が 「 ついて いる 」 と 感じる こと が まったく なかった 。
こども||||じぶん|||||かんじる||||
世の中 に は いろんな 人間 が いて 、 その 中 で 「 ついて いる 人 」 と 「 ついて い ない 人 」 に 分類 さ れたら 、 自分 は 間違い なく 後者 で 、 その 後者 グループ で 分類 さ れて も 、 やっぱり 「 ついて ない 」 方 に 選り分け られる 。
よのなか||||にんげん||||なか||||じん|||||じん||ぶんるい|||じぶん||まちがい||こうしゃ|||こうしゃ|ぐるーぷ||ぶんるい|||||||かた||えりわけ|
||||||||||||||following|||||classification|||||||latter|||latter||||||||||||sorting|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||選ばれる|
自分 は そんな 人間 だ と 思い込んで 生きて いた 。
じぶん|||にんげん|||おもいこんで|いきて|
||||||convinced||
たまたま 有給 を 取った の が 、 あの 日 と 同じ 休日 だった と いう こと で 嫌 な 記憶 が 蘇って いた 。
|ゆうきゅう||とった||||ひ||おなじ|きゅうじつ||||||いや||きおく||よみがえって|
||||||||||||||||||||resurfaced|
光代 は 気分 を 変えよう と 窓 を 開けた 。
てるよ||きぶん||かえよう||まど||あけた
暖まって いた 部屋 の 空気 が す っと 外 へ 流れ 、 冬 の 日 を 浴びた 寒風 が からだ を 撫でて 部屋 へ 流れ込んで くる 。
あたたまって||へや||くうき||||がい||ながれ|ふゆ||ひ||あびた|かんぷう||||なでて|へや||ながれこんで|
warmed up|||||||||||||||bathed|cold wind||||caressed|||flowing in|
光代 は 一 度 身震い する と 、 大きく 背伸び して 深呼吸 した 。
てるよ||ひと|たび|みぶるい|||おおきく|せのび||しんこきゅう|
||||shudder||||stretching||deep breath|
||||||||背を伸ばした|||
選り分け られたら 、 必ず 悪い ほう へ 入れ られて しまう 。
えりわけ||かならず|わるい|||いれ||
|if|||||||
それ が 自分 だ と 、 光代 は ずっと 思い込んで いた 。
||じぶん|||てるよ|||おもいこんで|
でも 、 あの とき 、 あの 高速 バス に 、 私 は 乗ら なかった 。
||||こうそく|ばす||わたくし||のら|
あの バス に ギリギリ に なって 乗ら なかった 私 は 、 きっと 生まれて 初めて 、 良い 方 に 選り分け られた のだ 。
|ばす||ぎりぎり|||のら||わたくし|||うまれて|はじめて|よい|かた||えりわけ||
||||||||||||||||選ばれた||
気 が つく と 、 光代 は そんな こと を 考えて いた 。
き||||てるよ|||||かんがえて|
目の前 に は 静かな 田んぼ の 風景 が 広がって いる 。
めのまえ|||しずかな|たんぼ||ふうけい||ひろがって|
|||quiet||||||
光代 は 窓 を 開けた まま 、 その 日差し の 中 で 携帯 を 見た 。
てるよ||まど||あけた|||ひざし||なか||けいたい||みた
|||||||sunlight||||||
メール を 開く と 、 昨日 の 夜 まで もう 何 十 通 と 交わした 履歴 が 残って いる 。
めーる||あく||きのう||よ|||なん|じゅう|つう||かわした|りれき||のこって|
四 日 前 、 勇気 を 振り絞って 出した メール に 、 清水 祐一 と 名乗る 男 は 親切に 応対 して くれた 。
よっ|ひ|ぜん|ゆうき||ふりしぼって|だした|めーる||きよみず|ゆういち||なのる|おとこ||しんせつに|おうたい||
|||||mustering|||||||identified|||kindly|||
|||||振り絞って|||||||||||||
三 カ月 前 、 久しぶりに 職場 の 飲み 会 に 出て 酔った 夜 、 遊び半分で 初めて 出会い 系 サイト を 覗いた 。
みっ|かげつ|ぜん|ひさしぶりに|しょくば||のみ|かい||でて|よった|よ|あそびはんぶんで|はじめて|であい|けい|さいと||のぞいた
||||||||||||half-jokingly||||||peeked
使い 方 が よく 分から ず 、 新 着 欄 に あった 中 から 長崎 に 住む 彼 を 選んだ 。
つかい|かた|||わから||しん|ちゃく|らん|||なか||ながさき||すむ|かれ||えらんだ
|||||||arrival|||||||||||
長崎 を 選んだ の は 、 佐賀 で は 知り合い の 可能 性 が ある し 、 福岡 だ と 都会 過ぎる し 、 鹿児島 や 大分 だ と 遠 すぎる 。
ながさき||えらんだ|||さが|||しりあい||かのう|せい||||ふくおか|||とかい|すぎる||かごしま||だいぶ|||とお|
|||||||||||||||||||||||Oita|||far|
|||||||||||||||||||||||大分は||||
そんな 簡単な 理由 から だった 。
|かんたんな|りゆう||
三 カ月 前 は ドライブ に 誘わ れた とたん に 返事 を 出せ なく なった 。
みっ|かげつ|ぜん||どらいぶ||さそわ||||へんじ||だせ||
||||||||||||could not give||
四 日 前 も 実際 に 会う 気 など まったく なかった 。
よっ|ひ|ぜん||じっさい||あう|き|||
ただ 、 その 晩 、 寝る 前 に 誰 か と メール で いい から 言葉 を 交わして み たい だけ だ 。
||ばん|ねる|ぜん||だれ|||めーる||||ことば||かわして||||
|||||||||||||||exchanging||||
それなのに メール 交換 は 四 日 も 続いた 。
|めーる|こうかん||よっ|ひ||つづいた
||exchange||four|day||continued
会う 気 など なかった くせ に 、 いつの間にか 会い たくて 仕方なく なって いた 。
あう|き|||||いつのまにか|あい||しかたなく||
彼 の 何 が そう 思わ せた の か 分から ない が 、 彼 と メール を 交わして いる と 、 あの 日 、 あの バス に 乗ら なかった 自分 で い られた 。
かれ||なん|||おもわ||||わから|||かれ||めーる||かわして||||ひ||ばす||のら||じぶん|||
||||||||||||||||exchanging|||||||||||||
何の 確信 も なかった が 、 ここ で 勇気 を 振り絞れば 、 もう 二度と あの バス に 乗ら ず に 済む ような 気 が した 。
なんの|かくしん||||||ゆうき||ふりしぼれば||にどと||ばす||のら|||すむ||き||
|confidence||||||||mustering|||||||||||||
光代 は 差し込む 冬 の 日差し の 中 、 昨夜 最後に 送ら れて きた メール を 改めて 読んだ 。
てるよ||さしこむ|ふゆ||ひざし||なか|さくや|さいごに|おくら|||めーる||あらためて|よんだ
||stream in|||sunlight|||last night|||||||once again|
〈 じゃあ 、 明日 、 十一 時 に 佐賀 駅前 で 。
|あした|じゅういち|じ||さが|えきまえ|
お やすみ 〉
簡単な 言葉 だった が 、 キラキラ と 輝いて 見えた 。
かんたんな|ことば|||きらきら||かがやいて|みえた
||||||sparkling|
今日 、 これ から 私 は 彼 の 車 で ドライブ する 。
きょう|||わたくし||かれ||くるま||どらいぶ|
灯台 を 見 に 行く 。
とうだい||み||いく
lighthouse||||
海 に 向かって 立つ 、 美しい 灯台 を 二 人 で 見 に 行く 。
うみ||むかって|たつ|うつくしい|とうだい||ふた|じん||み||いく
|||||lighthouse|||||||